カーボンニュートラル燃料とは?種類・課題から企業の活用事例まで徹底解説
更新日時:2025.11

2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向け、「カーボンニュートラル燃料」が注目を集めています。
しかし、どのような種類があるのか、導入のメリット・課題はなにかという点で、多くの企業担当者様が情報収集を進めているのではないでしょうか。
そこで本記事では、カーボンニュートラル燃料の基礎知識から、合成燃料やバイオ燃料といった具体的な種類、それぞれのメリット・課題、そして産業分野での活用事例までを網羅的に解説します。
脱炭素経営を進めるためのヒントとして、ぜひご活用ください。
<目次>
カーボンニュートラル燃料が求められる背景
カーボンニュートラルは、温室効果ガスの「排出量」から、植林や森林管理などによる「吸収量」を差し引いた合計を、実質ゼロとする考え方です。
日本政府は「2050年カーボンニュートラル」の実現を掲げており、社会経済活動のあらゆる領域で変革が求められます。
エネルギー分野においては、運輸部門(自動車、船舶、航空など)や産業部門(工場、建設機械など)が、CO2排出量の多くを占めています。
例えば、2023年度の日本のCO2総排出量9億8,900万トンのうち、運輸部門が1億9,014万トン(約19.2%)、産業部門が約3億3,953万トン(約34.3%)を占めました。
2部門で占める割合は、全体の50%を超えます。
運輸部門・産業部門は、電気への転換過渡期である自家用乗用車に加えて、そもそも電力への転換が難しい大型機械や長距離輸送を用いるため、CO2排出量の占める割合が多くなっています。
バッテリーには、走行中にCO2を出さないメリットがある反面、現在の技術では大型機械を動かすパワーや長距離を走るためのエネルギーを確保できません。
一方でガソリンなどの液体燃料はエネルギー密度が高く、少量で大きなエネルギーを得られます。
そのような現状において、ライフサイクル全体でCO2排出量を実質ゼロを実現するカーボンニュートラル燃料は、ガソリンなどの化石燃料の代わりとして期待されています。
カーボンニュートラル燃料とは?仕組みを解説
カーボンニュートラル燃料は、大気中から回収したCO2や植物など成長過程でCO2を吸収したバイオマス資源を原料にします。
カーボンニュートラル燃料には、バイオガスや合成燃料、水素燃料など様々な種類があります。
ここでは合成燃料を例にして、なぜカーボンニュートラルと言えるのかを見ていきましょう。
▼合成燃料の製造と使用
- 発電所や工場から排出されるCO2や、大気中のCO2を回収する。
- 回収したCO2と製造した水素を合成し、合成燃料を製造する。
- 合成燃料を自動車や船舶などで利用し、CO2が排出される。
- もともと大気中にあったCO2を利用しているため、CO2の総量は増えない。
このように、カーボンニュートラル燃料は、製造から使用までの過程でCO2の排出量と吸収量を差し引きゼロにできます。
【一覧表で比較】カーボンニュートラル燃料の主な種類と特徴
カーボンニュートラル燃料にはいくつかの種類があり、それぞれ原料や製造方法、特徴が異なります。ここでは代表的な3例を見ていきましょう。
| 燃料の種類 | 主な原料 | 特徴 |
|---|---|---|
| バイオ燃料 |
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| 水素燃料 |
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| 合成燃料(e-fue含む) |
|
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バイオ燃料
バイオ燃料は、植物や廃食油といった生物由来の資源(=バイオマス)から生成されます。
植物が成長過程でCO2を吸収しているため、燃焼時にCO2を排出しても、実質ゼロと見なされます。
バイオ燃料の課題は、食用との競合です。
サトウキビやトウモロコシといった食料を原料とする場合、食用と競合し価格高騰が発生する可能性があります。
そのため、廃食油や木材、稲わらなどの食料ではないバイオマスの利用が推進されます。
なお私たちヤンマーでは、食品廃棄物や排水から電気と熱を作り出すバイオガス発電システムをご提供しております。
水素燃料
水素は、次世代のエネルギーとして、燃料電池自動車(FCV)や、発電所の燃料、産業用エンジンの燃料等での活用が期待されています。
ただし水素自体は、水や化石燃料などから製造しなければなりません。
製造方法によって、グレー水素・ブルー水素・グリーン水素に分類されます。
グレー水素は、天然ガスなどの化石燃料を燃焼させて製造するため、製造時にCO2を排出します。最も安価に製造できる反面、環境負荷が高いのが難点です。
ブルー水素も、グレー水素と同様に化石燃料から製造します。ただ、発生したCO2を回収・貯留(CCS)し、環境負荷を低減するのが特徴です。
グリーン水素は、最もクリーンな水素です。再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して製造するため、製造過程でCO2を排出しません。
合成燃料(e-fuel含む)
合成燃料は、回収したCO2と水素を原料として作られる燃料です。
なかでもグリーン水素を使用して生成した合成燃料はe-fuel(イーフューエル)と呼ばれます。
合成燃料は、ガソリンや軽油、ジェット燃料の代替として利用できる点が長所です。
また既存インフラを活用できる可能性があるため、自動車産業や運輸業界から注目されています。
カーボンニュートラル燃料のメリット
カーボンニュートラル燃料の導入には、主に以下の3つのメリットがあります。
- 既存インフラを活用できる可能性がある
- エネルギーセキュリティの安定供給が可能
- 脱炭素化の実現と企業価値の向上につながる
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
1. 既存インフラ・設備の活用によるスムーズな移行
合成燃料やバイオ燃料は、一部常温常圧で液体になるものがあります。
そのため、既存のエンジンやタンク、パイプラインといったインフラを大幅に改修せず、継続して利用できる可能性があります。
EV化のような大規模な設備投資を伴うカーボンニュートラル対策は、国や企業にとって大きな負担です。
しかしカーボンニュートラル燃料であれば、既存のインフラを活用でき負担が軽減されます。
2. エネルギーの安定供給が可能
カーボンニュートラル燃料は、CO2や生物由来のバイオマス資源などを利用して製造されます。
国内でエネルギー源を製造できれば地政学リスクに左右されにくく、安定したエネルギー供給が実現できます。
エネルギー資源の大部分を他国からの輸入に頼る日本にとって、エネルギー自給率を高められるのは、大きなメリットです。
3. 脱炭素化の実現と企業価値の向上
最大のメリットは、ライフサイクル全体でCO2排出量を実質ゼロにできる点です。
近年、投資家や金融機関は企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを重視する傾向があります。
脱炭素化への取り組みは、資金調達や企業ブランドイメージの向上につながります。
カーボンニュートラル燃料のデメリット・課題
カーボンニュートラル燃料の普及には、主に以下の3つの課題があります。
- 製造コストが高く、価格競争力がない
- エネルギー変換効率と製造規模に限界がある
- 原料の安定確保が難しい
それぞれの課題について、詳しく見ていきましょう。
1. 製造コストの高さと価格競争力がない
現状における最大の課題は、製造コストが高い点にあります。
例えば現在、e-fuelの製造コストは700円/ℓと言われており、ガソリンと比べ圧倒的に高価です。
低コストで製造するためには、安価な再生可能エネルギー電力と、効率的なCO2回収・水素製造が必要となります。
しかし、いずれも政府による支援を受けながら各企業・研究機関が技術開発をしている段階です。
2. エネルギー変換効率と製造規模に限界がある
再生可能エネルギーの弱点として、エネルギー損失が大きい点が挙げられます。
電力から燃料を製造する過程で、複数回のエネルギー変換を行います。
そのため、最終的に得られるエネルギー量は、必然的に元の電力よりも少なくなります。
また、大量の燃料を安定的に供給するには、大規模なプラント建設が必要です。
しかし、再生可能エネルギーの利用が普及していない現時点では、サプライチェーン全体の構築に時間もコストもかかります。
3. 原料の安定確保が難しい
バイオ燃料の場合、原料となる廃食油や非可食植物の安定的な確保が大きな課題です。
現在すでに、国内での原材料の供給量では不足しています。
不足分を補うために、海外からの輸入に頼っているのが、実情です。
しかし今後、航空業界などでSAF(持続可能な航空燃料)の利用が本格化し、世界中でバイオ燃料の需要が爆発的に増えれば、限られた資源の奪い合いが激化するでしょう。
価格の高騰は、想像に難くありません。
合成燃料においても、安価で大量のCO2を安定的に確保する技術の確立が急務です。
カーボンニュートラル燃料の活用分野と将来性
カーボンニュートラル燃料は、電化が難しい分野での活用が期待されています。
ここでは、代表的な3分野におけるカーボンニュートラル燃料の将来性をご紹介します。
- 自動車・輸送機器
- 船舶・海運
- 航空
自動車・輸送機器
自動車分野では、乗用車のEV(電気自動車)シフトが進んでいます。
しかし、長距離輸送を担う大型トラックやバスにおいては、バッテリーの重量や充電時間の問題があり、完全な電化は困難です。
こうした車両に対して、既存のディーゼルエンジンを活かせる合成軽油やバイオディーゼル燃料の活用が有望視されています。
またモータースポーツの世界では、技術開発のショーケースとして合成燃料の利用がすでに始まっており、将来的な市販車への技術的フィードバックが期待されます。
船舶・海運
現代の技術では、巨大な船舶を電気で動かすことは困難です。
そのため現在は、代替燃料をエンジンで燃やしたり、燃料電池で電気に変えたりして動かす方法が模索・検討されてます。
代替燃料の候補として、バイオ燃料、合成燃料、そして水素やアンモニアが挙げられます。
既存の燃料供給インフラとの互換性や、燃料の安全性、コストなどを考慮しながら、各社で実証実験が進められています。
なおヤンマーでは、次世代のエネルギー転換をリードすべく、世界に先駆けて「舶用水素燃料電池システム」の商品化を実現しました。
将来のゼロエミッション船に向けて、大きな一歩を踏み出しています。
航空
航空分野ではSAF(持続可能な航空燃料)が代替燃料として使用されています。バッテリーのエネルギー密度はジェット燃料に遠く及ばないため、電動航空機の実用化は近距離路線に限られると考えられています。
そのため、世界中の航空会社や政府がSAFの生産拡大と利用促進に向けた目標を掲げており、今後市場が急速に拡大すると予測されます。
【ヤンマーの挑戦】カーボンニュートラル燃料への取り組みと導入事例
ヤンマーグループは、持続可能な社会の実現に向け「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」を掲げ、GHG(温室効果ガス)排出量ゼロの企業活動を目指しています。
ヤンマーが目指す未来とカーボンニュートラルソリューション
ヤンマーグループは、持続可能な未来の実現に向け、「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」を掲げています。
”循環する資源を基にした環境負荷フリー・GHGフリー企業”を目指し、お客様の脱炭素化に貢献します。
このビジョンを実現するため、ヤンマーはお客様の多様な課題を分析し、3つのステップで最適な「カーボンニュートラルソリューション」をご提供します。
水素エネルギー実証施設「YANMAR CLEAN ENERGY SITE」
ヤンマーは、未来のカーボンニュートラル社会を見据え「水素」の活用に力を入れております。
2024年には定置用水素燃料電池の商品化を実現しました。
また、岡山県にある実証施設「YANMAR CLEAN ENERGY SITE」では、水素燃料電池発電システムのほか海外製の「水素エンジンコージェネ」を実装・稼働しております。
ご興味のある方は、施設見学を受付しております。
当実証施設で得られた知見を基に、お客様の脱炭素化を現実のものとする製品の開発・提供をしております。
その他にもヤンマーは、お客様のカーボンニュートラル課題を解決するため、自社のノウハウや製品を活用したエネルギーソリューションで、脱炭素経営をご支援します。
「自社の設備でもカーボンニュートラル対策ができるのか」「導入コストはどのくらいか」など、ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
【ヤンマーのバイオガス発電システム導入事例】ミヨシ油脂株式会社様
ヤンマーのバイオガス発電システムは、全国合計1,000台以上導入頂いております。
ミヨシ油脂株式会社様は、マーガリンやショートニングなどの「食用加工油脂」、脂肪酸やグリセリン、工業用石鹸などの「工業用油脂」を製造・販売する総合油脂加工メーカーです。
油脂製造過程で出る排水の処理にお困りのところ、ヤンマーのバイオガス発電システムを導入頂きました。
導入後は、CO2排出量を削減できたとともに、売電収益も得ております。
詳細は下記の記事をご覧ください。
下記でその他のお客様の導入事例もご紹介しております。
まとめ
本記事ではカーボンニュートラル燃料の基礎知識、種類、メリット・課題、そして具体的な活用分野までを解説しました。
製造コストや安定供給といった課題を抱えがちな産業分野において、カーボンニュートラル燃料は、脱炭素化を実現する有力な選択肢です。
企業の持続的な成長と、社会全体のカーボンニュートラル実現に向けて、カーボンニュートラル燃料の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
ヤンマーはエネルギー関連メーカーとして培ったノウハウを活かし、お客様の脱炭素化を力強くサポートします。
ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度お気軽にご相談ください。