2022.03.31

食品廃棄物の有効活用で持続可能な社会を実現する、バイオコンポスター「YC100」

バイオコンポスター「YC100」

「A SUSTAINABLE FUTURE」を掲げるヤンマーグループでは、持続可能な社会の実現ため、資源循環プロダクトの事業化にも取り組んでいます。その活動の一環として開発されたのが、バイオコンポスター「YC100」。農業や食品加工の際に発生する食品廃棄物を減量・減容し、有効資源に変えるため、資源循環サイクルを実現する製品として開発された「YC100」は、どのような製品で、どのような技術から生まれたのか。その開発ストーリーをご紹介します。

環境・コストの両面で課題となる食品廃棄物

世界の人口増加と経済発展は人々の暮らしを豊かにする反面、廃棄物の増加などが環境汚染を引き起こす原因のひとつになっています。なかでも食品廃棄物は、世界では毎年約13億トン、日本でも毎年約2,500万トン※1が排出されており、大きな社会問題となっています。

食品廃棄物には、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品ロスだけでなく、加工の際に出る食品加工残さなども含まれます。現在その多くは産業廃棄物として処理されていますが、水分を多く含んでいるため焼却時のエネルギー効率が悪く、CO2排出量の増加にもつながっています。

こうした課題に対応し、食品廃棄物の有効活用を促進するために開発されたのがバイオコンポスター「YC100」です。

※1出典:平成30年度の食品廃棄物発生量推計(令和3年4月27日環境省報道発表より)

農業・食品の残さを菌の力で分解するコンポスター

コンポスターとは、微生物によって生ごみなどの有機物を分解する装置です。家庭で利用できる簡易なものから、事業者が使用するものまで様々な種類があり、ごみの減量化はもちろん、処理後に残ったものを堆肥などに再利用できるという利点があります。

今回ヤンマーが開発したバイオコンポスター「YC100」は、機械に投入した残さを細断・乾燥し、菌を使って発酵・分解するタイプです。ヤンマー独自の新しい技術を取り入れ、100kgの食品残さを24時間でおよそ80%減量※2することに成功しています。もちろん、処理後の生成物は土壌活性剤や堆肥として土に返せるため、環境に配慮しながら廃棄コストの削減に貢献することができます。

※2当社試験機・標準生ごみ使用時の値。

食品残さを「YC100」で処理した様子
食品残さを「YC100」で処理した様子

新たに開発した技術で省エネかつ効率的な処理を実現

ヤンマーが取り入れた新たな技術のひとつが、ADI(Air Direct Injection)方式です。従来の機械式コンポスターでは槽内に空気を引き込むタイプが主流でしたが、「YC100」では外気を加温した後、槽内に圧力をかけて押し込みます。

空気を引き込むタイプに比べ、撹拌(かくはん)している残さに直接空気が届き乾燥効率が向上するため、横幅2500 mm、奥行き1400 mm、高さ1940mmと、よりコンパクトに設計されています。

また撹拌用の爪は、トラクターで使っている爪の形状と配列を参考に考案。耕うん技術を応用したロータリー方式でむらなく撹拌し、安定した槽内環境を維持することに貢献しています。

ロータリー方式
ロータリー方式

さらに、投入した残さの重量を自動で計測するのはもちろん、残さの重量や処理の経過時間に合わせて、槽内の温度や風量、撹拌速度・頻度などを最適に制御するシステムも独自に開発しました。例えば重い残さであれば、より乾燥を促すよう出力を上げ、軽くなれば出力を抑えるようプログラムが指示するので、より処理に適した槽内環境を保ち、電気を効率的に使用することができます。

その他にも、処理時の生ごみ臭を抑制する活性炭吸着方式の消臭装置を採用するなど、衛生面も向上させました。

成功のポイントは細かな制御技術と最適な副資材の開発

成功のポイントは細かな制御技術と最適な副資材の開発

<開発担当者プロフィール(写真左から)>

大皿 達郎(オオサラ タツロウ)
ヤンマーホールディングス 技術本部 イノベーションセンター プロトタイプ開発部
2019年のYC100開発当初から電子制御関係の開発に携わっている。

山下 智也(ヤマシタ トモヤ)
ヤンマーホールディングス 技術本部 イノベーションセンター プロトタイプ開発部
2021年からYC100の試験と品質改善に携わっている。

槙嶋 理華子(マキシマ リカコ)
ヤンマーホールディングス 技術本部 バイオイノベーションセンター
YC100では副資材の選定を担当。

梶 慎吾(カジ シンゴ)
ヤンマーeスター
YC100のシステムチェックなど電気関係を担当。

バイオコンポスター「YC100」は、ヤンマーのテクノロジー開発拠点のひとつである中央研究所で、2019年に立ち上がったプロジェクトです。廃棄物処理による環境汚染が深刻化するなか、「A SUSTAINABLE FUTURE」を掲げるヤンマーでは、持続可能な社会の実現のために、資源循環の仕組みの構築が求められていると考えていました。そこで、特にヤンマーとかかわりの深い食品廃棄物の問題を改善できる製品を生みだそうと、このプロジェクトが始まりました。

プロジェクトでは、まず市場に出ているコンポスターを調査。課題を導き出し、その改善を開発に生かしています。主な課題としては、一般的なコンポスターでは、投入した残さが泥状から団子のように固まり、分解が進まなくなることがあります。ADI方式や自動制御の仕組みは、この弱点を克服するために開発された技術です。

「ADI方式で難しかったのは、空気を圧縮して送り込むので高い気密性が必要になること。中の空気を漏らさないようにさまざまな工夫を取り入れています。また制御に関しては、投入する残さの重量と処理の時間をそれぞれ3段階に分け、風を送り込むブロアー、撹拌用のモーター、乾燥用ヒーター2機の4つのアクチュエーターがそれぞれの動作と組み合わせることで、処理方法を細かく設定できるようにしています」と語るのは、制御システムを担当した大皿さん。試行錯誤の末に2つの技術を完成させたことが、製品化への大きな前進になりました。

またバイオコンポスターでは機械的な技術のほかに、発酵を促す菌の活動も重要になります。この菌の活動を助ける副資材の選定を担当しているのが槙嶋さんです。「菌はおがくずや木片などを住処(すみか)に活動するため、コンポスターには菌と一緒にこれらの副資材を投入する必要があります。ただ副資材については良し悪しを判断する基準がなかったので、候補となる副資材を一つひとつテストしました。地道な研究でしたが、ようやく納得できるレベルのものができました」と語ります。

「YC100」は2021年12月に発売しましたが、それに向け、最終の品質チェックを担当したのが山下さんです。「新しい技術を取り入れている分、チェックする項目も多く、最後は時間との戦いになりましたが、表面だけ繕って後で悪影響が出ては話になりません。急ぎつつも絶対に自信を持って世の中に出せるよう、入念にチェックを行いました」と、製品の完成度に自信を見せます。

また、「YC100」の営業面を担当する梶さんは、「YC100のセールスポイントである多様な運用パターンについて、より営業の理解を促し、お客さまに最適なご提案をできる体制を整えていきます」と販売に向けた抱負を語ります。

バイオコンポスター紹介ムービー 

資源を有効活用できる循環システムの実現に向け大きな一歩を踏み出した「YC100」。「A SUSTAINABLE FUTURE」を体現する技術は、開発メンバーたちの情熱と創意工夫でこれからも進化を続けていきます。

 

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