2025.09.22

伝統を力に。ケベック州のメープルの森で育むサステナブルな林業

ヤンマーは、人がいつまでも豊かに暮らせること、自然がいつまでも豊かであり続けることの実現を目指し、世界中で様々なソリューションを提供しています。カナダでメープルシロップの生産に取り組む一家に、大切な森を守るための取り組みと、それを支えるヤンマーの技術についてお話を伺いました。

自然と伝統を守りながら生きていくということ

カナダにおいて、メープルシロップは単なる食品ではなく、国を象徴するシンボルです。ここケベック州の森では、年間4,300万本以上のサトウカエデの木に丁寧にタップ(樹液を採取するための道具)が取り付けられ、世界中の人々を魅了する甘いシロップが生み出されています。

世界のメープルシロップ供給量の72%以上を生産するこれらの森は、カナダの伝統と経済にとって欠かすことのできない存在です。しかし、その環境を維持するには、多大な配慮と管理が必要です。メープルシロップの生産は微妙なバランスの上に成り立っており、樹木の健康を保ちながら、地域の生物多様性を未来の世代へと引き継いでいかなければなりません。

職人気質のStéphane Larivièreさんは、メープルシロップ作りを生涯の仕事と考えています。父親のClaudeさんは、半世紀近く前にこの土地で樹液の採取を始め、伝統と環境保全に根ざした事業の礎を築いてきました。

「現代社会は、何かを得ることだけに目が向いているように感じます。しかし、このメープルの森では、受け取るだけでお返しをしないなどということは考えられません。この美しい土地を守りながら、その恵みを世界の人々と分かち合うことこそが、私の務めだと思っています」とStéphaneさんは語ります。

数千本ものサトウカエデの木の間に長いチューブを張り巡らせて、樹液を運ぶ

ごく限られた採取時期の中で、未来へとこの森をつなぐために

メープルシロップの採取時期は、春先のわずか4〜6週間と、ごく短期間です。森が雪に覆われているうちから、準備は始まります。約8,000本の木に手作業でタップ(蛇口)を取り付け、何キロにもわたって張り巡らされたチューブのネットワークの点検と補修を行い、メープルシロップ作りの中心である「シュガーシャック」と呼ばれる樹液を煮詰めるための小屋の準備を整えて、これから始まるシーズンに備えます。

父親のClaudeさんは、80歳を超えた今もシュガーシャックでの作業を手伝っています。また、妻のCélineさんは採取のシーズン中ずっとStéphaneさんを支え、この家族経営の事業になくてはならない存在です。

自然が採取時期の始まりを告げるころには、準備は整っています。夜の厳しい冷え込みが和らぎ、日中の気温が上昇して木々が目覚めると同時に作業が始まります。この森では、自然は恵みを与えてくれるだけでなく、共に働くパートナーでもあるのです。

「ここでは、自然のリズムに合わせて仕事をします」とStéphaneさんは言います。

森の管理もこの時期に行います。これは、Stéphaneさんが39年間続けている大切な仕事です。木々の点検を行い、作業道を整備し、外来種をコントロールすることで、在来の樹木が健やかに育つようにバランスを整えます。

「寿命を終えた木は、集めて燃料用の薪として活用します。成木の伐採は、若い側枝の成長を促すためです」とStéphaneさんは説明します。

Stéphaneさんにとって、森の健康を長く守っていくことは、メープルシロップ作りと切っても切り離せません。これは自然への最大限の配慮に根差した考え方であり、そこには環境を保護するために世界中が取り組むべき行動が反映されています。それはヤンマーが取り組む “循環する資源を基にした環境負荷フリー・GHGフリー企業”への挑戦「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」と同じ考えに基づいています。

「人が自然に干渉すると、たちまち生態系が乱れてしまいます。良くなるも悪くなるも、関わり方次第です」とStéphaneさんは語ります。

Larivière家の森とのつながり、そして森への敬意は、世代を超えて受け継がれている

「革新と持続可能性は相反するのではなく表裏一体」という考え方

採取を行うシーズンは短いものの、濃密な時間です。Larivière家は、伝統を守りながら、その一方で未来を見据えた製法を実践しています。Stéphaneさんは、これまでと変わらず敬意をもって森をケアする一方で、将来にわたって事業を続けていくためにテクノロジーを導入しているのです。

伝統的な製法では、金属製のバケツに樹液を集めていましたが、現在はチューブを森に張り巡らせて、数千本の木から採取した樹液を中央のタンクに運んでいます。これによって廃棄物や労力を減らすことができます。

「新しいテクノロジーに投資したことで、20年前に比べて生産量がほぼ倍に増えました」とStéphaneさんは言います。

Stéphaneさんにとって、革新と持続可能性は表裏一体です。すべての工程で、土地を守りながら、より作業を効率化することにこだわっています。この考え方が作業用機械を選ぶ際の指針となっており、その価値観と一致するという理由からヤンマーグループのYanmar Compact Equipmentとの関係が始まったといいます。

林業用に合わせてカスタマイズされたヤンマーの小型油圧ショベル「SV100-7」

自然を傷つけず、きめ細やかな作業を実践するために

Stéphaneさんが選んだのは、ヤンマーの油圧ショベル「SV100-7」。繊細さと厳しさを併せ持つ森林環境での作業に適した一台です。

森を守る上で大切なのは、きめ細やかに作業を行うことです。従来の林業機械を用いることは、木の根に損傷を与え、土壌をかき乱し、土地を傷つけてしまう可能性があります。しかし、SV100-7はコンパクトで機動性に優れているため、木々の間を比較的容易に移動することができ、不必要に森を傷つけることがない、とStéphaneさんは言います。

地面をさらに保護するために、Stéphaneさんは作業道に木の枝を敷き詰めることで、タイヤの接地時の衝撃を和らげています。数週間もすれば、地面は回復し始めます。草木はすぐに再生し、生態系が乱されることはありません。

ヤンマーは、静かで燃費の良い機械を提供することで、土地に負荷をかけることなく、生産と林業の課題を克服しようと取り組むStéphaneさんをサポートしています。

森の奥深く、厳しい状況下だからこそ求められる「信頼のテクノロジー」

ケベックの森林は、過酷で予測不能な気象条件にさらされています。冬には気温が-30°Cにまで下がり、夏には32°Cを超えることもあります。数週間のうちに22°Cもの気温差が生じることも珍しくありません。作業道は数日のうちに凍りつき、解けて、ぬかるみへと変わります。このような環境では、信頼性の高いテクノロジーや機械を用いることが何よりも重要になってきます。Stéphaneさんがヤンマーを信頼しているのはそのためです。

ケベックの厳しい自然条件に備えて、StéphaneさんのSV100-7には、部品の補強、保護ガードの追加、油圧系統の調整など、林業に特化した改良が加えられています。

丸太の運搬から作業道の整備まで、SV100-7はどんなに厳しい状況下でも力を発揮します。Stéphaneさんにとって、機械への信頼は決して譲れないものです。「機械の信頼性を心配する必要がないので、集中して作業できます」とStéphaneさんは話します。

Stéphaneさん(左)とClaudeさん(右)。親子で力を合わせて、森を傷つけないメープルシロップの製造に取り組んでいる

家族を結ぶ自然への想い、引き継がれる伝統

Larivière家のような家族にとって、メープルシロップ作りは生き方そのものです。このように、伝統、環境への配慮、革新を融合させることには、一家の価値観だけでなく、より大きなカナダの精神が反映されています。

広大な森林を有し、その保全に力を注ぐ中で、カナダの人々は自然界を守ることに深い責任を感じています。Stéphaneさんは言います。「カナダという国が環境保護の担い手として評価されていることを誇りに思います。自然と共生することで、誰もがその恩恵を受けられるのだということを理解しなければなりません」

Claudeさんは、一家の伝統を引き継いでいこうとしている息子の姿を誇らしげに見守っています。「Stéphaneが後を継いでくれることを心から誇りに思います。ケベックで受け継がれてきたメープルシロップ作りの伝統が長く続いていくことを願ってやみません」とClaudeさんは話します。

Stéphaneさんの息子は現在、アメリカの大規模なメープル農園で働いており、経験を積んだ上で、帰国して家業を継ぐ予定です。「いずれは子どもたちにこの森を引き継いでもらいたい。父が私にしてくれたように、私も次の世代にこの森と、Larivière家のメープルシロップを伝えていきたいと考えています」とStéphaneさんは語ります。

Larivière家は、伝統に根ざしながらも、確かな眼差しで未来を見据え、環境への配慮と家族の価値観が調和した持続可能な社会の実現に貢献しています。この家族のあり方は、大地、海、都市、そしてカナダのメープルの森の中心でーー世界のあらゆる場所でヤンマーが掲げるブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE ― テクノロジーで、新しい豊かさへ。―」と深く共鳴しています。

 

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