2025.07.01

未来を紡ぐ糸。ヤンマーとフランス・リール市の非営利文化機関 lille3000が革新的なアート作品の展覧会「Futurotextiles 7」を共同開催

A SUTAINABLE FUTURE — テクノロジーで、新しい豊かさへ。 —」をブランドステートメントに掲げるヤンマーは、2021年から大阪市東住吉区にある長居公園の指定管理事業者を務めています。この公園では現在、ヤンマーとlille3000の共催で、次世代の持続可能なテキスタイル技術を用いたアート作品の展覧会「Futurotextiles 7(フュチュロテクスティール 7)」が2025年7月31日までの日程で開催されています。

今回、本イベントの企画・運営を担当したヤンマーホールディングス株式会社マーケティング部デザイン部の土屋陽太郎さんと海道未奈さん、そしてlille3000でアートアドバイザー兼エキシビションキュレーターを務めるCaroline Davidさんにインタビューを行い、Futurotextiles 7が実現にいたった経緯、展覧会に込められたメッセージ、そしておすすめの展示について話を伺いました。

未来を見据えたテキスタイルのアート展示

周囲を見渡せば、私たちの生活にテキスタイルという存在がいかに深く浸透しているかを改めて認識できます。身にまとうファッションアイテムは言うにおよばず、インテリア家具をはじめとしたライフスタイル製品や、近年では医療の現場でもその高い有用性が注目されています。

フランス・リール市にある非営利文化機関 lille3000は、このように常に進化を続けるテキスタイルの魅力をテーマとして、2006年の創設以来、バイオソーシング、アップサイクルなどの最新テクノロジーから、刺繍・タペストリーなどの伝統的な職人の技術にいたるまで、アート、ファッション、デザイン、テクノロジーといったジャンルを横断しながら、テキスタイルの多様な側面を紹介する展覧会「Futurotextiles」を世界各国で開催しています。

これまで世界30カ所以上で、35を超える展示を行ってきた「Futurotextiles」。世界万博との関係も深く、2010年の上海、2015年のミラノ、そして2021年のドバイに続き、今年2025年は、EXPO2025大阪・関西万博と連動して、最新となる「Futurotextiles 7」を開催しています。

2階「アップサイクル・リサイクル」エリア

今回の展示は、ヤンマーと共同し、サステナブルなテキスタイルの存在意義を深く掘り下げていることが大きな特徴です。素材とアート、デザイン、ファッションの関係性を改めて問うものから、最先端の技術を駆使したクリエイティブまで、テキスタイルの伝統・進化・未来を見つめながら、持続可能性と美しさの調和を提示しています。

とはいえ、なぜ産業機械メーカーであるヤンマーが、テキスタイルとコラボレーションすることになったのか? その経緯を不思議に思う方もいるかもしれません。しかし、展示を見ればその理由はすぐに明らかとなるでしょう。「Futurotextiles 7」は、決してファッションという華やかな側面だけに焦点を当てる展示ではなく、その原点にある素材そのものや、アップサイクル・リサイクルといった環境に配慮した取り組み、さらにはテキスタイル文化の伝統&革新にも焦点を当てるなど、どれも魅力に満ちた作品が勢揃いしています。そして、これらのテーマは、ヤンマーが創業以来受け継ぐ価値観を土台とした企業理念とも、非常に高い親和性を有しているのです。

「Futurotextiles 7」は、自然光が室内に注ぎ込む長居公園内の花と緑と自然の情報センターで開催されています。

1階「自然・バイオソーシング」エリア

三つある展示テーマの一つが「自然・バイオソーシング」。ここでは、リネン(亜麻)やイラクサなどの天然素材と最新のテキスタイル技術を融合して作られたスポーツウェアのほか、人工繊維、バイオマテリアルを使った作品が展示されています。

Tom Van Der Borghtの作品(2階「アップサイクル・リサイクル」エリア)

「アップサイクル・リサイクル」のセクションでは、ぬいぐるみやビーチボール、布の端切れ、工業部品などを独創的なファッションアイテムへとアップサイクルした作品をご覧いただけます。

ビヨンセのワールドツアー「Renaissance World Tour 2023」で、ビヨンセが着用した衣装(2階「技術・伝統」エリア)

「技術・伝統」をテーマとしたセクションでは、タペストリー、レース、刺繍といった伝統的な手工芸を未来へとつなぐ作品を展示。写真は、アメリカのポップスター、ビヨンセが自身のワールドツアーで着用した衣装で、伝統的な刺繍技術が用いられています。

「生活をより豊かにするアート」を身近に

では、このヤンマーとlille3000のコラボレーションはいかにして実現にいたったのでしょうか? その背景や、ヤンマーとFuturotextilesが共有する持続可能な未来へのビジョンについて、ヤンマー・デザイン部の土屋陽太郎さん、海道未奈さんに話を伺いました。

土屋:EXPO2025 大阪・関西万博の開催に合わせて、周辺エリアでも“フランス”をアピールするサテライト会場を探していたlille3000が、ヤンマーが管理・運営する長居公園を訪れてくれたのがきっかけです。この公園は、規模の大きい都市公園でありながら、地元の方々が散歩をしたり、ジョギングしたりと地域のコミュニティにとても深く浸透しているのが大きな特徴です。

大阪市内にある他の商業施設や美術館と比較しても劣らず、とても人に寄り添った場所であり、また、長居公園自体がアートやサステナビリティを大きなコンセプトの一つとしていることにも大変共感していただき、ここで「Futurotextilesを開催したい」というオファーをいただきました。

海道:ヤンマーにとって、今回のような展覧会を企画すること自体、初めての試みでした。しかし、ヤンマーが開発・製造・販売する産業機械のプロダクトデザインを行うだけでなく、それらを魅せる空間などブランディングに関するデザインをすることで、製品自体のプレミアム感や付加価値をさらに拡大・増幅できる——。その観点からいうと、今回の展覧会も、作品がもつ付加価値をいかにして効果的に見せることができるかというチャレンジングなプロジェクトと言えます。そういった理由から、lille3000のキュレーターであるCaroline Davidさんとともに、「Futurotextiles」の開催に向けて協業していくことができたのです。

土屋:デザインを担当する部門として、目がいきがちな表面の加飾ではなく、ヤンマー製品自体の本質をきちんと見極めてデザインすることをデザインフィロソフィーとして掲げています。そういった意味では、「Futurotextiles」の展示空間のデザインも全く同じで、特に加飾的な部分はlille3000が考えた部分もありますが、ヤンマーとしては導線や展示作品のディスプレイの仕方など、本質的な要素を整理してデザインするという根底を大切にしながらプロジェクトに臨みました。

海道:特にキュレーターであるCarolineさんは、「ファブリック」と言うと真っ先にファッションを連想するけれども、実は私たちの生活のすべての側面に浸透しているという強い信念をもっています。家具もそうですし、医療にも繊維という存在は深く浸透している、と。そして、その考え方は、私たちヤンマーの想いと非常に高い親和性があります。人々の生活に浸透し、その生活をより豊かにすることに貢献する——。それが今回のファブリックであれ、私たちが普段から扱っているヤンマー製品であれ変わらないという想いに強く共感することができました。

土屋:海道さんが言うように、我々の活動の主軸は、「A SUSTAINABLE FUTURE  —テクノロジーで、新しい豊かさへ。—」いうブランドステートメントを実現するための技術開発という点は当然ありますが、それ以上に人々の考え方や行動といった根本的な変化がなければ実現への道のりは厳しいのも確かです。そう考えた時に、こういったアートという形で展示を見ていただくことで、訪れてくれる方々の感覚に何かしらポジティブなインパクトを与えられればと思います。

デザイナー大竹舞人さんのアート作品。廃棄予定だったヤンマーの旧ユニフォームを再利用して制作(1階:「自然・バイオソーシング」エリア)

アートと産業機械。見かけ離れた二者に共通する、サステナブルな未来への想い

Futurotextiles 7の開催準備を進めるにあたって、フランス側の代表として大きな役割を果たしたのが、lille3000でアーティスティックアドバイザーおよびエキシビションキュレーターを務めるCaroline Davidさんです。彼女にヤンマーと共通するサステナブルへの思い、そして展覧会のテーマについて聞きました。

Caroline David:lille3000は、リール市が2004年にヨーロッパ文化首都に選出されたことをきっかけに創設しました。リール市はかつて繊維産業が盛んな地域であったことから、テキスタイルの探求を目的とした展覧会シリーズ「Futurotextiles」を立ち上げ、世界各国でテキスタイル、デザイン、アートを融合した展示会を開催してきました。

立ち上げた当初は、全く新しい試みでした。産業または経済的な観点からテキスタイルを取り上げる施策はありましたが、私たちは、そもそもテキスタイルとは何かという根源的な問いに深くつながる斬新なテーマにチャレンジしたのです。当初、世間にどのように受け入れられるか、まったくの未知数でしたが、フタを開けて見れば、初回の展示は大成功に終わりました。それでも現在に至るまで継続して活動できるとは誰も想像していなかったと思います。

これまで世界30カ所以上で、35を超える展示を行ってきました。世界万博との関係も深く、上海、ミラノ、ドバイでこれまで開催しています。

多くの方々には、私たちと今回のパートナーであるヤンマーとの間に共通点が少ないように見えるかも知れません。私たちはテキスタイルを活動の主軸として、ファッション、アート、デザインといったジャンルを横断しています。一方、ヤンマーは農業機械、建設機械などを生業の中心とした日本を代表する産業機械メーカーです。しかし、基幹となる産業は異なるとしても、お互い人々の生活に深く浸透しており、だからこそ人々の行動変容を促し、より豊かで持続可能な社会をつくっていく役割を果たせると思っています。そこに両社のシナジーが生まれ、今回の開催に至ったのです。

「Futurotextiles 7」の展示は、三つのテーマから成り立っています。まずは、「自然・バイオソーシング」。合成繊維が主流となっていた時代を経て、いま本格的な復活を遂げようとしているリネンやヘンプ、イラクサなどの天然繊維のほか、コーヒーかすなどの再生可能資源や、バナナの木などの天然資源を用いたものなど、環境に優しいエコ素材に注目。これらを最先端のテクノロジーと融合した作品が中心となっています。また、環境に優しい人工繊維やバイオ素材を使った作品もご覧いただけます。

二つめは、「アップサイクル・リサイクル」。繊維産業は、世界でも有数の環境負荷の高い産業の一つ とされていますが、近年では「ユース&リユース」の考え方のもと、繊維のリサイクルや再活用といったサステナブルな取り組みがファッション業界で広がりを見せています。ここでは大量に廃棄される、特に合成繊維を含む古いテキスタイルを、新しい価値ある素材として再生しようとする試みを紹介しています。

最後が、「技術・伝統」。タペストリーや、繊細なレース、透明感のあるチュール、華やかなシルク、そして洗練された刺繍など、伝統的なクラフト技術を、革新的な技術と素材を組み合わせることで、過去と未来を巧みに結びつける展示をご覧いただけます。

織晴美さんの作品。大阪の街からインスピレーションを得て制作されたタペストリー(2階「アップサイクル・リサイクル」エリア)

“持続可能な”パートナーシップ

「来場者の反応は、私たちの想像以上に大きい」とポジティブな反響を素直に喜ぶCaroline Davidさん。長居公園は「食、スポーツ、アート、学び」をテーマにした緑豊かな都市公園であり、「美術館のような特別な場所ではなく、より多くの人たちが身近にアートを楽しんでほしい」という彼女の想いを余すことなく実現している点が「Futurotextiles 7」の成功に寄与しているのでしょう。

「A SUSTAINABLE FUTURE —テクノロジーで、新しい豊かさへ。—」を掲げるヤンマーが目指す“未来の豊かさ”とは、人と自然が共生する社会です。その実現のため、「人の可能性を信じ、挑戦を後押しする」ことで、ヤンマーは次世代のイノベーションを育んできました。このヤンマーの創業以来の姿勢は、まさに「Futurotextiles 7」がテキスタイルを自分たちのミッションとして推し進めてきた信念とも重なります。

最後に、今後の展望についてCaroline Davidさんに訊くと、「今回のFuturotextiles 7をきっかけに、ヤンマーとのコラボレーションを継続していきたい」とその意気込みを話してくれました。

そして、この確かな情熱は、土屋さん、海道さんがその胸に抱く想いとも深く共鳴しています。そう、彼らの視線はすでに次のステージへと向けられているのです。

Choi Jeong Hwaさんの作品。長居公園の豊かな自然環境が、展示されたアート作品の存在感と影響力を高めている

プロフィール

土屋 陽太郎 (つちや ようたろう)

ヤンマーホールディングス株式会社 マーケティング部デザイン部部長。世界的な工業デザイナー・奥山清行氏が主宰するKEN OKUYAMA DESIGN時代からヤンマーのトラクターデザインを手掛け、2019年に転籍。工業デザイナーとしてキャリアをスタートし、現在ではヤンマーが手掛けるデザイン全ての領域に関わる。

海道 未奈 (かいどう みな)

ヤンマーホールディングス株式会社マーケティング部デザイン部課長。「Futurotextiles 7」実施に向け、lille3000とのコミュニケーションなど重要な役割を担う。グラフィック、パッケージなど様々な分野でデザイナーとして活躍したのち、2016年にヤンマー入社。プロダクト、グラフィック、空間など多岐にわたりヤンマーのデザインに関わる。

「Futurotextiles 7」概要
開催日 :2025年4月12日(土)~7月31日(木)
開催時間:9:30~21:30
休館日:7月7日(月)、7月14日(月)、7月22日(火)、7月28日(月)
開催場所:長居公園 花と緑と自然の情報センター
入館料:無料
主催:lille3000
共催:ヤンマーホールディングス株式会社
WEBサイト:https://nagaipark.com/events/000233

※取材者の肩書・役職は取材当時のものです

 

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