Renewable Energy Group
YANMAR R&D EUROPE S.R.L.
ヤンマーテクニカルレビュー
ヤンマーの「Farm Circular Solution(FCS)」の紹介
~農業における持続可能性と脱炭素化の推進~
Abstract
Yanmar developed a solution to decarbonize farm activities, its name is Farm Circular Solution (FCS). The solution turns the agri waste of a farm into valuable product for the same farm, in a circular and sustainable approach.
The circularity is achieved by optimizing and coordinating all tasks, from the pruning waste management in the field (Upstream) to the conversion into useful products (Gasification) and the use of the products in the farm and farm fields (Downstream). Contemporary disposal of waste and use of carbon negative products make farmers to achieve both economic and environmental sustainability.
FCS can strengthen Yanmar business and sustainable goals, also because the waste flexibility allows the use of other type of waste (i.e. urban or other type of green waste) considerably expanding the market base of customers.
1. はじめに
ヤンマーは、農業生産者が抱えているエネルギーと廃棄物に関する課題を解決するソリューションとして「Farm Circular Solution(FCS)」を開発しました。このソリューションは、循環的で持続可能な農業手法によるメリットを生産者に提供することで、農業活動を脱炭素化することを目的としています。
FCSは、図1に示すように、燃料供給(上流)、燃料変換(ガス化)、生成物の農業利用(下流)の3つの主要なタスクに分けることができます。これら3つのタスクがすべて同じ農場内で完結するため、FCSを導入した農場では循環性が大幅に向上し、ビジネスの持続可能性が高まります。こちらのリンクから、研究者や農家へのインタビューなどをまとめた動画をご覧いただけます。

2. 対象のお客様について
対象作物および農場の規模:FCSは、永年作物(ブドウ、オリーブ、その他の果樹など)を栽培するあらゆるタイプの農場を対象としています。中規模または大規模な農場での導入が理想的ですが、コンソーシアムやコミュニティと連携している小規模農場などでも良い試みとなる可能性があります。
農場が抱える課題:果樹類の栽培においては、果実の量と質の両方を向上させるために枝の剪定を毎年行う必要があります。剪定枝は作物に害を及ぼす菌類や細菌などの発生源となる可能性があるため、通常は畑から撤去しなければなりません。剪定枝の撤去にはコストがかかることが多く、さらには、最も安価に剪定枝を撤去できる野焼きについても、火災が広がるリスクに加え、燃焼ガスが直接大気汚染につながるという理由から、地方自治体によって規制されていたり、完全に禁止されていたりします。
FCS導入後のメリット:FCSは、バイオマス燃料で稼働するエネルギー変換ソリューションです。農場内で剪定した枝はバイオマス燃料として利用でき、上記の課題を完全にかつ安価に解決することが可能となります。さらに、図1で示されているFCSで作り出せる生成物は、農場内で利用することができるため、農場の支出を継続的に削減できます。FCSで作り出せる生成物は次の4つです。
- 熱:ガス化装置の稼働中には、継続的に約40kWthの温水が生成されます。この熱は、農場内で様々な目的に使用できるほか、ガス原料として使い切れない剪定枝の乾燥に利用することで、剪定枝から「アグリペレット1」を生成し、農場内で貯蔵燃料として使用できます。
- 1アグリペレットは、剪定枝など農場内で発生したバイオマスを原料とし、再び農場内で用いる、いわゆる「キロメートル・ゼロ」資材です。
- 電力:ガス化装置の稼働中には、継続的に約20kWeの電力が発電され、農家にとって様々なインセンティブにつながるグリッドへの供給や、農場内におけるバッテリー充電などの直接利用ができます。
- バイオ炭:ガス化炉内で、特定の技術基準に準拠した熱化学的な処理をされた剪定枝は、バイオ炭と呼ばれる炭素質物質として排出されます。バイオ炭には土壌改良の効果があるため、農作物の品質改善をねらって農地に投入することができます。さらに、土壌に投入されるバイオ炭の炭素は大気中の二酸化炭素由来の炭素であるため、生産者は特定の市場で取り引き可能な炭素クレジットを取得することもできます。
- バイオウッド蒸留液:剪定枝を熱化学的に処理し、揮発した成分を凝縮することでバイオウッド蒸留液(または木酢液)と呼ばれるものが生成されます。この液体はフェノール化合物の濃度が高いため、畑に散布すると農作物の品質改善や害虫駆除の効果を発揮します。生産者にとっては、従来作物管理に必要としていた製品の購入を減らすことでコストを削減でき、GHG(GreenHouse Gas: 温室効果ガス)フリー製品であるバイオウッド蒸留液を使用することで農業活動の持続可能性を高めることができます。
3. ソリューションについて
上流フェーズ:FCSに燃料を供給するためには、農場での剪定からガス化装置への運搬まで剪定枝を管理する必要があります。このタスクを上流フェーズと定義しています。FCSでは、上流フェーズを最適化するための機械とガイドラインを農家に提供します。
剪定枝収集機(ベーラー)を使用し、地面から拾った剪定枝をマイクロベールに圧縮します。圧縮したベールを農地から運び出し、保管して乾燥させたうえで最終的にガス化装置まで運搬します。ベーラーを使用することで、マイクロベールを保管しながらコストをかけずに乾燥させることができる(太陽光と風によってベールの含水率を低下させることができる)ので、剪定枝を容易かつ安価に管理することが可能となります(図2)。

ガス化フェーズ:図1で示されているように、ガス化フェーズは2つの独立した装置で構成されています。どちらもコンテナ化されているため、配送コストと設置コストを削減できます(土木工事やその他の付帯設備は必要ありません)。
コンテナ①はペレット化コンテナで、乾燥させたマイクロベールをこのコンテナに投入し、ベールをガス化コンテナに適した形状とサイズ(アグリペレット)に変換します(図3)。固体燃料の流入や熱化学変換時のトラブルに関連するリスクを最小限に抑えるために、投入する燃料を標準化された特定の形状にします。そうすることにより、さまざまな燃料原料に対応しつつ、システムの信頼性を向上させることができます。

コンテナ①には、マイクロベール以外の剪定バイオマスも処理ができるという大きな特徴があります。バラバラな状態の多様なバイオマス廃棄物(丸太、わら、枝など)も処理できるように特別に設計されています。この点については、FCSの市場拡大の可能性について取り上げる結論の項でも触れています。
コンテナ②は、固体バイオマスを熱化学処理することによって有用な製品に変換する、ガス化装置のコンテナです(図4)。この装置こそが、ヤンマーとヨーロッパの大学や他の研究センターが共同で研究開発をし、農業廃棄物バイオマス用に特別に設計し特許を取得したヤンマー製FCSのコア技術です。

図5のペレット化とガス化のフロー図に示されている第1段階は、固体燃料の熱化学変換です。ここでは、質量流量として約20kg/hのアグリペレットが、ガス(発生炉ガス)とバイオ炭に変換されます。第2段階では、発生炉ガスのろ過と調整が行われます。この段階で、ガスをエンジンの燃料として利用できるように浄化し、水分を取り除き、冷却する必要があります。最後に、ガスはサイクロンを通って2段触媒フィルタ(ヤンマーが特許を取得)に流れ込み、「厄介な」有機化合物(タール)が有用な永久ガス(CO、H2、CH4などの燃料ガス)に変換されます。第2段階において、ガスに含まれる水分が可溶性有機化合物群とともに凝縮されることによりバイオウッド蒸留液が生成されます。

最終段階では、発生炉ガスを管理するために改造されたヤンマー製4TNV98エンジンで燃焼を行います。25KVAの発電機がクランクシャフトで直接連結されており、それによって発電が可能となっています。全体の電力効率は約20%です。
下流フェーズ:これは上述したFCSの生成物を農場で利用するフェーズです。すべての生成物を剪定枝が出た同じ農場で直接利用できるという完全循環型となっているのがポイントです。4つの生成物のうち2つ、熱と電力は農業活動に利用でき、残りの2つ、バイオウッド蒸留液とバイオ炭は、農作物の品質向上のために圃場に直接施用することができます。
バイオ炭に関しては、土壌の保水効果(バイオ炭の多孔質マトリックスが雨季に水分を保持し、乾季に水分を放出することができる)や養分の溶出低減効果(バイオ炭が窒素やリンなどを容易に吸着する)など、土壌や作物へのプラスの効果が科学的に実証されてから10年以上が経ちました。保水効果については、気候変動によって豪雨や干ばつが悪化することが予測されている将来の環境にとって非常に重要であると考えられています。

バイオウッド蒸留液は、有機的な野菜の成長促進剤や、害虫の忌避剤、悪環境に対する作物の耐性向上など、いくつかの目的で使用することができます。ヤンマーのFCSでは、生産者が自らの農場に設置したガス化装置から生産されるバイオ炭やバイオ蒸留液の具体的な用途や使用方法(使用ガイドライン)に関する提案も行っています。

FCSが他社サービスよりも優れている点:ガス化装置を商品化している企業は存在しますが、そのすべてが技術のみに焦点を当てており、お客様に運用を任せっきりにしてしまっているか、あるいは燃料供給(上流)と生成物の農場内での利用(下流)のタスクがまったく含まれていません。さらに、農場内で発生する燃料を利用し、同じ農場内で同じプロセスから発生するカーボンネガティブ生成物を利用するエネルギー生成プロセスは、まだ市場に出てきていない状況です。
表1は、FCSの独自性を最新技術と比較したものです。
表1 FCSが他社サービスよりも優れている点
ヤンマーのFCS | その他のガス化ソリューション (同等の規模) |
|
---|---|---|
上流フェーズ | 畑で直接剪定枝を収集し、保管と管理まで含む | 燃料のサプライチェーンは考慮されていない。このソリューションでは、市販の燃料(木材チップまたはペレット)を購入する必要があり、時には遠く離れた地域から燃料を調達しなければならないこともある |
ガス化フェーズ | 革新的な設計により、灰分含有量の高いバイオマス(永年作物の剪定廃棄物など)を使用可能 | 灰分含有量の高いバイオマスは使用できず、高品質のペレットと木材チップのみ使用可能 |
下流フェーズ | FCSを導入する農家向けに、副産物(バイオ炭と木酢液)を農場で利用して作物の品質を向上させるガイドラインを提供 | 農家向けのガイドラインは含まれていない。副産物がまったく含まれていないソリューションもある |
4. おわりに
FCSのアイデアとターゲットとする市場分野は、ヤンマーの新規ビジネスモデルと「A Sustainable Future」実現につながるものです。生産者にとって、FCSは、経済的持続可能性(廃棄物由来のコストネガティブ燃料の提供)と環境的持続可能性(廃棄物処理の副産物としてのカーボンネガティブ製品の提供)とを両立させるきっかけとなります。
さらに、第3章で述べたように、このソリューションにおける革新的技術によりさまざまな廃棄物を処理することが可能です。つまり、FCSは、剪定枝だけでなく、都市から排出される植物性廃棄物やゴルフ場の廃棄物などにも適用可能であるため、果樹農場だけにとどまらず、都市循環型ソリューション、ゴルフクラブ循環型ソリューションなど、広範な市場に拡大可能と考えています。
著者


Renewable Energy Group
YANMAR R&D EUROPE S.R.L.
ロレンツォ・ペッツォーラ

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YANMAR R&D EUROPE S.R.L.
ヴァレリオ・マガロッティ

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YANMAR R&D EUROPE S.R.L.