営農情報

2015年10月発行「FREY5号」より転載

<アグリ・ブレイクスルー>米卸トップが語るこれからの稲作。製販一体の改革で主食用米の需要拡大を

2015年秋、稲作農家の多くが胸をなでおろしたことだろう。JAグループが生産者に支払う概算金が2014年に比べ、1000円弱~2000円程度(60kgあたり)上がった。需要回復によりもたらされた価格上昇ではなく、政府があらゆる策を動員した結果である。
ひとつは飼料米の増産。生産調整を超過達成した産地に10aあたり5000円の交付金を上乗せする「深堀」も実施した。これに先立ち、生産者や卸の団体でつくる米穀安定供給確保支援機構が2013年産米35万トンを市場から隔離したことも功を奏した。その結果、2015年産の主食用米の生産量は、政府が出した目標(751万トン)を4万トン下回ることとなった。長年生産過剰が続いてきたが、近年まれにみる需給改善となった。

とはいえ、農家が抱いている先行きへの不透明感が払拭されたわけではない。2018年から米の制度が大きく変わる。国は主食用米全体の生産目標は今後も出し続けるが、各県への配分は廃止し、産地自ら生産調整していくことになる。経営安定対策のうち、直接支払い交付金(10aあたり7500円)も廃止される。そして10月5日、TPP交渉がついに大筋で合意した。不透明さの中で稲作農家は何を指標にして米をつくっていけばよいのか。米卸の最大手、神明ホールディングの藤尾益雄社長、米卸で組織する全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)の木村良理事長へのインタビューをもとに、これからの米づくりの核となるキーワードと、産地に求められる対応策をまとめた。

農業ジャーナリスト

青山 浩子(取材・文)

Profile
1963年愛知県生まれ。1986年京都外国語大学英米語学科卒業。日本交通公社(JTB)勤務を経て、1990年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合研究所に勤務。1999年より、農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞出版社)「農産物のダイレクト販売」(共著、ベネット)などがある。

加工・業務用米 ~需要拡大握る朝食マーケット~

需要の拡大が期待できるものとして業務用米が挙げられる。米の需要量770万トンのうち、加工・業務用に使われる米はすでに300万トンを超える。だが各産地は高値狙いのブランド米の生産に力を入れ、加工業務用米に十分対応しているとはいえない。

神明ホールディングの藤尾社長は「消費者は簡便性を求める。そこに対応すれば需要は伸びる。その代表はおにぎりに代表される朝食マーケットではないか」とみる。「大手コンビニ3社が年間に販売するおにぎりは約40億個。かつて朝食といえばパンだったが、いまはおにぎりとお茶が主流。このマーケットに産地がどう対応するかがカギ」と言う。

同社は宇都宮大学と連携しておにぎりや弁当に適した品種「ゆうだい21」を開発し、ローソンが店内調理施設を持つ店舗「まちかど工房」で使う取り組みも始めた。また、契約農家に生産してもらい、牛丼チェーンに納める「みつひかり」の生産量は約3000トンまで増えた。「一般の品種と比べ単価は低いが収量は約1.5倍。一俵あたり米価ではなく、一反あたり収入で考えれば収益面でメリットはある」と藤尾社長は強調する。

株式会社神明ホールディング 代表取締役社長 藤尾益雄 様

分かれていく米流通 ~個性で攻めるか、量で攻めるか~

一方、栽培方法や品種にこだわった米、バラエティ性のある米も需要は底堅い。こちらの米は量(ロット)を限定して販売されることが多く、それによって商品の付加価値が高まる。自分の米がどこでどう販売されているのか、食べた人がどう評価したのかなど反応がフィードバックされやすい点では生産者にとって大きな魅力だ。専門性の高い米は業界内のみならず、「ギフトとして扱いたい」「結婚式の引き出物として使いたい」など異業種が参入してくる可能性もある。

全米販の木村良理事長は「バラエティが求められる市場と、スーパーや外食向けなど一定の量と品質が求められる市場。このふたつに生産も流通も分かれていくだろう。どちらを選ぶにしても、実需をよく知る農業に変わっていく必要がある」と話す。

全国米穀販売事業共済協同組合 理事長 木村良 様

輸出 ~拡大には生産費削減が必至~

二人が共通して「拡大の可能性あり」とにらむのは輸出だ。いまや世界的な和食ブームで、米の輸出量が史上最高の4500トン(2014年)となった。ただ「これで喜んでいる場合ではない。もっと増やす方策を考えるべき」(藤尾社長)と言う。

同社は回転寿司店「元気寿司」を国内外でおよそ300店舗展開している。その半分が海外にあり、特に香港、中国に店舗が集中している。しかし、割高な日本産米を使う店は10店舗ほどある高級店「千両」のみ。他店舗では中国東北地域で生産されたジャポニカ種が使われる。日本産の米の使用を増やすには「検疫や通関に関わるコストも大きいが、米そのもののコスト削減も重要」と言う。

具体的にどこまで削減すればいいか。藤尾社長は「1kgあたり120~130円ならば日本産米への切り替えが即可能」と言う。最近の相場を基準に考えると相当のコスト削減が必要だが、全米販の木村理事長は「やり方はある」と言う。「転作田でつくった米を輸出に回す取り組みが青森県などで始まっている。他の水田と同じ機械作業ができるので余分なコストはかからない。主食用米が再生産可能な価格で販売できれば、輸出向けの価格が1kgあたり110円台~130円台としても、全体で見れば経営として成り立つのではないか」国は稲作の4割コスト削減をめざした実証事業「農匠ナビ1000(ページ下のコラム参照)」を通じ1kgあたり150円の米づくりを可能にするための技術開発を進めている。こうした取り組みを進化させていけば、輸出拡大への道も開かれる。

規模拡大か6次産業化か ~重み増す経営者の判断~

農地は担い手に集約される方向だが、木村理事長は「規模拡大はチャンスでもリスクでもある。経営者の判断が重要になる」と語る。春と秋に作業が集中する稲作で年間雇用者を数多く抱えるのはリスクとなり、「野菜などの転作作物を組み合わたり、農閑期に米を使った加工品をつくるなど、一年の仕事をどう平準化するかが大事になる」と見る。
一方で、藤尾社長は「生産者がモノづくりから販売まで丸抱えする6次産業よりも、製販が連携して市場をつくっていくことに重点をおいたほうがいい」と述べる。

同社の傘下には、包装米飯を製造販売するウーケという会社がある。添加物不使用の包装米飯をつくるために、人が入らないクリーンルームで製造する。こうした施設整備にかけた金額が約70億円。投資額に見合う販売量は月間700万食だという。売れ行きは好調で工場増設を計画しているが、「こうした大掛かりな6次産業化を生産者が手掛けるリスクは大きい。生産者には需要のある原料をしっかりつくってもらいたい」と藤尾社長は話す。

米産業の安定的発展 ~製販一体の改革が必要~

直近10年間で、出荷段階の米価(相対取引価格の全銘柄平均価格)は高値の年と安値の年で60kgあたり4000円以上の開きが出た。この変動幅は農家に不安を与え、安定調達を求める実需者の弊害となった。このため数量や価格をあらかじめ決めた契約取引の形態が増えている。

現在、試験上場中の先物取引市場やスポット取引される市場は存在している。しかし収穫秋から翌秋にかけて年間の値動きがわかる指標は存在していない。全米販は2015年より、新たな米取引市場「中長期米仲介市場」を開設した。集荷業者や農家等と米卸、中・外食業者等との取引をマッチングさせるもので、売り手は年間500トン以上の生産実績または集荷実績がある者、買い手は年間1000トン以上の仕入れ実績がある者なら参加が可能である。「価格の高低より、自分の米を年間通して使ってもらいたいと思う農家にとっては、都合がいいだろう」と木村理事長は期待する。

稲作は、作業時期が集中するため規模拡大すればその分、機械施設への投資額もかさみ、スケールメリットを出しにくい作物といわれる。「こうした部分も改革のメスを入れる必要がある」と藤尾社長。米の乾燥調製施設をより効率的に活用できるような策を講じれば、農家にとってもコスト削減になる。「いままで目を向けてこなかったことも含め、製販一体で既存の米づくりに風穴を開けるタイミングに来ている」と藤尾社長は言う。

将来に向けて米業界全体で取り組むべきことは「若い生産者が稲作をやりたくなる環境づくり」と両氏は言葉をそろえる。「若い人が入ってくれば新たな発想が生まれる」(木村理事長)、「いまは若い人がいない産地も、若い人を受け入れるような体制づくりをしていってほしい」(藤尾社長)。いままで以上に市場に敏感な米づくりを通じ、若い人が魅力を感じるような世界をつくることが現在の担い手の大きな役割といえる。

<コラム>国家プロジェクト「農匠ナビ1000」

玄米1kgあたりの生産費150円で成り立つ稲作にはどんな技術が求められるのか――。稲作のコスト大幅削減をめざした国家プロジェクト「農匠ナビ1000」(2014~2015年)が進行中だ。政府の産業競争力会議が2013年6月に打ち出した「日本再興戦略」の中で目標に掲げられた「稲作の生産費4割削減」を実証するための事業だ。輸出拡大を視野に入れ、低コストかつ高品質の米づくりのための技術開発が主な目的。栽培技術やノウハウの“見える化”もテーマのひとつだ。実証実験を行う(有)横田農場(茨城県)、(株)ぶった農産(石川県)、(有)フクハラファーム(滋賀県)、(株)AGL(熊本県)で構成する「次世代大規模稲作経営革新研究会」が事業主体。大学や研究機関ともにヤンマーも参画している。

2015年9月11日、北海道大学で行われた日本農業経営学会分科会で、4名の経営者が進捗状況を発表した。125haという大規模ながら田植機、コンバインとも1台体制でこなす横田農場の横田修一社長は移植栽培に加え、鉄コーティング湛水直播(10ha)と不耕起乾田直播(4ha)を導入し、省力化を図っていると発表。380枚ものほ場管理の精度を高めるためにITを活用する様子についても報告した。ぶった農産の佛田利弘社長は、高密度育苗および播種について報告。「10aあたり21箱ほど必要だった育苗箱を6~8箱に減らし、高精度田植機で作業することで、30aを苗箱の補給なく一人で田植えができる。苗と人件費の削減につながった」と述べた。

水稲だけで150haあるフクハラファームは、従来からITを活用した作業適期判断や作業マニュアル作成に力を入れてきたが、技術伝承の一環として機械作業の様子を熟練者と若手社員でそれぞれビデオ撮影する手法を取り入れた。福原悠平常務は「比較すると、若手社員は一点ばかり見て収穫するため、刈り残しが多かった。視覚的にとらえることで改善策が見えてきた」と述べた。AGLの高﨑克也社長は、ほ場に設置したセンサーからのほ場情報収集、ほ場の均平化や施肥方法の工夫による生育と品質のバラつき低減などの実施状況を報告。研究会の会長でもある佛田氏は「生産費150円にむけて各農場が実践中だが、自分としては手ごたえを感じている」と報告した。

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