営農情報

2015年7月発行「FREY特別号」より転載

畑作の機械体系で米をつくる。効率と汎用性を重視した機械化体系で、土地利用型農業に革新をもたらす

就農当初は稲作メインだったが、転作田での小麦栽培をきっかけに畑作物を軸にした農業経営に転換。作業効率を高めるには、どういう作業をどんな機械でこなすのがベストなのかを綿密に考え、設備投資をしてきた。
水稲の乾田直播にも早くから取り組み、水田の過半を占める。
新規作物として国内では珍しい子実トウモロコシの生産も始めた。

(有)盛川農場

盛川 周祐 様

岩手県 花巻市

Profile
1951年生まれ。弘前大学理学部卒業後、就農。経営面積は約75haで、水稲(24ha)、小麦(39ha)、大豆(9ha)、子実トウモロコシ(2.3ha)など。1994年から水稲の直播に取り組み、水稲の半分以上が乾田直播(数字は2014年)。周祐さんほか、娘の風子さんと長男の祐さんと新入社員(1名)の4名でこなす。妻の裕子さんは経理担当。

畑作物を基軸にした農業にシフト

稲作主体の農業が営まれる花巻市にあって、盛川農場には畑作用機械がずらり。小麦および米の播種に使うデンマーク製のグレーンドリル。トウモロコシと大豆に使う真空播種機。小麦とトウモロコシに使う普通型コンバイン。フランスの機械展示会で見つけたという移動式燃料タンクもある。「買うかどうかを見極めるのに時間をかける。メーカーの話だけではなく、海外にも行くし、農家仲間からも情報をとる」と盛川周祐さん。
だからといって決して「機械ありき」ではない。生産する作物や面積、作業工程、効率、減価償却などを考慮し、どの機械との組み合わせが最適かをはじき出した上で設備投資する。いったん購入すれば、どこまで広く使えるかを考える。「土地利用型農業は天候に左右されることが前提。その上で適期に播種・収穫し、高品質なものをたくさんとるには、どんな機械を使うかで変わってくる」。

よどみなく持論を述べる周祐さんだが就農当初は確固たる考えがあったわけではなかった。研究者を目指し、大学で物理学を学んだが、父親が逝去し兄弟が別の道に進んだため、自ら就農を決めた。「特別いやでもなかったが、固い決意もなかった」。
就農した頃、減反が始まっていたが、誰もが消費が回復すればまた米をつくれると思っていた。米が生産過剰になり、減反はなくならないという雰囲気が浸透し始めると、周りから「貸してもいい」という声が出てきた。そんな農地を借りて小麦をつくるようになった。面積が増えたのは1989年頃からだ。

面積が増えるにつれ悩みが大きくなった。技術不足、地力不足から収量がなかなか上がらなかったのだ。小麦の栽培技術が確立されている北海道、さらにヨーロッパを訪れ、直に農家の話を聞いた。小麦の収穫後、切り株ごと土と混ぜた後、くず大豆をまき、それを緑肥としてすき込む技術はこの時から実践している。「連作障害の回避と畑に雑草を生やさないため。くず大豆は無償で手に入るが、まく手間はかかる。だから早くまける機械が必要になる」。
小麦という畑作物を追求していく過程で、周祐さんは農業そのものの考え方が変わっていった。移植栽培の稲作はいかに手間をかけ、良質米をつくるかによって収入の向上を目指す。小麦は手間がかからない分、単価は安い。だが機械を使って作業効率を高めれば、広い面積をこなせる。「単位面積あたりの収入が多い米に目が行きがちだが、一人あたりの時給にすれば小麦のほうが高い」―。周祐さんは効率のよい畑作物を軸に据えて栽培する作物を考えるようになった。そして稲作も畑作農業から派生させて考えるようになった。

試験機関と連携、直播で着実に成果出す

行き着いた先が直播だった。「こんな寒いところでは無理」というのが東北地方の常識だったが、周祐さんは意に介さず、1994年から始めた。
前年に大冷害を経験したこともきっかけのひとつ。「冷害の翌年は米が足らず、転作していた農地まで米をつくってもいいことになった。うちも小麦のほ場の一部で米をつくろうと思ったが、米増産は一時的なものかもしれない。それなのに育苗用ハウスを建ててまでやる必要があるのかと思った」。すでに直播に挑戦している農家がいたことも背中を押した。

最初は水を張った水田に種もみを播く湛水直播。「うまくいかなかった。自己流でただ播いただけだった。30aやったけど反収は移植栽培の3分の1ぐらいでした」。
試行錯誤を続けるうち、秋田県の農家が乾田直播(乾直)を始めたという情報を聞き、「これはいい」と自身も始めたが「さらにうまくいかなかった。湛水直播はやっているうちに(移植栽培の)7、8割の収量が上がるようになったが、乾直の1年目はまったく芽が出ない。仕方ないから代かきをして苗を入手して田植えをした」。
その後、再び湛水直播に戻るなど模索が続いたが、農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター(盛岡市)の研究者、大谷隆二氏と出会ったことで展望が開けた。東北地方で直播技術を研究してきた大谷氏は「試験場で出した成果を実際のほ場で実証したい」と思っていた。同センターが予算を確保し、2007年より盛川さんのほ場を活用して実証実験が始まった。ほ場の均平作業、播種、水および肥培管理、漏水対策、雑草対策などの研究、さらにコスト削減効果など、実践データを蓄積した。

その結果、乾直のほ場の労働時間は、移植体系(11.2時間)の約半分(4.8~6.4時間)になり、60kgあたりのコストは6500~8400円で、東北地方平均(2010年)の54~69%に収まる好成績を出した。移植体系の「ひとめぼれ」の反収510kgに対し、乾直でつくった「萌えみのり」は600kgを超え、収量でも上回った。ただし「あくまで試験データ。まだ技術を確立できたわけではない」と冷静にいう。
課題のひとつは天候。「4月中に播種をしたくても雪が降ったり、雨が続いたりしてほ場が乾かないと作業が遅れる。この段階で作業時期を逃すと播種できない恐れもあり、幸い播種できても収量に影響が及ぶ」(周祐さん)。

他にもほ場による収量のバラつきをどう減らすか、雑草対策もさらなる工夫が必要だ。播種後、稲よりも雑草の力のほうが勝るため、うまく制御しなければならない。水を張った後には、田んぼに均一に効くように除草剤を水に溶かして散布するが、ほ場の水持ちが悪いと浸透してしまい効果を得られないため、事前の土づくりがモノを言う。播種する表面は根が張るようにあまり固くせず、その下はしっかりと固めて水持ちのよい層をつくるといった環境づくりが必須となる。

「乾田直播は育苗の省略だけでなく、雨が降っても田んぼがぬからないため大型機械を入れやすい。限られた期間に多くの作業をこなす大規模経営には大きなメリット」と周祐さん。

農業は、理屈と実践の上に成り立つ学問

これらの課題を含め、周祐さんが乾直の技術を向上させる戦略に揺るぎはない。貿易自由化の進展や担い手に農地が急速に集まってきている現状を考えると、大規模面積を効率よくこなす稲作技術を避けて通ることは不可能だからだ。「育苗、代かきを前提とした手間をかけた米づくりではいずれ通用しなくなる」と考えている。すでに農場全体の水田面積の半分以上が乾直の水田になっている点も、農場の方向性が定まっている証拠だ。

2013年から国内では珍しい子実トウモロコシの生産を始めた。10aあたりの収穫量は約600kg。地元の養豚農家に1kg50円で購入してもらっている。3万5000円の交付金とあわせても利益が出るところまではいっていない。飼料用米のように国が生産振興を図る品目にもまだ入っていない。それでも取り組むのは、交付金に依存する麦や大豆の政策が今後どう変化するか不透明であるため、いろんな作物をつくることでリスク分散を図りたいという思いによるものだ。「まさに先行投資。子実トウモロコシに交付金がいずれ出るかもしれない。そこから始めるようでは、開始時点で先行農家と差がついてしまう。人より先に始めるメリットはある。“つくってみておもしろかった”で終わるか、“先に始めておいてよかった”となるかは時代が味方してくれるかどうかだね」とほほ笑む。

最後にこんなことを聞いた。「目指す農業が確立できれば、再び研究者の道に戻る選択肢はあるのか」と。すると周祐さんは間髪いれず「ない。だって農業も学問だから」ときっぱり。「理屈をしっかりと突き詰めた上で実践してみてうまくいかなければ原因を分析する。そのためにできるだけ数値化したり、映像を撮ったりして記録に残す。原因と結果を自分のなかで整理しながら進めていくのが私の農業」。周祐さんは、作業の様子を時折映像に撮ってフェイスブックに投稿している。同じ方向の農業を目指す農家仲間との情報共有の場でもあり、自らの農業を極めるための大事なツールでもあるのだ。

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