ヤンマーテクニカルレビュー

6EY26DF形デュアルフューエルエンジンの開発
~IMO 3次規制対応~

Abstract

Rising demand in recent years for lower engine emissions has led to growing interest in marine gas engines and their ability to significantly reduce emissions of nitrogen oxides, sulfur oxides, particulate matter, and carbon dioxide. Dual-fuel engines are seen as a potential solution for marine environmental problems, also offering the flexibility to run on either gas or diesel and the redundancy that comes from an ability to continue running in diesel operation mode in the event of problems in gas operation mode. This article describes the design and technical characteristics of the 6EY26DF four-stroke dual-fuel engine developed by Yanmar for marine propulsion.

1.はじめに

近年、大気汚染物質の排出規制が進んでおり、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)及び排気中の粒子状物質(PM)について舶用機関に対して更なる低減が求められている。また、地球温暖化に対する意識が高まる中、温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)のひとつであるCO2の削減要求は年々高まりつつある。

排出ガス中の大気汚染物質の低減技術としてはさまざまなものが提案されている。触媒によりNOxを低減するSCRはその低減効果は非常に優れているが、SOx、PM、CO2に対する低減効果を得ることができない。また,スクラバはSOx、PMの低減効果はあるが、NOxに対する低減効果は低く、海水の後処理といった課題がある。その他にEGR、エマルジョンについては現在も研究・開発が進められているが、全ての環境負荷物質を低減するものではない。しかし、天然ガスを燃料とするガスエンジンはこれら全ての環境負荷物質及びGHGの低減に寄与する対応技術である。このため、海運における排出ガス規制強化への対応策として天然ガスを燃料とするガスエンジンを舶用原動機に用いることが有望な解決策の一つとして期待されている。そのガスエンジンとディーゼルエンジンの特性を併せ持つデュアルフューエルエンジンは航行する条件にあわせてガス、またはディーゼルの組合せから燃料を選択できるフレキシビリティを持ち、さらに二元燃料による冗長性を有することが一番の特徴である。本稿では舶用主機関に適用するために開発した6EY26DF形デュアルフューエルエンジン(以下、「DFエンジン」という。)の技術内容について紹介する。

2.DFエンジンの開発課題

舶用市場で年々厳しくなる環境規制対応策としてガスエンジンを舶用化することへの期待が高まる中、ヤンマーでのDFエンジン開発は既存のディーゼルエンジン6EY26形機関をベースに2012年下半期よりスタートした。

開発当初にまず課題となったのはガスモードでの着火源となるパイロット燃料噴射弁のシリンダヘッドへの搭載であった。コモンレールシステムを用いた燃料系統は当時大形エンジンでは未経験であったこと、シリンダヘッドに挿入可能な燃料噴射装置メーカが限られていたこと、そして、シリンダヘッドの限られたスペースへの搭載検討にはパイロット燃料噴射弁の燃焼室中央付近への配置と給排気弁径の維持による性能面及び薄肉化するシリンダヘッドの強度面の両立が必要であったことがその主な理由である。

またメイン燃料系統、パイロット燃料系統、ガス燃料系統と3つの燃料系統を持つことがこのエンジンの大きな特徴でもあるが、火災予防の観点から、それらの配管系統をいかにエンジンに配置するのか、そしてガスエンジンを舶用化する場合、船級ルールに従ってガス配管をいかに二重構造にするのかが、構造上の大きな課題であった。

制御系についてはコモンレール・ガス噴射・空燃比制御等の運転制御、各気筒間の筒内圧バランス制御やノッキング回避制御、加速時や運転モード切替時の過渡制御、さらに安全装置として始動時及び運転モード切替時のインターロック機能や各部位の故障診断の実現のため、各種制御装置及び多数のセンサをエンジンに搭載している。

一つのエンジンにこのような多種多様な機器や機能を搭載することはヤンマーでは初めての挑戦であった。

3.DFエンジン主要目・構造

今回開発したDFエンジンの主要目を表1に示す。ガスモードではパイロット燃料噴射弁の液体燃料微量噴射による圧縮着火方式を採用しており、パイロット燃料噴射弁による強力で安定した着火性能は舶用推進機関への適用を可能とした。

表1 DFエンジン主要目

表1 DFエンジン主要目

DFエンジンの外観図を図1に示す。操縦側には従来のディーゼル燃料噴射システムに加えてパイロット・コモンレールシステムを搭載した。非操縦側にはガス配管を配置し、ガス漏れに対する安全措置(船級対応)として、ガス供給配管は全て二重管構造とした。給排気システムとしては静圧過給方式を採用し、ガスモードでの空燃比制御の為に過給機の排気入口側にはウェイストゲートバルブ、給気出口側には給気バイパスバルブを設けた。

図1 DFエンジン外観図
図1 DFエンジン外観図

DFエンジンのシリンダヘッドの断面図を図2に示す。DFエンジンでは、発停時やディーゼルモードで使用するメイン燃料噴射弁とガスモードでの着火源となるパイロット燃料噴射弁を燃焼室中央に配置し、燃料ガスを供給するガスアドミッションバルブを給気通路に設置した。パイロット燃料は全投入熱量比で約1%常時噴射されており、ディーゼルモードではメイン燃料噴射系にて電子ガバナにより調速制御を行っている。ガスモードではメイン燃料噴射を休止させてガスアドミッションバルブから噴射した燃料ガスと吸入空気の希薄混合気を燃焼室に供給し、燃焼室でパイロット燃料噴射により圧縮着火させる方式となっている。

図2 DFエンジン シリンダヘッド断面図
図2 DFエンジン シリンダヘッド断面図

DFエンジン全体の制御システムを図3に示す。前項の開発課題で述べた複雑な制御を行っているのが船体付となるメインコントロールパネル(MCP)である。起動前、運転中にはエンジンの状態を常時監視することができタッチパネルにより画面操作することでエンジンの状態量を目視確認することができる。一方、ローカルコントロールパネル(LCP)は通常のディーゼルエンジンでは計器盤に相当する部分であるが、タッチパネルによるエンジン状態量確認の他、エンジンの起動停止や運転モード切替等の操作が可能となっている。

図3 DFエンジン制御システム
図3 DFエンジン制御システム

4.DFエンジン制御・性能

4.1.空燃比制御

DFエンジンの空燃比制御システムを図4に示す。ガスモードでの急加速又は急減速時においてはエンジンの安定的な運転のために燃料ガス供給量と空気量の調整が必要となる。このうち燃料ガス供給量は、エンジンの給気ポートに設置されたガスアドミッションバルブ(図2参照)にて電気的な高速制御が可能である。しかし、空気量については急加速時では過給機の応答遅れによる空気量の不足によりノッキングに至り、急減速時では空気の過剰供給により失火に至る。このような過渡応答時における空気量の応答遅れに対応するため、給気側にバイパス回路を設け通常時はエンジンに入る空気の一部を過給機入口へ戻し、必要に応じて過給圧力を制御する給気バイパスバルブを採用している。また、主機関においては空気量が少ない低速域から空気量が多い高速域まで広い範囲の回転速度で空燃比制御が必要なためにウェイストゲートバルブによる空燃比制御も同時に行っている。

図4 DFエンジンの空燃比制御システム
図4 DFエンジンの空燃比制御システム

4.2.ノッキング検出・回避制御

ノッキングは燃焼室内の未燃混合気が高温・高圧下で自己着火する現象であり、急激な圧力と温度上昇によりエンジンに大きなダメージを与えてしまう。この異常燃焼を検出するため、燃焼室爆面に取付けた圧力センサにより、サイクル毎の筒内圧力を解析することでノッキング強度を算出し、ある閾値以上のノッキング強度を積算したものをノッキング判定値としている。そのノッキング強度とノッキング判定値の関係を図5に示す。ノッキング回避はこの判定値にてパイロット燃料噴射時期を自動的に遅らせるように制御を行っている。

図5 ノッキング強度とノッキング判定値の関係
図5 ノッキング強度とノッキング判定値の関係

4.3.運転モード切替制御

図6にDFエンジンの切替運転例を示す。機関始動はディーゼルモードで行い、ディーゼルモードからガスモードへ移行する。ガスモード時に何らかの異常が発生した場合は即座にディーゼルモードに自動的に切り替わる。もし何も異常がない場合は機関停止する前にガスモードからディーゼルモードに切り替えた後、機関停止するという運転スケジュールとなっている。

図6 DFエンジンの運転例
図6 DFエンジンの運転例

図7にディーゼルモードからガスモードへ移行するときのディーゼルとガスのガバナ操作割合の変化を示す。ガスモードへの移行は徐々に切り替えを行うが、これはガスモードへ移行する間に空燃比が変動することによるノッキングの発生を防ぐためである。ディーゼルモードからガスモードへの切替には約30秒程度の時間を要するが、図7に示すような制御により全負荷域において移行が可能である。

図7 燃料切替(ディーゼル→ガス)
図7 燃料切替(ディーゼル→ガス)

次に図8にガスモードからディーゼルモードへ移行するときのガバナ操作割合の変化を示す。ガスモードからディーゼルモードへ移行する場合は、ディーゼルモードではノッキングが発生しない為、全負荷域において瞬時に移行することが可能である。このため、なんらかの故障でガスモード運転が出来なくなっても機関を停止せずに速やかにディーゼルモードにより運転を継続することが可能である。

図8 燃料切替(ガス→ディーゼル)
図8 燃料切替(ガス→ディーゼル)

4.4.加速性能

図9にガスモードでの負荷を伴う加速性能についてディーゼルモードとの比較を示す。ガスモードにおいてもディーゼルモードと同様に、アイドル負荷から100%定格負荷までを15秒で加速することが可能である。

図9 加速性能
図9 加速性能

4.5.熱効率

図10にDFエンジン及び従来のIMO 2次規制対応ディーゼルエンジンの熱効率の結果を示す。DFエンジンはガスモードにおいてはIMO 2次規制対応ディーゼルエンジン以上の熱効率を達成した。

図10 熱効率比較
図10 熱効率比較

4.6.排気エミッション

図11にDFエンジン(ガスモード)とIMO 2次規制対応ディーゼルエンジンの排気エミッションの比較を示す。ガスモードではディーゼルエンジンに比べNOxについては79%、SOx・PMについては99%、CO2については25%の削減を達成した。なお、NOx 削減に関してガスモードにおいてはIMO 3次規制をクリアした。

図11 排気エミッション
図11 排気エミッション

5.おわりに

本稿ではIMO 3次規制に対応するDFエンジンの技術課題と対応技術について述べたのだが、ここで紹介した6EY26DF形機関については2016年4月に商品化後、2018年9月に(株)商船三井様向けLNGタグボートの主機用として初号機を2台出荷し、2019年1月にはシンガポールで運航されるバンカリングタンカーの主機にも2台納入予定となっている。今後も排出ガス規制対応として環境性に優れたDFエンジンの信頼性の更なる向上とラインナップ拡充に向けて取り組む所存である。

引用文献

  • 本記載内容は日本マリンエンジニアリング学会誌(第51巻 第2号)に掲載された記事を加筆修正したものである。

著者

エンジン事業本部 特機エンジン統括部 開発部

西村 勝博