山川 忠一郎 様(左)
山川 恵美 様(右)
岐阜県揖斐川町
菖蒲谷牧場
食料自給率向上が叫ばれて久しいですが、近年、WCS用稲と並んで注目されているのが飼料米です。安心安全の観点からニーズもあり、国の支援も追い風となって、飼料米の生産が徐々に増えています。けれど、そのままでは家畜が消化しにくい。
そんななか穀物破砕機を使って家畜の肉質を高め、「地産地消」を実現する若き畜産農家がいらっしゃいます。
今回は、岐阜県菱川町で、飼料米の製造から養豚までを一貫して行う菖蒲谷牧場さんに、「地産地消」を叶えるまでの道のりと、そこにかける思いを伺いました。また、工夫をこらした穀物破砕機を製造するメーカーさんにも、お話をお聞きしました。
岐阜県揖斐川町
菖蒲谷牧場
菖蒲谷牧場の山川忠一郎さんは、お父様の時代からの養豚農家だ。母豚40~50頭を飼育する一貫経営(一貫経営=子豚を買うのではなく母豚から産ませて飼育する養豚スタイル)を実践しておられる。そして、ご自身で12~13haの飼料米を栽培し、契約農家さんの約50ha分を引き受けておられる。忠一郎さんは高校卒業後、関東の大学に進学。4年間都会で過ごし、地元に戻ってこられた。「都会の水の味には慣れますが、年に数回家に帰ると、やっぱり故郷の水が美味しかった」。そのときの気持ちが、その後の同牧場のスタイルを決めたと言っていいだろう。
後継者になられた忠一郎さんは、養豚農家として、おいしくて安全な国産豚肉をつくりたかった。そこでこだわったのが飼料米だ。そこから飼料米の栽培面積を増やすために地域の人と交わり、少しずつ面積を拡大した。しかし始めた頃は苦労も多かった。「当時は、飼料米自体が知られてなかったんで、契約している耕種農家さんからは『転作で米をつくるのか?』とか、立毛乾燥の技術も知られてなかったんで『お前、収穫を忘れとるぞ!』とか、いろいろ言われましたよ」と笑う。しかしお互い話し合って、徐々に理解していただいて今があるという。
これこそ本当の「耕畜連携」だ。
当時は補助金も無く、飼料米を栽培する農家はいなかった。「他人と違うことをやるには、地域に理解してもらわないと難しい。こうしてウチは面積を増やしてこれた」と、実感がこもる。
そのこだわりを支えているのが、株式会社大竹製作所(本社/愛知県海部郡)の飼料用米脱皮破砕機SDH35だ。
同牧場ではこれまで、800~1600kgの飼料米を、お父様と妹の恵美さんのどちらか1人がほぼ1日かけて破砕しておられた。しかし以前から使っていた小型の破砕機は能力が低く、2回通さないと使えないこともあったという。
「あまりの効率の悪さに困っていたところ、たまたま大竹製作所さんとご縁があって、破砕機を紹介してもらったんです。コンパクトなんで最初は心配しましたけど、借りて使ってみたらすごく効率が良い。感動しました!その後、機械が引き上げられるというとき、妹に『どうしても欲しい!』と懇願されて(笑)導入しました」。今は1~1時間半で終わる。
「もうこの機械の無い粉砕体系は考えられない」と経緯を話してくれた。しかも理想の大きさに破砕できるから豚の食いつきもいいし、不飽和脂肪酸といわれるオレイン酸が増えて、肉質も良くなったと微笑む。
忠一郎さんは、こうして育てた豚肉を市場に出荷しつつ、自宅のそばに加工場をつくり、顔がわかる範囲で販売している。「6次産業」だ。
その裏には、自分たちも安全で美味しいものを食べて、この地で生きていきたい、という強い思いがある。そのため忠一郎さんは、闇雲に規模拡大をしない。ネット販売もしない。販売は顔の見える範囲にこだわり、JAの直売所や道の駅などのほかは、ご近所さんや知人、友人その知り合いなど。注文がまとまれば移動販売車に商品を積んでお母様が届ける。まさにこれこそ「地産地消」だ。
加工はお母様と恵美さんが、パートさんと一緒に行っている。恵美さんは、なんとイタリアで修業をしてきたというから本格的だ。
同牧場では、地産地消の取組みだけでなく、地元の子供たちを呼んで、農作業やソーセージづくりの体験会などを開催して「食育」にも貢献している。
自分が東京から戻ってきたように、子供たちが大人になって、都会で生活して帰ってきたとき、子供の頃から食べていた地元の食材や味などが無くなっていたら寂しい、との思いがあるからだ。
今後のことをうかがうと「家畜は英語で『ライブストック(命の蓄え)』なんです。その蓄えを確保するためにできる限りがんばろうとは思っていますが、限界もある。だから畜産農家だけでなく耕種農家も一緒になって、良い関係を保ちながら、地域の皆さんが安心して食べられる豚肉をつくっていきたいですね」と静かに、力強く語る。
今後とも、この町の未来のためにがんばってほしい。
菖蒲谷牧場・山川さんの飼料づくりを支えているのは、株式会社大竹製作所の「飼料用米脱皮破砕機SDH35」です。大竹製作所・大東さんに、SDH35の誕生についておうかがいしました。
株式会社大竹製作所
研究室 副室長
そもそも4~5年前、滋賀県の畜産試験場からヤンマーさんに、生籾を潰したいとの依頼があり、ヤンマーさんから弊社に声をかけていただいたのが開発の発端です。
その3者が協力し合って生まれたのが、まだ脱皮機能のない飼料用米破砕機SH-2でした。その後、やはり籾ガラも取りたいとの要望が一般農家さんからあり、一体型になった脱皮破砕機SDH35が誕生しました。
当時市場では同様の機械がデリカさんから出ていましたが、主に、JAさんや営農集団さん、大規模農家さんなどを中心に、施設の一部に組み込むスタイルで普及しました。大竹製作所製の飼料用米破砕機 SDH35は、アジャスター付きで楽に移動できるため中小規模の個人農家さんにお使いいただいています。
この製品は、回転式の羽根で飛ばした籾を壁にぶつけるので、比較的均等な大きさに破砕できます。最大の特長は、生籾でも乾燥籾でも、籾ガラ除去と玄米の破砕が同時に行えるという点です。
また豚は、デリケートなうえ胃も1つなので、飼料米を与えても、籾ガラを脱皮しないと消化されずに糞として排出される。そうすると糞の量も多く処理に困りますが、SDH35なら破砕と同時に脱皮しますので、糞の量を減らすことができます。菖蒲谷牧場さんでも、このあたりを総合的に評価いただけたのではないでしょうか。
株式会社デリカでは、農家の要望をかなえ、時代にマッチした飼料米破砕機を開発しました。その性能、魅力についてデリカの平林さんにお話をうかがいました。
株式会社デリカ
開発技術部 主幹
弊社の飼料米破砕機 DHC-4000Mは、7年ほど前、SGS(ソフトグレーンサイレージ)専用機として開発を始めました。元々、畜産草地研の研究者さんが、飼料米を牛に給与する研究をしておられ、籾では消化しにくいため、破砕してSGSにしたいということで開発がスタート。その際、生籾を牛に食べさせる、また籾を持ち帰るのではなく、ほ場でSGSにするという条件がありました。
現在は施設を中心にお使いいただいていますが、元々は機械をトラックに積み、ほ場でコンバインと並走させて、刈った後から次々と破砕していく能力が求められました。
約4000kg/時という同機の最大破砕能力は、ここに理由があったのです。しかし、同機がSGS専用機として日の目を見ることはありませんでした。
残念ながら、実際にほ場で作業をすると、水はけの悪い水田では飼料に泥が付くうえ、コンバインとの並走処理も、難しかったのです。
このような経緯で、飼料米破砕機 DHC-4000Mは誕生しましたが、結局は、独自の市場を見つけなければならなくなりました。当然牛専用のSGSですから、豚に給与するという発想はありませんでした。
ところが実際に市場に出してみると、玄米を処理する需要も意外と多かったんです。そうすると、豚にも鶏にもOKということになります。しかもそれなら通年使えます。
また、次第に世間では安全安心や食料自給率が叫ばれ、飼料作物に補助金も付くようになりました。そうなるとJAさんや営農集団さんなどでも検討しやすい。ということで、徐々にご注文いただけるようになったのです。
この製品は2つのV溝形ローラを回して、その隙間に籾を落として破砕するというシンプルな構造。隙間の幅を調節することで、破砕サイズを選びます。
草地研での試作段階から構造はほぼ同じですが、弊社では、お客様のご要望を反映しながらローラの調節を繰り返し、径を最適の太さにすることで生籾、玄米から大豆まで破砕できるようにしています。
そして投入搬出に使える搬送オーガDHR-750を開発、これにより、施設での設置の柔軟性が増しました。オーガの先端にはセンサーがあり、処理能力の違いで、籾が詰まった場合、自動的に送り出しが止まるようになっています。
施設用には静かで環境にやさしいモータタイプ、設置場所を選ばないエンジンタイプと、使用シーンによって、2つの動力タイプからお選びいただけます。
DHC-4000Mは、生籾はもちろん玄米から大豆まで破砕が可能。ローラ間隔の調整で、破砕サイズも簡単に調整できます。穀物投入や袋詰めに活躍する搬送オーガDHR-750を組み合わせることで、さらにスムーズな作業が可能になります。