ヤンマーテクニカルレビュー

Y-EMS<ヤンマーエネルギーマネジメントシステム>の開発

Abstract

Yanmar Energy System Co., Ltd. sells CHPs, GHPs and other energy equipment. The performance of these products continues to improve, achieving success in the market due to the energy savings and CO2 emission reductions they provide. Unfortunately, the specific circumstances of individual customers, such as the electricity and heat demand of their building, the weather, or energy costs, means that this equipment does not always operate as efficiently as it could.

In response, Yanmar has developed an energy management system to operate this equipment in ways that take account of electricity and gas energy prices, weather forecasts, and load predictions. The system provides comprehensive control of CHPs, GHPs, photovoltaics, and other equipment.

1.はじめに

ヤンマーエネルギーシステム(株)が販売しているガスエンジンコージェネレーションシステム(以下コージェネ)やガスヒートポンプ(以下GHP)といったエネルギー機器の性能は日々向上し、エネルギーやCO2の削減を目的として導入が進んでいるが、お客様の使われ方は様々であり、それらを十分に削減できていると言えない。

そこで、お客様の目的に合わせて、コージェネやGHPに加え、ボイラーや空調機等のエネルギー機器や太陽光などの再生可能エネルギーを包括的に制御し、最適にコントロールできる「エネルギーマネージメントシステム」(以下Y-EMS)を開発した。本稿では、本システムを紹介する。

2.開発の背景

現在、ビルや工場といった建物は高性能なエネルギー機器を導入し、省エネルギーに取り組んでいる。これらの多種多様なエネルギー機器は個別で運用管理されており、建物全体から見ると、最適には運用できていない。

また、電力小売、都市ガスの自由化により、お客様が自由にエネルギーサプライヤーを選択できるが、料金体系が複雑化し、最適な料金を選択するのが困難になっている。よって、このような条件下におけるお客様の潜在的な課題を解決しようと考えた。

3.お客様の潜在的課題

お客様が抱えている潜在的な課題として、以下3点が挙げられる。

(1)エネルギーロス大

高性能なエネルギー機器を導入しているが、天気に依存する再生可能エネルギーの発電量や、お客様の熱や電気の使用状況に合わせた運転になっておらず、無駄なエネルギーを多く創ってしまう。

(2)エネルギーコスト大

日々の変動が想定されるエネルギー価格に応じたエネルギー機器の運用が出来ず、過剰に料金を支払ってしまう。

(3)保守管理工数大

機器を個別に管理するため、それぞれの機器の情報収集、メンテナンスに多くの手間がとられる。

4.製品の特徴

Y-EMSは前章で述べた課題を解決するためのエネルギーマネージメントコントローラを中心とするエネルギーのトータルシステムを指す。(図1)

図1 Y-EMS 概要
図1 Y-EMS 概要

また、Y-EMSは“賢い”、“安い”、“楽ちん”をコンセプトに3つの特徴を有する。

①熱と電気の最適制御
②エネルギーの見える化
③保守管理機能

(1)熱と電気の最適制御

事前に天気情報、エネルギー料金、使用される時間別の負荷情報等をコントローラに取り込み、エネルギーを創る、貯める、使うことでお客様の要望に応じた最適な運転制御を行う。(図2)

図2 熱と電気の最適制御概要
図2 熱と電気の最適制御概要

Y-EMSは、3種類の最適制御モードがある。

(a)エネルギーコスト削減モード
電気、ガスのエネルギー料金と各エネルギー機器のメンテナンスコストを元に、料金を最も低減する運転制御

(b)CO2削減モード
発電所で発生するCO2やコージェネなどのエネルギー機器で発生するCO2排出量を最も低減する運転制御

(c)一次エネルギー削減モード
電気、熱を創るために必要な一次エネルギーを最も低減する運転制御

また、電力デマンドが逼迫した場合のデマンドカット運転や逆潮流防止といった系統保護運転を行うことが出来る機能を有している。

運転方法の例を以下に示す。

①運転条件

(a)運転モード
→エネルギーコスト削減モード

(b)想定したお客様
→ホテル

(c)所有しているエネルギー機器
→コージェネ、太陽光発電、ボイラー

(d)電気、ガス料金 (図3)
→電気・・・昼間の電気代大
ガス・・・ガス使用量の多い時間帯の料金大

図3 電気料金、ガス料金
図3 電気料金、ガス料金

(e)電力、熱負荷 (図4)
→電力・・・日中の使用量大
熱負荷・・・夜間の使用量大

図4 電力、熱負荷
図4 電力、熱負荷
②運転結果

(a)Y-EMS 未導入(図5)
コージェネは契約電力を下げるため、電気負荷の高い日中に運転される。しかし、コージェネで創られる熱はその全てを有効利用出来ず、大気中に放熱される。

図5 Y-EMS未導入時の運転
図5 Y-EMS未導入時の運転

(b)Y-EMS 導入(図6)
電気、ガス料金、お客様の負荷情報を元に、早朝のガス料金が低い時間帯でコージェネを動かし、夜間に必要な熱を日中に貯めておく。夜間のガス料金が高い時間帯でその熱を使用し、コージェネやボイラーを停止しておく。このように、お客様の熱と電気の使い方から要望に合わせた最適運転を行う。

図6 Y-EMS導入時の運転
図6 Y-EMS導入時の運転

(2)エネルギーの見える化

各エネルギー機器のデータはY-EMSに取り込まれ、建物全体でのエネルギーの運用状況が一目で分かるようになる。この情報から、エネルギー機器の運用改善や更には機器の更新提案を行い、お客様の要望にあった最適運用を実現する。

(3)保守管理機能

現状、機器を個別に管理しているため、一台一台を管理するのに多くの工数を要する。また、建物全体でどのようなエネルギー管理になっているか把握するのが困難である。Y-EMSの導入によりデータを一元管理出来るため、毎月必要となるレポート作成や機器のメンテナンスの計画が容易となり、保守管理工数削減が可能である。

図7に今まで紹介したY-EMSの導入効果についてまとめた図を記載する。

図7 Y-EMSの導入効果
図7 Y-EMSの導入効果

以上の特徴により、3つの観点からお客様の省コストを実現する。(図8)

(a)既存設備へのY-EMS導入による最適制御
(b)見える化による設備改善提案・機器更新
(c)保守管理の工数低減

図8 Y-EMS導入による省コストの達成イメージ
図8 Y-EMS導入による省コストの達成イメージ

5.導入事例

実際に運用されている物件の導入効果について紹介する。コスト削減効果は24%となった。(図9)

最適制御:▲9% コージェネ、空調機の最適制御、ボイラー設定温度変更
設備更新:▲10% コージェネ台数増による契約電力削減、空調方法変更
保守管理工数:▲5% データ収集、レポート作成工数削減

図9 コスト削減効果
図9 コスト削減効果

6.おわりに

今回、熱と電気をお客様の要望に応じて最適化できるエネルギーマネージメントシステムを開発した。今後、このコントローラをより進化させ、エネルギー供給状況、エネルギー事情に応じた新たな付加価値をお客様に提供し、お客様の信頼のパートナーになれるよう取り組んでいく。

著者

ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部

福田 健一

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