2025.07.09

「やれること、やってみるよ」特別な人間じゃなくたって、未来は変えられる。『未ル わたしのみらい』Ep.101オカモト監督と主演声優・大野智敬が語り合う

2025年4月から5月にかけて、地上波テレビで放映された『未ル わたしのみらい』。ヤンマーが製作・プロデュースを手がけたオリジナルアニメです。時空を超えて、さまざまな時代の人々に寄り添うロボット「MIRU(ミル)」。異なる時代や場所で、苦悩しながら懸命に生きる人々が「MIRU」との出会いを通じ、未来を変えるための一歩を踏み出す。そんな5つの物語が誕生しました。

作品の根底に流れるのは、ヤンマーが創業時から受け継ぐ「HANASAKA(ハナサカ)」の精神。「人の可能性を信じ、挑戦を後押しすることで、人や未来を育む」というHANASAKAの価値観は、さまざまな人の一歩を後押しする「MIRU」の姿に重なります。

Y mediaでは、何かに挑戦している人、誰かの挑戦を後押ししている人を「HANASAKAビト」と呼び、その取り組みを紹介していきます。

今回は、4月10日に放映されたEpisode 101「The King of the Forest」の監督を務めたオカモトさんと、主人公のマリオを演じた声優の大野智敬さんをご紹介します。

子どもの頃から絵を描き続けたことで、アニメーション作家への扉を開いたオカモトさんと、声優としてなかなか芽が出なくても諦めず、今作で初めて主演の座を掴んだ大野さん。まさに、自身の可能性を信じて未来を切り拓いてきたお二人に、『未ル わたしのみらい』への思いや、作品にも通じるご自身のライフストーリーを語り合っていただきました。

物語の舞台は熱帯雨林地域。未来に残したくなる「生きた森」を描きたかった

――アニメ『未ル わたしのみらい』(以下、未ル)のEpisode 101「The King of the Forest」で、監督と主演声優を務めたお二人ですが、こうやってお会いになるのは久しぶりですか?

大野智敬(以下、大野):アフレコで、ご挨拶させてもらった時以来ですよね。

オカモト:半年ぶりくらいですかね。お久しぶりです。

大野:でも、たぶんオカモト監督はご存知ないと思うんですけど、じつは僕、オカモト監督が初監督を務められたアニメ『メカウデ』(2024年)のオーディションも受けているんですよ。

オカモト:えっ? そうなんですか?

大野:そう。その時は残念ながら落ちてしまったんですが、今回こういう形でご一緒することができて、とても嬉しかったです。

――大野さんはアニメ作品で主人公を演じるのは、今回の「マリオ・バスコ・デブリット」の役が初めてだったと。

大野:そうなんです。初主演という喜びもありましたし、「ヤンマーさんが本気でアニメをつくる」という新しい試みに参加できることも、すごく光栄でした。
ちなみに、業界では一般的にオーディションを受けてから合否が分かるまでは1か月以上かかることが多いんですけど、今回に関しては2日後に合格の連絡が来て。もちろん嬉しいんですけど、「早くない?」と少し戸惑いました(笑)。合格からアフレコまでの期間も短かったので、喜びと緊張が入り混じるような気持ちでしたね。

――マリオを演じるにあたり、どんなことを意識されましたか?

大野:最初に台本を読んだ時に、マリオは特別な存在というわけではなく、いい意味で等身大の男の子だと感じました。小さい頃からずっと見てきた森の姿が変わっていくこと、生物が減っていることに寂しさを感じつつも、自分に何か大きなことができるわけでもない。そんな、どこにでもいる普通の人なので、僕がアレコレ考えて役づくりをすると逆に違和感が出てしまうと思いました。
それに、マリオが大好きな生物のことを語り出す時に、周囲が引くくらい饒舌になってしまうところなんかは、僕自身にも似ているなと思って。僕も、口から生まれてきたんじゃないかというくらいよく喋る人間なので(笑)。変に作りすぎず、自然体で演じるのがベストだと考えてアフレコに臨みました。

オカモト:本当に自然体で演じていただいて、私たちがイメージしていたマリオそのものでした。今回は物語や絵づくりに関しても奇をてらったことはせず、自分たちのできることをやろうという意識で制作していたので、大野さんのアプローチはそんな作品の組み立て方にもぴったりはまっていたと思います。

――特に印象に残ったシーン、お気に入りのシーンを教えてください。

大野:Episode 101は熱帯雨林地域が舞台になっているのですが、とにかく「森の描写」が素晴らしいなと。動植物たちが生き生きとリアルに描かれているのがとても印象的でした。

オカモト:そこは特にこだわったポイントの一つです。自然史映像作家の伊藤弥寿彦(いとうやすひこ)さんに監修に入っていただき、私たちが描こうとしている植物や動物を一つひとつ検証してもらったんです。というのも、今回の舞台はジャングルではありますが、あえて国や地域を明言していません。特定の地域にしか生息していない動物を出してしまうと場所が限定されてしまうため、そうした観点からもアドバイスをいただきました。
あと、これは全くの偶然なのですが、私自身も2〜3年前から動植物に興味を持っていて。自宅で20匹以上のヘビやサボテンを飼育したり、図鑑をひたすら読み漁ったりして、その経験から得た知識も、今回は役に立ったと思います。

大野:すごい偶然だ。確かに、火事のシーンでヘビが出てきますよね。

オカモト:自分が飼っているヘビと同じ種類のヘビも登場しているんですよ。当初は仕事につなげたいという気持ちはなく完全に趣味だったのですが、今回このオファーをいただいて、何か引き寄せられたというか。私はそれまで絵を描くこと、アニメを作ることくらいしか趣味がなかったのですが、他にも興味のある分野を増やしておくと、後で役に立つこともあるのだなと実感しましたね。

その時々に「やれること」を積み重ねてきたから今がある

――大野さんが最も共感したマリオのセリフは何ですか?

大野:ロボット「MIRU」の力を借りて森を守ったマリオが、最後に「(未来のために)やれること、やってみるよ」と言うセリフが好きです。森を守ることもそうですが、環境問題って一人の力ではどうにもならないからと、つい考えること、行動することをやめてしまう時もあると思うんですよね。それでも、自分なりにやれることをやろう。そんなふうに考えて実行できる人って多くはないと思うので、とても素敵な言葉だなと感じました。

――マリオの「やれること、やってみるよ」というセリフは、『未ル』のシリーズを通してのコンセプトである「バタフライエフェクト*」にも通じますよね。大野さんやオカモト監督は、これまでの人生のなかで「バタフライエフェクト」を体感したことはありますか?

*バタフライエフェクト:「非常に小さな出来事が、最終的に予想もしていなかったような大きな出来事につながる」ことを意味する言葉

大野:僕は大学2年生の時に「声優になる!」と決意し、親の反対を押し切り……というか大喧嘩して東京に出てきました。でも、現実は厳しく、なかなか芽が出なかった。それでも、どうしても諦められず4つの養成所に7年も通いました。たくさんの養成所に行けばチャンスも増えるだろうという小賢しい気持ちもありましたが、声優事務所のオーディションにことごとく落ちてしまって。

ただ、いくらしんどくても養成所には休まず通っていました。休まないし授業態度だけはよかったので、その後もオーディションの話はいただけるんですよね。授業に出続け、オーディションも受け続けていたら、ようやく、ある事務所に拾ってもらえました。そこから、今ではありがたいことに夢だった声優の仕事ができているわけで、地道にコツコツやってきたことが報われたという意味では、僕なりのバタフライエフェクトと言えるかもしれません。

――実力があってもなかなか芽が出ないと諦めてしまう人もいると思いますが、大野さんの場合はチャンスを掴めるまで、とにかく自分がやれることを続けたと。

大野:そうですね。僕らの仕事は事務所に所属したからといって、必然的にチャンスがめぐってくるわけではありません。作品ごとにオーディションがありますし、そもそも自分という存在を知ってもらわなければオーディションに呼んでもらうことすらできない。そういう意味では、人との交流を大切にしてきたことも、今につながっているかもしれません。
監督やアニメ制作会社の方が集まる飲み会にも、新人の頃から積極的に参加していました。仕事につなげたいというよりは関係者の話を聞きたくて参加していたのですが、結果的に色んな人と知り合うことができて、キャスティングの会議の場で名前を出してもらえるようになったのだと思います。それこそ、Episode 101の音響監督である高寺たけし(たかでらたけし)さんとつながったのも、飲み会の場で知り合った方が高寺さんの作品に誘ってくれたことがきっかけでしたから。一つひとつの出会いがつながって、僕は今ここにいられるのだと思います。

オカモト:私も大野さんのお話に近いかもしれませんが、自分がやれることをやってきた結果が、今につながっていると思います。

私はもともと、大野さんのように「これをやりたい」というものを明確に持っていたわけではありません。ただ、子どもの頃から絵を描くことやクリエイティブな活動が好きで、ずっと続けていました。その時は自分が将来アニメをつくることになるとは思っていなかったのですが、大学生の時にTriFスタジオの前身となるクリエイター集団にアルバイトとして入り、代表の麻生秀一(あそうしゅういち)さんに当時描いていたロボットの絵を見せたことが大きな転機になりました。麻生さんはロボットが大好きで、「これ、めっちゃいいじゃん。アニメにしようよ」と言ってくれて。その一言から色んなことが動き始め、TriFスタジオ初のアニメ作品『メカウデ』へとつながり、私のアニメ監督としてのキャリアがスタートしました。

――すごい展開ですね。

オカモト:そもそもTriFスタジオは学生の映像制作サークルから始まった会社で、当時はアニメを作ったことがある人は誰もいませんでした。それでも業界の色んな方々に助言をいだだき、お力を借りながら10年かけて体制を整え、何とか『メカウデ』をつくりあげることができたんです。そして、その実績や経験が、今回の『未ル』にも活かされています。

振り返れば、ずっと絵を描き続けてきたことでチャンスの扉が開いて、そこでチャレンジしたことが『メカウデ』や『未ル』へとつながっている。それこそバタフライエフェクトじゃないですけど、予想もしていなかった未来につながったなと感じますね。

「漫画を描きたい」「50年後も声優を」二人が描く未来とは?

――『未ル』という作品には、「未来は自分たちの手でつくれる」という思いが込められていますが、お二人はこれからどんな未来をつくっていきたいのでしょうか。今後の人生の目標や展望を教えてください。

オカモト:今は主にアニメをつくっていますが、学生時代は漠然と漫画家に憧れていた時期もありました。当時はやり切ることができませんでしたが、最近は趣味の一環として漫画を描くことにも挑戦しています。
それこそマリオの「やれること、やってみるよ」というセリフじゃないですけど、自分のなかで「やれること」が増えている実感があるので、今後も一つのことに縛られずに挑戦していきたいですね。

――大野さんはいかがでしょうか。

大野:直近の目標は、12話のシリーズもののアニメ作品で主人公を演じることですね。『未ル』で初めてアニメの主人公を演じさせてもらい、次は単話ではなくシリーズを通して座長を務めたいという思いが、より強くなりました。
もっと先の未来でいうと、人生が終わる瞬間まで声優としてマイクの前に立ち続けることが目標です。これからアニメというものがどうなっていくかは分かりませんが、どんな形であれ何歳になってもマイクの前で演技をしていたい。

――それこそ、70歳、80歳になっても現役バリバリのレジェンド声優もいますよね。

大野:そうなんですよ。声優の世界が特殊なのは、そうした超大御所の方々でさえ普通にオーディションを受けていて、落ちることもあるんです。芸歴50年を超えるような人たちでさえずっとそれを続けているのに、たかだか9年目の僕がオーディションに落ちたからといって、へこんでいる場合じゃない。僕も大先輩を見習って、生涯声優として生きていきたいと思います。

 

自分の可能性を信じて、やれることをやり続けるオカモト監督。長い下積みを経て少しずつ夢に近づき「生涯声優として生きていきたい」と語る大野さん。そんなお二人の姿は、「人の可能性を信じ、挑戦を後押しすることで、人や未来を育む」HANASAKAビトそのものだとヤンマーは考えます。

プロフィール

オカモト

アニメーション監督、イラストレーター。九州大学芸術工学部卒。学生時代よりイラストレーター、アニメ作家として活動。現在は福岡の映像制作会社「TriFスタジオ」に所属。MVなどの制作を経て、 国内外でのクラウドファンディングで製作資金を調達したオリジナルアニメ『メカウデ』で、原案・監督・キャラクター原案他を務める。

大野智敬(おおのともひろ)

声優。マウスプロモーション所属。主な出演作は、アニメ『トモダチゲーム』(四部誠)、『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』(ロゥジー)、『推しの子』(熊野ノブユキ)ほか。

写真:石原麻里絵
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)

 

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