宮迫 恒也 様
広島県世羅郡世羅町
農事組合法人 恵(めぐみ) 代表理事
広島県では、(独)農研機構近畿中国四国農業研究センターが育成した、飼料稲の新品種「たちすずか」の生産量が拡大しています。なかでも同県世羅郡世羅町の農事組合法人『恵(めぐみ)』は、15haの「たちすずか」を栽培、県平均より高い価格でも飛ぶように売れるサイレージを生産しています。
今回は、ヤンマー飼料コンバインベーラYWH1500導入効果や、稲発酵粗飼料づくりに対する効果をテーマに、YWH1500のコンディショニング効果を活かした「牛が欲しがる」高品質サイレージづくりのポイントについて深掘りし、その真相を探ってきました。
農事組合法人「恵(めぐみ)」は、広島県世羅郡世羅町ほかで約53haのほ場を持つ大規模営農法人です。もともと個人経営ですが、世羅町の離農を止めようと、広島県の集落営農法人拡大プロジェクトに参画し、平成19年に法人化。他の農家と協力しながら「世羅町の農業を盛り上げたい」との想いから、農事組合法人という形態を選ばれました。
そんな「恵」の代表理事の宮迫恒也さんにお話をうかがいました。
広島県世羅郡世羅町
農事組合法人 恵(めぐみ) 代表理事
農事組合法人「恵(めぐみ)」では、主食用米をはじめ餅米や麦、キャベツ、スイートコーンなど、年間を通して安定した栽培・出荷を行う。地元の資源を使った安心・安全な作物をと、早くから循環型農業も実践してこられた。
「ウチが籾がらを提供し、畜産農家さんから堆肥を還元してもらう、という関係は昔からできていました」と代表の宮迫さん。耕畜連携の先駆けとも言えるこの関係が、広島県が推進する飼料稲専用品種「たちすずか」の栽培へと展開。他の農家へ話を聞きに行ったり、YWH1500で試験的に収穫をしたりと、畜産農家と連携して研究を重ねられた。
「最初は細断型の収穫機のほうが、飼料を混ぜるには使いやすいと思っていました。でもできたサイレージを見ると、YWH1500でつくった方が品質が断然良い」。宮迫さんは迷いのない口調で語ってくれた。こうして試行錯誤の末にできたサイレージを、地域の畜産農家に直接かけあって販売開始。すると「牛がよく食べる」とたちまち評判になり、町外にまで口コミが広がったという。
「とにかく畜産農家は、牛が食べるサイレージを選ぶんです」と宮迫さん。 昨年は地域一丸となって15haを収穫したものの、需要に追いつかないという好評ぶりで、今年は23haまで増やす予定だ。
それほど良質なサイレージをつくることができるのも、フレール式の飼料コンバインベーラYWH1500のコンディショニング効果のなせる技、と喜んでくださる宮迫さん。
「フレール刃が籾や硬い茎を砕いてくれるから、稲の発酵が促進されて、牛好みのサイレージに仕上がる。茎と葉が均一に混ざるので、栄養にばらつきが出ない点でも畜産農家からの評価が高いんですよ」。
「たちすずか」の収穫適期は通常、10月初めからの40日間ほど。しかしYWH1500にオプションの乳酸菌散布装置を付けて収穫すると、水分の抜けた立ち枯れ状態の稲でも十分に発酵が進むので、12月いっぱいまで適期を広げられるそうだ。
さらに、汎用性が高いことも同機の魅力。同法人では、イタリアンライグラスなど稲以外の飼料用作物の刈取りにも使われており、収穫時期をずらすことで、ほ場と機械を最大限に活用できているという。操作性についても「ヤンマーの足回りに勝てるものはないですね。乗った感覚もソフト。オペレータに対して自然なんです」と大満足。
質の良いサイレージをつくるコツは「ほ場の把握と慣れたオペレーション」というから、宮迫さんとYWH1500は、さしずめサイレージづくりの最強のコンビと言える。
現在、世羅町内の各地で栽培されている「たちすずか」は、宮迫さんと恵の社員6名が収穫・梱包から納品までを作業受託されている。補助金がなくなっても続けられるようにと値段設定をしたサイレージは、他と比べても決して安くはない。しかし町外からの注文も相次ぎ、宮迫さんは「つくってもつくっても足りない」と笑う。
その人気を支えているのは、品質だけではない。耕畜連携による安心安全・地産地消という付加価値が生み出す、商品への信頼感だ。そしてその根底にあるのが、宮迫さんの営農ビジョンだ。
「広島県は消費県なんですよ。でも、県内でもいいものがたくさんつくれるし、世羅には世羅の良さがある。地元の資源を使った健康に良い作物を、地元に提案していきたいですね」。地域のためにそう考える宮迫さんは、ご自身を「子どもみたい」と評されるが、その行動力とまっすぐな想いは確かに若く勢いがある。それを証明するように、世羅町で戦時中に栽培されていたという「もち麦」を復活させたり、県の主催する収穫祭などの企画に参画し、子どもたちへの食育に取り組んだりと、農業を通じて地域全体を盛り立てておられる。
「先代から教わってきた農業を守りつつ、次の世代へつなげたい」。同法人の高品質サイレージは、宮迫さんの効率的な営農力、YWH1500との強力タッグ、そしてこうした地域への想いから生まれているのだろう。
食料自給率の向上や安全安心な畜産物生産、資源循環型農業の実践に向け、全国で飼料稲の生産量が拡大しています。
そんな中、飼料稲専用の新品種「たちすずか」は、牛に給与した際、籾が消化されず糞として排泄されてしまうという従来品種の問題を、籾を少なく茎葉を長くすることで解決した画期的な品種です。
広島県内で「たちすずか」栽培の普及・指導にあたる広島県東部農業技術指導所の保科氏と西川氏に、ヤンマー飼料コンバインベーラYWH1500が新品種「たちすずか」に果たす役割についてうかがいました。
広島県
東部農業技術指導所
前述の通り、飼料稲専用の新品種「たちすずか」は、牛に給与した際、籾が消化されず糞として排泄されてしまうという従来品種の問題を、籾を少なく茎葉を長くすることで解決した画期的な品種だ(図1・図2)。茎葉多収型なうえ消化が良く、乳酸菌のエサである糖の含有量が多く発酵が促進されるため、牛の嗜好性が高く、乳量を向上させる効果がある(図3)。
TDN
「たちすずか」は繊維の消化が良いため、従来品種の稲WCSよりTDN含有率が高く、乾物中のTDN含有率が58%前後。
消化性
従来の稲WCSは、他の牧草に比べて繊維が消化しにくいことが欠点だったが、「たちすずか」は繊維の消化を悪くするリグニンが少なく、消化性が改善されている。また籾の割合が少ないため、不消化籾が発生しやすい乳牛に給与しても栄養ロスが極めて小さいのが特徴。
糖含量
「たちすずか」の糖含量は、出穂後40日まで増加し、90日まで高い値を維持する。従来品種より多いため、乳酸が多くpHが低い良質なサイレージづくりに有利。
保科氏は「穂が少ないため倒伏しにくいうえ収穫適期が拡大できつくりやすい。しかも安心・安全・高品質なので、「たちすずか」の栽培は耕種農家にとっても畜産農家にとっても非常にメリットが大きいです」と自信をのぞかせる。
平成23年より本格的な普及が始まり、平成24年にはすでに広島県の飼料稲栽培面積の9割以上で「たちすずか」への品種転換が実現している。しかし、茎葉多収型だからこその課題もある。収穫機の普及だ。「残念ですが、収穫機が普及していないため、今ある収穫機のサイズに合わせて、小さめにつくっている農家さんもいるんです」と保科氏。安定した品質と収量を確保するには収穫機の普及がネックだという。
「進化する作物に耐えうる、使い勝手のよい収穫機が必要ですね。優れた収穫機が普及すれば、まだまだ収量を伸ばしていけるはずです」とも。
その課題に対する一つの答えとして注目されているのがYWH1500だ。クローラ幅より広い刈幅のフレール方式で、長稈の稲もスムーズに刈取る。
さらに、収穫適期を過ぎても乳酸菌添加とコンディショニング効果により発酵を促進させることができるので、立毛乾燥で乾燥調製のコストを抑え、さらなる多収も見込めるのではないだろうか。「たちすずか」の特性を最大限に活かせるYWH1500に、県内の集落法人の期待が高まっている。