ヤンマー初のハーフクローラトラクター

開発プロジェクトに参画

ヤンマー初の

ハーフクローラトラクター

開発プロジェクトに参画

アグリ事業 開発部

農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻修了
2006年入社

岩村 圭将KEISUKE IWAMURA

入社5年目、負けられない戦いの一員に。

岩村は、入社5年目を迎えた2010年春から、ヤンマー初となるハーフクローラトラクターの開発プロジェクトに参画した。ハーフクローラトラクターとは、ホイルトラクターの後輪のみを、車輪を帯で覆ったクローラ(キャタピラあるいはカタピラとも呼ばれる)に置き換えたトラクターだ。車輛の重量を支える接地面積が小さいホイルトラクターは、湿田などでは沈み込みが激しく、牽引力も限られてしまう。フルクローラトラクターなら車輪を覆う帯によって接地面積が広がり、こうした難点は解決されるが、動き方が特殊で慣れるまでは操縦しづらく、燃料や保守の面でも負担が大きい。ハーフクローラトラクターは、この両者の中間のニーズにうまく応えことができる。市場の期待を裏切らないためにも、先行する他社製品を一気に抜き去るハイレベルなハーフクローラトラクターの開発が求められていた。
岩村は、それまでに北米向けの小型トラクターを開発するチームの一員として、バックホー(油圧式ショベルの一種)の取り付けを前提としたフレーム強化や、運転席の回転機構など、様々なテーマに挑戦。安全性や耐久性など数多い縛りの中で新たな機構や機能を実現していくことの難しさや、それを克服できたときの喜びを知り、さらなる成長の機会を求めていた。まさに絶好のタイミングで、望み通りのチャンスがめぐってきたのだった。
「設計が始まる段階でアサインされ、先輩と2人で1機種を担当しました。チームの士気も上がっていて、やる気は満々。ただし、クローラについてはほとんど予備知識もなく、がむしゃらなスタートでした」

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何が何でも、 他社にはつくれないハーフクローラトラクターを。

もちろん、他社製品は徹底的に研究した。様々な作業シーンを想定し、テストフィールドや近隣の農地などで実際に使用して、長所や短所を感覚的につかむ。そして、そのもととなる機構や機能を分析し尽くす。しかし、その延長線上に留まっていては、求めるような強いインパクトのある新製品は生み出せない。これまでの常識を超える、まったく新しい発想が必要だった。
そこで話し合いが繰り返された。チームで課題を共有し、みんなで知恵を絞る。無数のアイデアを検討し、絞り込み、一人ひとりが得意の分野から深堀して、実現可能な形へとブラッシュアップしていった。
「最大のブレークスルーとなったのは、クローラが地面の凹凸に応じて揺れ動くことのできる、全く独自の2リンク式揺動部を採用したことです。クローラの動きは1点で支えるものだという常識を突き崩し、車軸よりも地面に近いところに2点の揺動支点を設けたことで、地面にぴったり追従して大きな牽引力を発揮できるようになりました。負荷を分散させた結果、耐久性も向上。また、機構がコンパクト化され、車輛の下がすっきりしてクリアランスが大きくなったことで、湿田や畝をまたいでの作業も一層行いやすくなっています」
さらに検討を進めるうちに、2つの揺動支点をどこに置くかによって、湿田での走破性能や旋回性能へ影響が出ることが判明した。性能のバランスを取るために、当初は担当の機種ごとに最適のレイアウトに向け試行錯誤を繰り返していたが、岩村が突破口を開く。この一連の現象を数式に落とし込むことに成功したのだ。
「現象を理論化するというのは自分の得意技。それを役立てることができて、実に爽快でした。チームで進めていた開発に、これで1つ、確かな貢献ができました」
この数式は、ヤンマーのハーフクローラトラクターを特徴づける2リンク式揺動部の設計に、なくてはならないツールとなり、現在、次世代機の開発にも大きく活かされている。

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チームの中で得意なことを存分に。それが常識を超える原動力となる。

「ここは負けられない」という場面になると、ヤンマーは強い。チームが結束し、想像を超える集中力を発揮する。この時も何か問題が生じる度に、チーム全員で協力しあって取り組み、気がつけば、驚くほど短期間で目指す成果を上げていた。
2011年8月には、初のハーフクローラトラクター“エコトラデルタEG97/105”を発売。以後も2012年1月、7月、8月と次々に新たなシリーズを展開し、みるみるうちに市場の支持を獲得していった。岩村はもともと、「歴史ある会社なのに、どこかやんちゃな感じがするのが気に入って」、ヤンマーに入社したという。
そして、“エコトラデルタ”の開発では、自らも一員となってそのやんちゃぶりを遺憾なく発揮してきた。
「入社前はまだ、やんちゃな感じの正体まではつかめていなかった。開発というのは、各人が1人で考えて機能を作りこんでいくものと思っていましたから。ところがヤンマーの仕事はチームプレー中心だから、それぞれ得意なことに比重を置いて、みんなでやんちゃができる。直感でヤンマーを選んで本当によかったと思います」
もっとも、2012年には、1人での格闘も経験した。北海道から、畑の畝の幅に合わせてホイルもクローラも左右の幅を変えられる“エコトラデルタ”を作ってほしいという声が上がり、オプションキットの開発を一任されたのだ。
企画、設計、実験部による社内チェックをクリアするための強度確認、現地で試作機を動かして顧客からも意見を聞くためのテスト計画の立案・実行、量産化…。
すべてを1人で主導するのは想像以上にハードだったが、商品化が実現した時には、チームでの開発とはまた違う喜びがあった。
「開発の過程をすべて経験でき、自信もつきました」

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世界中に驚きを発信し、農業を変革、発展させたい。

現在は、ハーフクローラに加え、フルクローラの次世代機の開発も担当。今までにない制御や、既存の機種にはない新機能を実現するべく、研究部門や社外の研究機関と手を携えて、様々な課題に取り組んでいる。
ヤンマーのフルクローラトラクターは、丸ハンドルにより乗用車感覚で運転できるという際立った独自性が評価され、国内で高いシェアを獲得している。一方、ハーフクローラトラクターにおいても、誇れる独自性と充実したラインアップを実現できた。次は、フル・ハーフ共に、さらに常識を超える飛躍を成し遂げて、世界で戦える製品にしていくことが目標だ。
「やんちゃなヤンマーの、やんちゃなクローラ・エキスパートになって、世界中に常識の枠を超えた驚きを発信していきたい。そして、世界の農業に、待ち望まれている革新をもたらしていきたいと願っています」
食料生産とエネルギー変換の分野で社会の課題を解決していきたいと願うヤンマーの、農業にかける思いは格別だ。岩村は、そんなヤンマーの未来を牽引する、確かな力になろうとしている。

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