生産部門と密に連携し

産業用ディーゼルエンジンを開発

小形エンジン事業 開発部

工学研究科 機械システム工学専攻修了
2004年入社

遊木 龍RYO YUKI

苦しんだからこそ見えてきた組織が抱える課題。

今振り返っても、苦しかった当時の思いが鮮明に甦ってくる。入社直後から取り組んできたEPA(米国環境保護庁)3次規制(Tier3)対応小形産業用ディーゼルエンジンの開発。排ガス性能の試験を担う一員として技術データの蓄積に明け暮れた。建機をはじめとする様々な産業機械で幅広く使われ、それだけ環境への影響も大きいディーゼルエンジンの環境性能をさらに高めて、環境問題に貢献したい。そんな夢に向けて、地味な仕事にも張り合いがあった。
が、試練は商品が市場に出た後にやってきた。品質のバラツキによるクレーム問題が発生し、チームを挙げてその対応に追われたのだ。
ベテラン揃いのなか、まだやっと入社4年目だった遊木は、経験の浅さを機動力でカバーしようと懸命に走り回った。
「お客様の不満の声に、直接、待ったなしでお応えしなければならない。"開発"は苦しいなと思いました」
この苦しさが、遊木の目を課題の根本的な解決へと向かわせた。クレームの根っこにあるのは開発したエンジン自体の量産性の問題だ。ものづくりの上流から下流、つまり研究部門から生産部門までの連携をもっと強めない限り、個々の部門がどう頑張ろうと、次もまた同じことの繰り返しになってしまう。遊木は、この考えを機会あるごとに主張し続けた。

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自らが活動の起点となり、研究段階から量産性を追求。

遊木の考えは認められた。中央研究所で次期規制(4次規制)対応エンジンの先行開発がスタートし、遊木はそのメンバーに選ばれ、開発の最上流段階から量産性向上を追求することになったのだ。ヤンマーでは意見のボトムアップが重視される。現状への問題提起は必ず真摯に検討されて、認められれば多くの場合、年次などに関係なく本人が改革の中心メンバーに抜擢される。しかもこの時は、トップマネジメントも遊木の考えを後押しした。
「研究所、開発、製造、販売の各部隊が真に一体となることで4次規制対応における遅れを取り戻すという会社方針が打ち出され、全てが一気に好転しました」
この方針に沿って、遊木は研究部隊にありながら量産部隊と侃々諤々の議論を重ねることができ、これが、品質のバラツキを予測する画期的な手法の開発へとつながっていった。
「2カ月ぐらいは夢に見るほど考え抜きました。クレーム対応の教訓を活かしてあらゆる角度から問題に光を当て、決してぶれないコンセプトを組み上げました」
重ねた苦労、ためこんだ悔しさは激しく燃える起爆剤となって、遊木を挑戦へと駆り立てた。周囲の協力を得ながら渾身のコンセプトを実行段階へと進め、先行していた他社を、品質の確立という最後の詰めで猛追。自らも試験部に戻ってさらなる汗を流した。

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厳しい開発競争に逆転勝利し、初めて開発職の醍醐味に浸る。

こうして新エンジンは2012年7月、EPA及びCARB(米カリフォルニア州大気資源局)の認証を取得。同クラスの産業用ディーゼルエンジンにおけるCARBの認証取得は世界初という快挙だった。ほどなく量産化にも成功。驚異の開発スピードにも関わらず品質にも優れ、市場に好評を持って受け入れられた。
「開発当初から全関連部門で議論を重ね、他社製品との差別化にポイントを置いたものづくりを進めた成果です。汚れに強いセンサを用いる、大気汚染の原因となる排ガス中のNOX(窒素酸化物)やPM(排気微粒子)を無害化するための後処理装置の制御に工夫を凝らすなどの配慮が効いて、プロモーションも進めやすく、まさに製・販・開がつながった手本のような事例になりました」
そして、市場の好反応は、遊木にかつて味わったことのない深い喜びをもたらした。
「クレームに苦しんだトラウマも癒え、組織力で不可能を可能にしていく開発という仕事の、真の醍醐味を知ることができました」

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執念を燃やして"仕事をやりきる"。

遊木の所属する試験部では、その後も、遊木が若手中心のメンバーをとりまとめ、顧客の製品に同エンジンをフィットさせるためのカスタマイズに、精力的に取り組み続けている。対象製品の搭載性を考え、排ガスに含まれるNOXやPMを無害化する後処理装置の配置を変えたり、配管のレイアウトを変更したり。さらに、それに合わせて専用の制御ソフトウェアも新たにつくりこんでいく。
「トラクター、建機、冷凍機、発電機などディーゼルエンジンの用途は多様化の一途をたどっています。市場も世界へと広がり、地域によるニーズの違いにも対応していかねばなりません。個別対応がきめ細かく行えるのはヤンマーの大きな強みなので、気合いが入ります」
国内外の顧客の要望を深く理解し、期待以上の対応を図るために、メンバーは手分けして世界中を飛び回る。
「ヤンマーには、自らが提供する産業用パワーソースで未来環境を守っていくという使命があります。その遂行に向けてチームは成長し続けなければなりません。後輩達には自分を超える人財になってほしいとの思いで、特に後進人財の育成を意識して業務にあたるようにしています」
自分でも大切にし、後輩達にも心がけてほしいと願うのは、執念を燃やし"仕事をやりきる"ことだ。
「たとえばものづくりにおける課題解決は、完全に現場に根づいてこそ本物です。現場を変えるのは本当に大変ですが、そこを執念でやりきらないと、自分も成長できません」
苦しんで成長を勝ち取っていくことの喜びと価値を知るヤンマーで、遊木の挑戦はこれからも続く。

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