Vol.10 土壌中のカリウムを上手に使う

今回は作物のカリウム(以下カリ)の吸収と土壌との関係を紹介し、カリの減肥の可能性を提案します。

カリの働きと性質

カリは植物体を構成する元素ではありませんが、糖の移動に関係しているだけでなく、デンプンの製造(炭酸同化作用)、生長(タンパク質合成)、様々な生理活性物質(ビタミン類・抗酸化物質類)の生産など、植物の活動すべてに関係しています。無機イオンの形(K+)で土壌から吸収され、植物体内に入ってからも有機態へ変化することなく、大部分が水溶性の無機塩・有機酸塩の形で存在しています。そして、作物のカリ要求量や体内中の含有率は窒素と同程度かそれ以上です。
カリは施用しすぎると作物が「ぜいたく吸収」し、カルシウム、マグネシウムとの拮抗関係からこれらの欠乏症を引起します。しかし人為的に施用しないとどのようになるのでしょうか?長期連用試験(※)の結果から見ていきましょう。

  •  ※長期連用試験:何年も続けて同じ条件で栽培し、養分の(土壌・雨水・灌漑水などによる)天然供給量を把握する試験。作物固有の養分吸収能力も観察できます。「無カリ」は長年に渡り、全くカリを人為的に施用しない条件のことです。

カリを施さなくても米は獲れる!?

愛知県では1926年から窒素・リン酸・カリに石灰を加えた四要素の長期連用試験を行っています。
(図1)は80年以上も連続的に栽培された水稲の平均収量(玄米)です。無リン酸区や無窒素区は、四要素区の半分以下の収量ですが、無カリ区は四要素全て施用した区とほぼ同じ収量です。このことは、稲はカリを人為的に施用しなくても、自然環境から吸収できることを示唆しています。

(図1)四要素の長期連用試験(1926年~現在)での水稲玄米収量の平均値(1976~79年まで)

水稲におけるカリの天然供給源

では一体、稲はどこからカリを吸収するのでしょうか。まずは灌漑水が考えられます。愛知県の栽培試験に利用された明治用水中のカリ濃度の平均は1.00~1.52ppmで、灌漑水量が1300~1500トン/10aとすると、カリ吸収の約40%がこの灌漑水に由来します。そして残りの約60%は、土壌が供給源だと考えられます。
これに関連して土壌中のカリの存在形態をご紹介します。

①土壌中でのカリの形態

カリは土壌中で「交換性カリウム」「固定カリウム」「一次鉱物中のカリウム」の3つの形態をとります。
「交換性カリウム」は粘土のCECに吸着したカリウムイオン(K+)で、植物が吸収できる形態です。次に「固定カリウム」は粘土の結晶の層間にK+が取り込まれた状態で、これもゆっくりと作物に吸収されます。そして「一次鉱物中のカリウム」は鉱物を構成しているケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの元素が酸素原子(O)を通してカリ(K)と結合し、安定的に多量に存在します。これは「風化作用」で緩やかに溶け出します。

(表1)土壌中に存在するカリウムの形態とそのカリウムイオンへの溶解反応

土壌のカリウム カリウムの存在状態 土壌溶液(K+として)への交換速度
交換性カリウム
粘土の表面にあるCECに付着している。
瞬間的から数時間にかけて
固定カリウム
粘土の結晶の層間に取り込まれている。
数時間から数週間にかけて
一次鉱物中のカリウム
長石・雲母などの一次鉱物に含まれる。
結晶格子内の奥深くに位置し、強固に結合している。
ゆっくり地質的過程(年単位)

②一次鉱物を構成する元素

土壌に含まれている一次鉱物の代表的な組成を(図2)に示します。特に長石や雲母はカリの含有量が多い鉱物ですが、主としてケイ素、アルミニウムで構成されています。
すでに述べた灌漑水には、カリもケイ酸も多く含まれており、これらは一次鉱物から河川水へ溶け出したものです。

(図2)カリを含む一次鉱物の組成

連用試験での水稲のカリ吸収

(表2)は稲がカリを土壌鉱物から吸収することを示すデータで、①は各試験区の跡地土壌の交換性塩基量を示したものです。無カリ区の交換態カリは4.7kg/10aと最も低い値で、カリの残存量が少ないことを意味します。
〝無〞カリ区なので0ではないかと想定されますが僅かに検出されています。この値は一次鉱物から徐々に溶出する交換性カリウムと考えられます。

(表2)四要素の長期連用試験における土壌の交換性塩基の状態と、稲体が吸収した無機成分吸収量

試験区 pH
(H2O)
CEC
(meq/100g)
①交換性塩基(mg/100g) ②無機成分吸収量(kg/10a)
カルシウム
(CaO)
マグネシウム
(MgO)
カリ
(K2O)
窒素
(N)
リン酸
(P)
カリ
(K)
ケイ素
(Si)
無施用 5.3 6.9 78 8.1 6.6 2.3 0.52 2.7 15.2
石灰のみ 6.6 8.9 216 14.1 6.6 2.5 0.55 2.9 17.7
無窒素 6.1 8.9 168 18.1 10.8 3.1 0.66 4.5 25.6
無リン酸 6.0 7.9 151 18.1 11.8 4.9 0.38 5.0 23.4
無カリ 6.2 9.4 143 10.1 4.7 7.5 1.69 6.4 29.3
無石灰 4.6 8.4 67 6.0 9.4 7.4 1.79 8.0 23.7
四要素 5.8 8.7 132 14.1 7.5 7.0 1.64 8.6 26.8

【1980年、塩田らより】

また、(表2)の稲体が吸収する無機成分量②に着目すると、無カリ区の稲体のケイ素吸収量は29.3kg-Si/10aと7試験区中で一番大きな数字を示しています。すなわち無カリ区では、カリを土壌から吸収した上に、ケイ素も多く吸収しています。つまり稲の根が一次鉱物に働きかけ、主要なケイ素、アルミニウム、カリをはじめとする一次鉱物の構成元素を自由にし、カリを吸収したと考えられます。
この時、カリだけでなくケイ素もケイ酸として同時に溶け出しており、ケイ酸を同時に吸収しているため、無カリ区の稲のケイ素吸収量が多いと考えられます。
この能力は他の作物も持つのでしょうか?

畑作物のカリ吸収能力と作物別の違い

(表3)は、作物のカリ吸収能力、つまり作物が自ら土壌からカリを調達できる能力のデータです。小麦では、カリを施用しなくても必要量の72%を土壌から吸収しています。
大豆も同様に18kgの必要量に対し、69%のカリを利用しています。しかし、ジャガイモについては必要量の25kgのうち26%しか吸収できていません。この結果から、土壌由来のカリ吸収能力は作物の種類によって異なることが分かります。

(表3)三要素区の収量およびカリ要求量と、無カリ区のカリ吸収量

  三要素区 無カリ区
収量
(kg/10a)
カリ必要量①
(kg/10a)
カリ吸収量②
(kg/10a)
カリ吸収能力
(②/①)
水稲 596 15.7 14.6 93%
小麦 477 14.8 10.7 72%
大豆 296 18.0 12.4 69%
ジャガイモ 3640 25.4 6.6 26%

【千葉県、中村ら2001、杉山ら2002、農業環境技術研究所データから作成】

土壌診断とカリ減肥の可能性

現在の土壌診断では、酢酸アンモニウム溶液で土壌から抽出した「交換性カリ」の量で土壌中のカリの量を判断します。しかし、先に述べた実験結果から「一次鉱物のカリ」の吸収能力を持つ作物について、土壌のカリ供給量を「交換性カリ」で判定すると、過少評価することになります。つまり作物の土壌からの養分吸収能力を考慮し、分析値を「作物別の養分吸収能力」で補正して施肥設計する必要があるということです。
資源の有効活用という点からも、将来にはこのような作物の能力を考慮した細やかな土壌診断や施肥設計が行われることが期待されます。

阿江 教治(あえ のりはる)

1975年 京都大学大学院農学研究科博士課程修了。
1975年 農林水産省入省。土壌と作物・肥料を専門に国内、インド、ブラジルなど、各国にて研究を行う。その後、農業環境技術研究所を経て、2004年 神戸大学大学院農学研究科教授(土壌学担当)。
2010年 退職。現在、酪農学園大学大学院酪農学研究科特任教授、ヤンマー営農技術アドバイザーをつとめる。

深掘!土づくり考