営農情報

2020年6月発行「トンボプラス16号」より転載

ロボトラ®と自動操舵トラクターの協調作業で、長いも収穫の重労働が大幅軽減!〈スマート農業実証プロジェクト 現場レポートin青森県レポート〉

全国でさまざまな形での〈スマート農業〉の実証や導入が進むなか、ICT、AIなど複数の技術を組み合わせて、労力軽減やコストダウンなど、目の前にある課題解決に加え、地域農業の発展や技術継承などを目指す取り組みが増えている。

農林水産省も2019年度からスタートした、〈スマート農業実証プロジェクト〉を精力的に進めており、ヤンマーを含む関連機械メーカーなども協力して、新技術の開発や実証、実装に力を入れて取り組んでいる。その1つとして、昨年(2019年)11月27日に国内有数の露地野菜産地である青森県で開催された〈上北地域大規模露地野菜経営の省力化技術体系の実証〉について、現地検討会をレポートしよう。

長いもの大産地で、掘取り作業の省力化・効率化を目指す

同プロジェクトの実証代表は、地方独立行政法人青森県産業技術センター野菜研究所だ。今回の実証試験の目的は、長いも栽培で手間のかかる作業に対して、GPS(GNSS)を使用したスマート農業技術を導入し、労働力不足の解消や経験の少ない人でも熟練者並みの技術を確保することで、コスト低減や規模拡大などを目指すことである。

また地域の特産品である長いもで実証を行うことで、地域農業発展への効果も期待できる。すでに同プロジェクトでは農薬散布(10月18日)と施肥(11月9日)の実証試験を終えており、今回は最後の収穫作業について作業時間や作業精度を調査した。同プロジェクトの構成員である〈おとべ農産合同会社(乙部英夫代表)〉が試験ほ場を提供。また、使用する機械はヤンマーアグリジャパン(株)(北東北営業部)がロボットトラクター(以下、ロボトラ)、自動操舵付きトラクターなどを用意した。

青森県の行政、研究、開発、試験などの関係者約50名が集結。ほ場に入り込んで実演を熱心に観察

自動操舵とロボトラの2台を1人で操作。協調作業で超省力化を実現

この日の実証試験には青森県農林水産部や農研機構、青森県産業技術センターなど県や地域の担当者をはじめ約50名が参加。まず、午後1時30分から1時間かけて収穫作業を実演し、その後、そのままほ場で約1時間、調査結果の報告と意見交換を行った。

実演に先立ち主催者の菊池氏から開会のご挨拶があり、「1人のオペレーターが自動操舵のトラクターに乗り、並んで追従する無人のロボトラをタブレットで操作することで、掘取りと運搬の両方の作業をこなし、大幅な省力化ができる様子を見ていただきたい」と説明された。

地方独立行政法人青森県産業技術センター野菜研究所所長菊池氏による開会のご挨拶

その言葉通り、2台の先進トラクターに参加者の注目が集まり、メモを取ったり写真やビデオに収めながら作業の様子に見入っていた。1台は掘取り作業用で、自動操舵付きヤンマートラクターYT5113A(苫米地技研工業の長芋掘取機TTH-500Sを装着)。これにオペレーターが乗り込むが、手放し運転したまま後述するロボトラをタブレットで操縦する。

もう1台は、掘取った長いもの運搬用で、無人のロボトラYT5113A(小塚鉄工所特注品のトレーラーを装着)で、掘取り作業の自動操舵トラクターを追従していく。この2台のトラクターを協調作業させることで、オペレーター1人と掘取り作業員4~5名だけで楽々と作業をこなすことができる。その様子に参加者たちは見入り、大幅な省力化と人員削減ができることに感嘆の声を上げていた。

2台のトラクターによる協調作業で、掘取りと運搬がスピーディに進む
迫力ある実演機のそばまで近づき、写真やビデオに収める参加者

県の関係者の方は「この最新技術は青森県では今年から初めて導入された。東北管内だと他に2台入っており、国の実証事業として2年間の試験に取り組んでいる。青森県はにんにく、長いも、りんご、ぶどうなどの栽培が盛ん。その中で長いもは露地野菜での基幹作物だ。目的通りの成果が出ているようで、期待している」と笑顔で話す。

土から掘り上げた長いもを1本ずつ抜いていく作業員たち
自動操舵付きトラクターの後部には地元メーカー・苫米地技研の掘取り機を装着
自動操舵付きトラクターとロボトラ。ロボトラには小塚鉄工所特注品のコンテナ、トレーラーを装着

掘取りの省力化や連作障害の回避など、絶大な効果に大満足

代表取締役 乙部 英夫 氏(写真左)
乙部 暁 氏(写真右)

青森県東北町
おとべ農産合同会社

プロジェクト構成員の〈おとべ農産合同会社〉には、今後の自社の営農や地域農業の発展に大いに役立つことを期待して、ほ場を提供いただいた。代表の乙部英夫氏は、24haで長いもやごぼう、だいこん、キャベツなどを輪作しており、長いもは今年6ha作付された。「ほとんどの畑が300~400mの大ほ場で、それらと比べるとここは短めだが、自動操舵の効果があったので、他のほ場ではもっと大きな効果が出ると思います。

とくに長いもは連作障害を受けるので、トレンチャーで植溝堀りをする際に、前作と同じところに穴を開けないようにするのが重要なんです。このシステムの大きなメリットは、GPSによって20cmずらしてまっすぐ溝を掘れることです。また、収穫作業でもこれまでは、長いもの首出しの目印がないと、長いもが折れたり曲がったりして品質を落としてしまいましたが、それがなくなりました。

しかも、これからはデータが取れるようになる。例えば、今まで感覚で施肥をしていたが、生育状況のデータを調べると、ここの畑は地力がどういう状態かがわかり、適切な対応や栽培管理ができる。それらが蓄積され、10年後、20年後には大きな成果が出てくるだろう」と期待されている。

ご子息の乙部暁氏は、「自動操舵のトラクターは疲れないから、運転する父も暇そうにしていますよ。(笑)長いもの運搬についても、トラクターに人が乗っていなくてもいいし、掘取りと運搬に要する人数も以前は7人ベースだったのが今は4~5人いればよくなりました。いもの品質ランクが上がり、労働時間が削減でき、大幅に省力化ができる」と確かな手ごたえを感じておられた。

先進的な営農に前向きなおとべ農産代表の乙部英夫氏
20年、30年先を視野に入れICT技術などのスキルを高める乙部暁氏

意見交換会では汎用性に大きな期待も

意見交換会では、成果の確認と他の作業にも応用できることを期待する声が多く出た。とくに汎用性では、「長いもだけでなく、ごぼうやだいこん、キャベツなど他の野菜でも応用が可能」、「これからの長いも作業は、自動操舵トラクターで支柱を抜き取り、それをロボトラで運搬するように、オペレーター1人で2台のトラクターによる協調作業を行えば、大幅な省力化と軽労化が可能になりそうだ」などの意見があがり、参加者は一様にうなずいていた。

実演後、熱心に意見交換会
長いもが掘取られた跡の土の状態や機械が走った後を確認する参加者たち

最後に、試験機を準備したヤンマーアグリジャパン(株)北東北営業部(青森事務所駐在)野月浩技術顧問にうかがうと、「今回の試験は大成功で、ヤンマーの最新技術が役立って良かった。ロボトラと有人トラクターの協調作業は他の作物や作業にも応用していただけるので、どのように作業にマッチングさせるか、ヤンマーもさらに研究を深めていく」と力強く語った。

今回の関係者の熱心な取り組みを見て、今後、国と地域、生産者、そしてメーカーがより一層連携を強め、スマート農業の発展、普及が促進されるだろうと実感した。

県の行政、研究・開発・試験機関、生産者と一緒になってスマート農業の普及に取り組んでいるヤンマーアグリジャパン北東北営業部の社員たち

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