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2026年6月発行「トンボクロス12号」より転載

〈メーカー探訪〉還流式の技 受け継ぐ想い カンリウ工業株式会社

代表取締役会長 藤森 秀一様(写真左)
代表取締役社長 藤森 俊介様(写真右)

長野県塩尻市
カンリウ工業株式会社

「カンリウ」の名に込められた歴史

2025年に創業100周年を迎えたカンリウ工業株式会社(以下、同社)。農家向け精米機と肥料散布機を主力とし、特に循環型精米機においては国内のパイオニアとして知られる企業だ。100周年に際して、前社長の藤森秀一氏は会長に就任、藤森俊介氏が新たに社長職を継いだ。大きな節目を越え、新体制で動き始めた同社の歴史と取り組みを聞いた。

同社は創業時の社名を「大阪精米機製作所」という。現所在地は長野県塩尻市だが、その名の通り創業時は大阪にあった。創業者であり藤森会長の祖父に当たる藤森淳一氏は松本市の出身で、同社創業以前から仙台と大阪で事業を手がけていた。大阪で精米機の技術者と出会ったことが同社創業のきっかけだ。泉大津市の夕凪町に工場を設け、着実に業績を伸ばしていたが、1945年、戦災によって松本市へ疎開した。当時の工場は焼失し、今では正確な所在地はわからないとのことで、戦火の凄まじさがうかがえる。

現社名への変更は1961年だ。規模拡大のために松本市から現所在地へ移転し、それと共に社名も改めた。新社名には主力製品の「還流式精米機」から取った「カンリウ」を冠した。古風な「カンリウ」の表記はかつて製品に記載されていたものだ。当時の様子を伝え聞く藤森会長はこう語る。

「『還流式精米機』は当社製品としての名で、一般には循環型精米機と呼ばれるものです。創業者は大阪で出会った技術者と協力し、海外から入ってきた循環型精米機の技術を研究して、日本で使うための工夫をこらした新たな『還流式精米機』をつくりあげました。高品質の精米が喜ばれ、お客様も販売店様も、当社を社名ではなく『カンリュウさん』と呼んでいたと聞いています。現在は当社も循環型精米機と呼んでいますが、社会に認められた『還流式』のカンリウの名を社名に掲げたのは、実に誇らしいことだったろうと思います」。

同社の玄関に飾られた往年の還流式精米機。当時は動力部がなく、水車等につないで動かしていた。

社長交代で受け継がれる想い

新社長の藤森俊介氏は、経理・総務部門出身で社内のマネジメントに取り組んできた人物だ。飾らない人柄で、「就任からしばらく経ったのですが、先日やっと社長室に移動しました。最近まで皆と机を並べていたので落ち着きませんが…」と笑う。会長の藤森秀一氏は、信頼をもって新社長を見守る。

「私は先代の逝去で社長を引き継いだのですが、私から新社長へは、こうして元気なうちに引き継ぐことができました。今後は新社長が自由に動けるように、手助けに徹するつもりです。新社長に望むのは、当社の心を受け継いでくれることだけですね」。

社長交代の際、藤森会長から新社長に贈られた企業理念のパネルがある。社是が記されているが、半分に切られており、切り落とされた左側にはかつて藤森会長が定めた社訓があったという。「残した社是は当社の心であり世代を超えて受け継ぐもの、切り落とした社訓はこれからを担う新社長が新たに生み出すもの、という思いを込めています」。

「奉仕」「成長」「福祉」を掲げる社是は企業の心、社訓は心を形にするための行動指針という位置付けだ。藤森社長は「まだ手を付けられていないのですが、私の大切にしている言葉に、以前に社外から迎えた方の『凛とした会社でありたい』というものがあります。カンリウの心と、その言葉から受けた感銘をもとに、これからを歩んでいくための社訓をつくります」と意気込む。

半分に切られたパネル。会長のエールと共に左半分の社訓は新社長に託された。

100周年を飾ったEV肥料散布機

創業100周年に当たって、同社はもうひとつの柱である肥料散布機の新機種「まきっこミニMF400EV」を発売した。従来のガソリンエンジンを電動モーターに替えた画期的製品である。藤森社長に記念すべき節目の年を飾ったMF400EVの強みと開発理念を聞いた。

「EV化によって、振動や騒音の大幅な軽減を実現できただけでなく、ご要望のあった『ハウス内で使いたい』『粉状肥料をまきたい』という課題もクリアできました。ガソリンエンジンには排気の問題と、粉状肥料を吸い込んで故障する問題があったのですが、電動モーターなら無縁です」。多くの点で機能向上を達成したモデルとなったが、開発理念はシンプルだったという。

「100周年に何をすべきかと考えた時、女性農家の労力を軽減しようというテーマがあがりました。エンジンは振動や騒音が疲労につながるだけでなく、始動にも力がいります。SDGsや排ガス規制が強化されている世界的な流れにも対応しつつ、『人にやさしいものを』という原点に改めて立ち返りました。精米がかつては主に女性の仕事だったこともあり、当社らしいテーマを達成できたと思っています」。

また、MF400EVは養鶏場から問い合わせを受け、消毒用の消石灰散布のテストを実施したところ、静音・低振動で鶏へのストレスが少なく、良い結果を得ているという。人のみならず生物にもやさしい製品として、今後の展開が注目される。

日本の精米機をアフリカにも

同社は海外展開にも意欲的だ。2015年の創業90周年を機に、主に東南アジアへの展開に取り組んできた。しかしコロナ禍で世界の状況が大きく変わり、現在注力しているのはアフリカだ。アフリカでは主食として様々な作物が消費されるが、その中で近年とくに存在感を高めているのが米だ。藤森会長は現地での精米機の価値をこう語る。

「調理や保存のしやすさから、米は生産量、需要ともに年々高まっています。換金作物としての需要もあり、日々の現金を得るための少量取引も盛んです。精米機の需要も高まっていますが、海外製品には精米の歩留まりが良くないものもあります。丁寧な精米ができ、白くきれいな米を提供できる当社製品であれば大きな商機が得られると見込んで、試しにケニア、ナイジェリア、ガーナなどへ持ち込んでみたところ、現地の方々に大変喜ばれ、確かな手応えを得ました。日本以外では長粒米が主ですので、長粒米も高精度に精米できる製品の開発に取り組んでいます」。また、アフリカでは「ソーラーパネルで動かせないか」という問い合わせが多いという。可能となれば、精米機のみならず別種の農業関連製品への技術展開も考えられるため、今後はそちらの研究開発に力を注ぎたいとのことだ。

現在、社長が中心となり進める取り組みは技術の継承だという。「ベテランが技術を伝えられないまま退職してしまった例があり、口頭や共同作業で継承してきた事柄のマニュアル化に取り組んでいます。技と知識を『その人にしかできないこと』にせず、いかに継承していくか。これは農業にも通じる課題かと思います」。盛んに挑戦を進めつつも、藤森社長の姿勢はあくまで実直だ。

「私たちがつくりたいものは、故障せず、使い手への配慮が行き届いた、安心して使える製品です。新製品や新技術の開発も、常にそこを見据えています。『令和の米騒動』を機に、多くの困難に耐えて日本の食を支えてきた農家様に注目が集まっている今、その思いを一層強くしています」。

精米機メーカーと芸術家の意外な縁

同社の応接室には、カラフルな装飾が施された精米機が展示されている。特徴的な水玉と網目の装飾は、世界的な芸術家である草間彌生氏の手によるものだ。

草間氏は藤森会長の叔母に当たる。2015年に実施された同社90周年記念事業の一環として、当時は社長だった藤森会長が草間氏に依頼し、快諾を得て制作された。藤森会長は作品についてこう語る。

「私の母は草間氏の姉であり、父は創業者である藤森淳一の長男です。二人の結婚で当社と草間氏の縁が始まりました。かつて淳一はアメリカへ渡航する草間氏を支え、草間氏はそのことに今も感謝を抱いておられます。

『どんな大変なことがあっても、命がけで心を込めた求道への努力を持って、輝かしい農業へ捧げた日々を誠実に生きて参りましょう。』との言葉もいただき、作品と共に当社の宝となっています」。

作品に寄せられたメッセージは「私の愛するみなさん」で始まる。同社と草間氏の強い絆が窺える。

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