ヤンマーテクニカルレビュー

温水排熱の有効利用~デシカント(熱駆動湿度制御システム)技術の紹介~

Abstract

In keeping with its brand statement of "A Sustainable Future", Yanmar has developed a unique small-sized desiccant dehumidifier that also provides a way to create value from waste heat.

Looking beyond the air conditioning market, two units of a prototype were installed at a typical greenhouse in Japan to evaluate the potential for the system in agriculture. Over two years of operation, the desiccant system demonstrated its ability to prevent excessive humidity, a cause of various crop diseases.

This article describes the basic theory of desiccant dehumidifiers, the development process, and the results from experimental greenhouse testing of the prototype.

1.はじめに

当社は、ブランドステートメント“A SUSTANABLE FUTURE-テクノロジーで新しい豊かさへ-”を掲げて地球温暖化問題へ取り組んでおり、その一環として図1に示すように、膨大な量が発生する排熱の有効利用技術の開発を進めている。

現実には排熱の有効利用が進んでいるとは言い難く、その理由として多くが200℃以下の低品位排熱であり、一般に動力や冷熱への変換効率は低く、経済性の確保が難しいことがあげられる。

この状況を変えるため、当社では低品位排熱の高付加価化に取り組んでおり、本号では一例として、熱駆動湿度制御システムであるデシカントの技術、ならびに適用事例について紹介する。

国内エネルギー消費と排熱発生量
図1 国内エネルギー消費と排熱発生量

2.デシカントシステムの原理と特徴

2.1.作動原理

いくつかの形式が開発されているが、シリカゲルやゼオライト等、高い水蒸気吸着能(または吸収能)を持つ、「デシカント剤」への、水蒸気吸着(または吸収)と、加熱による水蒸気分離によって処理空気の除湿を行う点は共通している。図2にもっとも一般的なデシカントローター型を示す。

回転ローター型デシカントシステム
図2 回転ローター型デシカントシステム

デシカント剤としては、シリカゲルやゼオライト等、比表面積が大きく水蒸気吸着能の大きな材料が用いられている。材料により、図3に示す「吸着等温線」と呼ばれる、空気相対湿度-飽和水蒸気保持量の関係が異なっており、処理空気の要求除湿レベルや、再生空気の加熱温度により選択する必要がある。近年、相対湿度変化に対する飽和水蒸気保持量変化が大きな高性能デシカント剤も実用化され、従来にない特色を持ったシステム開発の追い風となっている。

デシカント剤の吸着等温線と除湿駆動力
図3 デシカント剤の吸着等温線と除湿駆動力

2.2.特徴

居住空間や、半導体,薬品等の生産現場の除湿システムとして使用されることが多く、蒸気圧縮式冷凍サイクルによる冷却除湿に対して、以下の特徴を有している。

(1)熱駆動システム
処理空気が通過するデシカント剤への水蒸気吸着(または吸収)と加熱による脱着(再生)による除湿システムであり、ファン等を除く駆動電力を必要としない。再生熱源として温水排熱の利用も可能。

(2)低露点除湿,低温空気の除湿が可能
水蒸気の凝縮を伴わないため、0℃以下の露点への深除湿が可能。凝縮水凍結の制約もないため、処理空気が低温となっても、除湿能力の低下が少ない⇒寒冷地での利用

(3)カビ,バクテリアフリー
凝縮水によるウェット状態が生じないため、カビやバクテリア繁殖リスクがない⇒病院,福祉施設,教育施設への適用
反面、機器サイズが大きく、設置スペースや導入コストの高さが障害となっていたが、新しいデシカント剤や、圧縮式ヒートポンプ組み合わせ等により小型・高機能機の開発がすすめられ、国内でも普及が進みつつある。

3.小型高効率デシカントシステムの開発

ガスエンジンヒートポンプ(GHP)や小型コージェネの温水出力や、太陽熱温水等、60℃程度の低品位熱で十分な除湿性能を有し、かつ小型のシステム実現を目標として、設計・試作を行った。水平設置の1つのデシカントローター型に2つの除湿領域を設け、処理空気が2段階で除湿されるため、図2の基本型より40%程度高い除湿能力を実現しており、60℃程度の温水で十分作動できるものとなっている。設計に当たっては、水蒸気吸着,脱着プロセスのシミュレーションを行い、ローターのサイズや領域分割,回転速度等の最適化を図った。

試作温水駆動デシカントの構造
図4 試作温水駆動デシカントの構造
水蒸気吸着・脱着プロセスシミュレーション結果例
図5 水蒸気吸着・脱着プロセスシミュレーション結果例

4.実証事例

市場規模の大きな一般空調分野ではコスト要求が極めて厳しく、温水排熱駆動システムでは温水配管が必要で、冷媒直膨式の個別分散空調が普及した国内市場では施工上の課題もある。そこで、付加価値の高い排熱利用法探索の目的を持って、当社と関わりの深い施設園芸分野での適合性評価を行った。

具体的には、面積500平方メートルの実験ハウスへ試作機2台を設置し、55℃の温水供給により、湿度制御運転を行うもので、2年間の運転試験を実施した。栽培品種はトマトで、主として夜間の相対湿度上昇・結露がカビ病発生の原因となることが知られており、相対湿度≦80%の保持を目標とした。デシカント機の合計処理風量は、約2時間で室内空気全量を処理できるレベルである。温水の消費エネルギーは1台あたり2~3kWで、必要温度が低いことと合わせ、太陽熱温水等で十分駆動可能である。

なお、設置ハウスと同サイズで同じくトマトを栽培するハウスが隣接設置されており、デシカントではなく全熱交換器による湿度制御装置を備えたものとなっている。これを比較対象区とした。

試作機の施設園芸ハウス設置状況
図6 試作機の施設園芸ハウス設置状況

図7は夏季の連続した3日間のハウス内相対湿度変化を、デシカント非導入区とともに示している。非導入区では夜間の大半の時間で相対湿度100%近くに上昇しているが、導入区では、湿度上昇リスクの大きい日没および夜明けの時間帯も含め80%程度に抑制されている。デシカントによる湿度上昇抑制は、冬季を含め年間を通して確保されており、低温条件でも高い除湿能力が得られるデシカントの強みが生かされている。

以上の結果として、非導入区ではカビ病が発生し作物がダメージを受けたのに対し、デシカント導入区では病害発生がほとんど無く、20%の収穫量アップが確認された。

ハウス内相対湿度変化(夏季の連続3日間)
図7 ハウス内相対湿度変化(夏季の連続3日間)
作物生育状態(トマト)
図8 作物生育状態(トマト)

5.おわりに

低品位排熱の利用法として、温水駆動デシカント除湿システムを開発し、施設園芸においてすぐれた除湿性能を実証し、作物収穫量や品質向上の可能性を示すことができた。本技術にとどまらず、未利用排熱の高付加価値利用という観点で新しいシステムの研究開発を進め、”A SUSTAINABLE FUTURE”を実現し、未来につながる社会とより豊かな暮らしに貢献する。

著者

中央研究所

福留 二朗

サポート・お問い合わせ