営農情報

2017年11月発行「FREY11号」より転載

<アグリ・ブレイクスルー>IoT、ロボット、AIで変わる農業

農業でもIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ロボットが注目されるようになってきた。こうした最新のテクノロジーは農業に何をもたらそうとしているのか。

IoTとはどんな世界だろうか。そこでは人が操作せずとも、モノが意思を持ったように動き続ける。たとえれば人体のようなものかもしれない。人の体では自律神経が循環器や消化器、呼吸器などを調整している。人は取り立てて意識することなく、口から入れた食べ物を消化したり呼吸したりしている。IoTはまさしく自律神経であり、それに呼応して稼働する臓器がモノに当たるといえる。ただ、より初歩的な意味でいえば、IoTは「アナログプロセスのデジタル化」といえる。こういう捉え方をすれば、農業のIoTもさほど難しい話ではないと感じるはずである。すでに起きている取り組みをみていこう。

農業ジャーナリスト

窪田 新之助(取材・文)

Profile
大学卒業後、日本農業新聞入社。2012年よりフリーランスで食と農の取材を始める。Web媒体『Agrio』(時事通信社)や総合月刊誌『潮』(潮出版社)などに執筆中。経団連のシンクタンク「21世紀政策研究所」研究委員、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』(いずれも講談社+α新書)など。

水管理の省力化や牛の活動量を計測

たとえば水管理を簡易にするセンサーがある。代表例として、ある農業ITベンチャーのセンサーを紹介しよう。これはセンサーを取り付けたポールを水田に設置し、気温と湿度、水位、水温という四つのデータを計測していく。一連のデータをスマートフォンやパソコンに1時間ごとに送信してくれる。

なぜこうしたデータを収集するかといえば、水管理の手間を省くため。稲作農家は田植えをしてから稲刈りをする直前まで、毎日のように水田を回りながら、水位を確かめている。もし水位が基準より低くなっていたら、水田に出向いて取水口である水口を開け、用水路から水を引き入れる。あるいは水温が基準より高くなっていたら、同じく水口を開けて田に冷たい水を引き入れ、水温を下げる。近年は高温障害が問題になっているので、水管理の重要さは高まるばかりだ。このセンサーと合わせて自動開閉する水門の開発も進んでいる。あらかじめ生育ステージごとに水位を設定しておけば、水門が自動開閉して水位を調整する。

畜産では牛群管理を支援するクラウドシステムがある。これはセンサーを内蔵した首輪を牛の首に取り付け、その活動量を計るものだ。牛は発情すると運動量が増える。このデータを計測していけば、人工授精のタイミングが把握できる。

雌牛は妊娠しないと乳が絞れなくなってしまう。病気にかかれば、逆に運動量は減ってしまう。畜産農家にとって、発情のタイミングや反芻回数の減少を見逃さないことは、乳量を増やすのにとても大事なのだ。

農業経営の拡大でもデータ活用

以上、いずれの事例もアナログプロセスのデジタル化である。IoTが農業にもたらすのは生産性の向上だけではない。経営を変えていく力も秘めている。

たとえば茨城県つくば市の農地所有適格法人(旧・農業生産法人)のHATAKEカンパニーがそれにあたる。ベビーリーフの需要が伸びていることから、生産を拡大するため、県内だけではなく岩手や愛知にまで進出している。その際に利用しようとしているのがIoTだ。

つくば市の畑に気温を計測するセンサーを設置。有効積算地温からベビーリーフの収穫の適期をかなり正確に予測することに成功した。目的の一つは、安定した生産と供給である。HATAKEカンパニーは量販店と直接取引をしているため、事前に取り決めた時期と数量を守ることは非常に重要である。数量を予測するうえで、発芽率と生育率をエクセルに毎日入力している。種をまいて発芽した割合と、その後に病害虫の被害などを受けず生育している割合について、HATAKEカンパニーの社員がそれぞれの畑で毎日確認しているのだ。そのため畑ごとの収穫量がおおむね予測できる。その予測値からもし出荷量が予定より不足することが事前に分かれば、事前の対処を打てるわけだ。

ロボットとAIの違いとは

続いて、IoTがAIやロボットとどうつながっていくのか説明していこう。その前に、そもそもAIとロボットの違いとそれぞれの特性について述べておきたい。

再び人体にたとえると、ロボットは身体であり、AIは頭である。もう少し詳しくみていきたい。ロボットで想像する具体的な姿は、映画好きなら「スターウォーズ」のR2−D2や「ターミネーター」でアーノルド・シュワルツェネッガー演じるT−800であり、アニメに興味があれば鉄腕アトムや鉄人28号、ガンダム、エヴァンゲリオンだろうか。いずれも共通するのはロボットが人型ということだ。

ただ、ここで取り上げたいロボットはこれらとは意味合いが異なる。形には一切こだわらない。むしろ大事なのは「自律的」に作業をする点だ。「自動」ではなく「自律」ということに注目してほしい。両者の言葉の違いを説明すると、自動は、人間がコンピュータであらかじめ決めた経路に沿って、モノが動くということである。一方、自律は経路に従いながらも、モノが自ら学習して臨機応変に行動することだ。

この点、自律走行するトラクターの実用化が間近である。それは協調作業と呼ばれ、有人と無人のロボットトラクターが同じ田畑で同時に作業していく。北海道大学大学院農学研究院教授で農業分野におけるロボティクスの第一人者である野口伸さんは、四台を協調作業させることに成功している。

農機が自立して走行する理由の一つは「農業版カーナビ」といっていい「GPSガイダンス」にある。もう一つは、このGPSガイダンスで設定したルートに沿ってハンドルを自動で切る「オートステアリング」である。このうちGPSガイダンスはトラクターにGPSのアンテナと通信用の無線モジュールなどを取り付ける。これでロボット農機がいる位置と方位の情報が把握できる。そしてオートステアリングはハンドリングを自動化するもの。既存のハンドルを取り外し、代わりに取り付ける。これがあれば、オペレーターが運転しなくても、トラクターはGPSガイダンスで設定した走行軌道に沿って自動で走行する。

一方、小さな畑で活躍するロボットとしては、日本総合研究所と慶応義塾大学などが多機能型の小型ロボット「Donkey」を共同開発している。用途は走行、種まき、定植、草刈り、モニタリング、画像分析、防除、施肥、収穫など。農家にロボット化して欲しい作業について聞き取りをしたところ、除草、防除、モニタリングの三つが最も多かった。理由は作業時間が最も長いため。このほか農家にとって負担が大きい作業を選び、さらに販売価格を抑えることも踏まえ、実用化に向けて機能を絞っている最中。

当面の対象品目はネギやナス、ホウレンソウなど。品目によっては種まきや除草などに対応できない。そのため販売に当たっては品目ごとの用途の一覧表をつくる。

本体のベースは月面走行用ロボット。多少の傾斜地でも走行できるよう、クローラからキャタピラに履き替えられるようにする。動力は電池。基本的にはGPSを活用して経路を設定し、走行させる。将来的には準天頂衛星「みちびき」にも対応させる。

農林水産省が病気や害虫の画像をデータベース化することを計画している。前述の「Donkey」が収集する葉や茎などの画像をそれらのデータと照らし合わせ、病気や害虫の発生を特定できるようにする。
現在は栃木県茂木町や静岡市などで実証実験中。今年度中に数十台をモニター販売、来年度から一般販売を予定する。

ロボットトラクターの協調作業

AIを活用して農薬をピンポイントでまくドローン

続けてAIについて触れたい。これは決まった概念はない。「知能の定義が明確でないので、人工知能を明確に定義できない」「人工的につくられた、知能を持つ実態。あるいはそれをつくろうとすることによって知能自体を研究する分野である」など色々である。ただ、ここのところAIが話題になってきた訳はディープラーニング(深層学習)が登場したからといえる。農業界では世界初といえるその成果を紹介する。

舞台は佐賀県。佐賀県と佐賀大学、それからIoTプラットフォームのリーダーカンパニーである(株)オプティムの三者は2015年、佐賀県の農業の発展を目的に連携協定を締結した。
テーマは「楽しく、かっこよく、稼げる」農業の実現であり、その一環で佐賀県を「世界一の農業ビッグデータ県(=自治体)」にすることを狙っている。そのために重ねてきた試験研究の成果が、農薬の散布ノズルやマルチカメラなどを搭載した「アグリドローン」だ。このドローンは農業では初めてディープラーニングを活用し、飛んでいる最中に害虫のハスモンヨトウの居るところを探し出し、農薬をピンポイントで吹き付けることに成功した。

ピンポイントで害虫に農薬をまくために、害虫を特定するのにRGB解析を採用している。RGBとは赤、緑、青の英語のスペルの頭文字で、これら三原色の配色割合でモノやその状態を解析できる技術である。

ハスモンヨトウは日中、葉の裏にひそんでいるので、普通のカメラではその居所を検知できない。ただ、作物の葉はハスモンヨトウに食べられると、だんだんと色が薄くなってくる。その過程で移り変わる配色のさまざまなパターンをコンピュータに覚え込ませるのがディープラーニングである。

研究チームは、ハウス内を走り回って作物の状態を監視する「アグリクローラ」も開発した。360度を同時に撮影できる全天球カメラを搭載。このカメラで作物の葉や実を撮影しながら、その動画をクラウドに上げ、これまたディープラーニングでその画像を解析して、病気が発生しているかどうかや収穫の時期などを把握する。
研究チームは「ウェアラブルグラス」で遠隔地から営農支援するシステムも開発した。ウェアラブルグラスとは、メガネのレンズに仕込んだ小型のディスプレイがインタ―ネットにつながっていているうえ、音声の送受信もできる。
これを使えば、若手がウェアラブルグラスをかけて農作業をしている最中、ベテランが遠隔地からパソコン画面で若手が見ている作物の様子を一緒に確認することができる。もし病気が発生していれば、すぐにパソコンを操作して動画から静止画を切り取り、そこに映った小さな病徴を赤線で囲む。その画像をウェアラブルグラスに送ることで、若手に気づきを与えられる。音声によって対処方法も伝えられる。ウェアラブルグラスがあれば農家は孤独にならず、ベテランと一緒に仕事をしている感覚になれる。撮りためた画像は後進向けの学習素材としても使える。

以上の技術は単に日々の営農を変えるだけではない。データはそれ自体が安全・安心のエビデンスとなりうる。オプティムは「アグリドローン」などの開発したIT機器を使って生産したホウレンソウやトマトについて「スマート野菜」というブランドを築くことにした。このブランドは生産履歴が明確になっていることをうたい文句にして、オプティムのクラウドサービスの利用者だけが使えるようにする。

スマート野菜の商品にはすべてQRコードを載せる。スマートフォンでQRコードを読み込めば、生産者を紹介する動画やその生産者が生産するスマート野菜の収穫や出荷の時期、作業履歴などが閲覧できる。また、消費者がその農産物のレシピを写真入りで書き込めるようにする。

以上みてきたように、農業においてIoTやロボット、AIは生産性を上げるだけではない。付加価値を生み出す力も持っている。そこからバリューチェーンが構築され、HATAKEカンパニーのように農家の新たな連携を生み出していくことになるのは間違いない。

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