ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
特機事業部 開発部 中形エンジン技術部
ヤンマーテクニカルレビュー
舶用向け新ディーゼルエンジン6GY135シリーズの開発
~クラストップレベルの低燃費・環境適合性の実現~
Abstract
We developed the 6GY135 engine as a successor to the 6KXZ series for marine and industrial diesel applications. This engine features a common rail system to meet emission regulations in Japan, Europe, U.S., and China. It was designed with the concepts of “maximizing customer lifecycle value” and “minimizing environmental impact.” The engine achieves clean exhaust emissions and excellent low fuel consumption while maintaining reliability.
Market research and Smart assist analysis were conducted to verify quality requirements, which were then reflected in the design and control system. A thorough overhaul of past models was also carried out to improve quality.
Under EPA Tier 3 regulations for North America, the engine provides up to 7% more torque compared to competitors, while reducing exhaust emissions and greenhouse gases. The engine is more compact and lighter in weight. Using Model-Based Development (MBD), we analyzed combustion parameters to determine optimal specifications, shortening the development period and meeting diverse needs.
1. はじめに
当社は舶用業務用ディーゼルエンジンとして、従来機種6KXZシリーズの後継機種であるコモンレールシステム搭載エンジン(6GY135シリーズ)を開発しました。
舶用エンジンはコンテナ船やタンカーなどに搭載される大型船舶だけではなく、漁船やプレジャーボートなどの小型船舶にも使用されています。
この6GY135シリーズは漁船やプレジャーボート向けに、「Life Cycle Value(お客様の生涯価値評価)の最大化と環境負荷の最小化」をコンセプトして開発され、コモンレール式燃料噴射装置を搭載することにより、クリーンな排気、良好な始動性を実現し、更には従来機種の長所である信頼性を維持しつつ、低燃費、高トルクという特徴を進化させました。
2. MBDを活用したLife Cycle Valueの最大化と環境負荷の最小化の実現検討
従来機種である6KXZシリーズは舶用業務用エンジンとして高い信頼性で市場より好評を得ていましたが、近年のGHG(温室効果ガス)削減対応や燃料価格高騰により、省燃費要求の高まりが強くなっていました。今回開発したエンジンは、更なる低エミッション化と低燃費化の追求を目指して設計しています。これら二つの要件はどちらか一方のみを改善しても、燃費悪化やエミッション増加、さらには信頼性の低下を招く可能性があります。そのため両方の要件を同時に満たしながら速やかに上市するために、Model Based Development(以下MBD)手法を活用して、開発を進めました。
2.1. Smart Assistを活用した、お客様が求める要求品質の設定
6GY135シリーズの開発では、お客様の声からエンジンに求められるニーズ(Life Cycle Value)を引き出すために、市場稼働情報(Smart Assist)で得られたビックデータを分析することで、それを定量的なエンジン性能要件として定義しました(図1)。Smart Assistはエンジンの稼働状況を見える化する「稼働情報管理ツール」などお客様の安心と利便性を第一に考えたサービスです。
このサービスの機能を活用した分析により、6KXZシリーズは加速時に必要な低回転域の実稼働カーブに対してエンジントルクカーブの余裕がないことから加速性が悪く、その時の排気濃度(煙の排出)が大きいことが分かりました。これらは操船フィーリングの悪化や積載物の汚れに伴う商品性低下を招きます。今回の開発では、市場での広範囲な稼働データをもとにお客様が求めるスムーズで力強い加速性を実現するために必要となるエンジントルク特性と排気濃度を要求品質として定めました(図2)。


2.2. GHG低減を狙った燃焼性能達成の手法
ディーゼルエンジンの燃焼性能は燃焼室形状・インジェクタ諸元・吸排気システムなど様々な要素が複雑に組み合わさり決定されます。3.1項で定義したエンジン性能品質を満たす燃焼諸元を速やかに決定するために、今回は図3のような手順により開発を進めました。まず、性能1Dシミュレーションでバルブタイミングや過給機特性などの吸排気システムを決定しました。それから得られたデータをもとに燃焼3Dシミュレーション上でピストン形状やインジェクタ諸元などをパラメータ化し、机上で最適な燃焼性能が得られる組み合わせを決定しました。シミュレーションと実機の答え合わせをするために単気筒試験機を用いて解析結果の実機検証を行い、早期に妥当性の評価を行いました。その後、6気筒エンジンでの試験に臨みました。
また6KXZシリーズで好評を得ている信頼性を維持するために、ピストン熱負荷等についても机上で絞り込んだ燃焼性能をもとに境界条件を設定し、信頼性解析を行い、単筒試験機で答え合わせをすることで、開発初期段階において後戻りが小さい開発を推進しました。

2.3. 連成シミュレーションによる加速マッチング
6GY135シリーズは従来機種の6KXZシリーズには無かったプレジャーボート用途に販売を拡大するため加速性のマッチングが重要になります。図4にて、お客様のニーズにマッチした加速性を実現するために、プレジャーボートの加速性評価のマッチングの事例を紹介します。3.2項で使用した1DエンジンモデルにSimulinkで作成した船体モデルとECU(Engine control unit)モデルを組み合わせることで船体の加速挙動を机上評価するシステムを構築しました。図4の右は上記の取り組みの中で、プロペラのみ変更することで、加速性に対する影響を机上評価した事例です。
その結果、これまでプロペラ諸元やクラッチ設定など、ベテランの経験に依存していた実機加速評価を机上で精度よく実施出来るようになり、少ない試行回数で加速性と排気色の同時低減ができました。

3. エンジン性能
3.1. 国内外トップクラスの低燃費を実現
国内向け仕様では海洋水産システム協会が指定する4MODE燃費において、省エネ機器申請が可能となる自他社比目標6%以上の低燃費を達成することが出来ました。これにより従来機種および競合他社からの換装時にも、省エネ機器申請が可能となっております。
また海外向け仕様の一部では、EPA3次(米国規制)、IMO2次(一般海域)規制に対応しつつ、定格燃費において競合他社比5%~9%減の低燃費を達成することが出来ました。

3.2. 排ガス規制対応と信頼性・高出力化の両立
6GY135シリーズは、従来機関のボアストロークは同じまま、国内向けP仕様(軽作業船向け)ではクラストップ出力、サイズダウン、軽量化をすることができました。(図6)

また燃料噴射方式を機械式からコモンレール式にすることで、従来機種の国内3仕様からIMO Tier2をはじめとするIMO Tier3、EPA Tier3、China Tier2といった排ガス規制を十分に満足する低エミッションを実現し、国内外含め全35仕様へと販売仕様を拡大しました。これによりお客様の状況にあった最適なソリューションを提供することが可能になりました。(図7)

4. おわりに
今後の展望として、私たちはGHG(温室効果ガス)低減をテーマに掲げ、更なる研究と開発に取り組んでまいります。持続可能な未来を築くためには、技術革新と実践的な対策が不可欠です。今回の成果を基盤に、より一層の努力を重ね、環境負荷の低減とLCVの両立に貢献することを目指します。
著者


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特機事業部 開発部 中形エンジン技術部