ヤンマーテクニカルレビュー

V8eの開発
~ヤンマー初の電動コンパクトホイルローダー~

Abstract

The mission to achieve carbon neutrality and the increasing demand for environmental performance have driven Yanmar to develop its first electric compact wheel loader – the V8e. This initiative supports Yanmar’s goal of achieving carbon neutrality by 2050, addressing greenhouse gas emissions from human activities, and responding to customer requests to go green. Yanmar aims to develop and market green powertrains compatible with various energy sources, including e-mobility, alternative fuels, engines, and fuel cell systems, without compromising customer convenience.
The V8e designed to match the strength and performance of the V7 – diesel engine version, offers zero emissions, lower noise and reduced vibrations. Challenges such as adapting hydrostat behavior to the electric powertrain, preventing cable overheating, and selecting suitable charging infrastructure were tackled with advanced analysis and innovative solutions. The V8e features robust specifications with the focus on efficiency through software-based demand control.
Prospects for electric construction equipment are promising, driven by legislative measures, subsidies, and decreasing battery costs. Yanmar plans to expand its range of electric machines to meet the growing need for sustainable construction equipment.

1. はじめに

建設業界は、温室効果ガス(GHG)排出量の削減と環境負荷の低減に対する世界的なニーズに後押しされ、電動化に向けた大きな変革期を迎えています。環境規制が厳しくなり、持続可能な技術へのインセンティブが高まるにつれ、電動建設機械への需要は高まり続けています。この流れは、2050年までにGHG排出量をゼロにするというヤンマーのミッションに合致しており、お客様の生産性を維持しながら環境負荷を最小限に抑えることにもつながります。
こうした需要の変化に応えるため、ヤンマーは電動コンパクトホイルローダー「V8e」を開発しました。V8eは、ゼロエミッションを実現しながら、現代の建設現場の厳しい要件を満たすように設計されており、より持続可能な未来に貢献する高性能電動ソリューションを提供するというヤンマーのコミットメントを体現しています。

2. 開発コンセプトと目標

ヤンマーの電動コンパクトホイルローダー「V8e」は、バケット容量0.8m3の4.5トンクラスの要件を満たしながら、環境に配慮した持続可能な建設機械へのニーズの高まりに応えるよう設計されています。V8eは、新開発のプラットフォームをベースに、ディーゼルエンジン搭載のV7、V7-HWとコア構造を共有し(図1)、同じ強度と性能を維持しています。
性能、機能性、作業効率を損なうことなく、お客様が新しい電気技術を導入できるようにすることが主な目的でした。これを達成するために掲げられた3つの主要な開発目標が、生産性を維持すること、電気技術の限界を克服すること、そして従来のディーゼルエンジン搭載機の強度と性能に匹敵することでした。

図1 V8eと従来機のV7-HW

3. 設計上の課題とソリューション

V8eの開発目標である生産性の維持、電気技術の限界の克服、従来のディーゼルエンジン機の強度と性能の実現を達成するために、5つの主要な設計課題を設定しました。各課題は、上記の目標を達成するために必要な特定の領域に対応しており、現代の建設現場における要求を満たすことを目指したソリューションも示しています。

3.1. ソフトウェアアライメントによりハイドロスタットの挙動を電動ドライブトレインに適応

堅牢な性能を維持しながら電動ドライブトレインを開発するためには、ディーゼルエンジンのホイルローダーに採用されている従来の静油圧式ドライブトレインの利点と動作特性を理解することが極めて重要でした。静油圧式駆動装置には、オペレータがペダルを離すと自動的に減速するなどの特筆すべき利点があります。油圧抵抗により機械を減速させることでブレーキの摩耗を減らし、ブレーキを離したときのロールバックを防止することによって斜面での制御がしやすくなります。さらに、バケットを積山に押し込むような作業では、ダイナミックアジャストメント(DA)制御によってトルクを効果的に操ることで車輪がスリップするのを防ぎます。
このような直感的な動作を電動ドライブトレインで再現することは、ソフトウェア開発中の課題となっていました。電動モーターには自然抵抗がないため、坂道で機械を制御するのが難しく、急な動きやロールバックにつながったりします。初期の試作段階では、機械を静止させるのに苦労し、ペダルを強く踏みすぎるとぎくしゃくした動きを引き起こしていました。
ヤンマーはこれらの問題を解決するために、静油圧式システムのスムーズな動作を反映したトルク制御電気駆動装置を開発しました。このシステムは、精度、効率、低速制御を向上させ、斜面や予測可能なロールバック時のスムーズな操作を実現します。積山に押し込むなどの高負荷作業時も、車輪が滑ることはありません。ソフトウェアの改良プロセスは、経験豊富なオペレータからのフィードバックを参考にしながら進められました。静油圧の機能性を再現したことに加え、電動ドライブトレインでは、ブレーキ、後進、下り坂走行時にエネルギーを回生することが可能です。これにより、自律性と効率性が向上します。

3.2. 配電ユニットの温度測定方式により高電圧ケーブルの過熱を防止

V8eの配電ユニット(PDU)は、48Vバッテリーから電動ドライブトレイン、ePTO(油圧ポンプ用電動モーター)、制御電子機器などのサブシステムに配電する重要なコンポーネントです。ヒューズ、リレー、サーキットブレーカーを使用して安全な電力配分を確保し、過負荷や電気的故障から保護します。特筆すべきは、ドライブトレインモーターとePTOに電力を供給する高電圧ケーブルの温度監視です(図2)。高電圧ケーブルは、急勾配を走行するときなどにピーク電流を処理しなければならず、その際に過熱状態になることを避ける必要があります。
他社機では通常、ピーク電流を即座に制限することでケーブルを保護しますが、その場合、急勾配での走行速度が大幅に低下し、遅延の原因となってしまいます。これに対してV8eのPDUは、温度センサ(図2)を使用してケーブルの熱をリアルタイムで監視し、特定のしきい値に達した場合にのみ電力を制限します。これにより、V8eは傾斜でも制限値に達するまで最大速度を維持することができ、性能と効率の両方が向上します。

図2 PDU内部の温度センサの位置

最近実施した採石場でのフィールドテストにおいて、V8eは温度監視技術を持たない他社機に対して大きな優位性を示しました。このテストでは、急勾配の斜面で直接対決が行われ、高度な温度監視が機械の性能に与える影響を実証しました(図3)。テスト中、V8eのインテリジェントな温度監視システムが、稼働中の熱レベルを継続的に評価し、厳しい条件下でも最高の効率を維持することができました。対照的に、温度変化の監視機能がなく、温度変化に対応することができない他社機は、同じパフォーマンスレベルを維持することができず、すぐにスピードを落とし始めました。V8eが斜面の頂上に到達する頃には、他社機はかなり後れを取っていました。この差は、特に採石場のような要求の厳しい環境において、リアルタイムの温度監視がいかにサーマルスロットリングを防ぎ、生産性を最大化し、性能を持続させることができるかを浮き彫りにしています。

図3 他社機に対する温度監視の優位性

3.3. お客様に受け入れていただくための充電インフラの選定

ヤンマーは、顧客満足度と顧客受容性を考慮すべき重要な要素だと捉えています。特に新しいテクノロジーに関しては、お客様に受け入れてもらうための障壁をなくす必要があります。そのため、日常業務への影響を最小限に抑える適切な充電インフラを選定することが極めて重要でした。
V8eの車載充電器は、11kW(オプションで22kW)の充電電力を供給し、充電状態20%から80%まで約1.5時間で充電が可能です。

表1 充電状態20%から80%まで充電する場合の電源による充電時間の違い

充電器 電源 39.9kWhバッテリー 53.2kWhバッテリー
11kW 単相230V、16A 最大9時間 最大12時間
三相400V、16A 最大3時間 最大4時間
22kW(オプション) 三相400V、32A 最大1.5時間 最大2時間

多くの他社機のようにオフボード型の急速充電器に頼るのではなく、当社の機種では意図的に車載急速充電器を組み込む仕様にしました。オフボード充電器は、お客様が作業現場まで忘れずに持ち込む必要があるため、日常業務には実用的ではないと考えました。さらに、大型で重量のあるオフボード充電器は運搬が必要となるため物流管理が複雑になってしまいます。必要な充電機器が機械にすべて組み込まれていることは、オペレータにとって大きな利点となります。
V8eホイルローダーに適した充電コネクタの選定においては、業界標準と運用上の汎用性に基づき、タイプ2充電ソケットを使用するという決定が下されました。タイプ2コネクタは自動車業界で広く採用されているため、様々な公共充電インフラやウォールボックスシステムとの互換性が確保されています。公共の充電設備や固定式充電設備も利用できないような状況の場合、V8eであればJUICE BOOSTER®を使用することで、さらなる柔軟性を提供することができます。本機に標準装備されているポータブルタイプ2充電装置は、バッテリー発電機をはじめ、様々な電源から充電することができます(図4)。付属のアダプターを使用すれば、世界中の一般的な家庭用・産業用コンセントからの充電が可能です。

図4 充電方法の概要

3.4. ePTOのソフトウェアベースのデマンド制御により効率が向上

V8eの開発において、効率的な油圧システムを確立することは重要な目標であり、自律性を拡張して生産性を維持するために不可欠でした。効率を向上させるのに重要となる機能というのが、油圧ポンプを駆動する電動モーターに採用されているePTOのソフトウェアベースのデマンド制御です。デマンド制御システムは、必要な油圧流量のみをアクチュエータに供給し、エネルギー使用を最適化します。
図5は、オペレータがジョイスティックを動かしたときのデマンド制御の動作原理を示しています。主制御弁(図5-右側)には、スプールの正確な位置を示すスプールセンサを装備しています。センサの信号(電圧出力)は制御ユニットに送られ、そこで流量チャートに基づいて信号が処理されます。そのデータを利用し、ePTOを介してポンプからの油圧流量を正確に調整することで油圧アクチュエータの正確な動作を実現します(図5-左側)。スタンバイモードでは、ePTOは最小回転数100rpmで作動し、ステアリングなどの安全上重要なコンポーネントの機能を維持します。従来のディーゼルエンジン式ホイルローダーでは、通常約1000rpmのスタンバイ回転数で油圧ポンプを連続運転し、最大0.5kWhの電力を消費します。ePTOのスタンバイ回転数は大幅に低減されているため、最大90%の電力節約を実現できます。
通常、ディーゼルエンジン駆動機械の電力消費は、オペレータの操作次第で大きく変わります。最大の油圧流量が不要なときであっても、オペレータが高いエンジン回転数のまま維持してしまい、それが過剰なエネルギー消費につながることがよくあります。一方デマンド制御システムがあれば、オペレータの行動や経験に関係なく、エネルギー効率の高い性能を一貫して発揮することが可能です。V8eには、エコモード、フォークリフトモード、バケットモード、パワーモードといった特殊な作業モードが備わっているため、プロセスがさらに簡素化され、オペレータは目の前の作業に対して最も効率的な設定を選択することができます。

図5 ソフトウェアベースのデマンド制御の概略図

3.5. バッテリーの選定

ヤンマーは、その優れた特性からV8eにLFPバッテリーを採用しました。LFPバッテリーはエネルギー密度が低いため重く、サイズも大きくなりますが、ヤンマーはそれを逆手に取り、重いバッテリーをカウンターウェイトとして使用することで、バラストの必要性を減らし、性能とデザインの両方を最適化しました。そのうえV8eには、大型バッテリーを搭載するのに十分な設置スペースもありました。
V8eに搭載されたLFPバッテリーは加熱システムを内蔵しており、-20℃の低温下でもフルパワーを供給します。さらに、統合された温度管理システムにより、周囲温度が低い場所でも常にフルパワーで充電が可能です。
LFPバッテリーのもうひとつの大きな利点は、その寿命です。このバッテリーのフル充電サイクルは5,000回を超え、その場合でもSOH(健全性)は80%残っているような長寿命となっています。
V8eのLFPバッテリーの容量は39.9kWhですが、オプションで53.2kWhのバッテリーを装備してホイルローダーの稼働時間を延長することも可能です。
ホイルローダーの自律性を判断し比較するためには、いわゆるVローディングサイクル(図6)というものを使用します。ホイルローダーの典型的な作業といえば、バルク材を2つの積山の間、または積山とトラックの間を運搬するような、一連の動作が繰り返される作業です。その作業を上から見ると、走行動作が「V」の字に似ていることから、Vローディングサイクルと呼ばれています。

図6 Vローディングサイクルの図示

表2に、バッテリー容量の違う場合の稼働時間を示します。Vローディングサイクルの稼働時間は機械の稼働率を100%として算出されているため、実際の条件下における1日の稼働時間はそれに応じて外挿することができます。

表2 バッテリーレンジの概要

バッテリー容量 39.9kWh 53.2kWh
Vサイクルの自律性 3.1時間 4.2時間
20km/hでの走行距離h 53km 72km

4. 機械仕様

V8eは、アーティキュレート式ステアリングを備えた4.5トンのコンパクトホイルローダーで、安定性と操縦性を考慮して設計されています。アーティキュレーションオシレーションジョイント(AOJ)を採用しており、不整地でも最大限の安定性とスムーズな操作を実現します。また、2.5メートル未満という低い車高を維持しながらも、パレットフォークで1.8トン以上を処理できる優れた持ち上げ力を発揮するように設計されています。搭載されているインテリジェントなソフトウェアは、エコモード、バケットモード、フォークモード、パワーモードなど、複数の作業モードを備えており、それらは3.5インチのディスプレイで選択・切り替えができます。これにより、オペレータは実際に行う作業に合わせて性能を調整し、電力消費と生産性を最適化することができます。

表3 V8eとV7-HWの機械仕様比較

機械 V8e V7-HW
機械質量(kg) 4500 4450
リンク機構 P-Kinematics
バケット容量(m3 0.8
バケット最大掘削力(kN) 41
静的転倒荷重 – 直進/フルターン(kg) 3250/2950
走行速度(km/h) 20
牽引力(kN) 34
作動油 – 最大流量(lpm)/最大圧力(bar) 63/250
電動モータードライブトレイン – 定格/ピーク電力(kW) 22/28 -
電動モーター油圧 [ePTO] – 定格/ピーク電力(kW) 13/33 -
ディーゼルエンジン電力 – ヤンマー製4TNV86CT(kW) - 35.5
48Vバッテリー容量 – 標準/オプション(kWh) 39.8/53.2 -
車載充電器電力 – 標準/オプション(kW) 11/22 -
図7 V8eコンポーネントの概要

5. おわりに

本稿では、生産性を維持し、電気技術の限界を克服し、従来のディーゼルエンジン搭載機の強度と性能に匹敵するという目標を達成することに焦点を当てたV8e電動ホイルローダーの開発について説明しました。上記の目標を達成するには、5つの重要な設計上の課題に取り組む必要がありました。V8eは、静油圧の挙動を電動ドライブトレインに適合させることで、スムーズで直感的な制御を実現するとともに、高電圧ケーブルの過熱を防ぎ、高負荷下での信頼性の高い性能を確保しました。さらに、適切な充電インフラを選定することで、柔軟で統合が容易な充電オプションを提供することができ、作業の中断を最小限に抑えました。エネルギー効率を高めるため、ソフトウェアベースのデマンド制御によって油圧性能を最適化することで、正確な電力調整が可能になり、運転の自律性が向上しました。最後に、理想的な技術を備えたLFPバッテリーを採用し、電源とカウンターウェイトの両方の役割で使用することで、コスト、安全性、稼働時間、耐久性のバランスを取ることに成功しました。これらのソリューションを組み合わせることで、V8eは現代の建設現場の要求に応えつつ、持続可能で高性能な機械の新たな基準を打ち立てることができます。
より環境に優しいソリューションを求める世界的なトレンドが続く中、ヤンマーは引き続きイノベーションを推進し、電動建設機械のラインアップを拡充し、カーボンニュートラルの目標に向けた取り組みを続け、高い生産性と作業効率を維持しながら、お客様の環境フットプリントの削減を支援します。

著者

YCG、エンジニアリング
Yanmar Compact Equipment EMEA

ヴィクトール・ベルスナー

YCG、エンジニアリング
Yanmar Compact Equipment EMEA

ウルフ・コールラウツ

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