February 1st, 2017|A SUSTAINABLE FUTUREBASE

木場弘子が見た! ヤンマーの真の姿とは Vol.2 中央研究所を探訪

木場:製品開発には、使う人の気持ちに寄り添う視点が重要ですね
川建:お客様起点で「物」や「事」を捉え、期待以上の価値を生み出します

フリーキャスター木場弘子氏が、ヤンマーの真の姿を探る3回シリーズ第2回。創業理念「燃料報国」を原点に多様な事業を展開するヤンマーは、2012年に創業100周年を迎え、先ごろ、新しいブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE(ASF)」を掲げた。ヤンマーが目指すサステナブルな未来とは、それを実現するための同社の技術とは――。木場氏がヤンマー中央研究所を訪問、川建治所長はじめ研究所のメンバーに迫った。

 


地球規模の問題を解決し、省エネと豊かさを両立

木場:ヤンマーさんが掲げる「A SUSTAINABLE FUTURE(ASF)」では、具体的に4つの社会を目指していると伺いました。「省エネルギーな暮らしを実現する社会」「安心して仕事・生活ができる社会」「食の恵みを安心して享受できる社会」「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会」。このような社会を目指す背景を教えてください。

川建:「ASF」の背景は、地球規模での喫緊の課題です。世界的に人口が増加、しかも局所化する。それにともない食料需給のバランスが崩れる。今のままエネルギーを使い続けると枯渇する。それだけではなく地球環境が破壊される。ヤンマーはこれらの課題に密接に関わる事業を展開しています。そこで、次の100年に向け、我々にできることは何か、やるべきことは何かを徹底的に議論し、前述の4つの社会の実現こそが我々の使命だという結論に達したわけです。

「サステナブル」という言葉は、例えば「縮小社会」などの非常にストイックな印象を持たれます。しかし、既に豊かな生活を享受している我々は、生きるため、食べるために努力を重ねていた時代には戻れません。例えば、ヤンマーが1933年に世界初の小型ディーゼルエンジンの開発に成功した年、農業はある意味で「資源循環型」のエネルギー生産産業でした。しかし、労働生産性の向上を追求した結果、現在は、収穫される米のエネルギー量が、それを生産するために投入されるエネルギー量より少ない、エネルギー消費産業になっています。「農家の方々がより豊かな生活をおくりつつ、より多くの安全でおいしい食料を、安定的にかつ省エネで作る」、これが「ASF」の一つの姿です。人々の生活の質のさらなる向上と省エネルギーの両立が実現された社会、これこそが「ASF」だと考えています。

課題が解決するまでとことん追求。信頼性の担保も徹底的に

木場:省エネと豊かさは対極にあるように思えますが、その両立を実現するには、テクノロジーの進化が欠かせません。中央研究所の皆さんは、日々どのような思いで技術開発に取り組んでいますか。

宮本:私はディーゼルエンジンのコントローラ開発を主に担当してきました。コントローラはエンジンの部品の一つにすぎませんが、性能を決める重要な部品です。自前主義なところはありますが、実際のエンジンの動きを理解して開発するからこそ、商品の価値を最大限引き出せると思っています。エンジンだけでなく、トラクターやコンバインなど他の製品でも同様、実際の作業機の動作を考えてコントローラの開発ができることは、ヤンマーの強みですね。

末崎:入社して15年くらい、振動や騒音の研究を続けてきました。私だけではなく皆、より良い技術、より良い商品の提供のために、とことんまで突き詰めたいと思って実験を繰り返します。どうして壊れるのか、どうして燃費が向上しないのか――。解決するまであきらめずやり抜く気持ちが強いと思います。

南:以前、進んでいる技術があれば他社のものでも導入すればいいと思っている時期もありました。でも、ガスヒートポンプ(GHP)空調機の効率を高める研究開発をする過程で、やはり自分の手を動かし自分の頭で考えて納得するまで原理・現象を理解しないと上手くいかないと痛切に感じました。

川建:ヤンマーグループの中には、彼らのように、自分で理解し納得しなければ責任が持てないと考える社員がとても多いですね。特に信頼性に関しては、やり過ぎじゃないかというくらい頑張って徹底的に追求する企業風土があります。また、創業者の「燃料報国」という思想も脈々と息づいており、徹底的に省エネを追求するという意識もすごいです。これらは、「ASF」実現に向け、非常に強い武器になると感じています。一方で、とことんまで突き詰める熱い想いだけではなく、これまで以上に開発スピードをあげていくことも重要です。社員の想いや恵まれた環境を維持しつつ、どのようにスピードアップするかは、研究所の大きな課題です。

ロボティクス、バイオテクノロジーで農業効率上げる

(注)化石エネルギー依存度(%)=(一次エネルギー供給のうち原油・石油製品、石炭、天然ガスの供給)/(一次エネルギー供給)×100。
出典:IEA「Energy Balances of OECD Countries 2015 Edition」、「Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 Edition」を基に作成

木場:「燃料報国」の精神は、現在のテクノロジーコンセプト「最大の豊かさを、最少の資源で実現する」につながっているのですね。世界的なエネルギー問題の解決に向け、ヤンマーはどのような開発を進めていますか。

川建:一つの大きな柱は、やはりディーゼルエンジンです。現在の我々の生活は、化石燃料、特に石油に大きく依存しています。そして、この状況はしばらく続くでしょう。その中で、軽油のような上質な油から、バンカーオイルと呼ばれる非常に低質の油まで、掘り出した原油のほとんどを燃料として使えるディーゼルエンジンの進化は、省エネ社会実現のキーワードの一つだと考えています。

木場:海外ではより環境負荷の小さいディーゼルエンジンが見直されているようですね。日本国内でもっと認識してもらうことはとても大事。液化天然ガス(LNG)について言えば、世界の3分の1を日本が輸入している状況です。LNGも石油も買えているうちはいいですが、売ってもらえなくなったらどうするのか。海外に依存するのではなく、自分の足で立つことを考えないといけません。

川建:中長期的にみると、「エネルギーの多様化」と「ローカルエリアエネルギーネットワーク」が、キーワードだと考えています。バイオ燃料の積極的な利用や、捨てている熱を有効に利用する研究、あるいは水素社会を視野に入れた研究にも力を入れていきます。そして、ディーゼルエンジンやガスエンジンを柱にした、コージェネレーションや排熱利用機器など種々の省エネ機器を組み合わせて構築する「ローカルエリアエネルギーネットワーク」への取り組みも欠かせません。

木場:捨ててしまっているエネルギーを活用したり、余ったエネルギーを融通し合ったり。「天の恵みを大事に使います」という発想ですね。一方、食料問題には御社のどのような技術が生かされますか。この分野も期待される分野ですね。

川建:一つは、「ロボティクス」ですね。今は、農業機械の自律走行技術の開発に取り組んでいますが、これだけでも、農作業の省力化、高能率化に大きく貢献できるものです。今後は、これまではお客様の道具だった農業機械を、お客様の手となり、足となり、目となり、鼻となり、耳となる、お客様のパートナーとしての農業機械=ロボットを目指していきたいと考えています。

二つ目は、「バイオテクノロジー」です。穀物、野菜、果実、畜産物、水産物などをいかに省エネでおいしく安全に安定的に育てるのか、この鍵を握るのがバイオテクノロジーです。これらの成長を決定する因子は、日照時間、気温、湿度、栄養分、病害虫など非常に多岐にわたります。現在、食料生産に携わっておられる方々は、ご自身の過去の経験をベースに、よりおいしい食料をよりたくさん作る努力を続けておられます。いわゆるノウハウです。しかし、例えば稲作に50年間従事されてきた方の経験は50回です。これは、成長を左右する非常に多くの因子の組み合わせに比較すると、決して多いとは言えません。我々はバイオテクノロジーの技術を積極的に活用し、これに今世間で注目されているあらゆる物がネットにつながる「IoT」の技術を組み合わせ、それぞれの作物や蓄水産物に最適かつ省エネな生育環境制御技術の開発に取り組んでいきます。長期的には、より生産効率の高い品種の開発などにも取り組む必要があるかもしれません。

真似することができないアナログ技術

木場:人口減少、少子高齢化による労働力不足はますます深刻になります。力がない女性や高齢者、初心者でもベテランと同じように作物をつくれれば、農業全体の底上げができる。時代に即し、御社が持っている技術を一工夫することで、より一層社会に貢献できそうですね。研究所の役割はますます大きくなるのではないでしょうか。

川建:ヤンマーが掲げた「ASF」は、ヤンマー単独の力では実現できないものです。しかし、これを掲げるのはヤンマーの使命だと考えています。そのなかで、研究所の役割の一つは、「ASF」実現に向けた具体的な提案を、ヤンマーグループ内、そして世界に発信し、起点になることだと考えています。我々の発信を受けて、社内外の色々な職種や人種の人たちがディスカッションする。そして、我々のもう一つの役割は、ディスカッションの結果を確実にお客様に届けるための技術を、社内外の同じ想いの人々と協力して開発することです。「ASF」、必ず実現したいですね。

木場:新しい農業の象徴として2013年に発表したコンセプトトラクター「YTシリーズ」のストーリーは非常に感動的でした。トラクターの運転席をオフィスにいるようなワクワクする居住空間にデザインするなんて! 製品開発には、使う人の気持ちに寄り添う視点が重要なのですね。

川建:産業用エンジン、農業機械、建設機械など、ヤンマーの製品の多くは、お客様のビジネスの道具です。そしてそれらは、我々の日常生活では、ほとんど接する機会が無いものです。ここに我々の研究開発の大きな難しさがあります。最近よく「モノづくりからコトづくり」という言葉を耳にしますが、我々にとってもこの言葉が持つ意味は非常に重要です。お客様が本当に必要としているものは、トラクターなのか? 普段自分が開発している製品にほとんど接する機会が無い我々にとって、この問いは非常に重く、お客様の期待以上の価値を生み出すために、お客様起点で「物」や「事」を捉える力を身につける必要があると実感しています。もちろん、道具が無ければ田んぼは耕せません。「物」があってこその「事」だと思います。この「物」づくりを支えているものは、アナログ技術です。ヤンマーの先人たちは、第三者が真似をすることができない非常に高いレベルのアナログ技術をつくりあげてきました。これはヤンマーの強みです。今後もこのアナログの技術を深化させつつ、本当にお客様の役に立つ「事」をつくっていきたいと思います。

木場:ほかにはないヤンマーの独自性、モノづくりへの自信と誇りを、しっかりと受け止めました。「ASF」実現に向けたさらなる技術革新、期待しています。

 


中央研究所を訪問して

中央研究所は、最先端の技術であふれ、ワクワクいたしました。大きなトラクターを相手に、あるいはモニターに映し出されたデータを凝視しながら、日々、課題解決に真剣に取り組み汗をかく皆さんの姿に、ヤンマーの研究者魂はしっかり受け継がれていることを実感いたしました。次回はいよいよ最終回。ヤンマーの真の姿にさらに深く迫ります。

PROFILE

キャスター
木場弘子
1987年 TBS入社。同局初の女性スポーツキャスターとして『筑紫哲也ニュース23』などで活躍。1992年与田剛氏(現・楽天投手コーチ)との結婚を機にフリーランスに。経済産業省や国土交通省、環境省など8つの省庁で審議会に参加。エネルギー施設への取材多数。各界トップへのインタビューは300人を超える。千葉大学客員教授。

日本経済新聞 電子版広告特集
掲載期間:2016年7月25日~2016年12月31日

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