Vol.4 肥沃な土壌とは(粘土について)

土壌を構成する3つの要素

土壌は、生物、腐植、鉱物の混合物です。
生物とは、植物の根や土壌動物(ダニ、ミミズ、線虫)、微生物(糸状菌、放線菌、細菌)などをいいます。
腐植とは、生物の遺体が長い年月をかけて様々な化学反応を受けてできた分解されにくい無定形で暗色の物資です。
そして、土壌から生物と腐植をすべて取り除いたものが鉱物です。

砂・シルト・粘土

土壌鉱物は、その大きさにより礫、砂、シルト、粘土の4種類に分類されます(図1)。

そして、直径2ミリ以上の礫を除いた砂・シルト・粘土3つの混ざり具合を「土性」といいます。土性は、国際法において(図2)のように定められています。

土性の簡易な判定法として、親指と人差し指で土壌をこすり合わせた感触で5段階に分類する方法があります(図3)。

(図1)土壌に含まれる鉱物の粒径区分(国際法)

(図2)三角図法による土性表示(国際法)
点線は砂35%、粘土30%の割合の土壌を示す。この場合軽埴土に分類される。

(図3)土性の簡易的な判定法

粘土の成り立ち

土壌鉱物は、その生成過程の違いで、砂やシルトなどの「一次鉱物」と粘土の「二次鉱物」に分類されます。

一次鉱物は、風や雨、温度変化により岩石が膨張収縮を繰り返し、割れ目にしみ込んだ水が凍結した結果、粉々になったりする物理的風化を受けたものをいいます。したがって、組成は岩石と変わりません。

一方、粘土などの二次鉱物は、岩石が炭酸ガスを含む酸性の水にさらされ、地熱などの化学的変化を受け、結晶化したものです。母岩を構成する鉱物元素の組成は様々ですが、その中で最も多い要素はアルミニウム(Al)とケイ素(Si)です(図5)。
粘土はこのアルミとケイ素が溶け出してできたもので、その構造はアルミニウムの八面体シートと、ケイ素の四面体シートが骨格となり、層状に重なっています(図6)。

(図4)粘土の生成過程

(図5)岩石の構成要素

(図6)粘土の構造

粘土の種類

(図7)に代表的な粘土の種類を示しました。粘土はアルミニウムとケイ酸のシートの組み合わせの違いで次の3種類に分類されます。

(図7)主要な粘土の構造(略図)と特徴

①1:1型粘土(カオリナイト・ハロイサイト)

まず、アルミニウムシートとケイ酸シートが1対1の割合で構成される粘土を「1:1型」といい、カオリナイト系とも呼ばれます。

②2:1型粘土(スメクタイト・モンモリロナイトなど)

1:1型に対してアルミニウムシートをケイ酸シート2つでサンドイッチ状になったものを「2:1型」といい、スメクタイト系とも呼ばれます。

③アロフェン・イモゴライト

アロフェンやイモゴライトは、主として火山灰土壌地帯に含まれる粘土です。その構造は、1:1型や2:1型のようなシート状ではなく、アルミニウムが外側、ケイ酸が内側になった中空の球形または円筒状をしています。

粘土だけが持つ養分吸着機能

(図8)スペンスの実験

19世紀半ばの英国では、肥料として利用する家畜ふん尿に硫酸を散布し、アンモニアの揮散を防止していました。
硫酸の散布によりできた硫酸アンモニウムが、雨水で地下へ流亡することを懸念した王立農学会のトンプソンは、薬剤師のスペンスにその検証を依頼しました(図8)。その結果、アンモニア成分が土壌に保持されることがわかりました。

その後、同学会の化学者ウェイは、土壌がアンモニア以外にもカリウム(K+)、マグネシウム(Mg2+)などの陽イオンも吸着すること、さらにこの機能は砂やシルトにはなく、粘土だけが持つことを明らかにしました。
この機能を「陽イオン交換反応」といい、粘土が陰イオンを帯びることに由来しています。

(図9)陽イオンの発生

粘土鉱物は、前述の「粘土の成り立ち」のようにアルミニウムシートとケイ酸シートでできており、基本的にはプラス・マイナス0で均衝を保っています。
しかし、粘土の結晶が生成される途中でアルミニウムシート(Al3+)の一部がマグネシウム(Mg2+)に置き換わる、あるいはケイ酸シート(Si4+)の一部がアルミニウムシート(Al3+)に置き換わると、陽イオンが不足することにより、粘土全体の電荷がマイナス(陰イオン)になります。
そのため、陽イオンを持つ他の養分(カルシウム、カリウム、マグネシウムなど)を吸着できるのです(図9)。

そして、その能力は、CEC(陽イオン交換容量)といわれ、CECが大きいほど、養分を多く蓄えられることを示します。
CECは、土壌の吸着養分の指標として用いられ、施肥設計を考える上での基礎となっています。
Vol.5では、このCECと養分について、解説します。

阿江 教治(あえ のりはる)

1975年 京都大学大学院農学研究科博士課程修了。
1975年 農林水産省入省。土壌と作物・肥料を専門に国内、インド、ブラジルなど、各国にて研究を行う。その後、農業環境技術研究所を経て、2004年神戸大学大学院農学研究科教授(土壌学担当)。
2010年退職。現在、酪農学園大学大学院酪農学研究科特任教授、ヤンマー営農技術アドバイザーをつとめる。

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