ヤンマーテクニカルレビュー

アンモニアエンジンによるGHG低減効果の研究
~NH3混焼ディーゼル機関の基礎特性に関する計算および実験的研究~

Abstract

While NH3 is a promising substitute for fossil fuels, its low burning speed and low ignitability are major challenges. One way to address this in internal combustion engines is to mix it with diesel fuel. This study uses both numerical simulation and experiments on a dual-fuel engine to investigate the effects of the mixing ratio and air-fuel ratio on combustion and emission characteristics. The results show that the air-fuel ratio influences emissions of NO+NO2, NH3, and N2O, but that it is difficult to prevent them completely through combustion improvements alone. This indicates that aftertreatment systems will be essential for NH3 internal combustion engines.

1.はじめに

世界的なGHG排出削減の要求を背景に、水素およびアンモニアといったカーボンフリー燃料が注目を集めています。アンモニアは水素に比べエネルギー密度が高く、燃料搭載性に優れており、長距離航行が求められる外航船への適用が検討されています。しかし、アンモニアは毒性が高いことに加え、燃焼速度が低く着火が難く、また、燃焼することで温暖化係数の高いN2O、大気汚染物質のNOを排出するため、実用化が困難でした。
ヤンマーは、強みである燃焼技術により、上記の課題に対する改善方策を明らかにしました。本稿では、シミュレーションおよび実験的アプローチを用いたアンモニアの実用化に関する研究について説明します。

2.化学反応計算によるアンモニア燃焼生成物特性の把握

2.1.数値計算方法

圧縮着火機関相当の温度・圧力条件下におけるアンモニアからの燃焼生成物の特性を明らかとするため、0次元化学反応計算を実施した。化学反応ソルバーにはCanteraを用い、アンモニアの反応メカニズムにはNakamuraらのモデル(1)を用いた。反応進行による温度・圧力変化は考慮せず、定温、定圧条件で反応計算を実施した。圧力条件は圧縮着火機関の燃焼開始時の筒内条件を想定し6.0 MPaとした。計算時間は1.0 msとし、計算終了時の燃焼生成物について、φ-Tマップ(2)を作成することで燃焼生成物の特性を調査した。

2.2.数値計算結果

図1にアンモニア-空気混合気におけるNO+NO2、未燃NH3、N2Oの生成量マップおよび各当量比におけるアンモニア混合気の断熱火炎温度(圧力6 MPa、初期温度1000Kにおける値)を示す。NO+NO2は、高温から低温までの広い領域で生成されていることがわかる。Akihamaらの軽油-空気混合気のφ-Tマップ(2)において、NOは2000K以上の高温条件で生成されており、熱起因のThermal NOが寄与していると考えられる。一方、アンモニア-空気混合気では2000K以下の低温条件でも生成されていることから、低温度域でのNO+NO2生成には燃料中の窒素分に起因するFuel NOXが寄与していると考えられる。未燃NH3は当量比1.0以下では1500K以下の低温条件で見られ、当量比1。0以上では2200K以下の温度条件で見られる。また、N2Oは当量比によらず1500K程度の温度域で増加する傾向が見られる。
以上の結果から、従来のリーン燃焼のような当量比0.5付近の希薄領域では、NO+NO2を低減することはできず、かつ燃焼温度が低下することから未燃NH3、N2Oの生成量が増大すると考えられる。一方、当量比1.2~1.5のリッチ条件に、NO+NO2、未燃NH3、N2Oともに生成量が少ない領域が存在することが分かる。この傾向はKobayashiらの一次元平面火炎の数値シミュレーション結果(3)と傾向が一致している。アンモニア燃焼において、NO+NO2、未燃NH3、N2O排出量の同時抑制するためには高当量比での高温燃焼が有効と考えられる。

図1 φ-T map of NH3 - Air mixture
図1 φ-T map of NH3 - Air mixture

3.アンモニア・軽油混焼実験による基礎燃焼特性の把握

3.1.供試機関および実験条件

実験装置の概要を図2に示す。アンモニアは液化ボンベから気化させて供給し、マスフロ―コントローラにて調量した後、給気マニホールド上流に連続的に供給した。供試機関にはボア94mm、ストローク110mmの単気筒小形汎用ディーゼル機関を用い、軽油燃料をコモンレール式直噴システムにより筒内へ直接噴射することでアンモニアとの混焼実験を行った。また、給気には外部エアコンプレッサを用いることで、機関の運転条件に関わらず、所定の温度、任意の圧力に調整可能とした。排気ガスの成分分析にはFT-IR計を用いた。

図2 Overview of experimental setup
図2 Overview of experimental setup

本研究では、エンジン回転数を1200min-1一定、運転負荷を図示平均有効圧(IMEP)で定義し、IMEP = 1.0 MPa一定となるよう、アンモニアおよび軽油の供給量を調整した。アンモニアと軽油の混焼率は次式で定義した。ここで、Qは投入発熱量、添え字はNH3:アンモニア、Diesel:軽油である。

空燃比を変更する場合は外部エアコンプレッサ圧力を変更して吸入空気量を調整した。

3.2.実験結果および考察

3.2.1.NH3混焼割合による影響
混焼率がアンモニア・軽油混焼機関の排気性状に及ぼす影響を調べるため、最大混焼率95%までのアンモニア混焼実験を実施した。NH3燃焼効率、主要排気成分およびGHG排出量の結果を図3に示す。NH3燃焼効率は、次式で定義した。ここで、添え字unburned NH3は排気中の未燃NH3である。

また、GHG排出量の算出にはIntergovernmental Panel on Climate Change(IPCC)が提示しているAR5の100年間累積値GWP100を用い、軽油専焼条件を基準とした変化量を表している。AR5のGWP100におけるN2Oの地球温暖化係数はCO2の265倍である。NO+NO2も同様に軽油専焼条件基準の変化量を示している。

図3 Effects of NH3 Mixing Ratio
図3 Effects of NH3 Mixing Ratio

図3からNH3燃焼効率は混焼率の増加に伴い、一旦低下し、混焼率65%を境に上昇傾向となった。混焼率の増加に伴うNH3燃焼効率の傾向は、次に示す2つが影響していると考えられる。(1)軽油供給量減少による着火性の悪化、(2)2.2節で示した高温燃焼による未燃NH3排出量の低下である。(1)は混焼率増加に伴い着火源である軽油燃料が減少することで、NH3燃焼効率が低下する。(2)について、本実験では給気圧一定条件下のもと、混焼率を変更しているため、混焼率の増加に伴い、アンモニア予混合気単体の空燃比が低下し、燃焼温度が上昇していると考えられる。 そのため、高混焼率では(2)の影響により、NH3燃焼効率が改善していると考えられる。
NO+NO2の排出量は混焼率増加に伴い一旦減少した。これは軽油拡散火炎の局所的な高温領域から生成されるThermal NOが低減しているためと考えられる。一方で混焼率40%以上では増加傾向に転じ、軽油専焼条件に対しておよそ2倍となった。これはFuel NOXの増加とアンモニアガス単体の空燃比低下に起因した断熱火炎温度上昇によるThermal NO増加が寄与していると考えられる。
N2Oの排出量は混焼率増加に伴い、増加する傾向を示した。GHG排出量は混焼率30%までは増加傾向となり、その後削減方向に転じた。これは、温暖化係数の高いN2Oによる影響であり、低混焼率においては炭化水素燃料の削減による効果よりもN2Oによる温暖化効果が上回る結果となった。

3.2.2.空燃比による影響
次に、アンモニア混焼率57%一定の条件下で空燃比を変更し、各排気成分へ及ぼす影響を調査した。結果を図4に示す。空燃比の低下に伴い、NH3燃焼効率は上昇し、N2Oは減少する傾向を示した。これは、2.2節のφ-Tマップで言及した通り、当量比増加(=空燃比低下)に起因する燃焼温度の上昇により低温域で生成される未燃NH3、N2Oの排出量が抑制されたためと考えられる。NO+NO2は空燃比低下に伴い増加した。これは、高温燃焼によりThermal NOが増大していると考えられる。以上の結果から、本実験において空燃比が各種排気成分に及ぼす影響は2.2節の計算結果と整合することを確認した。
GHG排出量は図3の軽油専焼条件を基準とした変化量を表している。混焼率57%条件では、半分程度の熱量がアンモニアに置き換わっており、CO2の排出が抑制されているにも関わらず、高い空燃比条件においてはN2Oが多量に排出されたことでGHG排出量は軽油専焼条件よりも高い値を示した。一方で、低空燃比ではN2O排出量が減少したとこでGHG排出量が削減方向に転じている。

図4 Effects of Air Fuel Ratio(NH3 Mixing Ratio = 57%)
図4 Effects of Air Fuel Ratio(NH3 Mixing Ratio = 57%)

4.おわりに

本稿では、アンモニアの基礎燃焼特性を把握すると共に、アンモニア・軽油混焼において、混焼率95%、空燃比6.9付近で、GHG排出量を49%低減可能なことを明らかにし、アンモニア燃料の適用によるGHG削減可能性を示すことができました。今後、更なる排気生成物低減のために、燃焼のみならず後処理技術を組み合わせた低減方策について、研究を続けていきます。

参考文献

  • (1)H.Nakamura, S.Hasegawa, T.Tezuka: Kinetic modeling of ammonia/air weak flames in a micro flow reactor with a controlled temperature profile, Combustion and Flame, vol.185, p.16-27(2017)
  • (2)K.Akihama, Y.Takatori, K.Inagaki, S.Sasaki et al.: Mechanism of the Smokeless Rich Diesel Combustion by Reducing Temperature, SAE paper, 2001-01-0655(2001)
  • (3)H.Kobayashi, A.Hayakawa, K.D.K.A.Somarathne, E.C.Okafor: Science and technology of ammonia combustion, Proceedings of the Combustion Institute, Vol.37, Issue 1, p.109-133(2019)

著者

ヤンマーホールディングス株式会社 技術本部 中央研究所

松永 大知

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