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2025年12月発行「トンボクロス11号」より転載

〈メーカー探訪〉油圧技術で力強く農作業の重労働を支援 三陽機器株式会社

代表取締役社長 守安 利文様

岡山県浅口郡
三陽機器株式会社

国内トップを走り続けるフロントローダの先駆者

岡山県に本社を構える三陽機器株式会社(以下、同社)は、1966年の創業から一貫して、油圧技術を核にしたフロントローダ業界のトップ企業だ。その技術はユーザーから圧倒的な信頼を得ており、1972年から現在(2025年)に至るまで、フロントローダの国内シェア1位の座を不動のものとしてきた。
自らを「創造開発型企業」と定義する同社を率いるのは、代表取締役社長の守安利文氏だ。開発出身で、1990年の入社以来、多くの製品開発を手掛けてきた守安氏は、同社の社風をこう語る。

「創業者の松本和正が回顧録を残しているのですが、その中に『開発という仕事を私の夢とロマンにした』という言葉があります。松本は開発出身で、現代で言うスタートアップ企業のような形で当社を興した人物です。私自身も開発者として歩んできた中で、その思いが今日まで、開発部門だけでなく全社において共有されていることを実感してきました。当社は経営方針として『創』の一文字を掲げています。そこには常に先駆者として挑戦を続け、まだ世にないものを生み出すという決意が込められています」。現在は社員数131名と、圧倒的シェアを誇る企業としては少ない。少数精鋭で業界トップを走り続ける同社の素顔を守安氏に聞いた。

「創(キズ)つくことを恐れず、創(はじ)めることに徹する」という思いが込められている。

創業者が生み出した農機用油圧技術

「当社が創業した1960年代は、ヤンマーなどの農機具メーカー各社から国産トラクターが販売され始めた時期です。それは耕うん機からトラクターへの移行期でもありました。その流れの中で、創業者の松本はトラクターに利用されている油圧技術に着目しました。当時、農機に特化した油圧技術はまだ存在しておらず、大きな商機がありました。油圧技術を使ってトラクターに搭載できる作業機をつくり、農作業の様々な重労働を支援する。その志を抱いた松本は、起業者としては若年ながらもトラクターメーカーと対等な協業関係を結び、妥協なく開発に励んで、1966年に国産農業用フロントローダの販売に至りました。それ以来磨き続けてきた農機用油圧技術が当社の中核技術であり、『油圧の三陽』を支えています」。

本社玄関に展示されているフロントローダ。バルブなどの油圧部品も展示されている。

草刈機にも早くから注力。ブームの制御に絶対の自信

同社の主力商品には、フロントローダに加えて草刈機がある。近年、温暖化や人手不足により草刈り作業の負担は増す一方で、草刈機の重要性はますます高まっている。実は同社はトラクター装着式の草刈機においても先駆的な存在だ。

「私が入社した1990年には、他社に先駆けてトラクター装着型のブーム式モアーを開発していました。フロントローダで培った油圧制御技術やブーム製造技術をフルに活かし、キャビンからの操作で左右両刈りが可能な優れた製品でしたが、その分高額になってしまい販売数は伸びませんでした。とはいえ、当時は農業従事者の将来的な減少が明らかになっていた時期で、省力化機器の需要が高まる見通しがありました。草刈機は絶対に農家に必要になるという思いもあり、地道な普及活動と価格抑制への取り組みを続けた結果、現在では商品ラインアップの主要な一角を担っています。目の前の壁から逃げずに開発を続けたことは、農業への貢献という点でも本当に良かったと思います」。

同社は2024年にハンマーナイフモアーZH-341のモデルチェンジを行い、ZH-342を発売。顧客の声に向き合い改良を重ねて、中型トラクター用のZH-34系列でさらにパワフルな草刈りが可能になった。独自開発の電磁比例バルブによってブームの動作がさらに滑らかになった他、PTOに増速機を追加し、PTO回転数540rpmでの作業も可能になった。これにより、燃費や操作性の向上も実現している。重量と堅牢さのバランスなど、多岐にわたる繊細なブラッシュアップも施され、非常に好評を得ているとのことだ。

「より一層の快適さを追求するに当たり、ブームの動作の滑らかさには徹底的にこだわりました。2026年に創業60周年を迎えるのですが、春には節目として草刈機のさらなる新モデルを発表予定です。お客さまや取引先さまに、当社が歩み続けている証をご覧いただけるよう意気込んでいます」。

流量や圧力を自在に調節できる電磁比例バルブ。より滑らかなブームの動作を実現した。

少数精鋭を温かくつなぐ、ブラザー・シスター制度

同社は「少数精鋭・挑戦・実力主義」の言葉も掲げる。効率を最重視する競争主義にも思えるが、実態は大きく異なる。同社が長らく社内教育に採用しているのは、家族的な「ブラザー・シスター制度」だ。新入社員には年齢の近い社員がブラザー・シスターとして付く。教育係でも相談相手でもあり、業務、社会人としての振る舞い、日々の悩み相談など、働く上で必要な知識や姿勢を教育・補助する。

教育メニューを定めないのも特徴で、ブラザー・シスターは自ずと後輩に注意を払うようになり、それが自身の成長にもつながる。相手に必要なものは何かと常に注意を払うことは、業務において常に新たな取り組みを模索することにも結び付くだろう。合理的であり、それでいて血の通った施策だ。

「創」の精神を胸にたゆまず歩みを続ける

守安氏が印象深い体験として語るのは、フロントローダFL5113の開発だ。ヤンマーのYTシリーズトラクターに合わせて開発されたFL5113は、デザイン性も追求したYTシリーズに大いに触発され、以降の同社製品のデザインの基準となったという。

また、ヤンマーから販売したワイナリー用摘芯機T100S-V(A)の開発も忘れ難い体験だという。作物に直接関わる製品を手掛けることは少なく、協業したワイン造りに関わる人々からも大いに刺激を受けたとのことだ。どちらのエピソードも、新たなテーマに出会った驚きと、それに取り組む喜びを物語る。

「入社当時は『創造部』という名前だった技術開発部に配属されて以来、キャリアの中でそれはもう数多くの失敗をしてきました。失敗の数なら誰にも負けない自信があります」。守安氏は同社での歩みを振り返って苦笑するが、しかし、その守安氏が社を率いている事実にこそ、受け継がれる「創」の精神を見ることができる。第6代社長である守安氏まで、歴代社長に血縁関係は一切なく、創業からの約60年間、様々な部門から選ばれたリーダーがバトンをつないできた。そこには確かに、常に自らを更新しようとする意志が息づいている。

ワイナリー用摘芯機T100S-V(A)。同社の技術は多くのワイン農家にも好評を得た。

回顧録や社屋にも宿る先人の精神

守安氏は、創業社長である松本氏を「とてもダンディでした」と振り返る。入社時には松本氏は会長職にあり、接点は多くはなかったというが、印象深い人物だったことが窺える。創業の精神を伝える松本氏の回顧録は、先日データ化が完了し、次世代への継承や活用がより容易になった。

また、第2代社長である矢野啓一氏も、進取の気風に溢れるリーダーだったという。同社の本社社屋は矢野氏の社長就任と同じ1988年に建てられたものだが、壁の少ない開放的なつくりで、「アルキメデス」や「キュリー」といった科学者の名を冠した会議スペースを擁するユニークな建物だ。先人が書籍や社屋として形にした企業哲学が、今日も三陽機器を支えている。

ともに同社の礎を築いた、創業者の松本氏(左)と第2代社長の矢野氏(右)。

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