なぜヤンマーがロボティクスか? Vol.03 宇宙飛行士・山崎直子さんが取材 -最先端の高性能・農業技術-

山崎直子(やまざき・なおこ)
1970年千葉県生まれ。東京大学大学院航空宇宙工学専攻修士課程修了。2006年にアメリカ航空宇宙局(NASA)の搭乗運用技術者に認定され、10年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗した。向井千秋さんに次ぐ2人目の日本人女性宇宙飛行士。現在、女子美術大学などで教壇に立ち、また日本宇宙少年団(YAC)のアドバイザーなど宇宙教育活動を通じ、宇宙での経験を若い人たちに伝えている。

ROBOT TRACTOR

作業したい農地の範囲・形状を登録しタブレット端末で作業内容などを設定すると必要な経路が自動的に生成。スタート位置にトラクターを持っていきスタートボタンを押せば走行開始。

タブレット端末で自動走行トラクターを操縦

▲ 松本圭司さん/ヤンマー中央研究所 主幹技師

山崎:先ほどカッコいいトラクターを拝見しました。そのトラクターをロボット化した背景を教えてください。

 

松本:現在、農家の減少により1人で耕さなくてはならない農地面積が拡大しており、農作業の負担が非常に大きくなっています。そこで、熟練者でなくても正確に効率よく作業ができるようにと開発しているのがロボットトラクターです。タブレット端末でコントロールできるんですよ。通常のトラクターを操作しながら、タブレットでロボットトラクターの動きを監視することもできます。1人で2台のトラクターを扱えるので効率的。2018年秋ごろの発売を目指し開発を進めているところです。

 

山崎:無人走行になるとセンサー技術が重要になりますね。ヤンマーさんが開発されたのですか。

 

松本:はい。既存のセンサーは非常に高価だったので、オプションで追加するとトラクターが倍くらいの値段になってしまいます。そこで独自開発しました。農家の方の作業レベルと同程度の精度を実現するには、トラクターの位置を数cmの精度で計測できなくてはなりません。非常に苦労しました。

 

山崎:ロボットトラクターで受信するシグナルはアメリカのGPSですか。

 

松本:シグナルはアメリカのGPSとロシアのGLONASS、それから日本の準天頂衛星システム「みちびき」も利用しています。

使う人に寄り添い、コミュニケーション重ね開発

▲「スペースシャトルでは、星と星との角度や、太陽や地球の位置を見ながら自分たちのいる位置を割り出したりもするんですよ。星を頼りにした昔の航海のようでもありますね」(山崎さん)

山崎:開発の際、どんな技術を搭載するか、使う人の要望を聞くことがとても大事だと思います。宇宙船も、開発段階から地上で試験しユーザーである私たち宇宙飛行士が開発者にコメントを伝えるんですよ。例えば、私が宇宙で操作を担当したロボットアーム。スペースシャトル用と国際宇宙ステーション(ISS)用、日本実験棟の大型の親アームと親アームに取り付けて詳細作業をする子アーム――いろいろな種類があります。しかも、カナダ製、日本製など製造国も異なるのです。そのため開発段階では、システムごとにスイッチのオン・オフの上下位置やスイッチの名称がバラバラだったりしました。そこで、感覚的に間違いやすい部分は標準化してほしいと要望を出したこともあります。

 

松本:必要だと思った機能も、農家の方に実際に使ってもらうと「いやいやこうじゃない。こうしたいんだ」と言っていただいたり、我々もいろいろなご意見をいただきながら開発を進めてきました。どれだけ技術や科学が発展しても、コミュニケーションを重ねながら、人が人のためにつくっていくという考え方は変わりませんね。

 

山崎:自動化できるところは自動化しつつ、でも、収穫する喜びや労働の喜びなど効率だけでは測れない価値もありますね。スペースシャトルもコロンビア号の事故を受け自動操縦技術が導入され、その後は打ち上げから着陸まで技術的にはシステムが正常であれば自動化できていました。ただそれでも、着陸のときの最後のマッハ1前後くらいからは船長が操縦かんを握るんですよ。船長の意気込みを尊重する部分を残しているんですね。機械の進歩とともに人とのインタラクションが変わる。お互いに安心できるところに落ち着くのだと思います。

REMOTE SENSING

カメラはコニカミノルタ製。天候や太陽高度による光の変化に対し、独自の解析技術を駆使した画像補正によって、高精度な作物の生育状態を検出できる。

ドローンでセンシング、データ活用し無人ヘリで防除作業

▲ 長田真陽さん/ヤンマーヘリ&アグリ 常務取締役

山崎:ドローンと無人ヘリも拝見しました。農業の現場でどのように活躍しているのですか。

 

長田:我々は無人ヘリによる防除作業(肥料などをまく作業)を事業として行っています。現在、日本の田んぼの約45%(60万ha)で無人ヘリによる防除作業が行われているんです。我々は、このヘリにカメラを付けたら稲の生育状況も分かるのではないか――と考え、試行錯誤を重ねました。その結果、コニカミノルタさんが開発した特殊カメラを搭載したドローンによるリモートセンシングと、そのデータを活用し自動的に肥料の散布量を制御する可変施肥機の開発に至りました。空中から肥料の量をコントロールする機械の開発は世界に先駆けた取り組みなんですよ。

 

山崎:ヘリや人工衛星によるセンシング技術もありますね。違いは何でしょう。

 

山村:一般的なヘリだとローターの風で稲が倒れてしまいうまく撮影できません。衛星は雲があると撮れないという欠点がありますし、一般的な衛星からの撮影では認識できる最小単位が10m×10mくらいの幅です。我々のドローンは3cm×3cmで認識可能で、茎単位くらいの詳細な分析ができます。

 

長田:水稲栽培は年に1度しかデータが取れませんが、これまでベテラン農家が持っていたいろいろな栽培プロセスデータが蓄積できる意義はとても大きい。ノウハウを次の世代に伝えられます。

 

山崎:カメラやセンサーで取ったデータは、多分それだけでは価値あるものになりません。データを農家のベテランと一緒に見て分析し、初めて意味のあるデータになる。共同作業が大事なのでしょうね。

 

長田:その通りです。我々も取得したデータを基に3年間実証実験を行い、日本の農業現場で使える技術にすることができました。データ解析の分野はコニカミノルタ、栽培ソリューションの分野はヤンマーが受け持ち、農家の皆さんの意見を聞きながら進めてきました。今後は水稲が盛んな東南アジアなどにも広げていきたいですし、イネ科の植物以外にも応用していきたいですね。

時速20kmで飛びながら1m単位で散布量調整

▲ 山村知之さん/ファームアイ アシスタントマネージャー

長田:また、空から肥料をまきますので作物を傷めることなく収穫量の向上にもつながります。ヘリは時速20kmほどで飛び、5m幅で肥料をまいていきます。飛びながら1m単位で生育状況に応じて散布量を調整します。人間が操縦するので速度や高度が変わることもあるのですが、それも計算に入れ適切な量をまくことができるんです。

 

山崎:時速20kmで1mということは、コンマ何秒で制御されている。しかも地上で――。ISSやスペースシャトルもいろいろ制御しながら、秒速8km、マッハ25くらいで飛んでいます。スピードとしてものすごく速くても、宇宙には空気はほとんどありませんし風のかく乱もない。空気や風の影響を受ける自然環境の中で動くというのは、すばらしい技術だと思います。

 

松本:ありがとうございます。これからこの方法はますます有効になっていくと考えています。数年前の航空機製造事業法の改正で重量制限が緩和され、より多くの肥料を搭載できるようになりました。これにより作業効率が向上するだけでなく、さまざまな農業資材を搭載できることで畑作や野菜などいろいろな方面で展開できる環境になったと期待しています。

山崎:宇宙開発の分野でも、一昨年宇宙活動法が制定され民間の事業体が独自にロケットや人工衛星をつくり打ち上げられるようになりました。法整備されたことで、日本の宇宙開発が加速するのではと楽しみにしています。

食料自給率が上がれば、宇宙がもっと身近に

山崎:世界的に人口が増えていくなか食糧の生産効率を上げなくてはいけませんから、最先端の農業技術には大いに期待が集まりますね。今、ISS内部では、レタスなどの青菜系や大豆などを水耕栽培で育てていますが、今後宇宙でも火星移住計画が本格的に進むと、映画で描かれていたように火星の土壌でジャガイモをつくるようになるかもしれません。そんな時にも、ヤンマーさんの技術が活躍しそうです。

 

松本:まずは、地球に住む我々の営みのベースになる食糧生産やエネルギー変換の分野で、安心して暮らせる世界を目指していきたい。ヤンマーが掲げる「A SUSTAINABLE FUTURE(ASF)」にはそういう思いが込められています。今後もその実現に向けフィールドロボティクスの開発を進めていきたいと思います。

 

山崎:ISSには既に、いわゆる旅行者が7人滞在しているんですよ。今後宇宙にも多くの人が行くようになると、持続可能性が非常に大切になります。エネルギーと空気はかなりリサイクルできていますが、水のリサイクル率はまだ60%。食べ物は地上からの補給にほぼ100%頼っています。ヤンマーさんが取り組んでいる食の面での持続可能性を、いずれは宇宙にも広げていっていただけるとうれしいです。そうすれば、多くの人が宇宙に行きやすくなると期待しています。

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