営農情報

2016年11月発行「FREY8号」より転載

米の直販拡大へ衛生管理体制を強化。新築の精米施設で異物混入を防止

北海道旭川市東旭川町で水田農業を経営する株式会社 髙橋農産は基幹作物である米の7割を直販している。その割合を増やそうと、今年8月に異物混入の防止などを目的とした精米施設を竣工。顧客に商品を手渡すまでの全工程において衛生管理体制を強化している。

株式会社 髙橋農産

髙橋 伯尚 様・正明 様

北海道 旭川市

Profile
伯尚さんは1983年6月、北海道旭川市生まれ。旭川農業高校を卒業後、実家で就農。2010年3月、株式会社 髙橋農産を設立。正明さんは1981年11月、北海道旭川市生まれ。拓殖大学北海道短期大学を卒業後、JA東旭川に入組。2011年に退職後、髙橋農産に入社。現在、同社取締役。髙橋農産は32haで米、12haずつで大豆と小麦、2haで牧草、50aでソバを生産。年商5800万円。

安全・安心に配慮した精米工場

髙橋農産の経営者は弟で社長の髙橋伯尚さん、それから兄で取締役の髙橋正明さん。それぞれ33歳、35歳とまだ若い。

二人がつくる米は、北海道を代表する「ななつぼし」「ゆめぴりか」に加え、「おぼろづき」「ほしのゆめ」という四品種。販路は個人や量販店だけでなく、弁当屋や飲食店、給食事業者などと幅広い。おまけに取引先は北海道から沖縄は与那国島と全国に広がっている。

直販の基礎を築いたのは父の故・信善さん。「父さんは僕たちが小さいころから、自分がつくった米をとにかくあちこちで配ってた。その成果で、いろいろなところから買いたいという注文が入るようになったんだ。広告を出すのも大事なんだろうけど、やっぱり食べてもらって、うまいと感じてもらうことのほうが大きい。食べてくれた人たちが口コミでまた広げていってくれた」

こう語る伯尚さんは旭川農業高校を卒業後、地元の美容院に勤めたものの、三カ月後に実家で就農。27歳で父から経営を受け継いでからは、その改革に注力してきた。

その象徴は真新しい精米施設だ。ここの特徴は搬入、精米や袋詰めなどの機械作業、保管をする三つの部屋が完全に分離されていること。それぞれの空間から粉塵などの異物が入り込むのを防ぐためである。
着色粒や小石を徹底して除去するため、玄米段階だけでなく精米段階でも石抜きと色彩選別の機械を入れている。その処理の様子を見ると、精米段階でもかなりの量が選別されてはじき出されてくる。「玄米段階だけでは十分に取れないんだよね。なかなかここまでやる農家はいないんだけど、お客さんは着色粒なんか気にするから、しっかり取っておきたい」と伯尚さん。
加えて袋詰めした米を保管する部屋の内壁には、断熱のためのウレタンを吹き付けている。また施設内にはエアコン二台を設置。年間通して室温を一定に保っている。

もとより消費者の信頼を勝ち取ることには気を使ってきた。パッケージに栽培履歴を表示するのもそのため。また、以前からもみすりは冬場に一気に行わない。もみのまま越冬させて、3月、それから6月と順次もみすりをすることで、生鮮食品である米の鮮度を保つ。これでかびも生えない。

温湯消毒と黒酢で防除

品質管理に対するこだわりは栽培にも表れている。
購入してきた種もみはまず温湯消毒をする。専用の装置で60度の湯に10分間浸漬させるというこの手法には全国でもいち早く取り組んできた。狙いは、ばか苗病やいもち病、苗立ち枯れ細菌病を防ぐため。殺菌剤を使うのと同等以上の効果があるとされている。

珍しいのは、温湯消毒をして取り出した種もみを冷ました後、今度は300倍に希釈した黒酢液が入ったタンクに浸漬すること。これはキューピー醸造が販売する純粋玄米黒酢で、殺菌の効果が一層高まるという。こうした綿密な管理の結果、殺虫剤と殺菌剤の散布回数はそれぞれ1回だけで済んでいる。従来は3~4回まいてきた。
除草剤にしても初期剤をまけば抑草できる。農薬の使用回数についてはすでに慣行栽培の半分以下に抑えていることから、将来的には特別栽培の認証を取得するつもりだ。
消毒した種もみをまいた育苗箱をハウスに敷くのは機械任せ。機械に育苗箱を載せると、自動で敷いていってくれるので、腰をかがめての作業がなくなって楽になった。

もうひとつの経営改革は毎年の作業をメモ帳に記帳すること。伯尚さんが就農するまでは「どんな作業も計画性がなかった。だから、その日こなす作業を当日に決めることも頻繁にあった」そうだ。前年度までのデータを保存しておくことで、いつ、どんな作業をすればいいかが「見える化」できるようになった。

記帳する狙いはもうひとつ、早いうちに経営移譲を果たすことにあった。「就農したばかりのころは父から叱られてばかりだった。これではいつまでたっても経営移譲されないよね。父から指示されるのではなく、何を聞かれても、むしろ自分のほうが知っているという状態に持っていきたかった」。伯尚さんの自覚の高さを物語るエピソードだ。

米と合わせて経営の柱をなすのが黒大豆。栽培面積は米の4割程度ながら、売り上げは米と二分する。何しろ一俵当たりの販売価格は2万円を超える。

品種は大粒の「祝黒」、それから「黒千石」。後者はかつて軍馬の餌にもされていたほど栄養価が高いものの、1970年以降は衰退。以後、幻の黒大豆とされてきた。それが地元の農家によって約15年前に復活し、いまでは道内の生産者で組織する黒千石事業協同組合がその普及に力を入れている。

東旭川町は比較的降雪が遅いため、天候の影響で収穫が邪魔される心配が少ない。そんな地の利を活かして髙橋農産は生産した「黒千石」を同組合に出荷している。黒大豆もまた連作障害に弱いので米、麦、大豆のブロックローテーションを組んでいる。

ロボット農機の登場に期待

東旭川町は大雪山の豊富な雪解け水を使える水田農業にはうってつけの場所だ。それでも農家の平均年齢は70歳を超え、近いうちに大勢が離農することが予想される。髙橋農産は自分たちのもとにもたくさんの農地が委託されてくるとみている。

そこで急ぎ取り組んでいるのはほ場の連坦化。一枚当たり50~60aが平均のほ場はあぜを取り払って面積を広げ、作業効率を上げていく。

同時に期待しているのは農機のロボット化。たとえば北海道大学は2018年までに複数のロボットトラクターが同時に併走する「協調作業システム」を開発する。伯尚さんは「規模が大きくなっても雇用人数を増やしていたら、経費がかかって経営を圧迫する危険がある。ロボット農機が安価に発売されるなら、ぜひ取り入れたい」と話している。

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