ヤンマーテクニカルレビュー

次世代新型高速V形機関GY175の紹介
~陸用発電市場向け電子制御エンジンの開発~

Abstract

The 12GY175L is an electronically controlled, high-speed V-type diesel engine developed primarily for the overseas land power generation market. In the large land power generation market, demand for generators as backup power sources for data centers has rapidly increased in recent years due to the spread of digital transformation, AI, and cloud services. Emergency generators for data centers require not only compactness and high output, a requirement for land power generators, but also the ability to instantly switch over to backup power.
The GY175L features a common rail fuel injection system for optimal fuel injection control, and four small turbochargers to meet all requirements: “performance required for emergency power generator,” “high transient performance required by customers,” and “environmental regulations in various countries.”
This article introduces the engine overview, applied technologies, and performance of this new, next-generation, high-speed V-type engine for land use.

1. はじめに

大形陸用発電機は病院などの施設や工場などの設備が災害等によって通常電源からの電力供給を失った際のバックアップ(非常用)電源や常用電源として使用されています。近年の電力需要増加に伴って、発電機出力は高くなる一方、スペースが限られているために発電機及びその動力となるエンジンはコンパクトかつ高出力なものを求める声が大きくなっています。特にDXやAI、クラウドサービスの普及などにより急速に需要が高まっているデータセンター向けバックアップ電源の用途では”コンパクト・高出力”に加えて、“高レスポンス”であることも求められています。
また、発電機を設置する場所が都市部となれば、人体への健康被害や大気汚染を抑制するために国内外それぞれの排気ガス規制に対応することも必要です。
上記の市場ニーズに対応するため、ヤンマーの大形高速エンジンでは初となるコモンレールを搭載した電子制御式V形ディーゼルエンジン12GY175Lを開発しました。
本稿では新商品の12GY175Lの適用技術について紹介します。

2. 商品コンセプト(データセンター向けに求められる性能)

データセンター向けバックアップ電源に求められる要求に適合するため、以下のような商品コンセプトを策定し開発しました。

・コンパクト・高出力

海外市場では持ち運びや現地での設置を簡便にするため、発電機システムをコンテナ内に収納するニーズがあります。発電システムはエンジンの他に発電機、ラジエータ等の大形部品も含まれるため、これらすべてが40ftハイキューブコンテナ内に収まるコンパクトさと高い電力需要に対応しうる高出力を同時に満たすことが求められています。

図1. コンテナ外観とコンテナ内の設置イメージ

・高レスポンス

災害等により通常電源からの電力供給を失った際、サービスの停止やデータ損失を防ぐためにはバックアップ電源にいち早く切り替わり、安定した大容量の電力を供給可能であることが求められます。発電開始時にはエンジンに発電機からの負荷が急激に加わる(エンジンへ負荷が投入される)ため、一時的に回転速度変動が起きます。バックアップ電源への切り替え時にシステムへ安定した電力を供給するためにはこの変動を可能な限り小さくすることが必要です。ディーゼル発電機では性能基準を定めた規格ISO8528-5にてエンジン回転速度の変動率(回転速度変動幅/定格回転速度)と整定時間(定格回転速度に戻るまでの時間)についてG1~G3までのクラス分けがあり、データセンター向けでは最高クラスのG3が求められます。

図2. エンジン負荷投入時の回転速度変動と整定までの時間

・環境性

各国の環境規制(国内は大気汚染防止法や条例)への適合、さらに都市部に設置される発電機では健康被害や近隣からのクレームが起きないように始動時の燃焼不適による黒煙や青白煙発生の抑制が求められます。

3. エンジン概要

表1に今回開発した12GY175L機関主要目を示します。
V形多気筒化によってエンジン高さを抑えつつ気筒数を増やし、さらに1シリンダ当たりの出力を上昇させることでコンパクトでありながら高出力を実現しています。
また、高レスポンスを実現するために大形過給機よりも変動に対して応答性のよい小形過給機を4つ搭載したクワトロターボシステムを採用しています。

表1. 機関主要目
図3. 機関外観(フライホイル側から見たイメージ)

図3は機関外観となります。
ヤンマーの大形ディーゼルエンジンでは初となるコモンレールを搭載した電子制御エンジンであり、エンジン上部には各バンクに2つの過給機を配置しています。
また、メンテナンスを一方向からできるよう潤滑油フィルターや燃料フィルター、エンジンコントローラ(ECU)を同じバンク側に配置しています。

4. 適用技術・性能

4.1. 主体部構造の最適化

高出力化のために12GY175Lではこれまで以上に燃焼圧力を高めています。
燃焼圧力増大にも十分耐えうる構造とするためCAE解析を活用して主要部構造の設計を行いました。
シリンダブロックやラダーフレーム等の主体部は外形寸法を拡大せずコンパクト性を実現するため、解析を用いた細かな内部形状の最適化を行いました。また、高い燃焼エネルギーを効率良く回転出力に変換するためには摺動部の潤滑性も重要となります。こちらもクランク軸受部の油膜解析によって必要な油膜厚さが確保できる構造に最適化しました。さらに軸受メタルの表層にはクランク軸との初期なじみ性や異物埋収性に有利な樹脂材を採用しています。

図4. 主要構造部の強度とクランク軸受部油膜のCAE解析

4.2. 熱負荷低減

高出力化によって燃焼室周辺部品はより多くの熱にさらされることになります。
特に燃焼室からの受熱が大きいシリンダヘッドにおいては冷却構造の設計が重要です。今回の開発ではシリンダヘッドの熱負荷低減への対応について、燃焼室周りの水流れ解析や伝熱シミュレーションを活用し、最適な冷却性能となるよう構造を最適化しました。解析の結果、排気弁間や燃焼室周辺の温度が上がりやすい部分の冷却性を向上させるため、きり穴冷却方式が有効と判明しました。長い細穴加工は容易ではありませんが、冷却水通路の位置と流量の精度が向上するため安定した冷却性能を得ることが出来ます。

図5. 燃焼室周りのCAE解析とシリンダヘッドの冷却構造

上記のように12GY175Lでは大形エンジンにて蓄積したノウハウとCAE解析を活用して信頼性・耐久性を維持しながら付帯設備を含む発電システム全体を40ftコンテナに搭載可能なコンパクト性と高出力を実現しました。図6は12GY175Lと同じ出力域の当社既存機種(16NHL)、競合他社機の出力密度を比較したものです。商品化年度が新しいものほど性能の向上に伴って出力密度も向上しておりますが、その中でも12GY175Lは最も高い出力密度を達成しています。

図6. 出力密度の比較

4.3. 給排気レイアウトの最適化

データセンター向けでは発電開始直後から必要とされる電力量が大きく、G3クラスの過渡応答性を満足した上で50%以上の負荷投入率(投入する負荷/定格出力)に対応できることが求められています。今回、この2つの要求を満足させるためにエンジンの1Dモデルと発電機負荷モデルを組み合わせた負荷投入のシミュレーションを用いて設計検討を行いました。

図7. 負荷投入のシミュレーション

図8は比較的大きな2つの過給機によって構成されるツインターボ仕様(図9(a))と、過給機を小型化し、システム全体の給排気容量を確保するために過給機数を4つに増やしたクワトロターボ仕様(図9(b))での負荷投入シミュレーション結果の比較です。

図8. 回転速度変動と整定時間の比較
図9. 検討した排気レイアウトの概略図とモデル

図から、ツインターボ仕様では過給機自身が持つ給排気の応答遅れにより負荷投入直後の機関回転速度の低下が著しく、回転速度の回復に多くの時間を要することが分かります。一方、クワトロターボ仕様では機関回転速度低下が小さく、急激な負荷投入に対しても高いレスポンスを有していることが分かります。
また、同じクワトロターボであっても給排気管のレイアウトによって過渡性能が変化することが知られています。例えば図10のB案は過給機の数はA案と同じ4つですが、排気干渉などの影響によって過渡特性が変化します。このような特性を考慮し、シミュレーションを通じて負荷応答性とエンジン性能のバランスの良い最適な給排気レイアウトを選定しました。その結果、本エンジンはデータセンター向けの負荷投入基準を満たす高い過渡応答性能を達成出来ました。

図10. クワトロターボ仕様B案

4.4. 噴射最適化

本エンジンの燃料噴射システムにはレール内の燃料圧力を最大2200barまで昇圧させることが可能なコモンレールシステムを採用しています。
高圧・多段噴射によってPM、NOX排出量の低減が可能となり、本エンジンは排ガス後処理装置無しで大気汚染防止法及び世の中で最も厳しい規制であるEPA Tier2を満足することを確認しました。
そのため国内外問わずグローバルに商品を提供することが可能です。
また、電子制御によるきめ細やかな燃料噴射制御によって始動時の青白煙、黒煙の発生は見られず、さらには競合他社機と比較してトップレベルの低燃費を達成しています。

5. おわりに

本稿では12GY175Lの機関概要と適用技術について紹介させて頂きました。データセンターの大形化に伴い発電機出力の高出力化を求める声が大きくなっているため多気筒化による出力ラインナップの拡充を図っていきます。
また、GHGネットゼロを想定した多燃料対応技術の適用も推進して参ります。

著者

ヤンマーパワーソリューション株式会社
開発本部 高速エンジン技術部

桑鶴 貞雄

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