2016.11.02

なぜヤンマーがにんにく栽培? ブランドにんにく産地化支援により見えてきたヤンマーの目指す「儲かる農業」とは?

農機販売を通じて日本の農業を支え続けてきましたヤンマーですが、近年は作物の生産から流通まで、農業という産業自体に一歩踏み込んで、事業の裾野を拡げようとしています。

ヤンマーアグリイノベーション株式会社が農業における国家戦略特区である兵庫県養父市で取り組んでいる「やぶ医者にんにくプロジェクト」。その狙いは地域活性化やブランド野菜の生産自体ではなく、ヤンマーが掲げるA SUSTAINABLE FUTUREにつながる、持続可能な社会を「儲かる農業」で実現すること。

ヤンマーが考える「儲かる農業」とは? Y MEDIAでは今回、取り組みをリードしたヤンマーアグリイノベーション株式会社代表取締役社長・橋本康治さんにインタビューを行いました。聞き手はかつて“元祖ギャル社長”、“元祖農ギャル”で鳴らした女性実業家の藤田志穂さん。現在は「ご当地!絶品うまいもん甲子園」を手がけるなど、次世代の農業を背負って立つ若者のサポーターとして活躍されています。ヤンマーが志す、これからの農業を語るにピッタリのナビゲーターです。

プロジェクトの過去・現在・未来のお話を通じ、「儲かる農業」の仕組みを考えます。

 

ヤンマーアグリイノベーション株式会社 代表取締役社長 橋本康治

藤田志穂

千葉県出身。1985年生まれ。高校卒業後ギャルのイメージを一新させる「ギャル革命」を掲げ、19歳で起業、ギャルの特性を活かしたマーケティング会社を設立し2008年末に退社。現在はOffice G-Revo株式会社を設立し、高校生の夢を応援する食の甲子園「ご当地!絶品うまいもん甲子園」を企画し、全国の高校生との交流を通じて、人材育成や地域活性化等を行っている。

藤田志穂オフィシャルブログ「ギャル社長はどこへいく!?」
http://ameblo.jp/fujitashiho

なぜヤンマーがにんにく栽培? 素朴な疑問を聞いてみた

お目にかかれて光栄です。これ、あいさつ代わりと言ってはなんですが、わが社が昨年(2015年)から兵庫県養父市で作り始めた「やぶ医者にんにく」です。おひとつどうぞ。

ありがとうございます! これが噂のブランドにんにくですね。大ぶりだし、形もきれい。それにしても、どうして「やぶ医者」なんですか? これさえ食べておけば、やぶ医者にかかる心配ご無用ってことですか?

「やぶ医者」という表現はもともと、養父で医学を修めた名医を指す言葉だったんですよ。ところが、養父で修業していないのに「俺は養父医者だ、名医だぞ」と言って、いい加減な治療をする輩が出てきて、ダメ医者の代名詞に変わったらしいんです。このにんにくは、本来の「名医」の意味で名付けました。

えー、知らなかった! ひと捻りあって面白いネーミングですね。どんな経緯で始まったんですか?

ヤンマーは長らく農業機械を中心にハード面で農家さんを支えてきましたが、藤田さんも知っての通り、今農業の担い手がどんどん減っていますよね。これからはハード面だけでなく、ソフト面のバックアップも必要なんじゃないかということで、農業の現場に入り込んで人材育成や地域活性化につながるソリューション事業を進めることになりました。その母体のひとつが2010年9月に設立された、わが社(ヤンマーアグリイノベーション株式会社)なんです。早速翌年から広島県の耕作放棄地に「ヤンマーファーム」を設けて、就農をめざす企業の人たちに栽培技術や経営方法など農業のノウハウを伝授する農業学校をスタートさせました。一連の活動が養父市の広瀬栄市長の目に留まり、「うちにもヤンマーファームをぜひ!」とラブコールを送ってくださって……。

この時広瀬市長から提示された候補地は山あいのわずかな耕作放棄地。まとまった面積を必要とするヤンマーファームの設立は難しいと、当時の橋本さんは判断しました。理由を説明し一旦は断ったそうですが、広瀬市長がある時発した言葉に打たれます。

「養父市のような中山間地の農業をなんとかしないと、日本の農業も国もダメになってしまう。市としてもできる限りのことをするから、力を貸してほしい」

国産にんにくの市場拡大へ
ヤンマー、養父市、地元企業の共同作業

広瀬市長(写真左)の熱意に共感した橋本さんは、養父市の農業活性化のため「とにかくやってみよう」と進出を決断。2012年2月に市と協定を結び、土壌改良や栽培試験等の準備を進めるなか、プロジェクトへの参画を申し出る企業が現れました。

名乗りをあげたのは、「フエルアルバム」でおなじみのナカバヤシさんのグループ会社で、製本業を営んでいる兵庫ナカバヤシさんです。技能を持った社員の雇用を守り、技術の継承ができるように、閑散期を利用して地元で農業を始めたいということでした。

製本業ってそれこそ畑違いだし、なかには 「なんで農業なんかしなくちゃならないんだ」って思う社員さんもなかにはいたんじゃないでしょうか。私自身、そういう話をたまに聞くので、指導する方も大変だったんじゃ……。

それは私も少し心配していたんですが、杞憂に終わりました。というのも、ナカバヤシさんの管理職の方が部下一人ひとりの性格を把握されていて、農業をやる意義を伝えたり、やる気を起こさせるような言葉をかけたりしたおかげで、非常に高いモチベーションでにんにく作りに参加してくれたんですよ。組織運営の極意を、逆に勉強させてもらいました。

教えるばかりじゃなくて、教わることもあったんですね。

ええ。それから、みなさん普段工場で働いている方ばかりなので、生産性に対する意識も非常に高くて、そこにも刺激を受けました。たとえば、にんにくの袋詰め作業の時、今日は1000個できた、明日1200個にするにはどうすればいいか?と考えて、その都度やり方を変えていくんです。そういう改善の意識は見習うべきだと思いました。

養父市でのプロジェクトでは、ブランド化する野菜を決める過程でいろいろな作物の栽培試験をしたというお話でしたが、最終的ににんにくが選ばれた決め手は?

ひとつは、養父の気候がにんにく栽培に適していたこと。にんにくは10月頃に植え付けをして、明くる年の6月頃に収穫するんですが、養父の場合、生育期間の冬の平均気温がにんにくに適していたのです。それで4年間栽培試験をして、ニンニクならばいける!と思いました。

私も「ご当地うまいもん甲子園」をやっている中で、気候や土壌でその土地ならではの名産が生まれるんだという実感があります。そういえばご当地にんにくってあまり聞かないですね。お店でも国産か中国産かという印象が。

にんにくの価格は国産と中国産で二極化しています。できれば国産を使いたいけど、ちょっと高すぎて、止むを得ず中国産を使っているという一般消費者、あるいはボリュームゾーンの大きい外食産業や食品加工業の関係者も多いのです。私たちはちょうどこの中間の価格帯を狙っていきたいと考えています。

見えてきた課題……やぶ医者にんにくプロジェクトのこれから

2015年秋、地元企業や地元の農家約20組とともに植え付けを行い、今年の初夏、待望の収穫期を迎えたやぶ医者にんにくの総収穫量は約20tに達し、2016年秋の植付用の(種子)にんにくを除き、出荷量は約4tとなりました。実は出荷見込みの半分ほど。
ヤンマーアグリイノベーションでは、この一年、多くの成果と課題を得ました。まずは品質改善の徹底。よりブランドにんにくとしての価値を高め、さらには地域の皆様とともに規模を拡大させ、産地に適した栽培技術や商品づくりを提案していく計画を立てています。

地域の農業を元気にしていこうという皆さんの意気込みも凄いですね。地方創生には地域全体が主体になった取組みが絶対必要。そういう自治体さんや地域のみなさんのバックアップもあって、ブランドにんにくが誕生したんですね。

今の段階ではまだ、ただのにんにく。ブランドにんにくとはちょっと呼べませんね。全体的な出来栄えはよかったのですが、こちらの指導が行き渡らなかった部分があり、一部の畑で病気が発生するなどして品質にバラつきが生じてしまったんです。そんな状態では売り先と正式な契約も結べないし、産地としては未熟と言わざるを得ません。各生産者さんの意識改革も含め、品質管理の徹底のためにやるべきことはたくさんあると思います。まずは品質向上、直近の課題です。

品質管理の徹底……。ブランド化には欠かせない要素ですね。ただ、作付け面積や生産者がさらに増えていった場合、ますます管理が難しくなるのでは。

おっしゃる通りです。当面は現場のスタッフがよりきめ細かに指導していくほかありませんが、ゆくゆくは品質管理や生産性向上のため先端のIoTを導入していくつもりです。たとえば、全部の畑に気温や湿度などをモニタリングするシステムを配備して、病気が発生しやすい気温・湿度に達した時に、いつでも誰でも適切な予防対策ができるようにしたいんです。

なるほど、農業ってその人の経験や勘に頼る部分が多いですもんね。同じ産地の同じ野菜なのに、農家さんによって見た目や味がちょっとずつ違ったりするのもそのせいでしょうし、ブランドにふさわしい高品質を保つなら、なおさら「見える化」が大事になってきますね。「やぶ医者にんにく」以外にも応用が利きそうです。

何をするにしてもまずは、栽培技術で特定の健康成分を増やすなど、機能性を高めてブランド力を強化させることです。それから近い将来、ブランド野菜の産地化だけではなく、産地直営の加工工場を設けて、細かく刻んだり、すりおろしたりして出荷するなど、外食産業界や食品加工業界に売り込んでいくことも考えています。そうすれば、わずかな傷などで出荷できない野菜もお金に換えることができますし、雇用も生まれて地域に活力が出てくる。ゆくゆくはオリジナル商品を開発して販売まで行う、6次産業化も視野に入れています。

豊かな社会の実現へ
ヤンマーが「儲かる農業」を追求するワケ

ヤンマーの産地化支援って聞いた時、農業にゆかりあるメーカーとして栽培の指導だけかと思ったら、最後の売るところまでサポートしてくれるなんて、頼もしすぎます。でもどうしてそこまで?と思ってしまいますが。

農作物の栽培方法や農機の使い方だけ覚えて、うまく収穫できたとしても売れなきゃ儲からないし、儲からないままでは、農業をやってみたい、続けていきたいと思う人が増えませんよね。だから、売り方のノウハウも提供して、独り立ちができるまで見守っていこうと。幸いヤンマーには創業100余年の間に培った、ビジネスに関するさまざまなノウハウがありますから、使えるものは使って、わからない時はとにかく当たってみようという感じで。

たしかに情熱もすごく大事だけど、お金がないと続けていけないし、何かビジネスモデルが示されると、若い人たちも農業に挑戦しやすくなると思います。農業とか医療とか命にかかわる産業って、利益追求をよしとしない風潮がありますけど、ちゃんと意義のあることをして儲けるのはむしろいいことですよね。

そう思います。大事なのは、生産者、消費者、地域など関わりを持つすべての人に豊かさがもたらされる仕組みになっているかどうか。私たちがめざす「儲かる農業」のベースもそこなんです。

「やぶ医者にんにく」と「うまいもん甲子園」
それぞれのアプローチで“つなぎたい”

藤田さんは「うまいもん甲子園」を通じて農業高校の若い子たちと接する機会が多いと思うんですけど、将来農業をやりたい!っていう子はそこそこいるんでしょうか。

たくさんいますよ。私もはじめは、都会志向の子が多いんじゃないかなぁって勝手に想像していました。でも話を聞いてみたら、家業を継いで農業を頑張りたいとか、農業や食にかかわる仕事をして地元を盛り上げたいとか、意外に農業に対して前向きなんですよね。その子たちの情熱が地元の人たちにちゃんと伝わっていないところがちょっと残念で、彼らの思いを届ける場所として「うまいもん甲子園」が少しでも役に立てばいいなと思っています。

それを聞いてちょっと安心しました。農業の分野で何と何かをつなぐという意味で、私たちと藤田さんの活動はどこか似ていますね。今回のやぶ医者にんにくプロジェクトでいうと、農業による地域の活性化をめざす養父市と、雇用の安定化のために農業に関心を持ったナカバヤシさんを、ヤンマーファームを介してつなげることができましたから。

その時々の縁で、つなぐべきものっていくらでも出てきそうですよね。私がこれからつなぎたいなと思っているのは、農業と子どもたち。大人になってから農業の大切さを説いてもなかなか響かないので、小さなうちから農業や食の大切さに気づけるようなきっかけを作れたらいいなと思って。橋本さんは何かありますか?つなげたいこと。

ずっと先の話ですが、やぶ医者にんにくの産地を全国各地に広げて、産地のネットワークを作りたいですね。先ほどお話したような先端技術も駆使しながら、その土地に合った方法で高品質のやぶ医者にんにくを生産して、チームニッポンで世界のにんにく市場に打って出る。それができたら今度はほかの農作物でも同じように、ブランド化とネットワーク化を進めて、日本の農業全体の国際競争力をもっと高めていきたいんです。

めちゃくちゃ壮大ですね(笑)。でも、今年のやぶ医者にんにくの商品化勢いにのって、10年後くらいには実現していそうな気もします。やぶ医者にんにくどころか、やぶ医者いちごとかやぶ医者大根が出回っていたりして。

いいですね〜、やぶ医者シリーズ! そのアイデアいただいていいですか?(笑)


ヤンマーが養父市でにんにくづくりを始めた経緯から、地元企業ともに歩んだ一年目の取り組みやそこに秘められた想い、さらにはにんにくプロジェクトを足がかりにしたグローバル戦略にまで及んだ二人の農業談義。このお話、続きがあります。

農業は会議室で行われているんじゃない!畑で行われているんだ!……といわんばかりに本社を飛び出し、鋭意植え付け作業中の養父市のヤンマーファームを訪ねることになったのです。その模様は後編でたっぷりお届けします。お楽しみに!


 

<後編はこちら>
おいしさもお墨付き! 農業と地域の未来を耕す、ヤンマーのブランドにんにく生産現場レポ

後編では兵庫県養父市にて、現場での取り組みを取材。後半では、試食会も。気になるやぶ医者にんにくのお味は?

関連情報

農業を、食農産業へ。

産地から食卓までサポートし、持続可能な農業をめざします。

ヤンマーアグリイノベーション株式会社

農業を「食農産業」に発展させ、新しい農業の可能性を追求します。