営農情報

2017年11月発行「FREY11号」より転載

家族ぐるみで農業の付加価値化を追求

宮崎県延岡市にある祝子農園の代表・松田宗史さんは有機米を生産し、全国の飲食店や個人に直接販売している。米粉を原料にパスタも製造・販売。娘夫婦が市内でカフェを開き、米粉パスタを提供するなど、家族ぐるみで付加価値を創造している。

祝子農園

松田 宗史 様

宮崎県 延岡市

Profile
1950年、宮崎県延岡市生まれ。水田の経営面積は4ha。主食用米「ヒノヒカリ」「ミズホノチカラ」「さやかもち」のほか、20aで約30種類の野菜もつくる。24歳で国際農業者交流協会の派米研修に参加し、肉牛の肥育と養豚を学ぶ。帰国後和牛の肥育農家を目指すも、土地が見当たらず、建設業に就きながら稲作との兼業農家へ。2002年から専業農家となる。

松田さんが延岡市祝子で農業を始めたのは、建設業の社長との兼業からだった。リーマンショックを機に公共事業が縮小したことから、専業農家になる。

兼業農家時代、米は慣行栽培だった。専業農家になって有機栽培に切り替えたきっかけは、オーガニックレストランを経営する知人から有機米をつくってほしいと頼まれたこと。そこで試しにつくり始たところ、3年間は収量がまるで上がらなかったという。「それまで農薬と化学肥料に頼り切りだったから土がやせてしまっていた。そんな中で有機栽培に切り替えたものだから、最初は取れるはずもない」と松田さん。研究と実践を重ねてつくり上げたのは、ざっくりと次のような技術体系だ。

牛のカルシウム剤でケイ酸補給

まずは秋から冬にかけて、米ぬか100kgに対して、有機物発酵菌1kg を混ぜて、田に散布する。ロータリーで耕し、有機物の分解を促す。
春になったら温湯で種子を消毒する。ただし、使うのは専用の装置ではなく、家庭用の風呂釜。浸漬する湯温と時間は専用の装置なら60度、10分が一般的。対して松田さんは45度でざっと8時間としている。時間とともに湯温は下がっていくが、「十分に効果がある」そうだ。

種子をまく育苗箱の床土は1kgのうち3分の1はもみ殻燻炭である。また、牛のカルシウム剤を10g混ぜる。目的は、もみ殻燻炭では床土を軽量にするほか、病気の予防がある。カルシウム剤はケイ酸を補給するため。ケイ酸資材を単体で購入するよりもずっと安価で済むそうだ。

元肥は3年前から、牛と豚の糞を蠅が分解したものを使っている。「畑にまくと、なぜか土が驚くほどの団粒構造になる」。田植えをするのは6月。その前、5月にレンゲをすき込む。

除草にはジャンボタニシ、防除には生木エキス

有機栽培で厄介な除草ではジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)に働いてもらう。ジャンボタニシはイネ科植物を食べるため害虫ともとらえられているが、松田さんは益虫として使いこなす。そのために肝心なのは水管理だ。田植えをしてから稲が約40センチに育つまでは湛水せず、田面を湿らす程度にする。水を張ってないと、ジャンボタニシは移動できないので、稲体を食害することはほとんどない。稲体が約40センチに生育して硬くなってからは、ジャンボタニシは食べようとしなくなる。

病害虫の防止という観点からは、ヒノキやスギ、ヒバなど38種類の生木のエキスを混ぜた液剤を500倍に希釈して散布する。これでカメムシなどの害虫が防げるだけではなく、「作物の成長促進にも効果がある」と語る。この液剤をまくのは、一回目は出穂前に稲の背丈が40センチの時、二回目は出穂後に稲穂が垂れてきた時である。

カフェで米粉パスタを提供

丹精して育てた米は一部を米粉パスタにする。その製造に当たって最も難しかったのは、粘度が弱いために「ゆでると、ぽろぽろとこぼれやすい」ことだ。試行錯誤の末、米粉に湯を加えて粘性を持たせる方法にたどり着いた。原料の米粉全量のうち45%だけに湯を加えて攪拌する。これを残りの米粉と混ぜ、生地に仕上げる。

商品は直接販売するほか、娘夫婦が延岡市内で営むカフェ「Tink Tink(ティンクティンク)」に卸している。同店に行けば、松田さんのパスタがいつでも食べられる。

もち米は市内の菓子店に卸している。なかでも菓子店「虎屋」が扱う、延岡発祥の銘菓「破れ饅頭」の生地に使うもち米はすべて松田さんがつくったものだそうだ。

内藤とうがらし

以上の話からも分かるように、松田さんが農産物の販売に当たって大事にしているのは「ストーリーを持たせること」。その観点からいま注力している一つは江戸東京伝統野菜の内藤とうがらしである。

このトウガラシの由来は、いまの新宿御苑に屋敷を持った6代当主(※7代の説もあり)の内藤清枚が信濃国から持ってきた八ツ房系のトウガラシにある。江戸期には新宿中の農家がこのトウガラシを栽培する。当時の江戸は人口の大半が男性。侍や職人などの単身者が多く、彼らは屋台で飯を食うことが頻繁だった。とりわけ手軽に食える蕎麦屋がはやった。そしてソバの薬味として提供されたのが七味トウガラシ。その原料として内藤とうがらしの栽培は広まったのだ。

延岡藩主の内藤家も新宿の内藤家と始祖を同じくしている。その縁から、松田さんは7戸の農家と一緒に内藤とうがらしの生産を開始。さらにその食文化を広げるべく、2016年には内藤トウガラシ産地化推進協議会を設立した。現在、市内の飲食店10店舗で内藤とうがらしを素材にしたカレーライスやケーキなどが売られている。

「内藤」の名前を冠した野菜にはカボチャもある。松田さんはこの「内藤かぼちゃ」もつくり始めた。菓子店のほか、米を買ってくれる客にも販売促進をかける。「このかぼちゃは天ぷらに最適。とくにてんぷら粉に米粉を使うと、カラカラになる」そうだ。

ニンニクのスプラウトで地域貢献

松田さんがもう一つ注目する野菜はニンニクのスプラウト。かつて経営していた建設会社の建屋に水耕栽培用のベンチを年内にも設置し、ニンニクを生産するつもりだ。一週間でスプラウトが10センチほど伸びた段階で収穫する。「驚くことに芽を出すと、ニンニクはにおいがしなくなる。それなのにさらに機能性の成分が10倍くらいにアップする。素揚げで食べたらおいしい。販売価格は決めており、初期投資は半年でペイできるはず」と語る。

ニンニクのスプラウトについては「一人占めするつもりはない」とのこと。県内外の障がい者の福祉施設に栽培のベンチを導入してもらい、それを買い取り販売する予定。「ニンニクのスプラウトは高く売れる。障がい者の賃金はどこにいっても安いから、もっといい収入が得られる仕組みをつくりたい」

農業を通して家族だけではなく、地域社会を豊かにしたい。そんな思いにあふれる松田さんである。

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