MINAMINOREPORT#10
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南野拓実、“海の心臓”

にふれる―

未来を動かす

エネルギーの進化

南野拓実、“海の心臓”

にふれる―

未来を動かす

エネルギーの進化

「僕はまだ何も知らない。だから、知りたい。」
そんな素直な思いから始まった、“MINAMINO REPORT”。

世界を舞台に戦ってきた南野拓実が、ピッチの外で“サステナブル”と向き合う旅。農業、建設に続く第3の舞台は、「海」。そこに広がるのは、地球環境と深くつながる新たな挑戦だった。

訪ねたのは、船舶用エンジンの開発・製造を手がけるヤンマーパワーソリューション株式会社。
農機・建機に続いて足を踏み入れたヤンマーの“フィールド”で、南野が体感したのは──未来を動かすテクノロジーの鼓動だった。

海から未来を変えるために─南野拓実、ヤンマーパワーソリューションの現場に潜入!

よく晴れた空のもと、南野拓実が訪れたのは兵庫県・尼崎市にある「ヤンマーパワーソリューション株式会社」。白い外壁に大きく設けられたガラス窓が陽射しに映え、建物の正面には「YANMAR」の赤いロゴが凛と掲げられていた。

ここは、私たちの暮らしや産業に直結する、海の物流を支える“船の心臓”――大型船舶用エンジンが開発・製造される最前線だ。

「今日は楽しみながら、いろいろ知っていってくださいね!」
そう声をかけてくれたのは、システムエンジニアリング部の平岩琢也さんと、開発本部試験部の大西健矢さんだった。

最初のプログラムは、ヤンマーの歩みと、日本が“海洋国家”として船とどう向き合ってきたかを知る座学レクチャーだった。

「実は、日本の貿易の約99.6%が船で運ばれているんです。まさに“物流の大動脈”なんですよ」

大型タンカーやコンテナ船、ばら積み船。普段の生活では意識することのないこれらの船が、私たちのスマホや服、食べ物など、身近なモノの“背後”にあると知り、南野も思わず声を上げた。

「え、そんなに!? 僕らが当たり前に使ってるモノ、ほとんどが船で運ばれてるんですね」

海とエネルギー、そして未来の暮らし──
このあと南野が目にするのは、そうした“当たり前”を支える現場だった。

南野が知った、日本の“船大国”という事実

システムエンジニアリング部 平岩琢也

南野の驚いた表情を見て、平岩さんが続けた。

「実は日本、世界で3番目に多く船を保有している国なんです」

1位は中国、2位はギリシャ。そして3位に日本が名を連ねる。その背景には、長年にわたる造船技術の積み重ねと、政策面での後押しがあるという。

「エンジンはあまり目立たないけど、船にとっては“心臓部”。動力がなければ、海を進むこともできませんからね」

その言葉に、南野は静かにうなずいた。海の現場を支える技術の重みが、少しずつ実感として心に染み込んでいく。

成長する海運、重くなる責任

「え、こんなにCO₂出てるんですか……」
座学でデータを見た南野拓実が、思わず声をもらす。

船の数は年々増え、輸送量も拡大する一方で、海運から排出されるCO₂は全体の約2.6%にのぼる。その規模は、ドイツ1国分にも相当するといわれている。

バラスト水による生態系への影響も深刻だ。
「アメリカで積んだ水が、日本に外来種を運んでしまうこともあるんです」と語る平岩さん。

「海って、見えないところで地球全体とつながってるんですね」
南野は、海が持つ“裏の顔”を実感しはじめていた。

変化の波を越えるために

海運業界にも、脱炭素の波が押し寄せている。
国際海事機関(IMO)は、2050年ごろまでに海運からの温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げる。

「ヨーロッパでは、ゼロエミッションじゃないと運航できないルールもあります」
ノルウェーなどでは、ゼロエミッションゾーンの導入がすでに決定されている。

「えっ、じゃあ日本の船も、今後そのルールに合わせないとダメなんですか?」
南野の問いに、平岩さんが頷く。

「はい。対応できないエンジンは使ってもらえません。生き残るためには、変わるしかないんです」

「自分のプレーも、時代や相手によってアップデートしてきた。企業も、未来のために変化していく必要があるんですね」

自身の歩みと重ねるように語る南野の言葉には、ヤンマーの挑戦する姿勢への共感が込められていた。

バッテリーでは動かせない、海の現実

EV化が進む自動車とは対照的に、船の世界では「完全な電動化では足りない」という現実がある。

「船はとにかく大きくて重い。電動だけでは、エネルギー供給が間に合わないんです」と平岩さん。

そこで今、注目されているのが「燃料そのものを変える」こと。
LNG(液化天然ガス)、メタノール、アンモニアなど、環境負荷の少ない“次世代燃料”への移行が進められている。

“燃やしてもCO₂が出ない”──新しい燃料のかたち

開発本部試験部 大西健矢

「従来の重油はCO₂排出が多く、環境負荷が課題でした」と語る大西さん。

水素やアンモニアは炭素を含まないため、燃やしてもCO₂を出さない。
またバイオ燃料は、植物が育つ過程でCO₂を吸収することで、排出との相殺が可能となり“カーボンニュートラル”として注目されている。

中でも再生可能エネルギーから生まれる「グリーンメタノール」は、欧州で導入が進みつつある。

理想と現実の間で──南野が見たエネルギーの課題

南野:「それだけ理想的なら、すぐ普及しそうですけど…?」

大西さん:「そう簡単にはいかないんです。新しい燃料はエネルギー密度が低くて、燃料タンクが大きくなる。その分、積載量が減って収益性に影響が出てしまいます」

また、アンモニアの毒性や水素の管理など、安全性とコスト面の課題もある。特に水素は、製造方法によって環境負荷が異なるため、利用の際には“クリーンさ”も問われる。

平岩さん:「だからこそ、“再生可能エネルギー由来の水素”、いわゆる“グリーン水素”が注目されています。ただし、日本では再エネコストが高いため、海外からの調達が前提になります」

南野:「“未来のエネルギー”って、まだ形が決まっていないからこそ、面白いですよね。だからこそ、動き出す勇気が必要なんだなって、改めて感じました」

船の“心臓”を知る ─ 南野が出会った2つのエンジン

最初に南野が教わったのは、「船には大きく2つのエンジンがある」ということ。

ひとつは、海を力強く走るための“主機(Main Engine)”。
もうひとつは、船内の電気をまかなう“補機(Auxiliary Engine)”。

「え、そんなふうに分かれてるんですね!」
南野も目を丸くして驚いた。

照明や空調、通信機器などに電気を供給し、船の暮らしを支える“縁の下の力持ち”がこの補機。
普段はなかなか注目されないが、海の上での快適さは、こうした技術に支えられている。

次の時代を走らせる、ヤンマーの“未来型エンジン”

「エンジンって、作って終わりじゃないんです」

ヤンマーが目指すのは、地球環境にも配慮した“未来対応の船”。そのために、こんな技術が進んでいる。

デュアルフューエルエンジン
重油とLNGなど2種類の燃料を使い分けることが可能な「二刀流」。厳しい環境基準にも対応できる。

電気推進システム
エンジンで発電し、モーターで船を動かす。音が静かで、船内も快適。

SCRシステム(排ガス処理装置)
排気ガスから汚染物質を取り除く“空気清浄機”のような装置。

「ただ船を動かすんじゃなくて、未来に向けて変わっていこうとしてるんですね」
南野のその言葉には、驚きと共感がにじんでいた。

船のタイプで変わる、“ベストなエネルギー”とは?

◆ 外航船(タンカー・コンテナ船)
→ 海外と日本を行き来する長距離航行。
→ 大きな燃料タンクと安全担保が必要で、新燃料の導入には工夫が不可欠。

◆ 内航船・沿岸航行船・漁船
→ 港と港、漁場をつなぐ短距離航行。
→ 電動化や水素燃料など、新しい技術を取り入れやすい。

「だからこそ、LNGも、メタノールも、アンモニアも、水素も……全部に備えている」大西さんのその言葉に、南野も静かに頷いた。

実績で築く、水素技術の最前線へ

「“水素には実績がない”──。船の業界ではそう繰り返されてきました。しかし、ヤンマーは違います。」

平岩さんのこの言葉には、10年以上にわたる燃料電池の研究と、制度設計にまで携わってきた者だけが持つ確かな誇りがにじむ。

「当時は、そもそも水素で船を走らせるルールが存在しなかった。だからこそ、国土交通省のプロジェクトに参加し、制度の立ち上げ段階から関与してきたのです。」

その取り組みの結晶が、現在大分空港近くで実証運航中の“燃料電池プレジャーボート”だ。真紅の船体が目を引くこの船は、内燃機関を一切使用せず、バッテリーと燃料電池のみで走行する完全電動型。水素を動力源とし、驚くほど静かに、そして滑らかに水上を進むその姿は、まさに“未来の船”と呼ぶにふさわしい。このプレジャーボートの実証結果を反映し、2021年に上記の国土交通省のルールが改正された経緯もある。

南野:「えっ、もう実際に走っているんですか? 水素って、もっと先の話だと思っていました。」

“音のない船”がもたらす、心地よさ

「モーター駆動なので、トルクの立ち上がりが早く、音もなく滑らかに進みます。油の臭いもまったくありません」と大西さんは語る。

観光船では、騒音や臭いが船酔いの原因になることも少なくない。しかしこの電動船では、そうした心配は一切ない。静かに、快適に、まるで未来の海を走っているかのようだ。

「静かに進むって、想像以上にワクワクしますね」と南野も目を輝かせる。

この燃料電池プレジャーボートは販売用ではなく、水素技術の可能性を示すための実証船。商品としての燃料電池システムは、2021年に開発を開始し、わずか2年で初号機が完成。2024年に商用運航を開始した旅客船に搭載し、今なお“第2世代”の開発が進行中だ。

「“未来の技術”って、もうすぐそこまで来てるんですね」──南野のその一言が、静かに現場に響いた。

新たなステージへ:「選べる時代」の到来

2024年に就航した旅客船「HANARIA」は、ヤンマー製水素燃料電池・大型バッテリー・バイオ燃料エンジンという三つの電源を搭載した“トリプルハイブリッド”型。目的や航路、求める性能に応じて最適な動力を選択できる、新時代の船だ。

たとえば、ゼロエミッションで静かに運航したいときは電動のみで。スピードが必要なときは三つの電源を同時に活用。そんな柔軟な選択肢に、南野もこうつぶやいた。

「まるで“マルチプレイヤー”ですね。」

前例のない挑戦は、技術と経験、そしてチーム全員の“根性と総力”によって形となった。
この革新が、海の新たなスタンダードとなる日は、そう遠くない。

世界に誇る“現場力”

平岩さん:「私たちは“売って終わり”にしません。海外でトラブルがあれば、すぐ現地に飛んで共に解決する。それがヤンマーの責任感です」

大西さん:「研究・開発・製造・営業・サービス。すべてが連携して動く“現場力”こそが、私たちの強み。すべては、お客様の安心と信頼のためにあります」

南野:「本当に感動しました。技術だけじゃなく、人の力で未来を動かしているんですね」

未来を動かす対話──CHANGE & CHALLENGE

座学の最後、平岩さんが言った。

「私たちの仕事は、社内評価のためじゃない。お客様の喜びが、すべての原動力です。サッカーも、きっと同じですよね?」

南野はうなずいた。

「プロになる前は、自分のためにプレーしていました。でも今は、家族、ファン、クラブ…誰かのために走ってる。責任があるから、力が湧いてくるんです」

その言葉に、大西さんも頷く。

「“将来世代のために”って言葉を掲げるだけで、自然と背筋が伸びるんです。子どもたちが笑って生きられる未来をつくる。それが僕らのサステナブルです」

会話は、欧州の環境戦略にまで広がっていく。

「技術だけじゃなく、価値観やスピードの面でも、欧州には学ぶことが多い。日本も、そこに追いつかないといけません」

南野が静かに答えた。

「文化や考え方の違いに触れることで、自分の枠が広がる。それが、成長の一歩だと思います」

異なるフィールドで戦う者同士が、未来を見据えて交差した瞬間だった。

「それでは、このあとは工場をご案内します」

南野は歩き出す。未来のエネルギーが生まれる、その“現場”へ。