ヤンマーマリンインターナショナルアジア株式会社
開発部 ソリューション開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
フィッシングクルーザー「EX47A」の紹介
~快適性を追求したフラッグシップ艇~
Abstract
Yanmar's flagship boats are fishing cruiser types such as the EX38A and EX34A, which combine fishing functionality with comfort.
The EX38A is currently the largest product of this type, but the market has been demanding a fishing cruiser type that offers high livability and comfort for boats over 40 feet.
That's why we developed the flagship model “EX47A,” which has the greatest fishing functionality of the EX series thanks to its large deck space and improved rigging tolerance, as well as spacious living space and storage capacity.
1. はじめに
舟艇の主力商品であるEXシリーズはフィッシングクルーザータイプと呼ばれ、高いフィッシング性能と快適な居住空間を持ち合わせているのが特徴です。
今回開発したEX47AはEXシリーズのフラッグシップモデルであり、新型エンジン6GY135W-P1(594kW)搭載とシリーズ最大容量の燃料タンクによる長い航続可能時間、シャワールームやギャレーなど合計40以上のオプションの用意により様々なニーズに応えることができる商品となりました。本稿ではフラッグシップモデルにふさわしい快適な居住空間を提供するために行った取組みの一つとして、空調性能向上を目的とした温熱感解析を用いた効率的な空調設計について紹介します。
2. 商品の概要
2.1. スタイリング


(左、中:大きなガラスに囲まれたキャビン 右:空調吹出口と操船席カウンター)
2.2. 主要諸元(表1)
艇種 | EX47A |
---|---|
全長(m) | 14.98 |
全幅(m) | 3.62 |
全深さ(m) | 2.21 |
総トン数(トン) | 11 |
航行区域 | 沿海 |
最大総裁人員(人) | 14 |
2.3. 搭載機関(表2)
艇種 | EX47A |
---|---|
エンジン型式 | 6GY135W-P1 |
最大出力 (kW/min-1) (PS/rpm) |
594/2350 (809/2350) |
据付方式 | 防振 |
セット質量(kg) | 9970 |
操舵機 | 動油圧式 |
リモコンハンドル | ワンハンドル(電子式) |
燃料タンク(ℓ) | 1450 |
バッテリー(V) | 24V |
PTO(㎜) | 830 |
プロペラ | 3翼一体アルミブロンズ |
船尾方式 | ブラケット式 |
最高船速(kt) | 35.0 |
航行時間(h) | 9.8 |
3. 快適性向上の取り組み
3.1. 空調性能向上:エアコン効率- 温熱感に着目した効率的な空調設計
エアコンは従来より舟艇に搭載されている一般的な艤装品ですが舟艇は自動車に比べエアコンの冷却効果を受けにくい傾向にあります。その原因としては、海上では日差しを遮る物がなく、船内が日中の太陽光を直接受けやすいこと、また発電機やエンジンなど発熱する機器が多いこと、エアコンに割ける電力や設置スペースに限りがあり、大容量のエアコンの搭載が難しいこと等があります。特にEX47Aはシリーズ最大のキャビン容積を持ち、四方に設けられた面積の大きい窓ガラスから日光の影響を受けやすい環境(図2)になることにより空調性能不足への対策が必須となりました。この課題の解決策として開発では中央研究所の協力を得ながら各座席の乗船者の快適性を熱流体解析により予測することで、各乗船者により快適な体感温度(温冷感)を提供できるような空調設計に取り組みました。
3.2. 標準新有効温度SET*
快適性の評価には標準新有効温度SET*(Standard Effective Temperature*)を用いました。SET*は気温・湿度・日射・気流・着衣量・活動量の6要素から算出される指標で、快適性に影響する複雑な環境条件を総合的に考慮して現実的な温熱感(人がどれくらい暑さや寒さを感じるか)を評価することが可能です。単位は℃で表されこの指標を定めたASHERAE(米国暖房冷凍空調学会)では、SET*が22.2~25.6℃の状態を、80%以上の人間が環境に満足感を覚える快適範囲とされています。
居住者の主観的な快適性を反映するのに適しているため、主に建築環境や空調設計に使用され、居住空間やオフィス環境での快適性を評価するために用いられます。EX47A開発ではこのSET*を用いて快適な居住空間を提供できるようにしました。

3.3. 温熱感解析
まず従来艇の快適性を把握するためCFD(Computational Fluid Dynamics:熱流体解析)によりSET*を算出し、各座席の乗客の快適性がどのようになっているのかを検証しました。CFDの条件は下表の通りとしました。
表3 CFD解析条件

外部条件は真夏日を想定しており、着衣量は半そでシャツとズボン相当、代謝量は座席に座った状態で各座席のSET*について解析を行いました。その後、各座席の乗船者が夏季環境の快適なSET*とされている25℃以下になることを目標に吹出口の向きや位置の検討を行い、EX47AのキャビンのCFDモデルで再度解析を行いました。図4に従来艇と吹出口位置の改善を行ったEX47Aの風速とSET*の解析結果を示します。従来艇では吹出口から出た冷気がキャビンの下部に滞留しているため足元のSET*は低くなっていますが操船者の頭部付近では流れが無く、フロントガラスから入る日光の影響もありSET*が高くなっており、エアコンを付けていても快適性が良くないことが分かります。また一般的に人体は太い頸動脈が通っている首元を冷やすことで体温が下がりやすいことが知られていますが、従来艇では首元付近のSET*が高くなっています。

対して吹出口の位置を見直したEX47Aでは冷風がキャビン内を循環するように流れており、キャビン全域に冷気が行き届き、SET*をムラなく下げられ、首元付近のSET*も下がっていることが分かります。
また図4に示した各座席それぞれのSET*値を見ても改善前に生じていた座席ごとのSET*のバラつきが減少しており、効率的に快適な空間ができていることが分かります(図5)

3.4. 官能評価による空調性能確認
実機によって被験者10名を用いて官能試験を行い、快適性向上の確認と解析結果の再現性を評価しました。試験ではCFD同様に着衣量、活動量を揃えた上で一定時間ごとに座席の移動と被験者のローテーションをし、それぞれの座席で温熱感について評価を行いました。その結果、被験者の快適性に対する申告値は、従来艇で実施した官能評価試験よりも高い値を示し、EX47Aの空調性能が従来艇より向上したことが実機でも確認されました。
4. おわりに
舟艇の快適性には現在も向上の余地があり、解析技術の導入による設計品質の向上や新たな艤装品の採用等多くの選択肢がありますが、今回取り組んだような設計技術の開発は舟艇に限らず、他のヤンマー商品へも展開することができるため、ヤンマー製品全体の快適性の向上に寄与できます。商品開発においてお客様に満足して頂ける高付加価値な商品を提供するためには市場ニーズやトレンドに敏感に対応していくことが必要です。今後も新技術構築や新艤装品搭載に積極的に取り組み、お客様にワクワクして頂けるような商品を提供していけるよう努めてまいります。
著者
