2023.09.01

次世代アーティストの挑戦を後押し! メタバースも活用した「HANASAKA MURAL ART CONTEST」を開催!

ヤンマーは「ミューラル」のアート作品を募集する「HANASAKA MURAL ART CONTEST」を開催しました。

本コンテストは、大阪市東住吉区長居公園にある「ヨドコウ桜スタジアム」の北西エントランスに位置する横16.2m×縦3.55mのアスファルト製の壁「HANASAKA MURAL」に直描きする作品を一般公募した参加型コンテスト。2023年2月から4月の公募期間中、国内外から集まった24点から、金賞1作品、銀賞3作品が決定しました。金賞に輝いたKACさんの作品は現在「HANASAKA MURAL」で展示中。そのほか銀賞2作品は、これまでこの壁に描かれてきた歴代3作品ともにメタバース空間でバーチャル展示するという画期的な取り組みも実施しました。

受賞作品画像
<金賞に輝いたKACさんの受賞作品>

今回は、本コンテストの審査員を務められた、WALL SHARE株式会社 代表取締役の川添孝信さん、ライター・翻訳者の鈴木沓子さん、本コンテストの企画担当を務めるヤンマーホールディングス ブランド部の稲積 洸人さんにお話を伺いました。コンテストの内容や意義について、また「HANASAKA MURAL」の魅力や今後の展望について語っていただきました。

HANASAKA MURALの概要はこちら

取材者プロフィール

川添孝信(かわぞえ たかのぶ)
WALL SHARE株式会社 代表取締役。 学生時代より日本語のラップをきっかけにストリートカルチャーに親しむ。「日本にミューラルをもっと増やしたい」という思いから、2020年4月にWALL SHARE株式会社を設立。大阪市を拠点に各地で手がけたミューラルは100点を超える(2023年8月現在)。2020年には解体される神戸市役所でミューラルを展開する「神戸ミューラルアートプロジェクト」などまちづくりイベントも手がけ、新しい展開を目指している。

鈴木沓子(すずき とうこ)
ライター・翻訳者。アートや公共をテーマにした論考を数多く執筆。日本人記者として唯一バンクシーへのインタビューしたほか、テレビ『世界一受けたい授業』や『美の巨人たち』の出演や、雑誌『美術手帖』や『BRUTUS』で解説を行う。共訳書に『バンクシー 壁に隠れた男の正体』、『ブラッククランズマン』(パルコ出版)、『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)ほか。

稲積 洸人(いなづみ こうと)
ヤンマーホールディングス株式会社 ブランド部 コーポレートブランド室所属。 「HANASAKA MURAL ART CONTEST」の企画・運営を担当。

すべてのアーティストに活躍の場を提供する
「HANASAKA MURAL ART CONTEST」

本コンテストの企画・実行を担当した稲積洸人さん(ヤンマーホールディングス)
<本コンテストの企画・実行を担当した稲積洸人さん(ヤンマーホールディングス)>

−「HANASAKA MURAL ART CONTEST」を開催した背景を教えてください。

稲積:ヤンマーでは2022年4月から、「ヨドコウ桜スタジアム」の壁面を活用した「HANASAKA MURAL」プロジェクトを始動しました。「アートをもっと身近に」という想いのもと、これまで3名のアーティストに描いていただいた他、子どもたちとのワークショップを実施するなど様々な取り組みを行ってきました。

そしてこのたび、プロやアマチュアという垣根を越えてすべてのアーティストたちに活躍の場を提供したいという想いから、「HANASAKA MURAL ART CONTEST」を開催しました。ミューラルとは、壁面をキャンバスに見立てて描くストリートアートの1つで、海外では豊かなまちづくりの手法として一般的になっています。

今回初めてのコンテスト開催となりましたが、24作品とたくさんのご応募をいただき、HANASAKA MURALに魅力を感じてくれているアーティストがこんなにいるんだと知り、嬉しかったです。

金賞受賞者には賞金50万円を贈呈し、「HANASAKA MURAL」に受賞作品を描いていただきました。また、大阪市が提供するメタバース空間「バーチャル大阪」内にあるヤンマーのアート空間も活用して、入賞作品を 「HANASAKA MURAL -VIRTUAL-」にも展示しました。

受賞作品以外に、過去に描いていただいた3作品もメタバース空間でアーカイブ化して公開し、皆さまに鑑賞していただけるようにしました。

メタバース上での展示の様子

コンテストを通じて考える、ミューラルの魅力と可能性

鈴木さん(左)と川添さん(右)

−コンテストを通じて感じたことなどあればお聞かせください。

川添:さまざまなジャンルのアーティストからたくさんの応募をいただいたことを大変嬉しく思います。年代も20代から50代まで幅広く、ミューラルに挑戦したいと思うアーティストがこれほど多くいることに、ミューラルの将来性を強く感じました。

どのアーティストの作品も、「HANASAKA MURAL」の壁に自分の表現をいかに掛け合わせようかと熟考して描いていることが伝わるものばかりでした。

審査の様子

鈴木:本当に幅広いジャンルの作品が集まりましたよね。改めて、ミューラルは自由だと思いました。同時に痛感したのは、下絵だけで作品を判断することの難しさです。実際の壁に描かれた時に、作品が周囲の風景とどのように混じり合って、どのような存在感を放つのかを考慮するため、事前に現地を視察させていただいて審査会に出席しました。

今回は審査委員が入賞作品を選考するコンテストという形式でしたが、ミューラルは本来、街の人が日々の生活の中で作品を観てもらう中で完成していくもの。先ほども自転車で通りかかった女の子が記念撮影をしていたり、子どもたちが集まってきて制作中のKACさんに質問する場面に遭遇しましたが、そうした過程の中で、もともとの下絵から完成作品には多少の変化が生じてくるのではないかと思います。作品の完成はもちろん、ここからどのような物語が街に生まれていくのかが楽しみです。

金賞受賞作品:KAC氏「FULL POWER」
<金賞受賞作品:KAC氏「FULL POWER」>

金賞受賞者 KAC氏

<プロフィール>広島県生まれ、兵庫県在住のミューラルアーティスト。キャラクターを得意とし、閃めきとキレのあるスプレー缶コントロールを武器にその手から勢い良く生まれるラインは奇想天外な世界観を持って壁に現われる。近年では多数のミューラルフェス、アートフェスに参加。また、ブランドロゴ、音楽アーティストのカバージャケットやアパレルデザインなど、様々なアーティスト、ブランドにアートワークを提供し、多方面に表現領域を広げ続けている。

<コメント>金賞をいただき、有名なアーティストたちも描いている「HANASAKA MURAL」の壁に、自分も描くことができると知った時は嬉しかったです。日本では規制などもあり描ける壁が少ないので、企業が支援をしてくれる「HANASAKA MURAL」の存在は貴重です。実際にたくさんの人が集まる中でミューラルを描かせてもらい、スタジアムの建物や空などロケーションも含めて、本当に「最高の壁」でした(笑)。

誰かに塗り替えられるミューラルは、自分のスタイルが大事です。次に描く人にとっても、そのアートを越したいと思ってもらえるような存在でありたいと考えます。壁を描くことで自分のアートが壁のような存在になり、誰かがその壁を超えて新たなアートを描いていく、そんなストロングで圧倒的な存在になりたいです。

世界のミューラルは何百メートルといった規模で描かれており、大きさが「正義」と言えます。1メートルでも1センチでも、誰にも負けない一番大きいミューラルを描くことが目標です。

街の空気と景観を変えるミューラルのパワーとは?

<本コンテストの審査員 川添孝信さん(株式会社WALL SHARE)>
<本コンテストの審査員 川添孝信さん(株式会社WALL SHARE)>

ミューラルの魅力についてお聞かせください。

稲積:ミューラルは、太陽の光の当たり具合や、外気温、雨風なども影響する、自然の中にあるアートだと感じます。いつも同じ状態ではない中で、アートを鑑賞できるのが魅力だと思います。

川添:ミューラルは何と言ってもその大きさが魅力なので、街に良い違和感を生み出すエネルギーにいつも衝撃を受けます。また、身近なアートである点も大きな魅力です。美術館へ行ったり絵画を購入したりしなくても、街の中に突如として現れるミューラルは、子どもからお年寄りまで、誰でも気軽にアートに触れるきっかけになると思います。

さらに、ミューラルは、描くまでのプロセスを届けられるアートでもあります。スプレー缶や筆で巨大な絵を描いている姿を見てもらい、地域の人とコミュニケーションを図れるのは素晴らしいことだと感じます。描いている最中に、子どもがお母さんを引き止めて見てくれたり、誰かが差し入れを持って来てくれたりするのは嬉しいですし、見る人も、作品が完成するまでのプロセスを知れる、良い体験になると思います。

<本コンテストの審査員 川添孝信さん(株式会社WALL SHARE)>
<本コンテストの審査員 鈴木沓子さん>

鈴木:都市公園の規制が年々厳しくなる中、長居公園という大きな都市公園でミューラルの一般公募が行われることは貴重な機会ですね。しかも応募作品の縛りやルールがほぼないという点に驚きました。

ミューラルに限らず、あらゆる「表現」は、作り手側の意図とは別の受け取り方をされるリスクが付きものです。そのため日本では公共の場所にひらかれた表現の場づくりはまだあまり広がっていない現状もあります。でも街の景観は放っておくとオフィスビルと広告とマンションに囲まれて、そこに住む人たちが自分たちの街だと感じられる場所が少なくなったり、息苦しくなりがち。

そんな中「HANASAKA MURAL」の実践は、街にひらかれた表現を支援し、市民による街づくりの社会実験を実践していくぞというヤンマーさんの熱い思いを感じました。

「人の可能性を信じ、挑戦を後押しする」
“HANASAKA MURAL”に受け継がれる創業精神

MURALを眺める審査員たちの様子

−「HANASAKA MURAL」に今後期待することは何ですか?

川添:「HANASAKA MURAL」は、その壁面の大きさはもちろん、スタジアムの背景がカッコ良く、道路や電車からもよく見える「最高の壁」です。今後もより多くのアーティストにチャレンジして欲しいですし、挑戦するアーティストが増えれば増えるほど、「HANASAKA MURAL」がより良いものになっていることの証になると思います。

鈴木:ぜひこれからも長い目で継続していただけると嬉しいです。街で生活する人が誰でも気軽に立ち寄れて、普段出会わない人との出会いやコミュニケーションが生まれたり、街づくりに参加できる場として、ミューラルは大きな可能性があると信じています。

稲積:これから描くアーティストと、過去に描いたアーティストへのリスペクトを高めていくことが大切だと考えます。「HANASAKA MURAL」は、2023年にあと2回書き替えられる予定です。「人の可能性を信じ、挑戦を後押しする」という、創業者から受け継がれているヤンマーの価値観「HANASAKA」活動の一つとして、今後もより一層、アーティストに「描きたい」と思っていただける壁となるように、「HANASAKA MURAL」の認知を高め、アーティストの活動を支援していきたいです。