営農情報

2014年6月発行「トンボプラス4号」より転載

フルーツニンジンを育む、こだわりの農法と経営哲学

いま大きな産地と呼ばれている地域には産地をけん引するリーダー的農家が、必ず存在します。
今回は、ニンジンの産地として知られる熊本県菊池郡菊陽町で、有機物循環農法を取り入れ、人気の「フルーツニンジン」をつくる有限会社大自然ファームの相談役、本田和寛氏に独自の思想やこだわりの農法について話をうかがいました。

本田 和寛 様

熊本県菊池郡菊陽町
有限会社 大自然ファーム 相談役

こだわりの農法は、緑肥と土づくりと「不要なことはしない」こと

柿安本店と共同開発した人気の「フルーツニンジン」を栽培

フルーツニンジンと呼ばれるニンジンを御存じだろうか?
熊本県菊池郡菊陽町の有限会社大自然ファームは、デパートなどで人気の高い「フルーツニンジン」を専門に生産する法人だ。7名のご家族と研修生を含め、30名で、フルーツニンジンを年間30~32ha栽培しておられる。

実は「フルーツニンジン」という品種はない。世間でフルーツニンジンと呼ばれているものは、同ファームと、和食チェーン等で知られる(株)柿安本店との共同ブランド品のみを指す。ただほかのニンジンも、通年、同じ品質になるようにつくっているため、実質的にはすべてフルーツニンジンと同じ味(品質)だ。

本田氏がニンジン栽培をはじめたのは、たまたま奥様がニンジン産地のご出身だったのがきっかけだ。元々、酪農家だった本田氏は、ご結婚を機に、農業も月給制にしようと考えていた。

しかし当時は酪農だけで毎月潤沢な給料を払えるような状態ではなかったため、野菜を組み合わせようと考え、ニンジンの栽培をスタート。その後、ニンジン一本に絞り込んだ。毎年需要が供給を上回ることから、年々栽培面積が増え、現在に至る。
出荷先は幅広く、相場によってその割合は変わるが、6割を生協、1割をデパート等、量販店に1割、個人の直販のお客様が1割、残りの1割は健康食品等の原料として約1300トンを出荷している。

収穫作業中の大自然ファームほ場。

緑肥や土づくりにこだわるが、「不要なことはしない」が基本

本田氏は、これまでの経験を踏まえ、機械化に対して独自の考えをお持ちだ。
「何でも機械化すればいいというものではない。ただし「土づくり」は徹底して機械化したほうがいい」と言う。ニンジンの味へのこだわりは「不要なことはしない。余計なものはなくす」が基本だ。

その土地の土質や生産する作物によって、土づくりに適した方法は異なる。たとえば、一般的に土づくりといえば堆肥を散布することが多いが、元酪農家の本田氏が選択したのは、堆肥ではなく緑肥だった。ニンジンの生育ムラや連作障害を抑えるために、ソルゴーやソイルクリーンといった植物に「不要な栄養分」を吸収させてから、プラウで土中深くへすき込む。
「ウチでは堆肥をまく代わりに緑肥を使っているんですよ。そして、土と混和させるのではなく、反転耕起で土の中に緑肥の層をつくってやる。この層が微生物のコロニーになるんです。微生物は仲間や餌が近くにある所で大量発生しますから」と、本田氏は独自のノウハウを語ってくれた。

スガノ農機さんが硬盤を指摘。本当の土づくりに開眼

「酪農家だったので、プラウ耕はしていましたけど、単に反転した後、ロータリーで均(なら)すだけだった」という本田氏を変えたのがスガノ農機(株)だ。

「トラクターの踏圧で硬盤ができているなんて、思ってもいませんでした。スガノ農機さんにほ場を掘ってもらって『ほら、ここに硬盤があるでしょう?』と言われて、驚きましたね。それまでの自分が間違っていたと思って研究をはじめて、ヤンマーさんのフルクローラトラクターCT1001やJD6220を導入した。どちらもけん引力が強いし踏圧も低い(笑)。そしてスガノ農機さんのプラウとバーチカルハローを組み合わせた体系にしたんです。そうしたら3年ほど経ったとき、試しに棒を土の中に入れると50cmぐらいまで入った。そこまで良くなったんです。普通だと、入っても20cmぐらいでしょうね」。それからスガノ農機さんの「有機物循環農法」を学びました。
故・菅野祥孝相談役は、私にとっては農業の先生のような人で、常に『微生物が活発に動く空間=作土を、どれだけ広げられるかが土づくりだ』と言われ、私もかなり影響を受けました」と、当時を振り返る。

太陽ファームに導入されたフルクローラトラクター CT1001。
バーチカルハロー。

1年に2回の反転耕で、ニンジンの連作障害を回避

ニンジンの栽培には、膨軟な団粒構造に富んだ作土層が必要だ。そこで同ファームでは、1年に2回天地返しをする。

同ファームの土づくりはこうだ。

  1. 5月中~下旬、春ニンジンの収穫後、すぐ緑肥を植える。
  2. そして7月20日頃にボトムプラウで50cmほど下にすき込み、
  3. すぐに1回目の秋冬ニンジンを播種する。
  4. 次にその収穫後、2段耕プラウを使って上の30~40cmを削り、さらに下から土を上げ、30cmほど新しい土を乗せる、合計約70cmの反転だ。
  5. そこへ春ニンジンを播く。

そうするとニンジンに使っていない土だから、悪い影響がないという。
この方法で、同ファームでは1年2作を10年ほど続けているが、今のところ連作障害が出ていないという。「ロータリー耕だけのところは、3年目で連作障害が出るんです。私も皆に、土づくりをしたほうが良いと言うんですが、『時間がない…』とか『どうせ市場出荷だから…』そういう感覚になってしまっている」と肩を落とす。

美味しいニンジンのため、肥料でも「不要なことはしない」

もうひとつ、同ファームがこだわっているのが肥料の使い方だ。

同ファームのニンジンは特別栽培農産物で、肥料は慣行栽培の50%以下だ。基肥は、即効性肥料として、10a当たり窒素成分で7kg・リン酸12kg・カリ7kgを化成肥料で、緩効性肥料は水産加工副産物や米ぬかなどを混ぜてつくった有機肥料を10a当たり150kg使う。今年は有機肥料を減肥、結果をみて今後の施肥計画を考えるという。

「不要な肥料分は入れないほうがいい。ジュースにすれば分かるんですが、不純物が入っていると、きれいなオレンジ色が出ない。そんなジュースは、飲むと苦かったり、喉がイガイガしたり、変に濃く感じたりするんです」。「味を決めるのは100%肥料です。ニンジンでもキャベツでも本来は甘いんです。それが苦いえぐいというのは、硝酸態窒素が残っているんですね。硝酸態窒素も生長時には必要ですけど、残るとよくない。ですからウチではなるべくそういうものを残さないよう必要以上に肥料をやらず、時間をかけて育てている」。

イキイキと生い茂るフルーツニンジン。

「常識にとらわれない」経営哲学

日本の食と健康を憂う本田氏。その経営思想は、常識を疑うこと

本田氏は、日本の食を担う生産者として、日本の将来も憂いている。

「今は、栄養不足をサプリメントで補う時代です。でも私はこの野菜を食べたらサプリメントなんて一切いりませんよ!と言える野菜をつくって、流通に乗るようにいろんな改革をしていきたい。そして野菜を見直してもらいたい。それを農家のステイタスにしなければならないと思うんです。あたりまえの食生活をして、医療費を減らす!というのが私の目標なんですよ(笑)。でも本当にそうしないと、この先、医療費も、この国も立ち行かなくなりますよ」。本田氏は本気で思っている。

本田氏の経営の基本は、常識にとらわれないことだ。
「ニーズを把握すれば、手間のかけ方は変わる。例えばウチでは贈答用マンゴーを栽培していますが、果樹を学んできた若い社員は『摘果が大変だ』と嘆く。でもそれは常識。全部が贈答用でなくていいんです。自宅用マンゴーを買いに来た人を断ったら不親切ですよね。贈答用でなくても形が小さいとか、傷があるからと言って安く売れば、それも商売になる」と、本田氏は笑う。

「サプリメントなんて一切いらないと言われる野菜をつくりたい」と語る本田氏。

結局、経営をするということは、出来たものをいかにして売って利益を追求するかにかかっている。最初からダメと言って捨てる必要はない。それはニンジンも同じだ。
「常識的にニンジンは、最初は多めに播いて間引きをしますよね。形を整えるために。ウチも最初はそうしていたんです。でも間引いたからといって、Mサイズばかりができるわけではない。それに間引きすると人件費がかかる。種代も、土づくりの手間もムダになる。だからウチでは株間を決めて、きちんと種を落とし、それを確実に発芽させる環境をつくるほうがいい。そんな考え方でウチはやっています」。

同ファームでは、経済性とエコロジーの両面からも、ムダなニンジンを出さないことで徹底している。ほ場で収穫したニンジンはできるだけ持ち帰り、青果用に出荷するもの以外も規格外や加工品用、最後に残ったものは家畜の餌として活用している。

収穫・洗浄・選別後、コンテナで予冷。
最後に残った部分も、近所の畜産農家が餌として活用。
コンテナ出荷でムダが出ないようにしている、大自然ファームの選果場。

通年販売を目指して新しい取り組みにチャレンジ!

ところで同ファームは、新しいことにもチャレンジしている。通年販売への挑戦だ。ニンジンのない8月に何とか売りたいという依頼先と組んで、冷蔵貯蔵の取り組みをはじめているのだ。同ファームには選果場と予冷庫はあるが貯蔵施設がない。
そこでニンジンを出荷する際、品質保持袋に入れて出し、それを依頼先で冷蔵貯蔵して8月に販売する、という流れだ。「うまくいけば来年は9月、次は10月と伸ばしていき、通年販売も夢ではなくなる。理想は通年といわれるならそれに近づければいい。毎日食べるものは、やはり同じ品質のものを食べたい」と本田氏。

これからも、美味しくて栄養満点なニンジンづくりに、そしてさまざまな新しい取り組みに、そして産地をけん引するリーダー農家として頑張っていただきたい。

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