2023.03.31

園児と保護者が生ゴミを家から持参、堆肥化でCO₂と廃棄費用を削減。滋賀県のこども園とヤンマーで取り組む「こどもやさいプロジェクト」

ヤンマーは2022年10月から、家庭の生ゴミを集めて堆肥化する『こどもやさいプロジェクト』を開始しました。家庭から排出される生ゴミは水分量が多く、燃焼効率が悪いため、焼却時にたくさんのCO2を排出します。また、運搬や焼却にかかる莫大な費用は、行政にとって大きな負担となります。そうした地域課題を解決する手段として、このプロジェクトを開始しました。プロジェクトメンバーの中山法和さんから、具体的な内容とプロジェクトを成功させるための工夫、手応え、今後の展望を聞きました。

<プロフィール>
ヤンマーホールディングス株式会社
技術本部 イノベーションセンター プロトタイプ開発部 コンポスタグループ グループリーダー

中山 法和

楽しみながら、地球にいいことをしよう

——まずはプロジェクトの内容を教えてください。

こどもやさいプロジェクトは、滋賀県犬上郡多賀町の「大滝たきのみやこども園」と一緒に進めている取り組みです。登園時に家庭の生ゴミを持ってきてもらい、園内に設置した生ゴミを堆肥化させるバイオコンポスターでの処理後、完熟化を行い、畑や家庭菜園の堆肥として生まれ変わらせます。この取り組みを行うことで従来、生ゴミを焼却する際に排出されていたCO2や、廃棄物の処分費用を削減することができます。

おうちからバケツを持って登園する様子
おうちからバケツを持って登園する様子

ヤンマーのバイオコンポスター「YC100」は主に食品事業者向けに開発した機械ですが、日本の食品残渣の約半分を占める、家庭から排出される生ゴミの削減に生かすことはできないか模索していました。

そんな時、近所の子どもが学校に通っている姿を見て、家庭や学校などの地域と連携して生ゴミを収集するというアイデアを思いつきました。

地域と連携することで、子どもの環境教育の機会にもなります。バイオコンポスターを使用することによって自分の家から出た生ゴミが学校など身近な場所で 一次堆肥になり、その後完熟堆肥になる様子を見てもらったり、その堆肥を使用して育てた野菜を食べたりするのは、子どもにとって楽しい体験になるはず。こどもやさいプロジェクトは、肩肘張らずに楽しみながら、地球にいいことができる取り組みなんです。

——「大滝たきのみやこども園」と一緒に取り組むことになった経緯を教えてください。

もう1つは、大滝たきのみやこども園が、自然のなかで子どもを育てることを大切にされ、滋賀県の「しが自然保育認定制度」にも認定されていることです。園長はじめ環境教育に関心のある方が多いことから、このプロジェクトを好意的に受け入れてくださいました。

大滝たきのみやこども園
大滝たきのみやこども園

150キロの堆肥が完成。子どもの成長も実感

——プロジェクトのより具体的な中身を伺っていきます。どのように生ゴミを集め、完熟堆肥にしているのでしょうか。

毎朝、「エコバケ」と名づけた容器に生ゴミを入れて登園していただき、園の調理室から出てきた生ゴミもあわせて、バイオコンポスター「YC100」に入れます。いつもは先生や委託を受けたシルバー人材の方が投入しますが、環境教育の一環として園児と先生が投入することもあります。YC100で一次処理をしたあとに別の容器に移し、完熟処理の工程へ。定期的に水を加えながらかき混ぜ、空気と触れさせる完熟化が進みます。気温にもよりますが、約2カ月で分解・発酵が進んだ完熟堆肥ができます。

バイオコンポスター「YC100」に生ごみを投入する様子
バイオコンポスター「YC100」に生ごみを投入する様子

——これまでどのくらいの堆肥ができましたか?

これまでに150kgの完熟堆肥ができました。こども園では、できた堆肥の一部を畑と森ゾーンにまき、春野菜をつくるための土づくりを始めています。

また、昨年10月からの5ヶ月間で処理した生ゴミの総重量は「約2.3t」でした。コンポスターのスペックからすると処理量にはまだ余裕があるので、周辺の自治会などにこの活動が広がれば、さらに多くの生ゴミを処理できるはずです。

——確実に成果が出ているんですね。子どもたちの反応はいかがでしょう?

生ゴミが堆肥に変わっていく過程を楽しんでいるようです。目で見ても変化がわかりますし、生ゴミ臭かったコンポスターの中身が、土のような臭いの完熟堆肥になることにもとても驚いていました。生ゴミが、栄養のある土に変化することを五感で感じているのだと思います。

堆肥

また、生ゴミを堆肥化する過程で、自然界で起きていることも学んでいるようです。完熟堆肥化する過程で虫が湧くこともあります。子どもたちがそれを見つけたら、「微生物が生ゴミを分解し、栄養のある堆肥になったから、虫がすんでいるんだよ」と、先生が伝えます。子どもたちは、園の森ゾーンで見つけたカブトムシの幼虫をこの土で飼えるかを尋ねたりするなど、 虫がいる理由をすんなりと受け入れてくれて、嫌がることも少ないそうです。

——いまは自然と触れ合うことが少なくなっているので、そうした体験は貴重ですね。

そうですね。あとは、家庭で生ゴミを分別するようになったという声も聞いています。ゴミに対する意識が高まったのか、登園前保護者に「エコバケちゃんと持った?」と聞く子もいるんだとか。忘れ物が多い子でも、エコバケだけは忘れないなど、生活面の成長もあるようです。

プロジェクト推進の立役者「エコバケ」

——子どもたちは「エコバケ」に愛着があるようですね。

エコバケ
エコバケ

容器に「エコバケ」という名前を付けたのは園長先生です。「エコバケ」は、エコバケツの略称ですが、プロジェクトの開始時期がちょうどハロウィーンだったこともあって、こども園では、生ゴミを食べていい土に変えてくれる「“エコ” な “オバケ”」で、エコバケという由来もあります。

エコバケは、子どもだけではなく保護者からの評価も高いです。大きさや形も運びやすくて、蓋もきちんとしまるので、落としても中身が漏れません。多賀町からは、エコバケをプロジェクトのシンボルとして進めようという意見をいただき、多賀町を通してこども園周辺の約100世帯にエコバケを配布し、取り組みを進めています。

また、子どもたちがエコバケを持って登園すると、シールを集められる仕組みも設けました。エコバケもそうですが、みなさんに楽しんで続けていただきたいので。

シールを集められる仕組み

——そのほか、このプロジェクトにおいて意識したことはありますか?

なによりも、安心安全に運営することを意識しています。例えば、子どもだけで機械に近づかないように、園内ではなく隣接する駐車場にバイオコンポスターを設置。機械の蓋には鍵がかけてあり、かつ運転中に開けると停止する仕様になっています。それでも子どもが機械の中に入ってしまう可能性はゼロではないので、こども園専用の設計として、投入口に柵をはめ込むようにしました。

また、もし機械の運転中になにかしらのエラーがあった場合は、ヤンマーの担当者にアラート通知が届く仕組みになっています。先生たちにも安心して取り組んでほしいので、不具合にはできるだけ迅速に対応できるようにしています。

また、ご家庭への負担を極力少なくすることも重要な点です。このプロジェクトを続けるためには、家庭からの継続的な生ゴミ収集が欠かせません。そのため、登園時に生ゴミの入ったエコバケを決められた場所に置く、降園時には空になったエコバケを持って帰るというシンプルかつ習慣になりやすい運用にしました。

——中山さんがそこまで尽力される背景には、どんな思いがあるんでしょうか?

中山さん

環境を守る活動の大切さだけではなく、楽しさや魅力をもっと多くの人に身近に感じてほしいです。大切さは多くの人が理解しているけれど、楽しさは体感しないことにはわからない。

私もこのプロジェクトを始める前に、家で完熟堆肥作りを経験してみました。臭いがあったり、虫が湧いたりして大変な部分もあったのですが、完熟堆肥で育てた野菜の出来がすごく良くて嬉しかったです。自分自身が楽しさを感じたからこそ、積極的にプロジェクトを進められているのだと思います。

子どもが変わることで、地域全体が変わっていく

——環境活動の楽しさを体感できる人が増えるといいですね。では最後に、今後の展望について教えてください。

子どもたち

このプロジェクトに関わった子どもたちが、ゴミは一手間加えることで再利用できるという意識を持ってくれたら嬉しいです。また、子どもの変化をきっかけに、周りの大人にもそうした意識が広がってほしいと思います。

これは園長先生の受け売りなのですが、「子どもが変わると、保護者の意識も変わる」そうです。最初はそこまで気乗りしていない人でも、子どもと一緒に取り組んでいくうちに、徐々に活動の魅力がわかってきます。また、お父さん、お母さんが変わると、今度はおじいちゃん、おばあちゃんたちにも広がっていく。より地域を巻き込んだ取り組みにできたらと思っています。

——子どもたちの行動をきっかけに地域が変わっていったら、すばらしいですね。

「大滝たきのみやこども園」の保護者アンケートでは、プロジェクトに対する好意的な意見をたくさんいただきました。2022年度中のトライアルとして始めた活動ですが、多賀町からも評価をいただいております。

来年度は、継続的な実施による成功事例を作りたいです。1年間継続して取り組むことで、今は見えていない新たな課題が出てくると思います。それらをひとつずつクリアして、胸を張って成功だと思える活動にし、将来的には他の地域にも展開していきたいです。

[取材・文] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之

 

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