ヤンマーテクニカルレビュー

バリューチェーンにおける「課題」や「困りごと」を解決する非常用発電機の開発
(~お客様に「安心感」を提供する遠隔監視サービスの提供~)

Abstract

Maintaining the supply of electric power during disasters is an important part of business continuity planning, with one example being a 2022 earthquake in Japan that took out power to up to two million homes. With the number of such disasters rising, customers for emergency generators are experiencing a changing environment. Examples include anxiety about whether generators will function as needed when a disaster strikes and a desire to install systems on rooftops where they will not be at risk of flooding.
To create value for its customers and ensure that they can maintain a supply of power during disasters, Yanmar Energy System has developed the AP155F emergency generator that features a management system to ensure readiness when needed and a remote monitoring service.

1. はじめに

非常用発電機は、地震などの理由で系統電源が停電した場合、消防設備や避難設備へ電気を供給する自家用発電設備の一つです。法令(消防法、建築基準法)で商業ビルなど一定規模の不特定多数が出入りする施設には、消防設備を設置する義務が設けられています。
非常用発電機は、ディーゼルエンジンとガスタービンの駆動方式があり、導入比率ではディーゼルエンジンが9割以上を占めています。これは燃料の保存性が高く、出力が安定していることを評価いただいているためです。ヤンマーエネルギーシステム株式会社(以下YES)は非常用発電機のトップメーカとして、お客様のニーズに応えられるよう5kVAの小型機種から3,000kVAを超える大型機種まで用意しています。
本稿では、バリューチェーンにおける「課題」や「困りごと」を解決する非常用発電機AP155Fと災害時に備えた管理体制を提供する遠隔監視サービスの開発について紹介します。

表1. AP155F主要目

No. 要目 単位 AP155F
1 周波数 Hz 50 60
2 定格出力(普通形) kVA 138 152
3 定格出力(長時間形) kVA 138 152
4 エンジン形式 - 6F104T2-GL
5 調速機 - コモンレール
6 原動機定格出力 kW 170 210
7 燃料種別 - 軽油・LSA重油(セタン指数45以上)
8 燃料消費量(長時間形/パッケージ仕様) L/h 29.4 33.9
9 冷却方式 - ラジエータ(電動ファン)
10 バッテリ電圧-容量 V-Ah 12-80
11 ラジエータ排風 m3/min 140 165
12 75dBパッケージ寸法(LxWxH) m 3.9x1.1x2.3
占有面積 m2 4.29
装備質量 kg 2520

2. 開発の背景

YESはお客様の課題を解決するためにプロダクトの深化に取り組んでいます。バリューチェーンの分析を進めた結果、図1の通り主要な2つの課題が明らかになりました。

図1. バリューチェーンにおける課題
図1. バリューチェーンにおける課題

2-1. いざという時に運転できるか不安(施主・運営管理者の課題)

非常用発電機は適切なメンテナンス管理を怠ると、有事の際に燃料切れや動作不良などを引き起こすリスクがあります。過去の大規模な地震において、震度6以上の地域に設置された防災用自家発電機の内4.8%がバッテリ劣化や燃料不足等により不始動・停止状態であったという調査結果も出ています。非常用発電機の業界では、製品状態を把握する為には専任技術者が現場確認へ行く必要があり、常時状態を把握するのは困難でした。このようないざという時に運転できるか不安というお客様の課題を解決するため、状態確認が可能な「見える化サービス」と劣化診断等が可能な「遠隔監視サービス」を開発しました。

2-2. 占有面積を減らしたい(施主・設計事務所・施工業者の課題)

2019年関東に上陸した台風第19号では、内水氾濫により高層マンション地下設置の高圧受変電設備が冠水し、エレベータ、給水設備等のライフラインが一定期間使用不能となる被害が発生しました。これを受けて、国土交通省と経済産業省が連携して「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を取り纏め、地方公共団体や関連業界団体へ通知されています。このガイドラインでは、浸水リスクの低い場所への電気設備設置を推奨され、今後、限られたスペースに電気設備を効果的に配置することが求められます。このような発電機の占有面積に課題を抱えたお客様に向けて、AP155Fは業界トップを更にリードするパッケージ小型化に取組みました。

図2. 非常用発電機「AutoPackシリーズ」の屋上設置例
図2. 非常用発電機「AutoPackシリーズ」の屋上設置例

3. いざという時に備えた取組

YESは1984年より業界に先駆けて遠隔監視システム「RESS(Remote Energy Support System)」を展開してきました。今回は、いざという時に運転できるか不安を持つお客様に対して、図3に示す通り新遠隔通信ユニット搭載の「AP155F」から取得した燃料残油量やバッテリ劣化状態などの情報をYESのコンタクトセンターにて一括管理し、非常用発電機向けに特化した2つの遠隔監視サービスをお客様に提供します。後述の取組みにより、過去の大規模地震において稼働出来なかった機場のうち約61%が稼働可能となる見込みです。

図3. 遠隔監視システム「RESS」のフローイメージ
図3. 遠隔監視システム「RESS」のフローイメージ

3-1. 見える化サービス

見える化サービスでは、パソコンやスマートフォン、タブレットから発電機の状態をひとつの画面で視覚的に捉えやすくなるよう工夫し、お客様は非常駐施設においても発電機が稼働できる状態にあるか健全性確認(図4の①)を容易に行えるようになりました。また、定期点検等で下図⑰と⑱は発電機制御盤を設定変更して運転確認しますが、設定を戻し忘れた場合、いざという時に起動できないことがあります。しかし、本サービスを利用頂くことで、施主や運営管理者はいつでも設定状態を確認することが可能となり、いざという時に備えることが出来るようになります。

図4. 遠隔監視状態確認パネルイメージ
図4. 遠隔監視状態確認パネルイメージ

3-2. 遠隔監視サービス

遠隔監視サービスでは、メンテナンス対象部品(例:バッテリ)の劣化診断や運転可能時間通知機能を新たに実装しました。
1つ目の機能は始動時の運転データとバッテリ周囲温度より算出した期待寿命と合わせて劣化診断を行います。具体的には、始動時の最低バッテリ電圧(図5-A)と始動時間(図5-B)を測定し、最低電圧の落ち込み量(ΔV)と始動時間(t)を収集します。バッテリは寿命に近づくと、電圧落ち込み量と始動時間が増加する傾向にあります。この特徴を活かして、バッテリ周囲温度(図5-C)から算出した期待寿命と比較して、劣化診断する仕組みになっています。いざという時にバッテリ劣化で始動できないというトラブルの未然防止に繋がり、災害時における施設のダウンタイム防止にも繋がります。
2つ目の機能は、AP155F搭載燃料タンクと外部燃料タンク(お客様タンク設備の残油量の取り込みも可能)の燃料油面レベル(図5-D)をコンタクトセンター(図3)にて、それぞれリットル換算後に合計残油量(L)として算出します。コンタクトセンターでは燃費マップ(発電出力毎・燃料油種毎)をシステム上に持たせており、発電機運転中は実際の発電出力(図5-E)における燃費、停止中は定格出力における燃費を自動的に割り出します。最終的には、残運転時間(時)= 合計残油量(L)÷ 燃費(L/時)で算出した時間情報を表示・通知する仕組みになっており、実機で残油量を確認できない非常駐施設において、災害時に運転可能時間を把握したいお客様に貢献できると考えています。

図5. 遠隔監視サービスで実現できる機能(参考概念図)
図5. 遠隔監視サービスで実現できる機能(参考概念図)

4. 占有面積を減らす取組み

非常用発電機はエンジン機付ファンにより機関室とラジエータを冷却しています。この機付きファンは一般的に排風フード付近に設置されますが、運転音が大きいため排風フードも大きくなっていました。また、機関室はラジエータ冷却経路と兼用させていたので、大風量が通過する構造になっていました。この影響で、吸気フードは雨水浸入対策(パッケージ内の負圧抑制)のため、必要以上にフードサイズが大きくなるという課題がありました。本開発では、市場要求の増加が見込まれるパッケージ小型化のため、ファン駆動方式(排風フード)と吸換気構造(吸気フード)を見直すことで(図6)、クラス業界トップの最小占有面積4.2m2を達成しました(図7)。

図6. AP155Fの構造
図6. AP155Fの構造
図7. 占有面積の彼我比較
図7. 占有面積の彼我比較

4-1. ファンの駆動方式変更(低騒音形電動ファンの採用)

前述の騒音低減を目的として、エンジンから冷却ファンを切り離し、モータでファンを駆動する方式を初採用しました。機付きファンはエンジンとベルト直結している為、高回転領域(2,000min-1以上)で運転される事が多く、運転騒音が大きくなりがちです。低騒音形の電動ファンへの置換えはファン回転数低下(1,500min-1や1,800min-1など)による騒音低減が期待できます。電動ファンの選定では、まず、候補となるラジエータの諸元を用いた冷却水回路モデルを作成して、エンジン出口の冷却水温度が100℃未満になるラジエータコアサイズと冷却に必要なファン風量を検討しました(図9)。この必要風量とラジエータでの空気抵抗、さらに、後述の吸換気構造を考慮したパッケージ通気抵抗や屋内設置時の現地ダクティング部の抵抗なども加味して、ファンの必要P-Q特性(風量-静圧特性;ファンの性能を表す指標)を特定しました。このPQ特性を満足する低騒音形電動ファンを採用することで、機付きファンと比較して、26%低減することが出来ました。結果、排風フードは現行機種比で60%の小型化が図れました。(図8-①)

図8. 現行機とAP155Fの構造比較
図8. 現行機とAP155Fの構造比較
図9. シミュレーションのイメージ図
図9. シミュレーションのイメージ図

4-2. 機関室の吸換気構造変更(冷却経路の分離)

吸気フードの小型化を目的として、APシリーズとして初めて機関室とラジエータ冷却の分離構造を採用しました。吸気フードを通過する機関室換気の必要最小風量を特定するために(図8-② の青矢印)、機関室内熱分布のシミュレーションで検証しました。部品寿命に影響がある機関防振ゴムを基準に機関室出口温度が目標温度以下になる風量を特定しました。その結果、吸気フードの通過風量は現行機種比で47%削減できました。この風量低減は雨水浸入やパッケージ負圧の改善にも繋がり、吸気フードのサイズは現行機種比で15%小型化しました。

図10. シミュレーションのイメージ図
図10. シミュレーションのイメージ図

5. 終わりに

今回紹介したAP155Fでは、いざという時に運転できるか不安を持つお客様に向けた遠隔監視サービスの提供と占有面積を減らす取組みにより、バリューチェーンでの困り事に貢献できるプロダクトに仕上げることができました。
YESは今後も、非常用発電機のリーディングカンパニーとして、BCP対策の提案といったお客さまの課題解決につながるエネルギーソリューションを提供してまいります。

6. 参考文献

著者

ヤンマーエネルギーシステム株式会社
開発部 第一開発部 システム設計グループ

松下 智史

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