営農情報

2015年1月発行「トンボプラス5号」より転載

「たいよう農園」 ビジネスの「普通」を農業の「普通」に。その発想と成長の秘訣

日本には約23万人(※1)の農業経営者がおられますが、農業経営に対する考え方は皆さんそれぞれに異なります。多くの経営者が従来の手法や教えを守り、少しずつ時代の流れにあわせて安定経営を目指す。それは間違いではありません。しかし、中にはあえて主流を離れ、目的達成に向かう経営者もいらっしゃいます。

そこで今回は、農業の世界に「ビジネス」の考え方を取り入れ、急成長を遂げている農事組合法人「たいよう農園」代表取締役の本田和也氏にお話を伺いました。

  • ※1平成25年3月末現在の認定農業者数(農水省)

本田 和也 様

愛媛県大洲市
農事組合法人「たいよう農園」
代表取締役

驚きの営農手法を「普通」と語る、独自の発想

「私がやっていることは、(経済活動としては)「普通」のことなんですよ」
キャベツ栽培へのこだわりや工夫をうかがおうと思っていた私たちは、驚いた。本田氏は、とにかく「普通」を強調する。言葉は悪いが、良い意味で、これまでお会いした農業経営者のなかで、最も「農業者らしくない特殊な農業者」だ。
驚くことに本田氏は、ご自身の事業が「農業」だということを認識しておられない。いや、正確に言うと、農業の常識に縛られていない、ということだ。事務所へ伺うと、壁に事業戦略や事業目的が貼ってある。まるでベンチャー企業だ。
もともとUターン青年として養豚業を始めた本田氏は、農業の常識を知らない。だからこそ、それを逆手にとり、逆転の発想でビジネスの考え方を取り入れた。

だから発想の基本が、すべてビジネス、経済なのだ。「農業に資本主義が通用するか?」に対する挑戦だと本田氏は語る。

中央奥が冷蔵施設兼事務所。右手前の施設では、タマネギの出荷準備(箱詰め)が行われていた。

新しいビジネスモデルで「国を耕す」ことが最終目的

本田氏は、勢いが良いだけではない。今の日本農業は生産者側にも、農政側にも、難問が山積している。それをなんとかしたいという。
「農業は、国が豊かになるためのもの。私たちは国の農業政策に対して、明確なベクトルを示したい」と真剣な表情で語ってくれた。これが本田氏の提唱する「国を耕す」という言葉の意味だ。だから本田氏の事業目的は、規模拡大でも商売でもない。この発想で、農業の新しいビジネスモデルをつくることだという。

具体的には、現在展開している育苗から栽培、収穫、加工、流通までの複合企業を発展させたい。そして最終的には6次産業までのしくみをつくり、そのビジネスモデルを全国展開したいという。

キャベツの芯抜きを行う加工場へはエアシャワーを通って入室する(取材時はタマネギの皮むき中)。

独自の発想と決断力で「新しい農業」へ

一番良い機械を即断即決。3年で140haの拡大

たいよう農園のキャベツ栽培規模は、平成22年に約10haからスタートし、平成25年にはなんと150ha。この規模拡大のスピードと機械化による効率化が、たいよう農園の躍進のポイントだ。機械の選び方も少し違う。

「とにかくいま日本で一番効率の良い機械を使いたい」というのが本田氏の基本姿勢だ。野菜移植機はPF2Rが国内で一番と聞き、即、電話で導入を決定。キャベツ収穫機HC125は、実演会で実機の稼働状況を確認後すぐ、ヤンマーに直接電話をして導入された。とにかく、機械導入も施設建設も、良いとわかればすぐ決める。

また本田氏は、目先の損得だけを見ているのではない。「たとえばHC125には少し注文もあるけど、すべて損得で決めるのではなく、業界のためにメーカーを支援することも必要」と笑う。スマートフォンが、普及によってお客様の意見をフィードバックすることで進化したように、機械を買うことで開発を支援したいと言う。これも本田氏独自の考え方だろう。

当地は中山間地が多いため、ほ場は広くても30~40a程度で傾斜地も多い。たいよう農園では、なんと2台のPF2Rで年間約150haを移植している。

スケールメリットの追求と、常識を疑う発想で発展

こちらでは、栽培野菜の決め方も面白い。当初はいろんな野菜をつくったが、選択と集中の考えからキャベツに決めた。その際、誰が決めてもいいが後腐れのないように、本田氏が鉛筆を転がして決めたという。もちろん担当者には、博士と呼ばれるほどの技術を持たせるなど、栽培に対するこだわりは持っておられる。しかし与えられた状況には、一意専心で素直に頑張るという。こだわりのポイントをおさえているのだ。効率に対する意識も、ほかとは違う。
「(機械を店に例えると)「移植屋」という店は常に開いている。機械代を早く償却したいなら、土地を借りてでもお店(機械)をフル稼働させて、キャベツをつくればいいだけ(笑)」この発想がスケールメリットを生む。

もうひとつ面白いエピソードがある。
たいよう農園がキャベツを中心とした野菜栽培を始めたのは、本田氏が野菜のほかに、養豚の別会社を経営しているからだ。そこでオガクズなどを混ぜた敷料が1日100t出る。普通は処理に困るのだが、本田氏は堆肥センターを建て、自社内で耕畜連携を成立させてしまった。この発想と行動力で、同農園は驚きの早さで発展してきた。

誤解を恐れずに言えば、私たちは先祖の代から「農業」を知りすぎている。チラシで農地を募集するなどの発想は難しいかもしれないが、場合によっては若者の声に耳を傾けるなど「農業」の常識を疑ってみることも必要ではないだろうか。
そのうえで、プロ農家のノウハウを活かせば、また新しい「農業」の切り口が見えてくるはずだ。

なんと新聞折り込みチラシで農地と人材を募集。初日で100件もの問い合わせが。

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