誰かの挑戦が、
未来を動かす。
─南野拓実、
若手エンジニアと
描く「これから」
ヤンマーパワーソリューション尼崎工場を訪れた南野拓実。座学と現場での体験を経て感じたのは、「見えないところで未来を支える人々」の存在だった。
締めくくりは、次代を担う若手エンジニアとの対談。彼らのまなざし、言葉、そして技術への想いに、南野が触れた──「サステナブルな社会」へ向けて、エンジンづくりの未来がここに動き出している。
技術史料館で出会った、“未来をつくる手”
ヤンマーパワーソリューション尼崎工場の技術史料館。
左手にはクラシックなエンジン、右手にはライトブルーの発電装置が整然と並ぶ。
そのひとつひとつに、ヤンマーが積み重ねてきた技術の歴史と、これからのものづくりへのヒントが詰まっている。
その空間を前に、南野拓実は、機械に刻まれた時間の重みを感じながら──
サッカー選手としての視点で、“未来を動かす技術”に向き合おうとしていた。
出迎えたのは、ヤンマーの技術を担う若手エンジニア。
開発本部の上村さんと清水さん。それぞれの現場で、未来に挑み続ける技術者たちだ。
開発本部 大形エンジン技術部 上村悠華
上村さんはディーゼルエンジンの設計を担うエンジニア。近年は、次世代燃料として注目されるメタノールを用いたエンジン開発に力を注いでいる。
「地味に見えるかもしれませんが、設計は毎日が挑戦の連続なんです」穏やかな口調の奥に、確かな熱量がにじむ。
開発本部 試験部 清水恒希
一方、試験部門の清水さんは、実機を動かしながら性能や耐久性を検証する日々を送る。
「12GY175形エンジン、見ていただきましたよね? 実は、僕の担当なんです」
少し誇らしげにそう語る表情には、現場で磨かれた確かな自信と、ものづくりへの誠実さがにじんでいた。
未来をつくるには、“今”と向き合うこと
対談の冒頭、南野がふと問いかけた。
「お二人は、“未来の技術”にどんな思いで向き合っているんですか?」
返ってきたのは、“今”への強いこだわりだった。
「未来を築くには、まず“今”を深く理解すること。ディーゼルの基礎をしっかり学んでこそ、次の技術が見えてくるんです」(上村さん)
「50年後には、今の技術が“当たり前”になっているかもしれない」
南野の言葉に、2人は力強くうなずく。
「水素も、かつては遠い未来の話でした。でも今はもう、現場にあるんです。だからこそ、これまでの経験をどう活かすかが問われていると感じます」(清水さん)
続けて南野が尋ねる。
「“サステナブルな社会”って、目指すのは簡単でも、実現するのは本当に難しいですよね」
その言葉に、上村さんが静かにうなずいた。
「私の業務である設計や解析では、PCを用いることが多いですが、画面の向こうにはいつも“人”がいます。その人たちに安心と信頼を届けるために、毎日丁寧に向き合うことを心がけています。どれだけ壮大なテーマでも、未来は“日々の積み重ね”から生まれる──私はそう信じています」
技術の出発点は、原点を知り、声に応えること。
「新しい技術を生み出すとき、最初にやることって何ですか?」
「やっぱり“基本に立ち返る”ことです。遠回りに見えても、基礎を押さえていないと結局振り出しに戻ることになる。原点を理解することが何より大切なんです」(上村さん)
一方、試験部門の清水さんは、こんな視点を加える。
「大事なのは“それが社会にとって本当に必要かどうか”を見極めること。ただ新しいことをするのではなく、“困っている誰か”のために技術を届けることが僕らの役目です」
その姿勢は、現場の声にも表れている。南野が「期待の声を感じることはありますか?」と尋ねると、上村さんはうなずいた。
「“メタノール燃料のエンジン設計をしています”と言うと、『それすごいね!』とよく言われます。関心の高さを肌で感じますね」
一方で、清水さんの現場では、その期待がプレッシャーになることもある。
「漁業関係者から『○○ノットを下回ったら受け取らない!』なんて言われたこともあります(笑)。でも、現場の声に応え、“助かったよ”と感謝される瞬間は、本当にうれしいですね」
漁船で長期間を過ごす船員にとって、エンジンの静かさや振動の少なさは、生活の質に直結する。
「『もっと静かに』『振動を抑えて』という要望も多い。そういった声に、ひとつずつ応えていきたいと思っています」
挑戦の先にある、“やりきった”という確かな手応え。
「これまでの仕事で、“これは越えられた”と実感した瞬間はありますか?」
南野の問いに、2人のエンジニアがそれぞれの経験を語った。
上村さんにとっての転機は、メタノール燃料配管の設計だ。
「毒性や腐食性が強く、安全基準も厳しい。従来の設計が通用せず、一つひとつルールを見直す必要がありました」
安全性とメンテナンス性の両立に悩みながらも、最終的に形にできたときは大きな達成感があったという。
一方、清水さんが挙げたのは、“電子制御エンジン”の試験だった。
「それまでの機械式とは全く違い、ゼロから切り拓くような感覚でした」
電子制御エンジンの試験では、自らの判断が求められる場面が多く、自由と責任のバランス感覚が試された。その表情からは、挑戦を乗り越えたことによる静かな自信が感じられた。
目には見えなくても、“支える力”がチームを動かす。
「皆さんの仕事って、表に出ることは少ないですよね。どんなときに誇りを感じますか?」
上村さんは、迷いなく答えた。
「製品として形になったとき、“これはチームでつくった成果だ”と実感します。そこに誇りを感じますね」
清水さんも頷く。
「“12GY175形エンジン”の開発では、設計・試験・製造、すべての部門が連携しました。試験だけではできない。まさに総合力の結晶です」
南野もうなずきながら語った。
「それって、サッカーにも通じますね。選手だけじゃなく、支える人たちと一緒に喜びを分かち合える。そこに本当の価値があると思います」
未来を支えるのは、“好き”を貫く情熱と日々の積み重ね。
「最後に、サステナブルな未来が実現したとき、自分たちの技術はどう活かされていてほしいですか?」
南野の問いかけに、2人のエンジニアは静かに、しかし力強く語り始めた。
「理想は、自分たちのエンジンが世界中で使われていること。でも、たとえ形を変えても、技術の一部がどこかで生き続けていれば、それは意味があることだと思います」(上村さん)
「エンジンがすべてなくなることはありません。特に長距離用途では必要不可欠。バッテリーや燃料電池と並んで、私たちの技術も社会インフラとして残っていってほしいですね」(清水さん)
彼らの言葉に、南野もうなずく。
「いま積み上げているものが未来をつくる。だからこそ、目の前の仕事に向き合い続ける姿勢が大切なんですね」
すると清水さんが返す。
「失敗もありますが、“どこに向かうか”が決まっていれば立ち直れる。南野さんは、落ち込んだときどうしていますか?」
南野の答えはシンプルだった。
「“サッカーが好き”という原点に立ち返ることですね。調子が悪くても、ボールを蹴れば楽しくなる。そうやって気持ちを切り替えてきました」
信じた道を、自分のペースで丁寧に進み続ける――技術者もアスリートも、未来に向かって静かに歩みを重ねている。
“好き”が導く誇りと責任、それぞれの場所で誰かの力になる。
設計と試験、それぞれの立場に耳を傾けた南野は、静かに想いを語った。
「お二人の話から感じたのは、“仕事への誇り”と“好きでいられる気持ち”の強さです。エンジンは見えにくい存在だけど、その中には長く使われる前提で考え抜かれた技術と努力が詰まっている。誰かの力になっていると実感できる瞬間がある──それは、僕たちの世界にも通じています。今日は本当に、たくさんの学びをありがとうございました」
この日、現場で肌で感じたこと、心に残った言葉、そして“もっと人に感動を届けたい”というサッカー選手としての想い――。
ヤンマーパワーソリューション株式会社を訪れた南野が、一日を通して得た気づきや感じたことを、自らの言葉で語ってくれた。
未来は、誰かの静かな挑戦でつくられている
大地(農機)、都市(建機)と並ぶヤンマーの領域──海。
ヤンマーが長年挑戦を続ける船舶エンジンという領域の現場に南野拓実が足を運び、“技術”の先にある“人の想い”と向き合った。
取材を通じて、南野の中に芽生えたのは、プロアスリートとしての新たな問いだった。
「自分は、未来の社会に貢献できているだろうか?」
「環境やサステナビリティは、言葉としてはよく聞きます。でも実際にそれに取り組んでいる人たちの話を聞いて、初めて“実感”が生まれました」
現場で黙々と働く技術者たちの背中に、言葉では語りきれない“誇り”を感じたという。
「表には出ないけど、社会の土台を支えている人たちの姿が、すごくかっこよかったんです。僕も、自分のプレーが誰かの背中を押す力になっていれば、こんなにうれしいことはありません」
現場で出会った“つくる人”たちは、派手さはなくとも、静かな情熱で未来をつくっていた。
彼らのまなざしの先にあるのは、まだ誰も見たことのない未来。
「A SUSTAINABLE FUTURE」──南野拓実は、その言葉に新たな意味を重ね、自らのプレーにも、その一歩を刻んでいく。