ヤンマーテクニカルレビュー

プレジャーフィッシング・ボート「EX38A」の紹介~1クラス上の快適性を追求~

Abstract

Part of Yanmar’s EX series of fishing boats and augmented with the additional features of a cruiser, the Wide EX series represent a new class of boat, the fishing cruiser, and are being accepted in the market. However, while Yanmar’s range of medium-sized boats includes the EX33AII, which was originally released in 2009 with a minor design upgrade in 2013, and the EX30B released in 2014, sales of boats in 35- to 40-foot class that were previously only available in the EX series have been steadily falling. This created an urgent need for the development of a Wide EX series boat in this class.

The result was the release in 2015 of the EX38A, a new boat that represents a marked departure from previous Wide EX series models while still maintaining their comfort and suitability for fishing.

1.はじめに

EX38Aは、多彩な釣りに対応できる艇を目指し、「釣りの奥深さを体感できる艇=ディープ・フィッシング・クルーザー」を商品コンセプトに掲げ、これまでの「幅広EXシリーズ」に更なる機能を盛り込んだハードルの高いテーマと基本設計方針を立て、開発に着手した。

(1)40フィート艇並みの航走性能を実現 ⇒ 新船型の開発
(2)低振動・低騒音化 ⇒主機前駆動と遮蔽構造の見直し
(3)クルーザー並みの居住空間の確保と、快適性向上 ⇒ 艤装品の改良

2.商品の概要

EX38Aの概要は以下の通り。

2.1.スタイリング

図1 EX38A外観
図1 EX38A外観

2.2.主要諸元

表1 主要諸元

表1 主要諸元

表2 搭載機関

表2 搭載機関

3.技術の織り込みと効果

3.1.新船型の開発

「幅広EXシリーズ」は、クルーザーの要求機能、とりわけ船首部バース空間の容積については、これまで以上の快適性が要求される。その要求機能をクリアするためには、ハル形状にボリュームを持たせることが不可欠となり、航走性能を左右する船首形状が設計的に制約されることとなった。同シリーズは、乗り心地に関して一定の評価はあったものの、EX38Aでは、従来艇より更に進化させた「1クラス上の乗り心地の実現」が求められた。それに加え、キャビンスペースの要求機能も更に進化させるという、相反する課題を克服するため、EX38Aでは「38フィート艇でありながら、40フィート艇並みの航走性能」という、これまでにない発想に挑んだ。

一般的に、同じ幅、同じ船型で考えた場合、水線長の長い船の方が航走性能に有利とされている。船の全長が肯定された中で、更に水線長を長くするためには、ステムの角度を立たせる方法があるが、これでは水面に対する船底面の傾斜角が起きるだけで、造波抵抗が増大し、航走性能にはマイナス要因となる。そこで、ステムとチャインが交差する位置に「屈曲点」を設ける形状を考案した。そうすることで、船底面は船側面の形状に影響されずに傾斜角を起こすことなく水線長のみを長くできる。また、船側面は航走性能に悪影響を与えることなく、キャビンスペースの要求機能をクリアすることが可能となった。(図2)

図2 新船型の考え方
図2 新船型の考え方

1つ目は、ステムに「屈曲点」を設けたことで水線長が長くなり、操船位置での上下加速度を低減した。図3のグラフは、船首位置の上下加速度(4G)を基準とし、同点から操船席位置までの距離及び同位置における上下加速度の変化を示したものである。操船席位置における船首位置に対する上下加速度の比率が、従来艇が55%であるのに対し、新船型では10%まで低減された。従来艇と比較しても45ポイント改善され、不快な上下動もなく、官能的にも40フィート艇と遜色のない安定した走りを実現した。

図3 航行中の船首~操船席位置における上下加速度
図3 航行中の船首~操船席位置における上下加速度

2つ目は、ステムの「屈曲点」で浮力変化を持たせたことで、船首が波に突っ込んだ際に感じる体感的な上下加速度に変化をもたらした。

従来の船型では、船首フレアー部まで一気に沈み込むため、その反力で上下加速度が大きくなる。この繰り返しが乗船者にストレスを与える要因のひとつでもあるため、ステムの屈曲点付近で浮力が変化(増大)する船型を採用した。(図4)

この浮力変化を利用し、乗船者が感じる上下加速度を段階的に変化、分散させることで、乗船者のストレスを軽減することができた。

図4 屈曲点における浮力と喫水
図4 屈曲点における浮力と喫水

新船型の付随効果として、船首部のアンカーロッカーの容積拡大、バウスラスターを船首寄りに配置できることで、スラスター効果の向上にも寄与した。

ただし、船首部の造作は「船の顔」であり、ユーザーの嗜好を左右する重要なポイントとなるため、この形状を採用するには商品企画段階において営業部門の理解を得る必要があった。デザイン面の評価については幾度も改良を重ね、完成した模型を確認してもらい、性能面については、前述した効果を説明し、総合的に理解を得たことで、本船型の採用が決定した。(図5)

図5 新船型形状
図5 新船型形状

3.2.低振動・低騒音化

最近は、電子制御エンジンを搭載した艇も多く、静粛性に対する市場要求レベルは非常に高くなってきている。EX38Aに搭載されるエンジンは6CXB-GTで、いわゆる「機械式エンジン」であるが、電子制御エンジン搭載艇並みの高い要求性能が求められた。この難題を解決するために取り組んだのが『主機前駆動』と『遮蔽構造』の見直しであった。

図6 防音構造
図6 防音構造

近年、主機前駆動による動力取り出し能力の向上に対する市場要望は強くなっており、エアコン、発電機など搭載機器も多様化している。従来の主機前駆動は、複数の機器を、船体側に設けられた台上に設置し、個々にベルトを張る方法であった。狭い空間の中での据付作業では、ベルトの芯出し精度にも限界があり、振動や騒音発生の原因のひとつとなっていた。そこで、ベルトの芯出し精度向上を目的とした「主機前駆動装置のユニット化」という発想に至った。個々の機器を「共通台」に設置し、主機前駆動装置~機器間の距離を出来るだけコンパクトに配置することで、ベルトの芯出し精度を向上させ、さらに主機前駆動装置とエンジンとの連結部を弾性継手とすることで、機器に伝わるエンジン振動を遮断し、船体への影響を最小限とした。これにより振動、騒音の低減、更には据付作業の大幅な工数低減と品質向上に大きく寄与する結果となった。(図7)

図7 主機前駆動装置(左:従来艇/右:EX38A)
図7 主機前駆動装置(左:従来艇/右:EX38A)

遮蔽構造については、「EXシリーズ」独自の二重床構造に対し室内床のハッチレイアウトの変更、過去の実績艇を基に機関室の遮蔽構造を細部まで見直した結果、騒音レベルは従来艇(同型エンジン搭載)と比べ、5~7dB(A)の低減を達成した。特に停船時においては61dB(A)と、従来にはない非常に高いレベルの結果が得られた。(図8)

図8 騒音レベル(操船席)
図8 騒音レベル(操船席)

振動レベルも、感覚として最も感じやすい低・中速域が概ね改善されており、主機前駆動装置のユニット化による効果が大きいと考える。(図9)

図9 振動レベル(操船席)
図9 振動レベル(操船席)

3.3.艤装品の改良

「クルーザー並みの居住空間と快適性向上」を実現させるため、エンジンコントロールシステムの改良に挑んだ。機械式エンジンを搭載したEX38Aは、システムをゼロから見直す必要があり、課題は『視認性の良いメーター類』と『操作性の高いリモコンハンドル』の採用であった。「Livorsi製メーター」と「エンジン発停パネル」を組み込んだシステムを開発、計器類が小型化し、航海計器モニター等のビルトインスペースが確保できたことも成果のひとつである。リモコンシステムも電子リモコンを標準装備としたことで、操船席回りのデザイン性、視認性、操作性向上に大きく貢献し、商品力向上に繋がった。

図10 操船席(左:従来艇/右:EX38A)
図10 操船席(左:従来艇/右:EX38A)

室内空間は、市場の声を反映し、これまで以上にクルーザー色を強調させた。随所に間接照明を取り入れ、シート表皮やクッション性など機能面も細部にわたり見直すことで、これまでのフィッシングボートには無い上質な空間を作り出した。この試みは、フィッシングボートでありながら、女性を中心に高く評価され、ファミリー層の購買意欲を掻き立てる大きな要因となっている。

図11 キャビン室内
図11 キャビン室内

4.評価と実績

キャビンデザインにおいては、「シリーズの基本的なデザインコンセプトは変えない」としながらも、「従来艇とは違う印象を与えるデザインにする」という難題もあった。しかし、2015年横浜ボートショーで参考出品艇として公開されると、新船型の独創的な意匠とも相まって、非常に高い注目が集まった。その後、各地の試乗会においても、そのスタイリングと航走性能は高く評価された。
さらに翌年の横浜ボートショーでは、ヤンマー艇としては初の「ジャパン・ボート・オブ・ザ・イヤー2015(国産大型艇部門)」を受賞、EX38Aが総合的に評価されたことを証明できたことは、今後の自信に繋がる結果となった。

2015年8月1日に発売して以降、2016年度末までの生産隻数は41隻を予定しており、好調な受注が続いている。

5.おわりに

現在も好調な受注が続いている「幅広EXシリーズ」の中型クラスからのスケールアップモデルの開発というプレッシャーと、非常に限られた日程の中で挑んだハードルの高い開発ではあったが、その中でも他部門と協働し課題をクリアできたことは、今後の開発においてもプラスになると確信している。

今後も市場の声に耳を傾け、お客様目線で商品と向き合い、得た情報をより良い形で新商品に反映できるよう努力していきたい。

著者

ヤンマー造船株式会社 商品統括部 商品開発部

木下 幸司