ヤンマーアグリ株式会社
開発統括部 先行開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
直進アシストトラクターシリーズの開発
~自動運転農機のラインアップ展開における走行制御の改善~
Abstract
In response to the deepening shortage of farm labor, Yanmar is expanding its SMARTPILOT® series of agricultural machinery with autonomous driving, introducing its cost-effective Straight Driving Assist solution for tractors of all sizes.
The system combines a GNSS antenna, a steering unit, and a user-friendly display, enabling easy operation. Customers can choose D-GNSS for routine tasks or RTK-GNSS for high-precision operations.
In particular, Yanmar has developed two key technologies to overcome the heightened sensitivity of small machines to disturbances and the demands of ultra-low-speed operation. Side-slip suppression control leverages yaw rate and vehicle dynamics to counter lateral slip, and a proprietary yaw estimation function based on a Kalman filter prevents heading drift at ultra-low speeds.
These advances ensure that Straight Driving Assist operation is stable and accurate across Yanmar’s full existing lineup of YT tractors.
1. はじめに
農業従事者の不足が深刻化する中、誰が使っても熟練者並みの作業ができる農業機械が求められています。ヤンマーはそのニーズに応えるために、長年の研究開発を経てロボットトラクターを商品化しました。そして、「ハンドルあるものは全て自動運転」を目指して、ロボットトラクターで培った技術を様々な機種へと展開し、農作業の省力化・効率化、高精度化を実現する自動運転技術を搭載した農業機械シリーズ「SMARTPILOT®」の拡充を行っています。
その中の取り組みの1つとして、直進走行の自動化に特化した直進アシストトラクターを開発しました。本稿では小型機から大型機まで幅広い機種で導入できる直進アシストの開発背景とその技術を紹介します。
2. 直進アシストが求められる市場のニーズ
2018年に発売したロボットトラクターは目視監視下において、圃場の大部分(約9割)を無人運転で作業できるため、誰でも熟練者並みの作業が可能です。さらに、ロボットトラクターとオペレータが運転するトラクターの2台を1人のオペレータが協調運転することで、大幅な省力化・効率化が図れます。
このロボットトラクターは各地で好評を得ていますが、その一方で、より安価で手軽に自動運転を行いたいというニーズがあることも明らかになりました。そこで、作業の中で最も操作時間が長い「まっすぐ走る」ことに自動化の機能を絞り、「安価で簡単に熟練者並みの作業を実現できる商品」をコンセプトに、直進アシストトラクターを小型から大型トラクターまでフルラインアップしました(図1)。
自動でまっすぐ走る基本技術は、ロボットトラクターで確立していたものの、中小型機へ展開を進める中で新たな課題が見つかりました。中小型機は大型機に比べて、圃場の滑りや凹凸などの外乱の影響を受けやすく、これまでの技術だけではヤンマーが求める直進精度の実現が困難でした。また、中小型機で利用されることの多い畦塗などの作業にも対応するために超低速でも高精度な直進を可能とする必要がありました。こうした課題を解決するため、大小さまざまなトラクターに適用可能な自動操舵技術を新たに開発しました。これらの新たな技術は順次ロボットトラクターにも展開を進めています。
3. 直進アシストの概要と新技術
3.1. 直進アシストの概要
ヤンマーの直進アシストトラクターは、GNSSアンテナ、ディスプレイ、ハンドル操舵ユニットで構成されています(図2)。GNSSアンテナで取得した情報と、ディスプレイで設定した目標経路に基づいて自動操舵演算を行い、ハンドル操舵ユニットが操舵角を制御することで、直進走行を行います。
直進アシストの使い方はシンプルで、A点登録→B点登録→直進開始の3つの手順で自動操舵を開始できます(図3)。直進アシストの画面(図4)も直感的に分かりやすい、シンプルな画面にすることで、誰でも手軽に自動操舵を行えるようにしました。
また、多くのお客様が安価に導入できるようGNSSアンテナは用途に応じて2種類を選択できるようにしました。精度がそれほど求められないロータリ作業などには安価なD-GNSS(Differential Global Navigation Satellite System)を、高精度な直進が求められる畝立てや畦塗にはRTK-GNSS(Real Time Kinematic Global Navigation Satellite System)を選択いただけます。求める作業精度によってお客様が商品を選択できるようにすることで、お客様にとっての費用対効果を高めました。
3.2. 直進アシストの新技術
(1)横滑り抑制技術
湛水圃場(図5)や凹凸の大きい圃場では、車体が横方向に滑る傾向があります。大型トラクターはこのような外乱に強いため影響は無視できる程度でしたが、外乱を受けやすい中小型トラクターではこの影響が大きく、直進精度の低下が顕著でした。従来の制御は、目標経路との車両向きと位置の偏差から、目標となる操舵角を算出し制御することで直進しています。外乱によって車体が大きく滑るような条件下では、目標経路との偏差が大きくなりますが、軽量な中小型のトラクターはその影響が非常に大きいため、瞬時に車体を元に戻す必要があります。しかし、従来制御は応答が緩やかなために、滑った分の偏差を戻している間にまた車体が滑る、といった挙動となり、結果として蛇行が生じ、直進精度が低下してしまいます。
そこで、車体の偏差だけではなく横滑りの開始を検出し、即座に横滑り分を補正する横滑り抑制制御を開発しました(図6)。この横滑り抑制制御では、操舵角と車両モデルから算出される滑りが無いときの角速度と、実際の角速度を比較し、横滑り量を検出します。そして、検出した横滑り量から、車両の逆モデルを使用して、横滑り量を打ち消す操舵角を算出します。これを制御出力とすることで、横滑りを即座に補正しています(特許出願中)。
図7に湛水圃場での横滑り抑制制御の有無の比較結果を示しています。横滑り抑制制御が無い場合、図7中のAでは機体が滑り、車両が経路から大きく離れてしまい、直進精度が悪化しています。このような圃場でも、横滑り抑制制御を適用することで、横滑りを即座に補正し、横滑りの影響を大きく低減しています。
ヤンマー独自の本技術により、滑りやすい圃場でも高精度に直進を行うことが出来るようになりました。
(2)低速作業対応技術
畦塗(図8)に代表される0.2km/h程度の超低速作業では、GNSSアンテナに内蔵されるIMU(Inertial Measurement Unit)で検出される車両方位角(以下、ヨー角)に微小な誤差が生じます。そして時間とともにこのヨー角の誤差が累積し、その増加に応じて車体が経路から離れていく問題がありました(図9)。
ヤンマーはこの課題に対し、カルマンフィルタを主とする独自のヨー角推定機能を開発しました(図10)。本機能の特徴は、IMUのヨー角とカルマンフィルタで推定したヨー角のそれぞれの特性を活かしている点にあります。IMUはヨー角変化に対する応答性が高い一方、超低速時には誤差が蓄積しやすいという特性があります。対して、位置情報・車速・角速度などを入力とするカルマンフィルタによる推定ヨー角は、車両情報に基づくため超低速でも誤差が少ないものの、位置のフィードバックも用いるため応答性は相対的に緩やかです。そこで、それらの良い特性を組み合わせる独自のフィルタを開発し、超低速時の誤差を低減した高精度なヨー角の算出を可能にしました(特許出願中)。
図11に超低速走行時でのヨー角推定機能の有無の比較結果を示しています。ヨー角推定機能が無い場合、徐々にヨー角の誤差が増加し、車両が経路から離れています。一方、ヨー角推定機能を適用することで、高精度なヨー角を算出し、車両が経路から離れることを抑制しています。
本技術により、畦塗のような超低速作業でも高精度な直進を行うことができ、作業機の適用範囲を拡大することが出来ました。
4. おわりに
まっすぐ走るための自動操舵技術を中小型機へ展開するにあたっては、機体のサイズによって異なる外乱特性、広い速度域の適用作業に対して、操舵系の応答の違いを最適化することが大きな課題でした。ヤンマーは使いやすさを追求したインターフェースに加え、横滑り抑制、超低速時の方位推定といった新しい技術を開発し、機体サイズを問わず使いやすく安定した自動直進を実現しました。現在は、YTトラクターの全シリーズに直進アシストを展開し、全国の農業現場で活用されています。
今後も、より多様な農業現場のニーズに応えるべく「SMARTPILOT®」のさらなる進化を目指します。
著者


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