ヤンマーテクニカルレビュー

【Topic1】アンモニアエンジンによるGHG低減効果の研究 第2報
~計算的アプローチによるNH3混焼ディーゼル機関のエミッション評価~

Abstract

While ammonia is a promising substitute for fossil fuels, some disadvantages are its low burning speed and low ignitability. One way to compensate for these disadvantages and enable ammonia to be used as a main fuel in internal combustion engines is to mix it with diesel fuel. This study used numerical analysis to investigate the combustion and emission characteristics of ammonia-diesel dual-fuel combustion. A three-dimensional numerical simulation successfully reproduced engine test results and clarified the dual-fuel combustion process. The results indicated that residual nitrous oxide is present near the cylinder walls after combustion and can be reduced by minimizing crevice volume, thereby reducing greenhouse gas emissions.

1. はじめに

舶用パワートレインのカーボンニュートラル燃料の1つとして、アンモニアが注目を集めています。アンモニアは水素に比べエネルギ密度が高く、燃料搭載性に優れていることから、特に航続時間の長い外航船において化石燃料に替わる将来燃料として期待されています。そこで、2022年号ヤンマーテクニカルレビューでご紹介したように、ヤンマーではエンジンにおけるアンモニア燃料の実用化に関する研究を進めています。

燃料としてのアンモニアの特徴を表1に示します。アンモニアは水素と比較して、液化時のエネルギ密度が高いという利点があるものの、着火性が悪く、かつ、燃焼速度が遅いという欠点があります。また、燃焼生成物としてCO2の265倍の温暖化係数を持つN2Oや大気汚染物質であるNOを多く排出することから、エンジンへの適用には大きな課題が存在します。(※IPCC第5次評価報告書

表1 アンモニアと水素の代表的な物性値

アンモニア 水素
層流燃焼速度 [cm/s] 7 351
最小点火エネルギ [mJ] 8 0.011
エネルギ密度(液化時)[MJ/L] 15.6 9.1

このような課題に対して、ヤンマーは軽油を安定的なアンモニア着火用燃料として用いるパイロット着火方式(図1)に着目し、エンジンにおけるアンモニア燃料の適用可能性について評価を進めています。既報では、エンジン実験によりアンモニアの基礎燃焼特性を把握するとともに、アンモニア・軽油混焼においてGHG排出量を49%低減可能なことを明らかにしました。本稿はその続報として、エンジン3次元数値シミュレーション技術の構築について説明します。

図1 エンジンにおいて想定されるアンモニア・軽油混焼方式
図1 エンジンにおいて想定されるアンモニア・軽油混焼方式
(着火性の悪いアンモニアを、軽油を用いて安定的に着火させる)

2. アンモニア・軽油混焼に関する3次元数値シミュレーション技術の構築

2-1. 3次元数値シミュレーションの概要

本研究では米国Convergent Science社が提供する熱流体解析ソフトウェアCONVERGEを用いて3次元数値シミュレーション技術を構築しました。CONVERGEでは図2に示すようにエンジン燃焼室内を計算格子(セル)と呼ばれる微小空間に分割し、ガス流動や温度・圧力の変化をセル毎に計算します。さらに、化学反応モデルを入力することにより、各セルにおいて燃焼化学反応を計算することが可能となります。

図2 3次元数値シミュレーションの計算プロセス
図2 3次元数値シミュレーションの計算プロセス

代表的な条件におけるアンモニア燃焼の主要反応経路を図3に示します。アンモニア(NH3)は中間生成物であるNH2、NH等を経てN2へと分解しますが、その過程でN2OやNO等も生成することが分かります。このような化学反応をセル毎に計算することで、燃焼室内における各化学種の分布を推定することができます。

図3 アンモニア燃焼の主要反応経路
図3 アンモニア燃焼の主要反応経路(Nを含む化学種のみを記載)
圧力6MPa、温度2000K、当量比0.5、反応開始10-5秒後における代表的な反応経路

2-2. 化学反応モデルの構築

アンモニアや炭化水素燃料など単一燃料の化学反応については、これまでも数多くの研究が実施されており、各研究機関から様々な化学反応モデルが提案されています。しかしながら、アンモニアと炭化水素燃料を混合させた場合にどのような着火特性になるかについては研究事例が少なく、混合時の化学反応モデルはほとんど提案されていません。そのため、アンモニア・軽油混焼を3次元数値シミュレーションにて再現・予測することは困難でした。

そこで本研究では、東北大学 丸田・中村研究室との共同研究を推進し、アンモニアとn-heptaneの混焼反応モデルを構築しました。n-heptaneは軽油を模擬するために使用しています。東北大学では、図4に示す温度分布制御型マイクロフローリアクターと呼ばれる燃焼実験装置を用いて、アンモニアとn-heptane混合燃料の着火・反応特性を評価しました。マイクロフローリアクターとは、火炎バーナにより壁面温度が制御された管径2mm程度の石英ガラス管に燃料と酸化剤を流入させ化学反応による自発光を観察することで、様々な燃料について、自発光のパターンや温度域から反応特性を評価することができる実験装置です。このマイクロフローリアクターによる燃焼実験結果を用いて、アンモニア・n-heptane混焼反応モデルの妥当性を検証しました。

図4 温度分布制御型マイクロフローリアクター 実験装置(1)
図4 温度分布制御型マイクロフローリアクター 実験装置(1)

3. 3次元数値シミュレーションによるNH3混焼ディーゼル機関の燃焼プロセスの把握

東北大学との共同研究成果で構築した混焼反応モデルを3次元数値シミュレーションに入力し、アンモニア・軽油混焼試験の再現計算を行いました。図5(左)で示すように、数値シミュレーションは、エンジン試験結果の燃焼室内ガス圧力や熱発生率を精度よく再現できていることが分かります。
次に、燃焼生成物の排出濃度を確認すると、図5(右)に示すようにNOとNO2はアンモニア混焼率が増加するにつれて排出濃度が高くなっています。また、N2Oはアンモニア混焼率0%を除いて微少量が排出されています。数値シミュレーションは、これら燃焼生成物の排出濃度を定量的に再現できています。

図5(左)アンモニア混焼率95%条件における燃焼室内ガス圧力と熱発生率、(右)各アンモニア混焼率におけるNO+NO2、N2Oの再現性
図5(左)アンモニア混焼率95%条件における燃焼室内ガス圧力と熱発生率
(右)各アンモニア混焼率におけるNO+NO2、N2Oの再現性
(エンジン試験結果とシミュレーション結果の比較)

数値シミュレーション結果の可視化を通じて、燃焼プロセスや燃焼生成物の分布について詳しく分析しました。図6は、アンモニア混焼率95%条件でのエンジン燃焼室内における軽油混合気の分布(緑色)とアンモニア火炎面(茶色)を3次元的に示したものです。クランク角度5deg.aTDCでは軽油混合気付近にアンモニア火炎面が見られ、その後、アンモニア火炎が燃焼室全体に広がる様子が見られます。このように、数値シミュレーション結果を分析することで、微少量噴射された軽油を着火源とし、アンモニア火炎がどのようにエンジン燃焼室に広がるのか把握することが可能となりました。

図6 アンモニア・軽油混焼の燃焼プロセスの可視化
図6 アンモニア・軽油混焼の燃焼プロセスの可視化

次に、アンモニアの代表的な燃焼生成物であるN2Oが燃焼室のどこで生成しているのか確認しました。図7に示すようにN2Oはアンモニア火炎面にて生成する様子が見られますが、火炎の内部ではN2Oは消失しています。これは、アンモニア火炎内部では高温になるためN2OがN2等へと分解されたためと考えられます。一方で、ピストン・ライナ間などの燃焼室壁面近傍は壁面温度の影響を受けるため、燃焼が終了している20deg.aTDCにおいてもN2Oが残存しています。これがアンモニアエンジンにおけるN2O排出の要因であると考えられます。すなわち、N2O排出量を低減するためには、燃焼室内の微小領域を減らすことが有効であることが分かりました。

図7 アンモニア・軽油混焼におけるN2Oの生成プロセスの可視化
図7 アンモニア・軽油混焼におけるN2Oの生成プロセスの可視化

以上のように、今回構築した数値シミュレーション技術を用いることで、エンジンにおけるアンモニア燃焼プロセスの分析が可能になるとともに、さらなる効率向上や燃焼生成物低減に向けた対策を提案することが可能になりました。

4. おわりに

本稿では、アンモニアの基礎燃焼特性を把握するための3次元数値シミュレーション技術を構築し、エンジンにおけるアンモニア燃焼プロセスや各燃焼生成物の分布について分析することで、アンモニア燃料の適用によるGHG削減の指針を示すことができました。今後、更なる燃焼生成物低減のために、燃焼のみならず後処理技術を組み合わせた低減方法について、研究を続けていきます。
また、今回の数値シミュレーション技術の構築にあたっては、東北大学 丸田・中村研究室との共同研究成果を活用しています。この場をお借りしてお礼申し上げます。

参考文献

  • (1)Yuki Murakami, Hisashi Nakamura, Takuya Tezuka, Kenji Hiraoka, Kaoru Maruta, Effects of mixture composition on oxidation and reactivity of DME/NH3/air mixtures examined by a micro flow reactor with a controlled temperature profile, Combustion and Flame, Volume 238, 2022, 111911,
    https://doi.org/10.1016/j.combustflame.2021.111911

大学研究室

著者

ヤンマーホールディングス株式会社
技術本部 中央研究所 基盤技術研究センター
燃焼グループ

平岡 賢二

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