営農情報

2021年6月発行「トンボクロス2号」より転載

〈メーカー探訪〉100年企業を目指し、変化を恐れずものづくりに情熱を注ぐ 株式会社 やまびこ

代表取締役社長執行役員 久保 浩様

東京都青梅市
株式会社やまびこ

約70年の歴史で培った独自技術が活きるエンジン

充実した販売・サービス体制を敷き、付加価値をさらに高めようと、独自技術と柔軟な発想で時代のニーズに応えているのが、株式会社やまびこ(以降、同社)だ。同社は、動力散布機や刈払機、チェンソーなどの小型屋外作業機械を中心に、様々な機械を開発・販売している。

同社の前身は、1947年創業の農林業機械メーカーである株式会社共立と、1952年創業の産業機械メーカーである新ダイワ工業株式会社だ。この老舗メーカー同士が経営統合し、長年にわたって培ってきた生産技術とノウハウを受け継いで生まれたのが同社である。特に強みとしているのが、機械の心臓部とも言えるエンジンの製造を全て自社内で完結できる“ユニークな一貫生産体制”だ。アルミを溶かして鋳造するところから、機械加工、メッキ、組立までの全工程を自社ラインで行っており、数々の生産技術やノウハウが新しい製品に活かされている。そのため、メッキ技術や機械加工では複数の特許を取得しており、またEPA(米国環境保護庁)認証エンジン数がトップクラスを誇るなど、環境に配慮した製品開発も得意とされている。

硬直しない組織体制づくりで電動化にも真っ向勝負

同社が時代の変化に応じて、技術革新に長けているのは、「変化を見定め布石を打つ」~絶えず情報を見極め、時代の潮流を読み、先んじて行動できるようにすること~をモットーに研究開発されていることにある。久保氏は、「当社には“考え抜くこと、変化する環境に対応し実践すること、固定概念を捨て去ること、創意と努力を積み重ねること”という創業時の言葉があり、私が目指すやまびこ像はこの理念の実践に尽きます」と語る。同社はこれを実践するために、変化を恐れない組織体制づくりを常に意識されている。当社は生産本部が改革をリードし、営業との連携を強化し、進化させ「やまびこ新生産方式」の確立を目指し、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ生産する」をスローガンに、「品質向上」「リードタイム短縮」「コスト削減」「在庫削減」に向けた取り組みを進めている。

また今年4月には、製品ごとの研究開発組織を大規模改編したことで、技術や知識、開発のプロセスを社内で共有しやすくなった。エンジンをコア事業としながらも、電動化やスマート農業に取り組む背景には、そうした柔軟な組織体制があるからだろう。「電動化への取り組みは、自分たちに都合の良い事実だけを追いかけるのではなく、答えは”市場”にあると思っています。潜在的なニーズを掴み、それに応える製品をどう形にするかを常に考えています。要因分析を怠らず、やまびこらしい電動製品を創りますよ」と久保氏。

工場内に並ぶスピードスプレーヤ(写真はSSV5045F)。1957年、長野県のりんご栽培農家に国産初のスピードスプレーヤが導入されてから、今もなお進化しつづけ、お客様に「驚き」をお届けしている。
やまびこの強みである一貫生産のエンジン製造ライン。製品の「心臓部」であるからこそ「一貫生産」にこだっている。

若い発想を育てる取り組みで社員に根づく創意工夫

そんな同社の独自の製品開発を生み出す秘訣は、ユニークな社内制度の数々にも現れている。そのひとつに、開発部門だけでなく、営業部門やサービス部門も一緒になって技術開発に取り組む新入社員研修がある。研修内容についてご担当者の方にうかがった。「入社1年以内の思考のやわらかい新人に、“こんなことしたい!”という要望に応えるための技術開発にトライしてもらっています。お題を与えられた新人は、その目的や要望を把握して、手づくりで試作し、その効果を確認します。その後、社内発表会を行い、高い評価を得たアイデアは、実際に製品化につなげようという取り組みです」。現在、この研修に初めてトライした社員のアイデアが採用され、製品開発中とのこと。ここから思わぬヒット商品が生まれるかもしれない。

他にも、企業理念の浸透を目的とした、「みらい委員会」も設置されている。本社、工場、販売子会社も含む30代以下の若手社員が中心となって、社内外でユニークな活動に取り組むというものだ。例えば、経営者の思いや考えを取材し、記事にして社内のイントラに掲載したり、他部門の社員と経営者が集まって、理念をテーマに意見交換を行う”タウンミーティング”を実施したり。やまびこの社員として何をすべきか、若い心に使命感を持ってものづくりに向き合う志が養われている。

職種を問わず、2ヶ月にわたる製品研修を受ける新入社員。創意工夫に触れ、驚きと発見の毎日。
みらい委員会のミーティングでは、若手社員を中心に活発な意見交換が行われる。

農業の存在感をさらに高め、魅力あるビジネスにしたい

同社の情熱が向かう先は、ものづくりにとどまらない。「人と自然と未来をつなぐ」を経営理念に、自治体や地元の振興会との里山再生や、ボランティア団体との森林保全活動など、自然の保護や再生にも意欲的に取り組んでおられる。まさに、社名の由来である山の神様「山彦」を体現するかのようだ。常に一歩先を見据える同社は、今後の農業をどのように見ているのだろうか。

「今、若い世代をはじめ世の中の農業への関心が高まっていると思います。それは農業がSDGsのど真ん中にあり、誰もが必須の産業と認めているからではないでしょうか。個人的には、若い世代の農業への関心の高まりに可能性を感じています。新たな農業ビジネスの企画や他分野との融合連携によって農業の存在感がさらに高まれば、技術やお金も集まってくるのではないでしょうか。私たちは、農業をそうした魅力あるビジネスにするために知恵を絞らなければいけません」。コロナ禍にある今も、「アンテナを高く立て、失敗を恐れず次の手を打つことを心掛けたい」と前進するやまびこ。想いや理念を共有する人材を育成し、しなやかさと瞬発力、強靭性を持つ組織体制でこれからも変化しつづけるのだろう。

昨年10月からは、本社のある東京都青梅市と青梅きのこ生産振興会と連携し、里山再生に取り組み始めた。

変化を恐れず、技術革新を続けるやまびこのDNA。

株式会社共立と新ダイワ工業株式会社の設立から約70年が経った今でも、その創業者たちの力強いDNAは、現在のやまびこに力強く息づいている。この不撓不屈の精神を受け継ぐ久保氏は、「同じことを続けられるビジネスはありません。変化は進化であり、異なる価値を受け入れることが大事です」と、100年企業への道を着実に歩まれている。

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