営農情報

2016年6月発行「トンボプラス8号」より転載

米の消費拡大に貢献するライスセンターで地域農家を応援

米を取り巻く環境が激変する現在、ライスセンターを軸として、様々な事業に取り組む企業が増えている。
滋賀県高島市にある西坂農機株式会社では農業を応援するのは、農業に携わる会社でなければならないという信念で2つのライスセンターを設立。地域農家のニーズに応えながら、米の消費拡大に貢献していく、新しいライスセンターの姿を追った。

西坂 良一 様(左)
西坂 藤行 様(右)

滋賀県 高島市
西坂農機 株式会社

農業に携わる会社が農業を支えよう、農業機械の取扱店ができることを追求

西坂農機株式会社(以下、同社)は、滋賀県高島市安曇川町で1929年に創業した農業機械の販売・レンタル・点検サービスを行う会社だ。米の自由化など様々な問題が起きた平成以降、同社はブランド米「夢みらい」の栽培をはじめ、酒米や米粉、米粉入りのうどんの販売など新たな取り組みを行っている。
その中心的な役割を果たしているのが、2つのライスセンターだ。この2つのライスセンターを設立された代表取締役の西坂社長にその狙いをうかがってみた。

「滋賀県の農業機械の取扱店は、50年前だと約100社ありましたが、今は43社しかありません。他社ができないことをやっていかないと生き残ることができないので、差別化を図るためにライスセンターをつくりました」。それでもライスセンターで利益を上げることは考えていないという。「私は、営業活動は人・設備・機械の3つがやっていくと考えています。ライスセンターがあることで、地域との協力・信頼関係を築きたいんです。そして、米の消費拡大に少しでも貢献したいと思っています」。基幹産業である農業を支えたいという西坂社長の熱い思いが伝わってきた。

今津町にあるライスセンターでは、10台の遠赤乾燥機が稼動している。
最初につくった大津市のライスセンター。

地域の農家ニーズに対応した中山間地域で活躍するライスセンター

最初につくったライスセンターは、2003年3月に大津市で稼動を始めた。当時、米の値段の下落や流通の変化などがあり、農協へ出荷するのではなく、自分でつくった米を自分で売るという人が多くなってきていた。また、個人で乾燥機、籾すり機などを持っていた農家が、世代交代していくなかで、設備投資が問題になっていた。こういった費用対効果の問題を解消するために、最初のライスセンターが誕生した。
「農家の皆様からは、刈取った籾を持ってくるだけで乾燥から籾すり、玄米まででき、とてもラクになった、農業が続けられるのでありがたい。という声をいただきました」とうれしそうに語る西坂社長。一方で、この施設は初めての施設であるため、使い始めてから改良点が多く見つかった。そして、その後、2010年6月に高島市今津町につくったライスセンターは、乾燥機や籾すり機などをベストチョイスし、自分達で構築するなどの工夫を凝らした。設計の段階から利用者のことを考えて、もっと利用していただきやすいようにした。

預かった米の価値を高めて返したい、そのためにライスセンターは進化を続ける

同社のライスセンターの乾燥・調製システムフローについて紹介しよう。2つのライスセンターのシステム構成は基本的に同じで、乾燥機、放冷タンク、籾すり機、米選機、石抜機、色彩選別機で構成される。大津市の乾燥機は遠赤外線型で、30石が4台、20石が4台の合計8台が稼動している。今津町では27石の遠赤外線型の乾燥機が10台稼動している。
大津市のシステムには当初、色彩選別機が入ってなかったという。同社社長のご子息である藤行さんによると「毎年の気候が原因なのですが、カメムシや“やけ米”が入っているなどのクレームがあり、説明してもなかなか理解してもらえませんでした。2009年に色彩選別機を導入してからは、その問題は解消されました。お客様の大切な米を預かっていますから、預かったときよりも価値を高めて返したいですね」という。また、建設機械用のベルトコンベアを活用したり、放冷タンクを自社でカスタマイズするなど、今でも毎年、設備に改良を加え、より良いライスセンターへと進化を続けている。

大津市のライスセンターをつくった経験とノウハウは、乾燥機の配置にも活かされている。例えば、今津町のライスセンターの1台目の乾燥機とその次の間にはスペースがある。西坂社長によると「このスペースにはちょうど軽トラを入れることができます。いわゆるセルフサービスにして、ライスセンターがより効率良く稼動できるように工夫しています。また、天候の良いときには作業が集中するので、農家の方々にも協力してもらいながら運用しています」。それでも運用には神経を使い、大変な作業が連続する。農家にとってはお金に直結する最終段階なので手違いは許されない。同時に、働くペースを平準化できない農業の仕事をもっと高効率化する必要がある。そのため、確実に作業を行うためのルールの整備など、ライスセンター運営の改良に余念がない。

さらに今後は、米の安心・安全をどういう形で担保するのかが大切になってくる。国際基準のグローバルギャップに基づいた作付けをするために、設備・機械の保守点検や労働環境を整えているという。これから激化する国際競争を見据えた取り組みはもう始まっているのだ。

西坂農機の乾燥・調製システムフロー

現在、大津市と今津町のシステムフローは同じになっている。2か所で9000俵/日の処理能力がある。

大津市の色彩選別機: 2009年に色彩選別機を導入し、品質向上を図った(左)。今津町の放冷タンク: 大津市のライスセンターで培ったノウハウを活かして改良した放冷タンク(右)。

日本の農業と米を守るために米粉の食文化をもっと定着させたい

米の購入方法が多様化している状況に危機感を覚えた西坂社長は、2011年4月に米粉製粉所を今津町のライスセンターの隣につくった。その狙いをうかがうと「てんぷら、お好み焼き、たこ焼きなど、小麦粉の代替品になればと考えました。米粉としての利用価値が生まれれば、米の消費拡大にもつながります。ライスセンターを利用する農家に米粉をアピールしたいですね」と語る。西坂社長ご自身も米粉を使ったハンバーガーの開発や米粉入りうどんの販売など、ライスセンター・米粉製粉所をベースにして「米」に付加価値を付けた6次産業化を狙った“新しい商品”の開発に取り組んでおられる。

西坂農機が手がけるブランド米「夢みらい」。
ブランド米「夢みらい」の米粉が入ったうどん(左)。金属分析器や粒度計測機などを備える米粉製粉所(右)。

地域農家と共存共栄していきたい、さらなる可能性を秘めるライスセンター

最後に、ライスセンターを通じて地域の農家と共生を目指す西坂社長に、新たな取り組みについてうかがった。
「ライスセンターをつくった関係で、農業にもっと深く入ろうと思い、農業法人をつくりました。現在、20町ほど田んぼを預かっています。豆腐会社と契約して大豆を使ってもらったり、酒米をつくって日本酒をつくったりしています。大手の精米卸販売会社とのネットワークもできました」。ほかには飼料米も手がけている。「大手飼料メーカーと農家、西坂農機の3社契約です。玄米で預かると屑米が交じっていることがあるので、農家からは必ず籾で預かるようにしています。うちのライスセンターで加工したものをメーカーに納品することで安定した品質を保っています」。ライスセンターの可能性はまだまだ広がりそうだ。

また、ライスセンターを利用する農家には、コンバインや田植機を自前で持つことができない方もいる。そういった方にも農業をしてもらうために、同社では賃刈り・賃植えも行っている。しかし、単に農業機械をレンタルするのではない。「例えば、秋だけ収穫してほしいという依頼があると、コンバインを買っていただいた得意先に刈ってもらいます。得意先もコンバインの稼動効率が上がるので喜ばれていますよ」。地域ごとに数件の得意先で請け負う体制を取ることで、農家には最適なタイミングでライスセンターを利用してもらう。また大豆などを刈る汎用コンバインや5条刈りのYHコンバイン、水田ビークルなども貸し出すなどして、農家をはじめ、農業を始めたばかりの方も応援しているという。

「賃刈り・賃植えは、農業機械の取扱店にとってマイナスだと思われそうですが、ヤンマーの農業機械のお披露目の場にもなります。乗り心地や機能性などを肌で感じてもらえるので、絶好の商談の機会になるんですよ」とライスセンターを軸とするビジネスは、地域農家と共存共栄する関係を着実に築いている。

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