2017.01.25

木場弘子が見た! ヤンマーの真の姿とは  Vol.1 技術統括役員 苅田広に迫る

木場:こんなにエネルギーに貢献する企業だったのですね
苅田:エネルギー源のあるべき姿は、存在を感じさせないことです

農業機械で名高いヤンマーの原点は、1933年に創業者・山岡孫吉が世界で初めて小型ディーゼルエンジンの実用化に成功したことにある。以来「燃料報国」を原点に事業を拡大。その領域は多岐にわたる。2012年には創業100周年を迎え、先ごろ新しいブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE(ASF)」を掲げた。ヤンマーの目指すべき社会とは、それを裏付ける同社の技術力とは、ASFに込められた思いとは――。フリーキャスターでエネルギー・環境問題に造詣が深い木場弘子氏が、ヤンマーの真の姿を3回にわたり探る。第1回は同社の技術統括役員・苅田広氏に迫った。

 


100年先を見据え、「ヤン坊マー坊」から脱却

木場:「ヤン坊マー坊天気予報」は子どものころから見ていました。ただ残念ながらヤンマーさんというと、あの天気予報と農業機械のイメージしかないのですが、実は多岐にわたる事業を展開していらっしゃるのですね。

苅田:「ヤン坊マー坊」の歌詞には「農家の機械はみなヤンマー。漁船のエンジンみなヤンマー。ディーゼル発電、ディーゼルポンプ、建設工事もみなヤンマー」とあるんですよ。CMではこの箇所が割愛されていることもあり、どうしてもトラクターを中心に農業機械のイメージが強かった。ただ2014年に提供を終了するまでの数年間は地方局でしか放映していなかったので、当社の新入社員でもヤン坊マー坊を知っているのは2割くらいしかいません。一方、欧米ではヨットやプレジャーボートなど主にマリン事業を展開してきたのでマリンエンジンメーカーのイメージが強いんです。

そこで100周年を機に、グローバルで統一したイメージをつくりブランド価値を高め、より有利にビジネスを展開することが重要だと考えました。ブランドステートメントもこのたび見直し「A SUSTAINABLE FUTURE(ASF)」に変更しました。具体的には、我々が思い描く理想の社会を「省エネルギーな暮らしを実現する社会」「安心して仕事・生活ができる社会」「食の恵みを安心して享受できる社会」「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会」の4つにまとめています。

木場:得意分野をきちんと押さえながら、「ワクワク」という視点を入れている点が素晴らしい。企業としての遊び心が感じられます。100年の実績と自信、その上で次の100年を目指す。そうした意気込みが伝わってきます。

ディーゼルを核に事業を多角化。根幹は揺るがず

苅田:これまで事業を続けてきた過程で、ディーゼルエンジンを核に農業分野、建設分野などへ派生させていますが、事業の根幹は何一つ揺らいでいません。こういう会社はそんなにないかもしれませんね。

木場:本当にそうですね。ヤンマーさんが、ガソリンエンジンではなくディーゼルエンジンにこだわってきた理由は何でしょう。

苅田:初代社長がドイツの産業見本市でディーゼルエンジンの記録映画を見て、小型化すれば日本の農業・漁業に貢献できると強い信念を抱いて帰国。世界中どのメーカーも実現していなかった小型化を、1年半足らずで世界で初めて実現しました。我々技術者にとっては少し頭の痛いエピソードではありますけれど(笑)。

ディーゼルエンジンの特徴は、効率が良く力強いこと。初代社長は「燃料報国」をビジョンに掲げ、燃料を一滴も無駄にせず国や人々の豊かさに貢献したいと考えていましたから、理にかなったエンジンだったわけです。C重油や残渣(ざんさ)油といった多様な燃料が使えるので、コストを抑えられるし、取り扱いの面でも簡単に揮発しないなどガソリンに比べずっと安全で便利です。だから、農業機械、建設機械、ほとんどの船のエンジンにディーゼルエンジンが使われています。

木場:一時期、ディーゼル車の排ガスが問題になったこともありましたが、クリーンなディーゼル車の登場で、ヨーロッパでは特に普及が進んでいますね。

苅田:そのとおりです。重い、うるさい、排ガスが汚いとよく言われますが、最新技術を搭載したディーゼル車ならガソリン車に比べ遜色ありません。今は黒い煙をもくもくさせて走っているトラックなんて見かけませんよね。これからも技術革新によって欠点を打ち消し、もっともっとディーゼルエンジンの活躍の場を広げていきたいと思っています。

効率良く使うだけでなく「創る」も含め最適にマネジメント

木場:最近、注力されているエネルギー事業は、どのような経緯からスタートしたのですか。ちょっと意外な感じを受けました。

苅田:ヤンマーは船の発電用エンジンも製造しており、外航船では世界トップクラスのシェアを誇ります。これを陸にも広げたいと、まず離島に発電用エンジンを設置したのがエネルギー供給ビジネスの始まりです。現在、こうした実績と技術を基にさまざまなエネルギー関連事業を強力に推進しています。

一般財団法人 コージェネレーション・エネルギー高度利用センターの資料より

その1つがコージェネレーションです。燃料から電気をつくるだけだと効率は40%くらいですが、同時に排熱をお湯や蒸気に利用することで効率は70~85%程度に上がります。弊社はガスヒートポンプ事業も手がけており、冷熱も扱えるので、電気と温熱、冷熱の3つを総合したエネルギーシステムを事業の大きな柱の一つにしていこうと考えたのです。

既に、蒸気を必要とする工場、お湯を大量に使用する病院やホテルなどで弊社のコージェネシステムが導入されています。現在、最新の技術を使ってさらなる高効率化を目指しています。実は南極の昭和基地にも1984年から弊社の製品が導入され、照明や通信機器等の電気と、給湯や暖房の温熱を供給しているんです。今でも毎年1名のエンジニアが越冬隊に加わっています。

木場:電気がないと命に関わる南極で活躍する発電機。素晴らしい耐久性と信頼性です。ヤンマーさんの新社屋もさまざまな発電方法がミックスされていますね。コージェネレーション、風力発電、太陽光や、バイオ発電――。経済産業省の提唱するベストミックスがこのビル1棟で成立しているようです。

苅田:新社屋は創業100周年を機に建て替え2014年に完成しました。エネルギーの技術・システムに関するヤンマーのショーケース的な存在で、今後も新しい技術を取り入れていく予定です。エネルギーをいかに効率良く使うかという観点だけではなく弊社は「創る」ことを含め、それらをつないで最適にマネジメントする仕組みづくりにも力を入れています。そうすることで、弊社のテクノロジーコンセプト「最大の豊かさを、最少の資源で実現する」を具現化できると信じています。

「豊かさ」のためにこそテクノロジーはある

木場:御社の戦略や理念には「豊かさ」という言葉がよく出てきます。豊かさを切り捨てて環境のために我慢するのではなく、豊かさを根底に置いているところがいいなぁと思いました。ヤンマーさんが描く未来は、どんな社会でしょう。

苅田:例えば、電気について考えてみてください。日本は電力網が充実していますから、その恩恵に気づくことはあまりないかもしれません。でも世界を見回すと、電力網が発達していない国はたくさんあります。そんな場所に発電機を供給するなど、我々が持っている技術を提供していきたい。切れたり止まったりしない電気、壁の向こう側でエンジンが回っていても気づかないほど静かで排ガスも出ない――。こんなふうに存在を感じさせないことが、エネルギー源のあるべき姿だと思っています。

ブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE」において「テクノロジーで、新しい豊かさへ」とうたっているとおり、我々は100年先の未来を見据え、人と自然の豊かさの両立を第一に考えています。これからも、お客さまに喜ばれる技術やシステムを開発し提供していきたいですね。

木場:「豊かさ」のためにこそテクノロジーはある。素晴らしい考え方だと思います。今日は貴重なお話ありがとうございました。

 


インタビューを終えて

ヤンマーさんが、こんなにもエネルギーに貢献している企業だとは知りませんでした。省エネだけではなく創エネまで! 100年の歴史に裏打ちされた私たちが知らない素晴らしい技術がまだまだありそうです。次回はヤンマーの誇る技術力をさらに深堀りしてみたいと思います。木場がどこまで探訪できるか。お楽しみに。

PROFILE

ヤンマー株式会社
専務取締役 研究開発ユニット長
苅田 広
1976年ヤンマーディーゼル(株)に入社。2002年 取締役中央研究所長に就任後、2009年 専務取締役 R&D戦略部長 兼 中央研究所長を経て、2015年より専務取締役 研究開発ユニット長。

キャスター
木場弘子
1987年 TBS入社。同局初の女性スポーツキャスターとして『筑紫哲也ニュース23』などで活躍。1992年与田剛氏(現・楽天投手コーチ)との結婚を機にフリーランスに。経済産業省や国土交通省、環境省など8つの省庁で審議会に参加。エネルギー施設への取材多数。各界トップへのインタビューは300人を超える。千葉大学客員教授。

日本経済新聞 電子版広告特集
掲載期間:2016年7月25日~2016年12月31日

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