2017.10.25

作業性能を向上し燃費を低減、省エネを実現した新油圧システム「ViPPS2i」

新油圧システム「ViPPS2i」は、緻密な計算と現場の声をもとに開発することでエンジンの負荷低減に加え、油圧ポンプのロス低減を実現。このシステムにより従来機と同等以上の作業性能を確保し、燃費を20%低減しました。今回は、同システムの開発に尽力したメンバーに取材を行いました。お話を伺ったのは、ヤンマー建機から清野さん・松山さん・白水さん・川上さんの4名。8tクラスでは業界初となる新油圧システムを生み出した技術力に迫ります。

清野 英樹
ヤンマー建機 開発部 設計部 設計第2グループ

1990年入社。入社当時から現在まで、一貫してバックホーの設計・開発に従事。今回のプロジェクトでは、リーダーとして全体の取りまとめと進捗管理を担当。

松山 博志
ヤンマー建機 開発部 設計部 電装・油圧グループ

1999年入社。中央研究所で、農機トランスミッションの開発や建機の省エネ化などを担当。ヤンマーR&D戦略部を経てヤンマー建機に異動。主に油圧の設計を手掛ける。

白水 崇之
ヤンマー建機 開発部 設計部 電装・油圧グループ

2000年入社。中央研究所で、さまざまな商品のコントローラーの研究開発に従事した後、ヤンマー建機に異動。コントローラーやハーネス設計を担当。

川上 聡
ヤンマー建機 開発部 試験グループ 試験二係

2014年入社。入社以来、試験グループで実機評価を担当。今回のプロジェクトでも、新たな評価基準や試験項目の設定に尽力。

独自の油圧システムで三ツ星評価を獲得

今年5月に発売した新型バックホーViO80-1Bは、国土交通省の燃費基準達成建設機械認定制度の基準を100%達成し、三ツ星評価を獲得しました。この基準達成に大きく貢献したのが、新油圧システムViPPS2iです。先行開発がスタートしたのは、工業界全体で省エネ化が進み、建機でも低燃費の認定制度が検討され始めた頃でした。ヤンマー建機は中央研究所と連携し、「省エネの建機とは何か」というところから検討を開始。従来機と同等以上の仕事をこなしたうえで、低燃費を実現するさまざまなシステムを比較した結果、ViPPS2iのコア技術である「2ポンプ独立ロードセシングシステム」に的を絞り、商品開発がスタートしました。

低燃費を実現する「2ポンプ独立LSシステム」

「2ポンプ独立ロードセシングシステム」の特長は大きく分けて2つ。一つはロードセンシング(LS)による油の流量制御です。従来の油圧システムは、作業の多少にかかわらずポンプが常に最大流量の油を吐出しており、その一部で仕事を行い、仕事をしない余剰分の油はタンクに戻す仕組みでした。その余剰流量をなくすために取り入れたのがLS制御です。

コントローラー開発担当の白水さんは、こう語ります。

従来機と違い、ViPPS2iは油を送り出すポンプ側と油を受けるシリンダー内の圧力差を、LS弁という装置を使って一定に保つ負荷制御を行うため、手元のレバー操作で作業に必要な流量とポンプ吐出流量を同期できるので、余剰流量によるロスが低減できます。

さらに、もう一つは、独立した2つの油圧ポンプを個別に制御する技術です。

従来は、走行、旋回、掘削などの動作を複数のポンプの流量を合流することでまかなっていたため、その動作で動くシリンダーの最大圧力に合わせて油を吐出していました。ViPPS2iでは、主要なシリンダーを2つのポンプに振り分け、各作業負荷に合った圧力での作動が可能です。

と、語るのは設計担当の松山さん。

アームとブームなど、違う圧力で同時に動かす頻度の高いシリンダーを別のポンプで制御し、双方を適正な圧力で動かすことができます。この2つの技術の組み合わせで、従来機と同等以上の作業性能を確保したまま、20%の燃費低減を実現しました。

評価を重ね、最適な油圧システムを確立

8tクラスのバックホーでは業界初の試みで、ヤンマーとしても初めて手掛ける油圧システム。それだけに、開発は苦労の連続でした。特に困難だったのが、さまざまな性能の評価。試験担当の川上さんは、当時の様子をこう振り返ります。

ポンプが2つになったとはいえ、ポンプ単体は複数の動作を担います。複合動作時に、操作性が悪くならないよう、流量のバランスを取る必要がありました。従来の試験のノウハウが通用しないなか、油圧のマッチングには相当苦労しました。

性能、強度、耐久試験など多くの評価を重ね、開発を進めました。

開発を指揮した清野さんは、

8t クラスでは、どこにも負けないバックホーが完成しました。ただ、われわれだけの力で成し得たものではありません。中央研究所をはじめ、営業の皆さんなど、他部門の協力があったからです。今は感謝しかありません。

と、語りました。

 

まさに、オールヤンマーでつくりあげたViO80-1B。8tクラスを代表するバックホーとなる日も、そう遠くはないでしょう。