2023.02.15

子どもたちの“自由な発想”をインスピレーションに。ヨドコウ桜スタジアムでアーティスト・JUN INOUEさんとワークショップを開催!

ヤンマーでは、誰もが気軽に楽しめるアートとして、2022年4月から「HANASAKA MURAL(ハナサカミューラル)」の取り組みを開始しました。これは、大阪市東住吉区長居公園にあるヨドコウ桜スタジアムの壁面(横16.2m×縦3.55m)にミューラル(壁画)を描くもの。

HANASAKA MURALは“人の可能性を信じる”“人の挑戦を後押しする”という創業者の精神やビジョンの根底にあるヤンマーの価値観「HANASAKA」の活動の一つです。

1年に3回の頻度で新たな作品を発表しながらアート文化を醸成、アーティストを応援することが目的です。

2022年12月18日には、アーティスト・JUN INOUEさん(以下、JUNさん)との「ワークショップ」が開催されました。子どもたちが自由な発想で色を選び、描いたラインからインスピレーションを受けて、JUNさんがアート作品として完成させるプロジェクトです。

ワークショップ当日は地元を中心に23人の子どもたちが参加し、大きな壁に絵を楽しんで描いていました。アーティストのJUNさん、本イベントの運営を担当したヤンマーホールディングス株式会社 ブランド部 コーポレートブランド室の宮本紗綾さんに、当日の様子や作品への想いをお伺いしました。

取材者プロフィール
JUN INOUE(じゅん いのうえ)

日本特有の繊細な精神性をアブストラクトな線で描き、独特な「間」を作品の中に生み出し、モダンなセンスと伝統的なスピリッツが混ざり合うように、絶妙な感覚が見る者の意識を刺激する。
2010年に米・オレゴン州ポートランドにあるナイキ本社への壁画制作、2012年にはブランド「MIHARAYASUHIRO(ミハラヤスヒロ)」のパリコレクションの舞台にて、JUN INOUEコラボ新作の発表とライブペインティング、南フランス最大の音楽祭「Worldwide Festival」でもライブペイントを行うなど、ファッションや音楽ともリンクし多技に渡り作品を発表。国内を始め、海外ではメルボルン、パリなどでも数々の個展を開催している。

宮本紗綾(みやもと さや)

ヤンマーホールディングス株式会社 ブランド部 コーポレートブランド室所属。HANASAKA MURAL発足時より携わり、本イベントの企画から実施まで担当。

巨大な壁に、夢中で描く子どもたち

——本ワークショップを企画した背景を教えてください。

宮本:「誰もが気軽に楽しめるミューラルを通じて、日本のアート文化醸成に貢献する」というHANASAKA MURALの趣旨と、「施設を有効活用し、地域に賑わいをもたらしたい」というヨドコウ桜スタジアムの趣旨が合致し、本イベントの開催が実現しました。子どもたちに大きな壁に描く楽しさを体験してもらうことで、HANASAKA MURALの「アートをもっと楽しもう!」というコンセプトを感じてほしいとの思いで企画しました。

——ワークショップをどのように実施しましたか?

宮本:ヨドコウ桜スタジアムのホームページ、ヤンマーの公式TwitterおよびFacebook、HANASAKA MURALのインスタグラムなどを通じて参加者を募り、23人のお子さんと保護者の方にご参加いただきました。初めての開催でしたが定員の2倍近くの方にご応募いただき、ミューラルを体験することへの関心の高さを実感しました。HANASAKA MURALでは、アートに特定のテーマを設けていません。さまざまな色の絵の具やスプレー、筆やローラーなどのアイテムを用意し、思うがままに子どもたちに描いてもらいました。

絵を描くアイテムを選ぶ子どもたち
絵を描くアイテムを選ぶ子どもたち

宮本:お子さんの年齢は3歳から6歳で、兄弟姉妹で参加されている子もいました。これほど巨大な壁に絵を描くのは、おそらく初めての体験。筆やローラーで好きな色に塗りつぶす子もいれば、ローラーの先端を使って絵を描く子もいて、各々の個性が存分に発揮されていました。

JUNさんには、お子さんたちが描きたいものを描けるよう、適宜サポートをしていただきました。「寒いけど縮こまらずに大きく描いてみよう」「自由に描いてみよう」といった声掛けが印象的でしたね。

風が強い寒い日ではありましたが、お子さんたちはとても楽しんでくれていたようです。保護者の方へのアンケートでは、「子どもに貴重な体験をさせることができました」「初めて触れるスプレー(を使ってのお絵描き)がとても嬉しかったようです」といったコメントをいただき、運営した私たちとしても、地域のみなさんとつながる場を持てたことを嬉しく感じました。

近隣に住む方々に加え、家族で参加したヤンマーの社員も
近隣に住む方々に加え、家族で参加したヤンマーの社員も

——子どもたちによって、どんなアートになりましたか

宮本:色彩豊かでエネルギッシュに、お子さんそれぞれの個性が混ざり合って素敵なアートとなりました。「アートをもっと楽しもう!」というHANASAKA MURALのコンセプトがまさに体現されているように思い、とても感動しました。

子どもたちのアートを前に記念撮影
子どもたちのアートを前に記念撮影

宮本:このアートからインスピレーションを得て、4日ほどの制作期間でJUNさんに作品として仕上げていただきました。子どもたちが描いたラインや色が、JUNさんの作品にも生かされています。

JUN INOUEさんによるミューラル
JUN INOUEさんによるミューラル

——作品のコンセプトや込めた想いを聞かせてください。

JUN:他人のことなど気にせず、好きなことに夢中になっている子どもたちは、とにかく楽しそうで美しかった。それがとても気持ちがよく、「私もそのゾーンに入りたい!」と強く思いました。「何を描いているのか?」と聞かれると、正直自分でも分かりません。とにかく気分が上がったり、気持ちを和らげてくれたりする絵をあの大画面に描きたかった。

加えて、ゴミを減らしたいとの想いから、できるだけ道具や塗料を新たに購入せず、破棄されそうになった画材の使用を意識しました。作品の目の前に立たないと感じられない何かがあるので、ぜひとも実物を見に来てほしいですね。

ワークショップ後、作品を制作するJUN INOUEさん
ワークショップ後、作品を制作するJUN INOUEさん

アートを通じて、地域ににぎわいをもたらす

——ミューラルを通じてアート文化を醸成するHANASAKA MURALにおいて、今回のワークショップには、どんな狙いがありましたか?

宮本:ヨドコウ桜スタジアムは、プロサッカーチーム「セレッソ大阪」のホームスタジアムであり、サッカーやラグビーなどの試合で多くの観客が集まります。試合のない日であっても、ヨガスクールやダンスレッスン、シェアワークスペースとして、地域の方に親しんでいただいています。

HANASAKA MURALは、ヤンマーとヨドコウ桜スタジアムの指定管理者であるセレッソ大阪スポーツクラブが共同で運営しています。施設を有効活用して地域ににぎわいをもたらしたい、地域とのコミュニケーションを活発にしたいという施設側の思いをHANASAKA MURALの活動に反映させたのが、今回のワークショップです。

子どもたちにミューラルアートを楽しむ体験を提供し、地域住民のみなさまにHANASAKA MURALへの理解を深めていただきたいと考えました。

また、ワークショップに合わせてスタジアムツアーを行い、選手の練習場やロッカールームの見学や、メインスタンドの最前席に座ってフィールドとの近さを体験するなど、お子さんだけでなく保護者の方にも施設を身近に感じていただける機会になったと思います。

——JUNさんは、ワークショップのオファーを受けていかがでしたか?

JUN:大きくキレイな壁だったため、子どもたちと一緒に作品を描きたいなと思いました。描いている最中、子どもたちに「おもしろい?」と聞いたところ、集中しながらも頷いてくれて嬉しかったですね。

寒さを忘れて描くことに熱中
寒さを忘れて描くことに熱中

——参加された方の反応はいかがでしたか?

宮本:初めての開催でもあり、手探りで作り上げたものでしたが、想像以上に嬉しい反応をいただきました。イベントを通してHANASAKA MURALの取り組みを知ってくださった方がたくさんおられ、参加型にすることで認知が広がるのだなとも感じました。このようなイベントを地道に続けて活動への理解を深め、結果的にアート文化の醸成につながればと願っています。

 

圧倒的な存在感でメッセージを伝えるHANASAKA MURAL

——地域に密着したアートであるミューラルには、どんな価値や可能性があるでしょうか?

宮本:今回のイベントのように、一般の方に直接参加してもらうことに加えて、スタジアムを訪れる方の目に触れるだけでも、アートの魅力を十分に伝えられると思います。

HANASAKA MURALのあるヨドコウ桜スタジアムの壁は、すぐ横に道路であり、地域住民の動線にあります。JR西日本阪和線の鶴ケ丘駅の目の前で、電車の中からも見える絶好のロケーションです。

美術館にあるようなアートとは異なり、制作の過程も見ることができるのはミューラルならでは。アーティストによっては、制作途中に通りかかった方とカジュアルにコミュニケーションを取ることもあり、生活者にとって非常に身近なアートといえます。

完成したときの圧倒的な迫力もまた、ミューラルの魅力。アートに興味がない方にも「アートっておもしろい」と思ってもらえるきっかけになるでしょうし、活動の意義は大きいと感じます。ミューラルの聖地を目指して、引き続き取り組んでいきます。

北西エントランスに位置し、住民の目に触れやすい
北西エントランスに位置し、住民の目に触れやすい

JUN:ミューラルは、不特定多数に向けて圧倒的なサイズ感で人間力やメッセージを伝えられるメディアです。絵に興味がない人や、一人で美術館に行けない幼児でも見ることができるアートともいえますね。使い方次第で、世界を変えられるほどの大きな力を持っていると思います。

ーー最後になりますが、JUNさんは、HANASAKA MURALにどんな期待がありますか?

JUN:できれば、また描きたい。そう思わせてくれるとても魅力的な壁です。多くのアーティストに描き換えられて、地域の方を楽しませる壁であってほしいです。巨大でフラットに近い壁なので、ミューラルに興味があるアーティストは、ぜひともチャレンジしてみてください。

[取材] 小林香織 [編集] 岡徳之