関根 正敏 様
群馬県 前橋市
- Profile
- 39歳。平成13年に家業の花卉生産を手伝うため会社を退職して就農。現在は花を主体に米・麦・露地野菜の複合経営を行う。「元気ファーム20」の設立や法人化に尽力。現在は理事として活躍。
組合では約85haを管理し米、麦を主体に露地野菜を生産。別組織で稲WCS生産も受託。
高齢化や後継者不足を背景に集落営農が増えており、その数は全国で約1万4000件を超える。しかし、組合はできたが経営が軌道に乗らないケースは珍しくない。
その中で、地元群馬県や前橋市から「優れた経営感覚と旺盛な研究心を持って先進的な経営を行い、地域農業の担い手としてモデルになる」と高く評価されているのが、農事組合法人 元気ファーム20だ。将来に向けてより一層安定した経営を目指して活動する同組合の関根正敏理事をお訪ねした。
群馬県 前橋市
ここは東京から北西に100km、赤城山の南麓に位置する前橋市西善町。赤城山から吹き降ろすからっ風によって、冬でも乾燥した晴天の日が多く、田んぼも乾きやすいため、昔から米・麦の二毛作が行われている。最近では大消費地・東京を控えて野菜や花卉などの生産も盛んだ。玄関口の高速道路インター周辺には大型ショッピング施設もあり、都市部らしい賑わいを見せているが、ここまで来ると田畑が広がり、緑が目に鮮やか。4月初旬、元気ファーム20では、共同作業を行う十数人が集まり、手分けして作業チームを組み、育苗の準備やジャガイモの植え付けに汗を流していた。日焼けした顔が輝いている。
「58名の組合員は70代が中心で、80代も多いのですが、共同事業に出てこられる皆さんは、組合員のうち若手や意欲ある農家の方々で、組合を引っ張っている中核メンバーです。『自立のできる農業経営』という組合の将来ビジョンや目標を共有し、共同作業は勿論、組合運営に主体的に参加し、『儲かる農業をやろう』と意欲的に活動してくれています。もともとこの地域は、大都市近郊の典型的なサラリーマン農家がほとんどです。そのため、農地の維持を第一目的に組合に入った兼業農家が多いのですが、そんな中、十数人の中核メンバーは、安定した農業経営と収益アップを目指して前向きに組合に加入されました。特に、組合が継続的な発展を目指して法人化に踏み切ってからは、集落の農地を一括して計画的に利用できるメリットを再認識し、組合経営に対する意識も高まってきたようです」と理事を務める関根正敏さんは目を細める。
平成18年に前身の集落営農組合を立ち上げてから、2年後には前橋市で第1号の法人化を行う。それを機に導入した大型機械の稼働率を上げ効率的な利用を図るため、新たに露地野菜(ジャガイモ、ニンジン、ブロッコリー、玉ネギ)を導入。続いて飼料用イネも栽培して耕畜連携への取り組みを開始し、多角化を進める。さらに23年には近隣の3つの集落営農組合と合併して規模を拡大し(組合員58名、面積は85haに倍増)、市内で最大の組合となった。この驚くほどの展開の速さと攻めの組合運営は、群馬県や前橋市の指導機関は勿論、周囲の集落営農組合などから熱い注目を浴びている。
「最初に組合を立ち上げた時は、高齢化や平成19年から始まった品目横断的経営安定対策への対応策として、受け身の姿勢が強かったのですが、今では攻めの姿勢というか、積極的に収益向上を目指した経営に変わり、組合経営を軌道に乗せることができました」と胸を張る関根さん。
守りの経営から攻めの経営に転換できた要因は何だったのだろう。「人材とチームワークです」と関根さんはきっぱり。
元気ファーム20は自分たちの会社だという気持ちで、意見や要望を寄せ、収益拡大のために売れる作物や売り方などを考え、提案してくれる若手後継者やベテラン農家らの存在が、組合を前向きに運営していく推進力だと関根さんは言う。役員も入れ十数人が中核メンバーとなって、一致団結のチームワークで組合活動を引っ張ってきた。
そうした意欲ある組合員をまとめ、組合の進むべき方向を示唆し、実行に移していくのが、亀井和雄組合長以下5名の理事。その中で関根さんは、当初の組合設立時に地域で唯一の専業農家(米・麦・花卉・野菜の複合経営)として、農家の合意形成に奔走した一人。以来、ずっと理事を務め、前職のサラリーマン時代に身に付けたマネジメントのスキルを活かして、総務・経理を担当する。
「組合経営で大切なのは、常に5年先・10年先を視野に入れて経営を考えることです。その時々の農政の動きに対応して方針を打ち出すだけでなく、その先を読み、一歩先を考えて行動することが重要なのです。例えば、周辺では高齢化に伴って集落営農組織がたくさん設立されていますが、それらの再編も視野に入れています。こうした前を見る目と、ついてきてくれる組合員をフォローするために後ろを見る目が必要です」と関根さんは強調する。
同組合の先進的な取り組みの中で注目したいのが、飼料用イネによる耕畜連携だ。
「耕畜連携は、耕種農家にとって、飼料用イネの助成金単価が高いのが魅力です。また、ほ場にワラが残らないので、次の麦作にスムーズに入れます。堆肥が手に入るのも利点ですね。畜産農家には、粗飼料は入手でき堆肥も売れるというメリットがあり、共存共栄に繋がります。幸い周辺地域に牧場が多く、良質な粗飼料が求められているので、エリアを広げて効率的に低コストで飼料用イネをつくろうと考えました」
すでに市内で最初に耕畜連携に取り組み、実績を上げている組合があった。近隣の荒砥北部粗飼料生産機械化組合だ。集落営農組合と稲作農家、畜産農家が集まって、飼料用イネの収穫と調製、ロールの運搬を専門に請け負う地域型コントラクターを設立し、事業を進めていた。
「この方法なら低コストで効率的に作業でき、収益も確保できる。これに習ってやっていこう」と関根さんは考えた。そこで、集落内外を足繁く回り、飼料用イネを栽培する稲作農家と、堆肥を供給してくれる畜産農家を確保。それらを構成員とする上陽コントラクターを23年5月に別組織として設立し、約20haで耕畜連携事業をスタートした。
その際に関根さんがアドバイスを求めたのが、前出の機械化組合の畜産側メンバーであり、以前から元気ファーム20に野菜用の良質堆肥を販売していた同市泉沢町の須藤牧場代表、須藤晃さんだ。「関根さんが持ってこられた上陽コントラクターの稲WCS(ホールクロップサイレージ)は、栄養価が高く、牛の嗜好性も良好でした。ですから、耕畜連携に参加を希望する畜産農家も増えてくるでしょう。私はサイレージをベースにして泌乳牛など、牛の生育ステージに応じた発酵TMR(混合飼料)をつくるセンターを近い将来建てたいと考えています」と須藤さんは意欲的だ。
「組合の土地85haの他に、受託20haと、大面積になりました。その大半が共同作業なので、より一層効率のよい人の配分や情報管理、人材育成を主眼に置いて運営していかねばなりません」
そのために今年度から導入しようとしているのが、「農業クラウド」といわれるITソフトの活用だ。農地の管理から作物の栽培管理、労務管理まで様々な情報をインターネット上で管理・分析・蓄積し、それらの情報をタブレット端末などを使って共有できるシステムだ。
例えば、ほ場ごとにIDナンバーをつけ、土壌条件などを入力することで、各ほ場に合った施肥設計や適期作業が行える。場所も地図画面で確認できる。作業予定表も一括管理するので、誰がどこでどんな作業をしているか瞬時にわかり、最適な指示が出せる。作業記録もパソコン上で行い、日誌を書く手間も不要。ITが苦手な人のために紙も併用して柔軟に導入を進めていくが、いずれはペーパーレスを目指している。共同作業が中心の組合なので、毎日多数の伝達事項を紙に書き、何百枚も印刷して皆に配る手間や時間が省け、コスト削減や効率アップに繋がるからだ。
「人の育成は、組合を発展させるための最重要課題。農業は適期作業が大切ですから、誰かができなくなってもすぐに補えるよう人員体制を整え、技術レベルを向上しておかねばなりません。特に、将来、組合を引っ張っていく若い人材の育成が急務です。今後も新たに人を雇用しますが、研修用の資料も何千、何万もあるマニュアルの中から必要なものを短時間に揃えることができます。まだまだ過渡期で、課題もありますが、スケールメリットを活用してより一層コスト削減や効率化を図り、大面積を効率よく管理していきます。そして、農作業の受け皿となって、地域の農業を守り、発展させたいですね」
関根さんを中心に役員たちのリーダーシップのもと、「自立した農業」を目指して同組合が描くビジョンは、着々と実現していくことだろう。