2026.07.21

〜決断する人のAI〜 現場データとAIで、企業成長を最大化する「意志ある経営」のかたち 【ヤンマー×シナモンAI×PwC鼎談】

創業から100年以上にわたり、エンジンを中核に、農機や建機などの製造・販売を手がけてきたヤンマーホールディングス。同社常務取締役 経営戦略・技術・DX担当 奥山博史はAIを活用し、食とエネルギーという産業の垣根を越えながら、目指すべき未来を設計し、その実現に向けた取り組みを加速させている。

単なる技術の導入を超え、描いた未来をいかに事業や組織へと落とし込んでいくのか。政府有識者会議の構成員を歴任し国の成長戦略立案にも携わるシナモンAI 代表取締役社長CEO 平野未来、PwCコンサルティング Future Design Lab代表 三山功とともに、未来志向の企業における「意志ある経営」とAIの理想的な関係性を深掘りする。

バックキャストとフォアキャストの融合が、不確実な時代の羅針盤になる

――まず、三山さんが率いる「Future Design Lab」の取り組みについて教えていただけますでしょうか。

三山 功(以下、三山):私が代表を務めるFuture Design Labでは、既存の事業の延長線上にある未来ではなく、ゲームチェンジを果たした望ましい未来から逆算する「バックキャスト」アプローチを重視しています。ただ、ここで重要なのは、完全にバックキャストだけに偏るとそれは博打になってしまうという点です。既存の延長線上で資源を最適配分するロジック(フォアキャスト)と、望ましい未来から逆算するロジック(バックキャスト)を融合させ、ハイブリッドな意思決定を行うこと。これこそが、不確実性の高い現代において経営陣に求められる認知の転換だと考えています。

現在、ヤンマーが取り組まれているのも、まさにこのハイブリッドな意思決定の実践ですよね。

奥山博史(以下、奥山):そうですね。

2025年に、ヤンマーグループでは約15年ぶりにグループ全体のミッションやバリューを見直しました。その最終目標にある「Purpose:私たちの存在意義」が「A SUSTAINABLE FUTURE―テクノロジーで、新しい豊かさへ。―」です。「人の豊かさ」と「自然の豊かさ」、一般的にはどちらかを優先すればどちらかが犠牲になるトレードオフの関係だと思われがちです。しかし、そのギャップを埋めることこそが、我々のテクノロジーであると定義しました。特に、双方が交差する「フードバリューチェーン」の構築に注力しており、パーパスからバックキャストし、かつ既存の強みを活かしながら農業、漁業、エネルギーなどの領域で、試行錯誤を繰り返しながら新しい挑戦を始めています。

平野未来(以下、平野):目指すべき未来から逆算して産業の構造そのものを再設計していくフェーズにおいて、AIの役割も大きく変わってきますよね。私自身、政府会議の有識者構成員として国の成長戦略や方針策定に携わる立場からも、AIやDXを単なるコスト削減の手段とするフェーズは完全に終了したと感じています。

その潮目を実感したのは2025年の夏ごろです。米国や中国が相次いでAI国家戦略を打ち出し、国内でも年末に向けて法制度整備の動きが本格化しました。今やAIは、外交や安全保障をも規定する国力そのものであるという認識が世界的な潮流となっています。このパラダイムシフトは当然、産業界にも押し寄せていて、ヤンマーのように、産業全体の構造変革を前提に掲げる企業が増えるかどうかが、今後の日本の産業競争力を大きく左右すると考えています。

ヤンマーホールディングス 常務取締役 奥山 博史

AIが成果につながらない企業に共通する「意志」の欠如

――ヤンマーグループが進めている「SAVE THE FARMS by YANMAR」では、AIやデータをどのように活用されているのでしょうか。

奥山:日本の農業は高齢化や収益性の低下による離農と、温室効果ガス(メタンガスなど)の排出という2つの大きな課題に直面しています。これらに対して、環境性と経済性を両立したソリューションを提供するのが「SAVE THE FARMS by YANMAR」という取り組みです。最大のポイントは、「ヤンマー自身が農業を事業として実践している」という点にあります。自社で農業を行うからこそ、様々なデータの取得やアジャイルな試行錯誤を自由に繰り返すことができる。

その実践の中から生まれたのが、メタンガス排出を抑制する農業技術や、土中の微生物の力を最大限生かして肥料や農薬の使用量を抑える技術を組み合わせたソリューションです。併せて、再生型農業によって温室効果ガスを削減しつつ、農地の上に太陽光発電装置を設置して発電収入を得る仕組みを構築することで採算性も確保した事業を開始しています。

一連の取り組みとして、ドローンによる画像認識でトマトやきゅうりの収穫適期を判定したり、海中カメラの画像認識で魚の食いつきを判断して給餌を自動化するシステムを顧客の現場に実装したりしています。将来的には、ベテランの作業動画などのログやデータから、AIが熟練者の暗黙知を自動学習する世界を目指しています。

三山:それは私たちの取り組みと非常に親和性があるテーマですね。

ここでよくあるのは、すべてがフィジカルAIで完結する完全な未来像を描いてしまうと、実現までに10年、20年はかかってしまうという話です。しかし、実はその中間的な状況が成立し得る領域が意外とあるのではないかと思っています。

例えば、飛ばしたドローンのデータがあたかも「自分の身体感覚の延長線」のように感じられる農家さんのようなリテラシーが身についたとすると、これまでの農家さんやAI単独とは違う働き方、あるいは農業のかたちがデザインできます。それは工場の現場のなかにも同じように描けるはずです。そうした中間的な状況を選んで、いち早く実装する視点も非常に重要です。

また、データだけを吸い取ってAIだけで最適化してしまうと、重要なコンテキストや、データの組み合わせのコンテキストが抜けてしまいます。それに対して、ヤンマーが自ら農業に取り組んでいるからこそ、このデータの意味合いを人が汲み取り、AIの思考過程や判断のタイミングに人間が介入する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」や「ヒューマン・イン・ザ・リーズニング・ループ」を自然に実践されている。そこが大事なポイントだと思います。

平野:まさにそこが本質ですよね。

AIを導入しても期待した成果につながらないという企業は、AIを使って何を実現したいのかという「意志」がはっきりしていないケースが非常に多いです。意志が濁っているとプロンプトも濁るため、AIにシステムやプロトタイプをつくらせているうちに、当初の目的が見失われてしまう。結果、最終的に何がしたかったのか分からなくなり、PoCの精度評価だけで議論が停滞してしまうのです。

AI自身は意志をもてません。重要なのは人間が明確な意志を掲げ、それをAIに具現化させる関係を築くこと。組織にAIを根付かせるには、まず経営陣が「AIで何を変革するか」という意志を明示することが不可欠です。

シナモンAI 代表取締役社長CEO 平野 未来

奥山:さらに付け加えるなら、それは「現場の意志」である必要があります。本社のデジタル部門だけが強い意志をもってPoCを進めても、現場がその意義を理解していなければ成功しても実装には至りません。現場が日々直面しているリアルな課題をデジタルで確実に解決していく。その成功体験があって初めて、本物の意志が生まれるのだと思います。

三山:ただ、大きな変革を起こそうとすると、既存事業の視点からは自分たちの存在意義が脅かされると感じ、防衛本能が働く場合もあります。だからこそ、変革への挑戦自体を評価する心理的安全性を担保し、KPIや評価制度、インセンティブの構造までをセットで経営陣が再設計することが重要になりますね。

リーダーが読み解く「現場の声」が、未来をつくる「資産」になる

――ヤンマーでは、組織の心理的安全性を担保しながら、実際にどのようにして社員の意識改革やデジタル活用を浸透させていったのでしょうか。

奥山:まず着手したのは、デジタルで現場課題を解決している有志たちを「コミュニティ」として可視化することでした。実は、それまでも草の根的な活動はあったのですが、その多くは目立たないかたちで行われていました。もしかすると、上司に知られれば「業務外のスタンドプレー」と見なされかねないという、現場の懸念があったのかもしれません。

そこで我々は、彼らの挑戦を「正しく価値あるものである」と認識してもらい、同じ志をもつ人が社内に存在することを示しました。するとコミュニティは自律的に活性化し、強力なボトムアップのうねりへと変わっていきました。さらに、そこで蓄積された成果を経営会議へ共有することで、今度は「うちの事業部でもAIを取り入れていかなければ」というトップダウンの変革を誘発させました。この両輪が機能して、最も変革の障壁となりやすい管理職層の意識も大きく変わってきています。現在、この有志のコミュニティは4,500人にまで拡大しています。

またユニークな実験として、私の判断軸や旅行ブログの小ネタまでを学習させたAI「奥山クローン」もつくりました。私の頭脳をインフラとして開放し、資料レビューやキャリア相談に活用できるようにしたものです。役員や上司にはどうしても気後れして直接聞きにくいことでも、相手がクローンであれば、臆せずいつでも本音で壁打ちができる。冗談半分で始めた部分もありますが、誰もが気軽に経営陣の思考を引き出せる存在として、社内で自然と活用が広がっています。

平野:経営者自身がAI活用を体現することは、組織を変えるうえで強烈なインパクトがありますよね。ミーティング中に経営者が自ら画面を見せて「こうすればいいんだよ」とやってみせる。その楽しそうに語る姿や、実践の姿勢そのものが現場にとって良い意味での「プレッシャー」となり、組織全体へ伝播していくのだと思います。

三山:おっしゃる通りですね。経営層自らが実践する姿勢を示さなければ、現場の心理的ハードルは下がりませんし、組織の変革も始まりません。ただ、経営陣が提示すべきは、単なるツールの利便性にとどまらないと考えています。この技術によってビジネスの構造をどう変革するのかという「経営の意志」と、それを実際の現場の仕組みに落とし込む「ビジネスロジック」。この双方を高い視座で接合し、経営の言語に置き換えて現場に響かせることが、意思決定者やリーダーが果たすべき真の役割ではないでしょうか。

特に、未来に対するワクワク感を抱きつつ、それを経営の言語に接続できるレベルまで可視化することが非常に重要です。新しい農業・漁業や食の未来を構想したとき、仮に「未来の事業ポートフォリオ」のようなかたちに落とし込んでみる。そうすることで、「経営上、どのような意味合いをもつのか」が冷徹なロジックとして見えてきます。この接合点をどう設計するかが、変革の試みを挫折させずに前へ進めるための鍵になると考えています。

奥山:そうですね。まさにこれからの時代、AIの進化によって一般的な知識や知恵はコモディティ化し、本当の価値は「現場の固有データ」へと移っていきます。ここは巨大プラットフォーマーではなく、リアルな現場をもつ私たちのようなメーカーが主導して戦える領域になります。農業や漁業、建設といったリアルな現場のデータをいかに活用し、携わる人々がさまざまなアイデアを生み出せるエコシステムを構築するか。

ヤンマーには人の可能性を信じ、挑戦を後押しする「HANASAKA(ハナサカ)」の精神があります。この価値観のもと、多様な現場データを掛け合わせ、国内外のパートナーと連携しながらグローバルに社会課題を解決していくプラットフォームをつくっていきたいと考えています。

平野:AIの進化は非常に速く、その最前線にいること自体が大きな価値だと感じています。AIが標準化することで専門性の獲得スピードは加速し、複数分野に精通する人材が増えていくでしょう。結果として、産業横断の価値創出が広がっていくと期待できますね。

PwCコンサルティング 執行役員パートナー/Future Design Lab代表 三山 功

三山:奥山さんのお話を伺っていて感じるのは、「産業融合」と「産業アーキテクチャの再設計」という2つの流れとの強い共鳴です。エネルギーと農業の垣根を越えたサステナブルな仕組みは、既存の産業の延長線上にあるものではなく、まさに再構築の発想から生まれるものです。実は、多くの日本企業は自分たちが思っている以上に凄まじいポテンシャルをもっています。これまで積み上げてきた高いエンジニアリングの力やバイオテクノロジーなどの技術、特許、そして現場の暗黙知。これほど豊かな資産があるにもかかわらず、これまでは既存の枠組みにとらわれて、ポテンシャルを使いこなせていなかった面があるのではないでしょうか。

もちろん、製造業だけが日本企業ではありません。だからこそ、AIを活用しながら自らの可能性を拡張し、業種の垣根を越えて「望ましい未来」を高い視座で構想すること、そして、それぞれの強みをエコシステムとしてどうつなぎ、価値に変えていくかという「問い」を多くのリーダーが共有し、仲間となって連携していくことが重要だと感じています。

これから人口減少や高齢化が進む日本において、未来を予測して悲観するのではなく、未来を能動的にデザインするリテラシーが求められています。「こうやれば生産性が上がって、みんなの幸福度も上がるからハッピーだね」と、これまでとは違う社会のあり方を、私たちはもっと楽観的に描いていいはずです。その未来を具体的に体現しているヤンマーの取り組みのような事例を、日本全体の産業のあり方を変えていく力として、これからも広く共有し続け、語り合っていきたいと考えています。

奥山 博史
ヤンマーホールディングス 常務取締役 経営戦略、技術、DX担当。東京大学大学院修了後、住友商事入社。コロンビア大学MBA取得後、ボストンコンサルティンググループを経て、2015年ヤンマーホールディングス入社。2022年より取締役就任。

平野 未来
シナモンAI 代表取締役社長CEO。東京大学大学院修了。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。2012年シナモンAIを創業。内閣官房IT戦略室本部員、経済産業省新経済産業政策部会委員、内閣官房新しい資本主義実現会議、高市政権の日本成長戦略会議有識者構成員などを歴任。

三山 功
PwCコンサルティング 執行役員パートナー。同社ストラテジーコンサルティング事業部 Future Design Lab代表。デジタルエンジニアリング企業、外資系コンサルティング会社などを経て、PwCコンサルティング入社。2020年、未来創造型コンサルティングの専門組織「Future Design Lab」を設立。

Promoted by PwCコンサルティング合同会社
text by Motoki Honma
photographs by Daichi Saito
edited by Aya Ohtou(CRAING)

Forbes JAPAN BrandVoice(広告企画)2026年6月30日掲載記事より転載

 

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