営農情報

2013年10月発行「FREY2号」より転載

農業経営の第三者継承を活用して新規就農。おいしく生でも食べられるハウスチンゲンサイづくりに情熱を注ぐ

農業従事者の高齢化や後継者不足が進み、世襲による経営継承や従来型の新規就農だけでは地域農業の維持・発展が難しくなってきた。解決策の1つとして平成20年度から始まったのが「農業経営の第三者への継承」。
農業を辞める人と始めたい人を結びつける新たな継承方式として注目されている。その好例として、徳島県阿南市で専業農家として自立をめざし、おいしい農産物づくりに情熱を燃やす若き新規就農者の取り組みを追った。

三木 義和 様

徳島県 阿南市

Profile
1979年生まれ、34歳。大学卒業後、会社に就職したが、2010年、農業を志し香川県善通寺市の農業生産法人・近藤農園にて研修。2012年、徳島県阿南市の専業農家・西尾茂美さん(66歳)の農業経営をめざして就農。6人を雇用し、米20ha、キャベツ4ha、チンゲンサイ70aを栽培する。

第三者継承は、農業を始める人にも辞める人にも、地域農業にも有意義

温暖な気候を生かして早場米やハウス栽培の野菜、ミカンの生産が盛んな徳島県阿南市。ここでも高齢化や後継者難から離農や委託を考える農家が多い。
ここに昨年4月、家族以外の新規就農者に対して農地や農機、技術、信用などを一括して譲り渡す「農業経営の第三者への継承」によってサラリーマンから転身し新規就農した若者がいる。三木義和さん(34歳)だ。今回の第三者継承は徳島県での第1号。行政や農業者会議、JA等関係機関も「新たに意欲ある担い手が育ち、地域農業が活性化し発展する。ぜひ成功させたい」と大きな期待を寄せ、一丸となって支援する。

譲る者と受け継ぐ者の信頼関係が要

三木さんは大学卒業後、人材派遣会社に就職し、様々な業界の人と接する中で農業の世界を知った。
「そこで様々な農業があることがわかり、可能性ややりがいに魅力を感じ一生の仕事にしたいと思ったのです。特に今は激動の時代でチャンスがある。そのチャンスを掴んで夢を叶えたいと、30歳を機に農業の世界に飛び込みました」

最初は香川県善通寺市の農業生産法人・近藤農園に入ったが、意欲を買われ2年後、同農園の紹介で、後継者を探していた阿南市の専業農家・西尾茂美さん(66歳)と出会う。熱く語った農業への夢や情熱、時間を惜しまず働く仕事ぶりが西尾さんに認められ、農地20haとハウス70a、機械・設備一式、販路など西尾さんの農業経営を継承することになった。
しかも西尾さんは海まで数百mという低湿地帯のため米が主体だった地域で2年前、畑作に取り組み、初めて露地キャベツの栽培を大規模に展開したパイオニア的存在。「その熟練した栽培技術と優れた経営手腕を伝授して貰えるだけでなく、『やりたいことを全面的に応援しよう』と言って貰え、心強く感謝の気持ちで一杯です。非農家出身で資金が乏しく経験も浅い者が専業農家になるには、普通何年もかかります。特に農地を確保したり機械など初期投資に苦労するでしょう。受け継いだ経営を発展させなくてはと、責任感と共に意欲が湧いてきます」と三木さんは意気込む。

夢を語る三木さんに目を細める西尾さん。継承者と移譲者の間に信頼の絆が培われている。

一方、譲渡した西尾さんは「約40年かけて築いた資産を譲るのですから、人間性や根性、意欲の大きさを見極めるだけではだめ。彼には経営者としての資質や前向きの発想があり、取引先や関係機関に対しても誠意をもって対応してくれるだろうと確信しました。お互いの間に信頼関係が持てるということが一番大事」ときっぱり。そして、いきなり大きな規模を経営していくことになる彼の経営が成り立つよう、機械や設備の体制を整えたり、資産の譲渡形態も負担が少ないようリースにして原価償却した後、譲渡する形をとった。来年1月1日に法人を立ち上げ、正式な経営継承は4月1日に行う。「それまでの準備期間の内にいろいろ試行錯誤し、やりたいことにどんどん挑戦すればいいよ。少々赤字になっても財務体力のある私が補填できるから、と励ましています」と物心両面でバックアップする。

200穴のセルトレイで育苗されたキャベツの苗。
畑に移植されたキャベツ。畝間約50cm、株間約30cmで、10aあたり約4000株を植える。

周年栽培でき運転資金が得やすい。ハウスチンゲンサイを経営の柱に

早速三木さんは営農計画を立て、当面は田20haで早場米(コシヒカリ)をつくり、お盆明け~8月末に収穫した後、後作として4haで露地キャベツ(3品種。収穫は11月~4月)を栽培することにした。一方、ハウス70aでつくる作物には、チンゲンサイを選んだ。「食べてくれる人のニーズに沿った作物をつくる」。これが三木さんの信条であり、目標でもある。

「そもそも私がめざす農業の原点は、『頭』(=味覚)にも『体』(=健康)にもおいしい農作物をつくること。具体的にはみずみずしく、味も糖度が高くコクがあって苦みがなく、栄養価も高い作物です。特に5年先、10年先を見据えて、量だけでなく品質で勝負しようと思っています。それを大前提にしながら、資金面での有利性も選択基準になるので、短期の運転資金が定期的に得られるハウスチンゲンサイに注目したのです」

ハウスで元気に育つチンゲンサイ。葉色が濃く尻張りも良い。

チンゲンサイは和食・洋食・中華のどれにでも合い、用途が広いので需要が多く、単価も高い。高品質なものをつくればどんどん売れる。特にハウス栽培なら1年中つくれ、生育が早い(夏場は30日、冬場でも60日)。暑さに強いものや耐寒性が高いものなど12品種を織り交ぜながらつくると、年間8回回転できる。延べ面積にすると5.6ha。
JAに出荷したものは10日毎に集計され、10日後に代金が支払われるので、短期の運転資金ができる。その他、栽培管理においても、ハウス栽培は露地栽培と比べてコントロールし易く、遮熱対策(遮光ネットなど)や病害虫対策(防虫ネットなど)も楽だ。
「これらたくさんのメリットが魅力で、ハウスチンゲンサイをメインにしたのです」と三木さんは話す。

キャベツ畑での畝立て作業。ヤンマーエコトラEG228に装着した二軸成形ロータリは、2本のロータリによって上層は細かく下層は粗い二重構造の畝ができ、空気がよく入り排水性が高まって生育が良好になる。

おいしさの秘訣は土壌分析と鶏由来の有機肥料+善玉菌+海水

三木さんがつくる農産物は「おいしい」と取引先に好評だ。特にチンゲンサイは「甘くて苦みがなく、みずみずしくて生で食べられる」と徳島市内にある大手ホテルのシェフからも高評価を得ているし、オーガニック野菜を取り扱う消費者グループなどから引き合いが相次ぐ。
「おいしい農作物をつくるために一番力を入れているのは、土づくりです。定期的に土壌分析を行い、いい土の状態をキープさせます」と三木さんは強調する。土壌分析の回数は半端ではない。特にハウスチンゲンサイ(28区画)では年間200回に及び、鉄やカルシウムなど現代人の健康に不可欠なミネラルなどが不足していれば肥料で補う。「アミノ酸とグルタミン酸が作物のおいしさをつくるので、それらを多く含む徳島の地鶏『阿波尾鶏』の骨や肉、血、羽、鶏糞などをベースに製造された肥料を重点的に使います。土壌分析を始めて5作目で、苦みがなくなり、コクが出てきましたね」

また、昨秋からは土を柔らかくするために有機質を分解し発酵を促進させる酵母菌などを桶で培養し、土に入れる。「シフォンケーキのようなやわらかい土をめざしています。栄養価や食味、糖度をデータで出して効果を調べたら、学校給食などで指標とされる栄養価の値よりビタミンなども倍くらい高くなっていました」。さらに、糖度を上げるために半年前から取り組んでいるのが、海水の散布だ。海が近いという地の利を生かし、海水を汲んできて希釈。播種時と出芽時にまく。
「海水に含まれている天然のミネラル成分が吸収され、甘みが出ておいしく栄養のあるチンゲンサイに育ちます。糖度が一般の物より1度位アップしています。作物の体力も強くなります」

情熱と強い意志、負けず魂が眼差しに溢れる三木さん。

来年法人化し独立。めざすは売上1億円、経営利益率10%

来年の法人化と独立を目前にして、「5年後には売り上げ1億円と、優良企業の指標とされる経営利益率10%を達成したいですね。株式会社にするのは、農業を志す若い人が集まり夢を持って農業ができる場をつくりたかったから。そのためにも未来の夢が描けるだけの事業規模と健全経営をめざしていきます。人に教えるのも好きなので、将来は農業の学校のような形になれれば嬉しいですね」と夢は広がるばかりだ。

「5年間が勝負ですね。壁にぶつかったり、自然災害に見舞われることもあるでしょうが、一生の仕事と決めた以上、これ以外の道はありません。いつもできるしやると考える、を信念に進んで行きます。」と逞しい。三木さんの今後に目が離せない。

試験的にハウスで栽培している長ネギの出荷準備。他に白菜やブロッコリーも栽培試験中。
日射しをやわらげ紫外線もカットする遮光ネットを張ったガラスハウスの中ですくすく育つチンゲンサイ。異常気象でも葉焼けや糖度・栄養価の低下を防止できた。防虫ネットをかけた苗もコナガやアブラムシの食害を防げ、元気に生育。

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