ヤンマーエネルギーシステム株式会社
開発部 システム開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
定置式水素燃料電池発電システム「HP35FA1Z」の商品化
~オールインワンの省スペースなシステムでクリーンな電力供給を実現~
Abstract
Yanmar has developed a stationary fuel cell power generation system, “HP35FA1Z,” with a power output of 35 kW, utilizing hydrogen as fuel to contribute to carbon neutrality. This product does not emit greenhouse gases such as carbon dioxide during power generation, thereby supporting our customers’ decarbonization efforts. Additionally, the HP35FA1Z is characterized by its compactness and flexible output control, while also ensuring reliability as a system. In this article, we will introduce the product concept of the HP35FA1Z and the Yanmar technologies applied to achieve its commercialization.
1. はじめに
ヤンマーエネルギーシステム株式会社(以下、ヤンマー)では、主に内燃機関をパワーソースとする発電機およびコージェネレーションシステムを提供しています。近年、地震や台風などの災害による停電時の事業継続計画(BCP)対策として導入いただいているほか、分散型エネルギーシステムの分野でも、太陽光発電や風力発電などの不安定な再生可能エネルギーを補完する役割を担うなど、その必要性が高まっています。
一方、地球温暖化の防止に向けて既存の化石燃料からカーボンニュートラル燃料への移行が世界的な課題となっており、その中でも水素燃料に関しては、2024年5月には水素社会推進法が成立し、水素活用の実証試験も各地で計画されるなど、普及に向けての取り組みが拡大しています。
本稿では、上記の背景を踏まえてヤンマーが開発した水素燃料電池発電システム「HP35FA1Z」についてご紹介いたします。
2. HP35FA1Zの商品コンセプト
HP35FA1Z(図1)は、主にクリーンなエネルギー源として水素利活用をご検討されている事業者様や自治体様をターゲットとしています。このようなお客様にとって、水素燃料電池は不安定な再生可能エネルギーを補完し、天候や時間帯に左右されない安定的なCO2フリー電力としての活用を想定されており、さらにはオフグリッド電源としての役割や災害時のレジリエンス強化としての役割も期待されています。そのため、低負荷から定格出力までのシームレスな出力制御や、急激な負荷投入/遮断への負荷追従機能、あるいはエネルギーマネジメントシステム(EMS)等の上位コントローラからの制御など、多様な運転パターンに対応する必要があります。また、導入をご検討される上では施工面や費用の点が重要視されることも多く、コンパクトで施工が簡易であることが求められます。さらに、電力供給を担う上でシステムとしての信頼性やサポート体制は非常に重要であり、特に新燃料である水素に対しては、無色無臭で漏洩に気付きにくく、都市ガス等と比べて小さなエネルギーでも着火しやすいという特性を考慮した安全設計が必要となります。
以上の背景から、HP35FA1Zの商品コンセプトとして下記3点を設定しました。
① 負荷に応じた出力制御と自立運転対応
② コンパクトなオールインワンシステムの実現
③ 発電システムとしての信頼性と充実サポート
3. 商品の特徴と適用技術
HP35FA1Zの主要構成機器とシステムフロー、主要諸元を図2~3、表1に示します。本システムでは、水素を燃料とする固体高分子形燃料電池(PEFC)を搭載した燃料電池モジュール(以下、FCモジュール)を採用し、そこにインバータやリチウムイオンバッテリーを組み合わせた構成となっています。FCモジュールから出力される直流電力をインバータで三相交流電力に変換し、商用電源との連系出力や、停電時の自立出力を行う仕組みです。また、リチウムイオンバッテリーはFCモジュール始動時の電力供給や停止時の余剰電力吸収に加え、後述する出力制御技術にも活用しています。
次節以降で、各商品コンセプトを実現するために適用した具体的な技術をご説明します。
- ※1発電効率は、JIS C 62282-3-200:2019の条件に従う。基準温度288.15K(15℃)、基準圧力101.325kPa
3.1. 負荷に応じた出力制御と自立運転対応
HP35FA1ZはCO2を排出しない分散型発電システムとして、主に事業所や地域内の電力供給を担う一方で、停電時には自立型電源装置として施設内の負荷へ電力供給する用途も想定しています。そのため、HP35FA1Zには連続で定格出力運転をする機能と、様々な負荷に応じて出力を柔軟に追従させる機能が必要となります。しかし、燃料電池は一般的に頻繁な起動・停止は性能劣化につながることや、低負荷領域での運転がFCモジュールの最低出力制限にかかってしまうことから、上記のような運転をする際には対策が必要となります。
この問題を解決するために、HP35FA1ZではFCモジュールとリチウムイオンバッテリーを組み合わせ、低負荷領域ではバッテリーから出力する制御方式(ハイブリッド運転)を採用しました(図4)。これによって燃料電池の性能劣化を抑制しつつ、負荷に応じて最適な出力制御をすることが可能となりました。また、HP35FA1Zは図5,6に示すようにシステムコントローラとの接続によって最大16台までの統合制御が可能であり、お客様の電力需要に応じて運転台数や出力を最適制御することができます。さらに、この統合制御によって号機ごとの負荷平準化やローテーション運転による運転時間平準化をすることにより、燃料電池の劣化抑制にも寄与することが可能となりました。加えて、HP35FA1ZはEMSなどの上位コントローラと接続することで、VPP(Virtual Power Plant)やマイクログリッドなどのサービスに対応できる機能も備えており、お客様のニーズに応じた運用が可能です。
3.2. コンパクトなオールインワンシステムの実現
HP35FA1Zはお客様の現地工事を省力化して導入コストを低減するために、FCモジュール、リチウムイオンバッテリー、インバータ等の運転に必要な機器をコンパクトなパッケージに収納しています。また、発電時に発生する熱を除去するためにラジエータを搭載していますが、一般的なエンジンの冷却水出口温度が90℃前後なのに対し、PEFCの冷却水出口温度は70℃程度であり大気との温度差が小さいため、熱を除去しにくいという特性があります。そのため、十分な冷却をするためにはラジエータが大型になってしまい、コンパクトなパッケージに搭載できないという課題がありました。そこで、内部を2階建て構造とし、上段にラジエータ、下段にFCモジュールや電気機器を配置することでシステムの設置面積を小さくしつつ、大型のラジエータを設置する十分なスペースを確保しました。また、ラジエータを垂直方向ではなく水平方向に設置し、放熱面積を確保しつつシステム全体の高さを出来る限り低く抑えることで、輸送性にも配慮しました。さらに、ラジエータ、FCモジュール、電装品の3つの冷却対象ごとに換気ルートを分割することで、区画ごとに効率的な冷却ができるようにしました。換気設計に際しては、図7に示すような熱流体解析によって必要な換気風量が確保されているか、構成部品の温度が基準値以内に収まるかなどをシミュレーションによって検証し、システムの最適化を図りました。
以上のような取り組みにより、HP35FA1Zでは図8に示すようにクラストップレベルの省占有面積となるコンパクトなパッケージを実現しました。
3.3. 発電システムとしての信頼性と充実サポート
HP35FA1Zでは、出力あたりの重量やコストが低い車載用のFCモジュールを採用しました。車載用FCモジュールの採用に際しては、定置式発電機として準拠すべき関連法規への適合を確認するために、燃料電池メーカーと共同で評価を実施したり、工場出荷検査で所定の試験を実施する仕組みを構築したりすることで、定置用途での利用を実現しました。
また、先述したように水素は都市ガス等と比較して最小着火エネルギーが小さく、無色無臭で漏れに気付きにくい特性をもっています。そのため、運用中に万が一水素が漏えいした場合に備え、安全対策を講じる必要があります。HP35FA1Zは、水素漏えいを検知した時点で即座にシステム停止および水素供給遮断をすることはもちろんですが、加えて換気ファンの配置を工夫してシステム内に圧力差を設けることで、漏えいした水素が着火源となりうる電装品に到達、滞留することを防止する構造なども織り込みました(図9)。さらに、ヤンマーでは図10に示すような遠隔監視システム(RESS)による保守サービスを展開しており、自社製品の運転データを24時間365日監視することで、異常時には現地サービスマンによる迅速なサポートを提供する体制を整えています。
4. お客様の導入事例
最後に株式会社JERA様の袖ヶ浦火力発電所構内に導入いただいた事例をご紹介します。こちらの機場ではHP35FA1Zと太陽光発電システムを組み合わせ、ヤンマー製EMSによって日々の運用を行っています。電力需要予測などのデータに基づき、ヤンマー製EMSによる最適制御を取り入れることで、CO2フリー電力の供給とエネルギー利用の効率化に貢献しています。
5. おわりに
本稿でご紹介した水素燃料電池発電システム「HP35FA1Z」は、発電時にCO2を排出しないカーボンニュートラルな商品として、お客様の脱炭素化に貢献することができます。ヤンマーは今後もエネルギーシステムのリーディングカンパニーとして、お客様のニーズに合わせた脱炭素製品を展開していくことで、温室効果ガスの排出削減に取り組み、お客様の課題解決につながるエネルギーソリューションを提供してまいります。
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